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男爵令嬢と王子の奮闘記  作者: olive
1章:始まりは突然に
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2.王子様は、想像以上のハイスペック

2015年4月修正済み

 城に到着したのは、予定時刻よりも随分早いものだった。

 本日の主役である殿下はまだ姿を現さないが、それでも会場となる大広間には、既に多くの出席者がいた。

 

 それもそのはず。社交場での情報交換というのは、かなり重要な貴族たちのお仕事だからね。

 その証拠に、男爵家の当主である私の父は、ワインを片手にお偉方様へのご挨拶で大忙しだ。


 かといって、では貴族のご令嬢たちはどうなのかと言えば、これまた別の意味で大忙しだ。

 将来の、己の旦那様にふさわしい貴族のご子息様を見定めるのに。

 というか、見目麗しいどこぞこの子爵様や伯爵様とやらに熱視線を送るのに。

 俗に言う『イケメン・ウォッチング』。 


 妹もその例にもれず、こうして遠くから、普段あまりお目にかかれない貴族の嫡男達を黄色い悲鳴を上げながら眺めていた。


 …まぁ、前の世界で言えば、テレビでしか見ることのないアイドル達を間近で見られるようなものだろう。アネッサのテンションの上がりようも理解できる。


「やっぱり皆とっても素敵ね。なんだかキラキラしてるわ。身分違いだって分かってるけど、一度でいいからああいう人たちと恋に落ちてみたいものよね」


 こういった、この年代特有の乙女チックな思考も、分からないではない。ある時ハイスペックな男性に見初められて、告白されて、結婚。誰もが憧れるシンデレラストーリー。だが、その後どのような苦労を背負うことになるのか経験したことのある私にしてみれば、全くそんな願望は生まれない。


「そういえば、レイン殿下って滅多に人前に姿を見せないそうなんだけど、本当にお美しいらしいわよ?」

「へぇ」

「今の陛下と妃であるアントワネット様が絶世の美男美女だから、その血を受け継いだ殿下もそれに匹敵するくらい…ううん、それ以上だって噂よ。はぁぁ、早く拝見したいわね!」

「ふぅん」

「そうそう、なんでもこの舞踏会、王子の婚約者を探すためっていうのが本当の目的みたいなの」

「へえ、そうなんだ」

「もしかしたら、ひょんなことから王子の目に留まって、二人は恋に落ちて。数ある試練を乗り越えて、やがて二人は結ばれる…なぁんてこともあるかもしれないわよね!きゃ、そうなったらどうしよう!!」


 急に赤面し、アネッサは期待と喜びを隠しきれない様子でその場で顔を覆った。

 …我が妹ながら、想像力たくましいな。だけどそれも案外不可能な夢物語ではないかもしれない。

 

 理由はアネッサの容姿にある。

 波打つ金色の長い髪。大きな青の瞳。上向きに長く伸びたまつ毛。すっと通った鼻筋に、薔薇色のほっぺ。愛らしい、ぷっくりとした唇。象牙色のなめらかな肌に、すらりと伸びた肢体。胸は大きいのに、腰はぎゅっとくびれている。

 つまるところ、童話の主人公のお姫様なんて目じゃないくらい完璧な美少女だってことだ。アネッサとすれ違うたび、男女問わず誰もがその美貌に振り返る。


 ……なんて恐ろしい子。我が家の家系は、皆平凡な顔の造りなのに、一体どうしたらこんな美少女が誕生するのか。そんなアネッサなら、どこぞの高貴な貴族や下手したら王子の目に留まって…ということも十分あり得る。それでなくてもさっきから、アネッサにちらちら視線を寄こしてくる男たちがたくさんいるんだから。


 だがしかしっ!!

 可愛妹を、どこぞの馬の骨なんぞにくれてやるものか!

 確かに皆、顔の造形は美しく、地位もあるぼんぼん息子だが、アネッサを見つめる度にその体の内からどす黒い欲情という名の悪魔をダダ漏れにするような下卑た連中に、アネッサを渡す訳にはいかない。

 そんな思いを込めてギロリと睨めば、気まずそうな表情でそそくさと退散する男たち。


 こんな社交場、来たくもなかったしとっとと帰りたくもあるが、可愛いアネッサを守るためだ。我慢して番犬の役割でもしてやろうではないか。

 普段番犬の役割をしている父様は、今日は特に忙しくここまで手が回らないだろうし。

 

 ちなみにアネッサ、そんなことには気付きもしないで、今はまだ見ぬ王子様に想いを馳せて、脳内お花畑をお散歩中である。


 そんな妹を呆れながらも微笑ましく眺める私は、疑う余地がないくらい、完璧に両親の血を受け継いだ、いわゆるザ・平凡娘。

 その他大勢にまぎれることができる、これといって特徴のない存在。万が一にも、王子様の目に留まることはないだろう。


 そうこうしている間にも妹にあわよくば近付こうとする害虫を追い払いつつ、欠伸を噛み殺していた時。


「そろそろレイン王子も姿を出てくる頃かしら」

「んぁぁ…、そうなんじゃないの?」


 期待に胸ふくらませ、王子の登場を今か今かと心待ちにしているアネッサに、私は適当に相槌を打つ。


 やがて、今までガヤガヤとにぎやかだった会場内が、急に水を打ったかのようにしんと静まり返った。

 一体何事かと周囲を見渡せば、老若男女問わず、皆がある一点に向かって熱い視線を送っているではないか。私たちももちろん、その方向に目を向ける。


 そしてその存在を視界にとらえた瞬間、他の人たちとなんら変わらず、息をするのも忘れてしばしそれに目を奪われた。


 そこに立っていたのは一人の青年。

 でも、姿なんて一度も見たことがなくったって分かる。纏っているオーラが、一人だけ違ったから。

 

 王家の者にのみ着用を許される、高貴さを表す白を基調とした衣装を身に付けたその男。

 ただ、黙って立っているだけなのに、見る者の心を惹きつけ、この会場にいる貴族たちとは何もかもが、圧倒的に違う。

 放たれる存在感も威圧感も、あえてそれを見せつけようとしているのではない。

 自然とそれが身についている、これが、王家の貫禄というものなのか。

 

 そして、噂に違わず、その容貌は確かに群を抜いていた。


 父親譲りの群青色の髪と、母親譲りのアメジストを思わせる美しい瞳をもち、威風堂々とその場に立っているその青年こそ、今日の主役であるレイン殿下その人であった。

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