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4話 彼は寝起きが……

やまやの弟の執筆の合間に、長らく放置していた此方を更新しようと思います。


……見ている人いるんだろうか

「恵、ほら、起きて恵」


相変わらず恵は寝起きが凄く悪い。何回揺さぶっても起きる気配が無い。終いには明に背を向けるだけだ。


 何時もなら此処で彼女お得意のヤクザキックが恵の背中に炸裂するのだが、先日の集会で優しく起こすと約束した手前、それをする訳にも行かない。明は約束はしっかりと守るタイプだ。


しばらく考えた後、明の頭上で豆電球が灯った。どうやら、名案が浮かんだらしい。


いそいそとパジャマを脱ぎ捨て、ハンガーに掛けてある恵のYシャツに袖を通した。無論、後は下着しか付けていない。


 そしてそのまま恵が寝ているベッドの中へもぞもぞと侵入。彼の背中に張り付いた。足を恵の体に絡めるのも忘れていない。


 これで準備は全て整った。後は声を掛けるだけだ。


「ねぇ……起きて、恵」


耳元で優しく囁く。体制の関係上、この時足を恵の体から離してしまったのが、明の失敗だろう。いや、そもそもこの作戦自体が問題だらけなのかもしれない。


 恵に反応があったが、まだまだ寝ぼけている様子。ん~……と声を上げた後、寝返りをうった。明の方へ。


当然、二人の顔は急接近する。


経験上、恵は声や揺さぶりとは反対の方へ逃げる傾向があったため、この様な作戦を取ったのだが、今回は裏目に出てしまった様だ。


 明は吃驚して声を上げかけた、ギリギリ持ち答えた。


 さて、此処で問題だ。


Q.心地よいまどろみの中、近くに丁度抱きやすいすべすべぷにぷに物体があったらどうなる?





A.抱きつく。





当然の様に、恵はがばちょと明に抱きついてきた。布団に入る際にめくれてしまったYシャツその下には乙女の柔肌が在る。


 恵は抱きつきながらすべすべすべすべと、その感触を楽しむのであった。




一方、明の思考は混乱の極みに陥っていた。


(ちょ、やだ、こいつこんなに積極的だったっけ!?)


それもそうだろう。半裸の自分を恵が抱きしめ、更には背中を撫でられているのだ。混乱しない方がおかしい。


 だが、混乱と同時に、少しだけ嬉しくも思っていた。


 普段は本当に男か? 思うほど恵は淡泊なのだ。


明が脱衣所に忘れ物を取りに行った際、運悪く全裸の恵とばったり出くわしてしまった時も、彼は何事も無かったかのようにカラダをバスタオルで拭き、髪を乾かした後そのまま出て行った事があった。


 逆のパターンもあった。その時は、恵が忘れ物を脱衣所に取りに来たのだが、その時明は下着姿だった。彼女は慌ててバスタオルで体を隠したが、恵は彼女の肢体に目もくれずにお目当ての物を探し始め、目的を果たすとそのまま出て行った事もある。


 彼を憎からず思っている明は、自分に興味が無いものだと半ば諦めていた。しかし今はどうだ。寝ぼけているという事は、少なくとも本能に忠実に行動することが多い。


 恵は本能では、女の体に少しではあるが欲情するもかもしれない。何か固い物が明の太ももに当たっていることだし。


(……何だ、こいつも人並みとは言えないけど性欲あるじゃない)


などと冷静に考える事が出来たのも、普段とは違う恵の一面を垣間見る事が出来たからかもしれない。


 (でもこの触り方……んっ)


何と言うか、絶妙なタッチなのだ。心なしか明の体が熱く鳴り始めたのも、触っているのが恵だから、と言う事実が彼女の気持ちを高ぶらせているのかもしれない。


 が、次第に恵の手が下に降りてきた。そろそろ、明の最後の砦であるショーツに手が当たりそうだ。


 これはまずいと明は逃げ出そうとしたのだが、退路は断たれた。恵の足が絡んで来たのである。


このままではお尻を撫でられてしまう……。なんかそれも悪くないかなぁとか考えていた明であったが、不意に壁に掛けてある時計に目が止まった。


遅刻ギリギリである。


 その事実を知った明は、今までのほんわかとした空気を一瞬でぶち壊した。恵の腹に零距離からパンチを叩き込み、彼が訳も分からず悶絶している内に急いで自分の部屋に戻り、朝食を取ることもなくマッハで着替えを済ませて、化粧を始めた。恵の部屋で。


「恵! 早く起きて! 寝坊したから学校までバイクで送って!」


腹を押さえてベッドでのたうち回っていた恵であったが、「寝坊」という言葉に鋭く反応し、腹の痛みなど何処かへ吹き飛ばしてしまったかの様にベッドから飛び起きてライダースーツへと着替え始めた。


「ごめん、急いで! HRまで後15分しかないわ!」


と、恵の方を見やると既に彼はいなかった。変わりに外からドルンドルン! とエンジンをふかす音が聞こえてきた。どうやら窓から飛び降りたらしい。


(相変わらず仕事が早いわね……!)


明は急いで玄関に向かい、踵をつぶしてしまったローファーを気にすることなく恵の元へとダッシュした。


(そういえば、恵の髪昨日のままだったわね……)


明は恵の後ろに飛び乗ると、それを確認した恵はフルスロットルで発進するのであった。





余談だが、フルフェイスのヘルメットから流れる銀髪が風にたなびき、明に纏わりついてうざったい事この上なかったそうな。




HRまで後3分という所で恵達は校門前に到着した。幸い殆ど人影は無かった為、これ幸いにと、明はスカートの裾が跳ねるのも気に留めずに全力で掛けて行く。


そして残り1分。教室の前で髪を治し、息を整えてから教室の中へと入って行った。


「おはようございます」


「おお、野崎か。ギリギリセーフだが何かあったのか? お前にしちゃ珍しい」


担任の教師は出席簿に何やら書きこむと、そのまま教室へと視線を戻した。


「その……目覚ましが壊れました」


その瞬間、クラスメイト達から苦笑が漏れた。あるあるーとか、俺の目覚ましは3代目だ! とか色々言われているが、結果的に間に合ったので彼らに苦笑で返事をすると、自分の席に着こうとしたのだが―――


「まぁ、遅刻しない様に努力するのは良い事だが、彼氏にバイクで送って貰うのはいただけんなぁ」


「なっ……!」


瞬間、教室が凍りついた。


学校では猫を被っている明。容姿とその性格から、彼女を狙っている男共はとても多かったのだ。


明は慌てて誤魔化そうとするが、時すでに遅し。


「なにいいいいいいいいい!? 野崎さんに彼氏がいるだとおおおおおお!?」


「終わった……俺の青春終わった……」


「だよなぁ……やっぱ彼氏いたかぁ……」


「ねぇねぇ明! 今度彼氏紹介してよ!」


明は額を押さえて俯いてしまった。


(どうしてこうなった……)



ぬぁー……眠い。んでもってすげー腹が痛い。痣になってるぞこれ。何が有ったんだ?



俺は今遅い朝飯を公園のベンチに座りながら貪っている。財布持ってきて良かった……あーあんパンうめー。


たまにはこういうメシも悪くないな。井戸端会議してるオバサンがこっち見ながら何か話してるけど、気にしたら負けな気がする。うん、気にしたら負けだ。


それにしてもあいつが寝坊するなんて珍しいな。昨日そんなに疲れたっけ……? あいつ後ろで見てただけじゃん。


しかしこのあんぱんうめーな。コンビニの菓子パンとは思えないわ。また買いにいこ。





さてと……飯も食い終わった事だし、適当にその辺走り回ってから家に帰るかね。今日はバイト休みだし、ゆっくりできるな。


ブーッ ブーッ


ん? こんな時間に電話?


携帯を開くと、未読メール1件と表示されてる。From明……買い出しか? なんか切らしてたっけ。


なになに……? ごめん、あんたの写メ見られちゃった?


……なにいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!????



俺は夕方までバイクであっちフラフラこっちフラフラし、そのまま帰宅した。


一度頭を冷やそうとシャワーを浴びているのだが、俺の心の内はと言うと……


(OK落ちつけ落ちつけば落ちつく時落ちつこう。多分写メっていうのはエクステ付けて化粧した時の奴だろう。あれなら俺の素顔がバレるとは思えない。……いや万が一と言う事がある。明にゃ悪いが消去してもらおう。……まてよ? あん写メ撮ってたの明だけじゃなかった様な気がする。そいつのデータも消去して貰わないとまずいな。とりあえず明が帰ってきたら拳骨の一発でもくれてやろう)


この有り様だ。顔が割れるのはまずい。できれば穏便に事を済ませたいんだけどなぁ……。



 シャワーを終え、髪を乾かそうと思ったのだが、どうにも喉が渇いて仕方が無かった為、その前に何か飲もうと腰にバスタオルを巻いただけの状態でリビングへと歩を進めた。ドアを開けようとしたのだが、なにやらテレビの音が漏れている。


(ああ、明が返ってきたのか。よし、なんか飲んだら、一発拳骨を落としてやろう)


何時もの事なので気にせずドアを開けた時、そこには顔を真っ赤にしながら恵を見て硬直する成美と、あちゃーと額に手を当てている明がいた。


 まぁ、気にすることもなかんべ、とそのまま冷蔵庫のドアを開けて飲み物を漁っていたら、恵目がけて一直線にテレビのリモコンが飛んできた。


「さっさと服着なさいよ!」


「ん」


リモコンと一緒に明の罵声が飛んできた。甘い! こんなもんで俺が被弾するか!


俺は一応頷いたが、着替えに戻らないでお目当てのポ○リを探し出してそのまま喉を潤す。ああ、旨い。


「まったく、あいつは……」


「あうあうあうあうあう……」


顔を真っ赤にして俯く成美を尻目に、明は少しだけ顔を赤くしながら、ばつが悪そうにこっちを睨んでいた。ふん、知るか。


明は普段から見慣れている(というのもどうかと思うが)が、たしか成美は男兄弟が居なかったな……。さすがに刺激が強かったか? 成美が俺に少なからず好意を寄せているのは知っている。……以外と初心なんだな。


「タイミング悪過ぎよ……」


「あうあうあうあう……」



「やはり恵さんは男だったんですね」


「そうよ」


どうやら成美は俺の化粧した姿を見ても女とは思えなかったらしい。どこかスッキリした様子。心なしか表情が和らいでいる。


「よかった……」


「何が?」


「いえ、こっちの話です」


まぁそうだろうな。思いを寄せている存在が女だったら、そりゃショックだろうに。


「それにしても……綺麗ですね恵さん」


男に対して綺麗、か。そりゃ褒め言葉じゃないね成美さんよ。そこはカッコいいって言う所だろ。


「成美、男が綺麗って言われても嬉しく無いわよ」


「いやでも、本当に綺麗なので……」


ちなみに俺は今タンクトップにジーパンという、なんともラフな格好をしている。風呂上がりにはこれが一番だ。


「そりゃ私から見ても綺麗だとは思うけど」


おい。




―――痛い! いきなりなにするのよ恵


―――……もう一発いっとく?

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