3話 彼は黒い風
おはこんばんちわ!
どうもゆうきです
東方時操劇を更新することができたので久々にこちらも投稿します
それでは、本文どぞー
愚連隊の皆が各々の獲物を確認する中、恵だけは皆から離れ、架橋の下で柔軟体操を念入りに行っていた。幼い頃より、地獄の様な鍛錬を行ってきたため、体がそれに順応しているのである。そのためか、恵の体は新体操の選手レベルに柔かい。
恵の性別が判明(誤解とも言うが)してから30分程度しか経っていないのだが、構成員の半数以上が、柔軟体操をする恵に熱い視線を送っていた。架橋のぶっとい柱を前にした恵は、徐に柱に向かって足を振り上げた。そのまま踵落としでもするのかと思いきや、足が最高点に達したところで、柱に振り上げた足を押し付けた。そしてそのまま、ぐっ、ぐっ、と自分の体重をかけはじめた。なんとも斬新な柔軟体操である。足が180度以上開いてるのも、恵ならではの柔軟さであろう。それを見ていた構成員達は、これも柔軟体操なのかと驚嘆していた。そんな構成員をよそに、恵はコンセントレーションし続ける。今なら、飛んできた石ですらすぐに察知できるであろう。
その時、恵を目掛けて拳大の石が飛んできた。ナイスコントロールと言わざるを得ないそれは、恵の頭目掛けて一直線に飛んでいく。まぁ、あの後ヘルメットを装着しなおしたのだから、たいした怪我にはならないのだが・・・。
しかし、恵はそれを難なく後ろ回し蹴りで打ち落とした。空手家もびっくりである。少しでもタイミングを誤れば頭にゴスッと嫌な音が響いたかもしれない。
恵は辺りをキョロキョロと見回し、打ち落とした石を見つけると、徐にその石を拾い上げ、円盤投げの選手よろしくグングンと自転を始めた。十分な勢いがついたところでその石を投げ放つと、空気抵抗や重量を無視したかの様に、土手の上を目掛けて一直線に飛んでいった。数秒後、土手の上から「あがっ!」という声と共に、一人の族が転げ落ちてきた。どうやら、綺麗に命中したらしい。その声を聞き、満足そうに頷いている恵を見て、明は苦笑していた。
そして、土手の上から大勢の人が降りてきた。どうやら、ガチンコ勝負に持ち込むつもりらしい。暗くて人数が良く分からない。まぁ、それはあっちも同じことだが。さすがに多勢に無勢だ。恵は仲間の元へ戻っていった。
「お疲れ様です恵さん!後は私達にまかせて後ろに下がっていてください!」
「ん。」
恵に労いの言葉をかけたのは愚連隊の一番槍、玉木成美。恵や明程ではないが、武術、とりわけ空手に精通している。昔は愚連隊に敵対していたグループの幹部だったが、恵にボコボコにやられた。その際、恵の腕っぷしの強さに憧れ、恵の下についている。先の一件で恵が女だと皆思い込んだが、恵と手合わせをした彼女だけは、男女の銃身の違いから、本当は男なのでは。と思っている。ちなみに、恵に想いを寄せている人物の一人である。モゲロ。
―――閑話休題―――
「お前ら覚悟はできてんだろうなぁ!」
女が多いと見るや否や、相手のグループは一気に強気になった。まぁ、女といっても猛者ばかりだが。
「ノシた後輪してやるよ・・・ククッ。」
などと脅しをかけてくる。こちらが怯むのを狙っているんだろう。が、そんなもん愚連隊のメンバーには通用しない。
「ハッ!あんたらみたいな粗○ンじゃ満足できないね!後5cm大きくなったら相手してやるよ!」
・・・女は強いなぁ。全然怯んでないぞ?
自分の体の一部を蔑まれ、相手グループはさすがに我慢が出来なかったようだ。車のエンジンにニトロをぶち込むが如く、一気に一触即発までボルテージがヒートアップしていく。
「んだとぉ・・・。お前ら、遠慮はいらないぞ。ヤれ!」
「おおおおおおおおおおっ!!!」
こうして、プレイ人数総勢300名を超す深夜の大乱闘ス○ッシュブラザーズは開戦した。
愚連隊は、単なるヤンキーの集まりではない。構成員の誰もが、何かしら武術を齧っている。そして、戦術の立て方などを幹部がグループ単位で教えている。・・・軍隊?
敵の数がこちらより少ないとみるや、愚連隊は二人一組になり、着実に相手の数を減らしていく。ただ暴れるわけではない。さすが、伊達に恵や明が連日連夜戦術を組んだわけではない。それこそ、現代社会における少数グループによる鎮圧、戦国時代の戦争の陣形まで練りこんであった。ここまで本気になるこらこそ、愚連隊はここまで大きくなれた訳である。用いる武器にしたって、見た目で相手を威嚇するナイフや警棒などではなく、リーチの長い角材や耐久性に優れる金属バットなどを好んで用いていた。物干し竿まで用いる構成員もいるくらいだ。槍の重要性をよく分かっている証拠である。
当然、相手は近づくこともできず鳩尾や首などを突かれていく。なんとか物干し竿の射程内に入れたとしても、ツーマンセルの片割れが、耐久性を重視した金属バットで容赦ない打撃を与えてくる。これだけ言えばわかるだろう。相手は既に負け戦である。人数差もあったが、圧倒的ともいえる戦略、隊員同士の連携、個々のポテンシャルの高さもあり、愚連隊はほぼ無傷で相手を制圧した。
あっという間に、相手は族長だけになった。一番後ろで見ていただけだったため、被害がなかったのだろう。しかし、今回はそれが仇となった。愚連隊と当たる前まで負け知らずだったのかもしれないが、どうにも今回は相手が悪かった。族長は一人でさっさと逃げようと自分のバイクが置いてある土手の上まで逃げようと走り出したが、愚連隊は200人を超す大所帯である。逃げ道などとうに塞いでいる。こうして、あっという間に族長は囲まれた。ジリ、ジリ、と族長を囲む愚連隊の円陣が小さくなっていった。そして、半径10mになった当たりで、族長が恐怖のあまり笑い出した。壊れたか、と皆が円陣を解散させようとしたその時、族長はなにやらポケットを漁り始めた。ナイフでも出すのか、と思ったらなんと出てきたのは、黒光りするリボルバー式の拳銃だった。恐らく、巡回中の警察官からでも奪ったのだろう。相手が持っている物が拳銃だと分かった途端、愚連隊の陣形が乱れ始めた。さすがに拳銃が出てきたとなると、怪我では済まない。最悪死につながる。
だが、誰か撃たれたら一気に皆襲い掛かるだろう。リボルバー式の拳銃は最大で弾数は6。
次に標的を定める前に、背後から一気に襲い掛かり、次の日には族長は病院の集中治療室で寝たきり生活をしばらく送るハメになるだろう。だが、さすがに一番槍の成美も攻めあぐねていた。拳銃の対処方については予め明と恵から教わっていたが、怖いのである。銃社会ではない日本で、一般人が拳銃を見ることなど無いに等しい。他の構成員同様、ジリジリと後退せざるを得なかった。
そんな中、戦場に一迅の黒い風が巻き起こった。恵である。恵は相手の獲物が拳銃だと分かった瞬間、観戦を止め族長目指して走り出したのである。
さすがにこれには明は焦った。いくらヘルメットを装着しているとはいえ、当たり所が悪かったら即死である。恵の動きに族長が気づいたのは、恵が円陣に突撃した辺りだ。円陣の一角が、まるでモーゼのように割れたからである。恵の行動に、族長はパニックを起こした。今まで拳銃をチラつかせれば大抵の相手は逃げ出したのだが、恵は間逆の対応を取っている。このままだとタコ殴りにされ、その後にはリンチが待っているだろう。何が何だか分からなくなり、笑いながら激鉄を起こし恵に狙いを定めて、乱暴に引き金を引いた。
パァン! と乾いた音が深夜の川沿いの広場に響き渡った。その音を聞いた瞬間、構成員の何割かは目を背けたが、恵を信じている幹部クラスの人間は目を逸らすことなく、恵の一挙手一投足をその目に焼き付けていた。ちなみに、その幹部というのは恵と成美のサシを間近で見ていた人物である。
――あの人の動きは勉強になる――
ただその一心だった。
瞬間、ヘルメットのバイザーが粉々に砕け散った。幸い掠っただけのようだが、それでも、漆黒のライダースーツを纏った死神の突撃を止めるにはいささか役不足だった様だ。黒い風は止まることなく、吸い込まれるかの様に族長の胸元に近づくが、既に銃口はこちらに向いていた。しかし、2発目の銃声が響くことは適わなかった。その前に恵が拳銃のシリンダー部分をつかんでいたからだ。拳銃に詳しくないと何故このような現象が起きたかはわからないだろう。リボルバー式拳銃という物は、引き金とシリンダーが連動している。そこに激鉄の動きが加わる。引き金を引く→激鉄が起こる→シリンダーが回る→激鉄が元に戻り弾の火薬部分を叩く という動作を行わないと弾は発射されない。恵はこのシリンダーが回る、という部分を物理的に手で止めたのだ。当然引き金も動かない。このことを知らない族長は何が起こったのか分からないといった表情でひたすら引き金を引き続けていた。相手に殺す意思があると判断した恵は、問答無用で銃の方向を外側に180度捻った。それと同時に響き渡る相手の悲鳴。引き金にかかったままの人差し指があらぬ方向を向いていた。
しかし、恵は追撃を止めない。相手が悲鳴を上げながら人差し指を抑えている間に、相手の頭を抱え込み、無防備な鳩尾に容赦ない膝蹴りを叩き込む。体重の乗ったそれの威力は筆舌しがたい。その証拠に、相手は見るも無残に崩れ落ち、公園に吐しゃ物を撒き散らせている。流れるような動作で体を一回転。そのまま勢いをつけて続けて腹をサッカーボールキックで貫く。
この一撃で全てが決した。族長は白目を向き、泡を吐いている。もう動かないだろう。もう、なんていうか、完全にワンサイドゲームだった。これが、あの全てを魅了する妖艶な顔の持ち主が起こした行動の結果だとは、皆信じられなかった。
バイザーが壊れてしまったため、もうヘルメットで顔を隠す意味がないと判断した恵は、ヘルメットを外した。数本の街灯しかない暗闇に近い世界で風にそよぐ銀色の髪は、戦女神が戦場に舞い降りたが如く、静寂の中、ただ、風に逆らうことなく揺られていた。
「お疲れ様です恵さん。」
「ん。」
愚連隊の皆がその姿に見惚れる中、成美が恵に駆け寄っていた。皆が畏怖の視線を送る中、彼女だけは純粋に恵の心配をしていた。彼女からすれば、誰が死んでもおかしくない状況を、自らの危険を顧みずに打破した恵を。何故労ってやらないのかと不思議に思っていた。
「お怪我はありませんか?」
心配そうにバイザーがあったであろう付近を覗き込んでくる。それもそうだろう、バイザーが砕けたということは、弾が顔を掠めたということだ。いくらヘルメットがあったからとはいえ、無傷であるとは思っていなかった。だが、そんな心配は恵の次の一言で吹っ飛ぶこととなる。
「ん。避けたから大丈夫。」
ピシッ! 皆が固まった。恵は弾を避けたと言ったのだ。前々から恵のずば抜けた身体能力と反射神経は皆知っていたが、さすがにここまでくると人外レベルである。もう、乾いた笑いしか浮かんでいない。・・・人間か?
「・・・まぁ、なんだ、その・・・帰ろうか。」
明の締まらない一言で、本日の活動はこれにて終了となり、解散した。
皆がバイクの元へ戻る中、恵はバイクにしまってあったスポーツドリンクを飲んでいた。
(あー疲れた。)
火照った体を夜風で冷ましていると、誰かに呼び止められた。
「恵さん。」
成美だ。何か用だろうか?
「ん。」
まだ、先の一件が心配なのだろうか。
「もしよかったら・・・。連絡先を聞いてもいいですか?」
「ん。」
なんだそんなことか。と、恵はポケットからこれまた真っ黒な携帯電話を取り出し、成美に向かって放り投げた。しかし、これが失敗だった。成美が携帯を受け取った瞬間。まるで花嫁が投げたブーケに群がるが如く、近くにいた5~6人の構成員が群がっていた。しかも全員女。彼女らは次々に恵の電話番号とアドレスを登録していった。それをみて、明はつまらなそうに呟いていた。
「恵がどんどん他の女に・・・。」
それを聞いた恵は、ニヤリとほくそ笑みながら明に話しかけた。
「大丈夫・・・。私は・・・明のものだから。」
「!」
明の鉄拳が、恵の柔らかな髪を圧縮した。
お読みいただきありがとうございます
一応、こちらは書き溜めがありますので時間が取れ次第ポチポチと更新していきます
では、また。