2話 彼は暴走族
おはこんばんちわ!
どうもゆうきです
原作がないと、創作に幅が生まれますね。書いてみて驚きました。
2次創作はある程度プロットがあるから楽っちゃ楽なんですが・・・。
本文どぞー
執事とメイド。時々暴走族
2話目
日曜日も午後9時を回り、恵の女装イベントも終わりを告げた。
イベントは大成功に終わり、帰り際に客たちは、次々に女装した恵についてレジのメイドに
質問をしていった。あの子のシフトはどうなっているのだとか、あの子の趣味や好きなもの
はといった質問が大部分である。
そりゃ一般男子だったら綺麗な子を見つけたら仲良くなりたいだろう。
まぁ、中身は男なんだが。
店長の計らいで、謎の美女の正体は明らかにされなかった。恵が女装している間、
ケイはみんなに恵と呼ばれることになり、女として働くことになったのである。
女として疑う余地のない外見に、普通の男だったら意気消沈のひとつでもしそうなもんだが、
そこは軽く性格が捻じ曲がっている恵のことである。心配はいらないだろう。
・・・本人も楽しんでたみたいだし。
閑話休題。
恵が帰り支度をしていた所、更衣室のロッカーから金属と樹脂が小刻みにぶつかり合う音が
聞こえてきた。ヴーッヴーッっとそれは音を立て、早く応答せんかゴルァといわんばかりに
振動を続けている。
恵はそれを手に取り、画面を確認するために振動をし続ける元をスライドさせた。
(・・・明からか。)
この時間に明から連絡があるのは珍しくない。問題は日曜日であるという点に尽きる。
明は地元では有名な暴走族の族長を勤めている。それもかなり大規模な。
恵が明のアパートに転がり込んで以来、ストレス解消をしろといわんばかりに恵にも
暴走行為に参加しろとしつこく勧誘してくるのだ。
そしてその暴走行為は週に2度行われる。平日のいずれか一日と、日曜日である。
(―――明日は寝不足かな。)
恵は一人ごちると、さっさと着替えを済ませて一人帰路に着いた。
「遅いわよ。ほら、さっさと準備して。」
「ん。」
家に着くと、そこには特攻服を身にまとい、スカーフを目だけ露出させるように
装着した明が待機していた。準備万端である。・・・手に持ってるチェーンは何すか。
「ん。・・・15分待って。」
「なんでそんな・・・ああ、エクステ取らなきゃか。」
そうなんだよ。この髪膝くらいまであるから動きにくくてしょうがない。
「ん。」
俺が肯定の意を示すと、明は良い事思いついたーと言わんばかりに悪役が浮かべる様な
笑みをこちらに向けてきた。・・・明はどんな表情も似合うな。
「・・・恵、あんた今日はそのまま来なさい。面白いことになりそう。」
「ん。・・・え?」
「いいから。ほら、さっさと準備しなさいよ。」
「・・・ん。」
動きにくいってのに。全く。
俺は漆黒のライダースーツのまま、木刀を片手に再び明と家を後にした。
ちなみに明のバイクも元はGSX-Rである。改造しすぎて原型留めてないけど。
―――集会場―――
「お疲れ様です総長!」
集会場に恵と明が到着するや否や、構成員が二人を迎え入れた。
ちなみにこの暴走族、構成員の8割は何故か女性である。女尊男卑っぽくなっている。
恵は、族の集まりの時にヘルメットをはずすことはない。顔が割れると色々と厄介だからである。
そのため、他の構成員からは性別不明の明の側近という扱いになっている。
恵という名前も、性別を判り難くしている要因のひとつだろう。
「恵さんもお疲れ様です!」
「ん。」
二人はバイクから降りると、集会場の奥まで歩いていき、建築資材を積み上げた
壇上に登る。明は恵から木刀を借りると、木刀を肩に掛けながら壇上に積んである資材に腰掛けた。
恵は明の斜め後ろに待機。この格好が二人のスタンダードである。
「今日は何人集まってる?」
明が構成員に質問すると、尋ねられた構成員は即座に回答した。
「223人です。・・・前回より少ないですね。」
集まっている人数を聞いて、明は少し顔を顰めた。
暴走族とは、構成員の数=強さといっても過言ではない。
傍から見れば相当な人数なのだが、明にとっては不満みたいだ。
と、その時。恵に向かって質問が飛んできた。
「あの、恵さん。」
「ん。」
「髪・・・どうしたんすか?」
どうしたと言われても・・・。と恵は内心焦る。彼が回答に困っているのを見て、
明が助け舟を出した。
「フルフェイスだからわからんが、中々いいだろう?結構気に入ってるんだこれ。」
明はまるで恵の髪をいじりながら、自分が褒められているかの様に機嫌よく感想を述べ始めた。
「だいたい、恵にはロングが似合うんだ。なのにこいつときたら全然伸ばそうとしないし・・・。」
まてまて、それじゃまるで俺が女みたいな言い回しじゃないか、と恵は内心講義するが、
いかんせん心の中だけの反論では伝わらない。
「恵さんの顔見たことないから何とも言えないっスけど・・・。」
キラリ。ここで明の目に悪戯小僧の光が浮かぶ。
「なぁ、恵。」
「ん?」
恵の心の中で警鐘がガンガン鳴り始めた。この流れはまさか・・・。
「走る前だし、そろそろ顔見せてもいいんじゃないか?」
いやな予感とは、だいたい当たるものである。
・・・ああっ!そういや化粧落としてないじゃん!
今更ながら、この事実に気がついた恵は頭を抱えた。これじゃどこから見ても
胸がちょっと残念な女にしか見えない。
「・・・いい。」
「そんな事いわないで下さいよー。皆恵さんの顔みたがってるんですよ。知ってました?」
恵はどんどん逃げ道を塞がれていく。そろそろ袋小路だろうか。
「・・・でも。」
さらに逃げ道は塞がれる。
「いい加減諦めな恵。いい機会じゃん。あんた美人なんだからさ。」
明は後ろから恵の首に手を回し、ヘルメットを固定するためのベルトを解除した。
「総長が認めるほどの美人さんっスか!楽しみっス!」
男達の表情が期待一面に染め上げられた。もう女確定っすか。
「ここで顔見せてくれたら、朝もう少しだけ優しく起こしてあげるわよ(ボソッ)。」
正に、小悪魔。この提案は恵にとって非常に魅力的である。
「・・・。」
「沈黙は肯定と見なすよ。」
まぁ、ここにいる奴等はメイド喫茶になんて来ないだろうし・・・
そんなことを恵が考えていると、スポっと音が出そうなくらい明は一気に恵のヘルメットを奪い去った。
さらば俺の貞操(謎)
「・・・。」
一同、無言である。それもそうだ、恵は明と並ぶくらい綺麗なのである。
そんな女顔の彼が、あまつさえ化粧をしているのだ。その綺麗さと言ったら、
筆舌しがたいものがある。
「どうした皆。あまりの綺麗さに声もでないか?」
明がニヤニヤと俺の腰を腕に抱きながら構成員一同に話しかけている。
「うっ・・・。」
うっ?
「うおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!」
集会場に構成員の叫び声が轟く。
「もったいないっすよ!なんで今まで隠してたんですか!」
「恵さんは彼氏とかいるんですか!いないんだったら付き合ってください!」
こうなるわけである。まぁ、ある種予測できた事態ではある。
ここで恵は、明に一矢報いてやろうと、自爆戦法に出た。
「・・・私は・・・明のものだから。」
「ちょ、総長と恵さんってそういう関係だったんスか!?」
「なっ!?」
明の表情が困惑に染まる。そして、次第に赤くなっていった。
今の格好を見てみようか。明が恵を腕に抱いている状態である。
「夜も・・・(長話で)寝かせてくれないし・・・。朝も・・・(起こし方が)激しくて。」
そんな状態で恵は顔を朱に染めると、俯きながらそう呟いた。やはり恵には女優(?)
の才能があるのではないか。
「ちょ、何言ってんだ恵!!!」
明は顔を真っ赤に染めると、恵に食ってかかった。しかし、これも恵の作戦の内である。
「明・・・。今は人がいるから・・・。」
ニヤリ、恵は明にしか見えないようにほくそ笑む。明は「やられた!」という表情で
恵の胸倉を掴んだ。
「こ、この!」
正に、どツボにハマるとはこういう事を言うのだろうか、明が否定すれば、恵がやんわりと
「否定を否定」する。そして構成員は「そういう事実」があるものだと信じ始めていた。
「ん。そろそろ時間。」
「え?あ”。」
族長としての彼女をよく知る人から見れば、有り得ない光景を目の当たりにし、構成員らは
心底驚いていた。と共にニヤニヤしていた。
「くっ・・・、何笑ってんだお前ら!さっさといくぞ!」
「「「「「お、応!!!」」」」」
ぐだぐだである。
そんなこんなで、ぐだぐだのまま明達の暴走族「愚連隊」は、日曜日の真夜中に
街中へと繰り出していった。ああ、ちなみにこの「愚連隊」という名前は明が直々に
つけたものである。・・・なんていうか、こう、ネーミングセンスについては突っ込みを
入れたくなるが、我慢していただこう。ここいらのオトシゴロの若者は、どうもそれっぽい
名前に憧れる様だ。
真夜中の交差点を、凄まじい数のバイクが爆音を立てて走っていく。実に迷惑極まりない。
まぁ、他人から見たら迷惑極まりない行為なのだが、愚連隊の若者達は、日常の不満を
こういった形でしか発散することのできない輩ばかりである。誰か俺に気づいてくれ。
俺達はこんな凄い事ができるんだ。そう、まるで誰かに知って欲しいかの様に。誰かに
自分達を認めて欲しいかの様に。
街中を走ること一時間、正面からバイクの集団がやってきた。どうやら別の町から他のグループ
が遠征にやってきた様だ。
爆音の中、恵と明はお互いに合図を交わし、コースを変え・・・ない。突っ切るらしい。
対する遠征グループは、まさかこのまま突っ込んでくるとは思ってなかったのだろう、
あわててハンドルを切り、道を明けていく。途中、相手側の何台かが巻き込まれて横転した
みたいだ。
恐らく、コケにされて黙っている様な連中ではないだろう。きっと後を追ってくるに違いない。
愚連隊の皆はさっさと退却すると、川沿いの広場へ集合した。
相手のグループを真っ向から迎え撃つ体制らしい。
愚連隊は何時でも来いと言わんばかりに広場で待機していた。
お読みいただきありがとうございます
さすがに一話目が長すぎたので、これからは少なめで投稿したいと思います。
では、また。