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1話 彼は執事長

おはこんばんちわ!

おひさしぶりですゆうきです。


東方時操劇の最新話と投稿してから既に二カ月。

東方に対する興味事態の稀薄化と、執筆に対するモチベーションのダウンから、小説に読もうのサイト事態を覗く事をしていませんでした。多忙ってのもあったんですけど・・・。


しかしまぁ、ここにきてちょっとだけモチベーションが回復したので、新たに投稿してみようと思い立ったわけです。


そのうち東方時操劇の方もUPすると思いますので、これからもよろしくお願いします。

執事とメイド。時々暴走族


「恵、起きて。」


どこかから俺―神代恵かみしろけいを呼ぶ声が聞こえてくる。ついでに揺さぶられているらしい。


「恵、バイトの時間まであまりないわよ。起きて。」


―――うるさいな。バイトなんて―――


そう思い声の主に背を向けた。俺の安眠を邪魔するんじゃない。

数瞬の後、背中に衝撃が走った。


「ぬぐっ!!」


息ができない。背中から伝わった衝撃は腹を突きぬけて横隔膜に多大なダメージを残して行った。


痛みに耐えきれずベッドの上を転がっていると、俺の背中にヤクザキックをぶち込んだであろう

人間から三度呼ばれる。


「バイトまで時間がないわよ。起きて恵。」


「・・・」


「何よ、人がせっかく起こしてあげたってのに。」


こいつ・・・もう少し優しく起こすことはできないのか。


「あんたの寝起きが良かったらこんなことはしないわよ。」


エスパーかお前は。


「しゃべらない分、顔に出てるのよ。」


むぅ、気がつかなかった。そんなにわかりやすいのか俺は。

出てしまうのは仕様がない。諦めよう。さて、二度寝だ。


「させると思う?あんたが稼がないと困るのよ。」


そう言い放ち、明は俺から布団を剥ぎ取り始めた。

ああ、紹介が遅れたな。こいつは野崎明のざきあかり。生物学上は女だ。

見た目は、どこにでもいるような女・・・ではない。なんていうか、こう、とてつもなく美人だ。

腰まで届くつややかな茶髪。さらさらである。整った顔立ち。顔のどのパーツを見ても非の打ち所がない。

シミひとつない肌、モデルを彷彿とさせるスラリとした肢体。見た目は完璧だ。

性格も非の打ち所がない。とても穏やかで、誰にでも分け隔てなく接する。


・・・自分の家に帰るまではな。


先ほどの素晴らしいヤクザキックを見ればわかると思うが、手が早い。

特に俺に対しては遠慮の欠片もなく、寝起きに踵落としを食らうことなんざざらである。


前述したが、外面は非常に良い。そのため、大量のラブレターを頻繁に家に持ち帰っては焼却処分をしている。

そろそろその仕事が俺に回ってきそうで怖い。


・・・などと明のことを脳内で説明していたら明が近寄ってきた。


「ほら、目ぇ覚めたならさっさと顔を洗う!ぐずぐずしないの。」


「ん。」


「・・・あんた見た目は良いんだから、もうちょっと喜怒哀楽を表に出しなさいよ。営業スマイルだけじゃなくてさぁ。」


「ん。」


「・・・。」


今日も平和である。




明を学校に送り出した後、俺もバイト先へ向かうため、バイクの準備をする。俺の相方、GSX-R750である。


流れるような流線型のフォルム、しかし威厳を感じさせるそれは、とてつもないじゃじゃ馬だが、

乗りこなすことができれば、最速のサラブレットへと変貌する。


いつものように漆黒のライダースーツと、これまた漆黒のヘルメットを装着し、バイト先へと向けてハンドルを捻った。



―――15分後―――


バイト先の裏口にバイクを留め、ヘルメットを外しながら従業員用の入り口へ向かう。

さぁ、今日もお嬢様やご主人様の為にご奉仕しますか。



「おはようございます。」


いつものように挨拶を交わしながら更衣室へと入って行く。

着替えること5分、執事服に着替え、伊達メガネを装着した俺は、近くにいたメイドの格好をした従業員に声を掛ける


「すいません、シフトの時間までまだ5分あるんですが、暇なのでホールに入らせてください。」


「あっ・・・。は、はい!お願いします!」


メイドは顔を赤くすると、いそいそとトレイを胸に抱えると、ホールへ駆け出していた。






明に劣らず、俺も顔がいいと自覚している。加えて、この銀髪である。

生まれつき銀髪だったわけではない。長期に及ぶ親父の虐待によるショック症状で、色素が抜けてしまったせいである。


・・・と、この話はもういいだろう。さ、仕事だ。



「お帰りなさいませお嬢様。」


客が入店する度、入り口まで行き挨拶をする。


この店の従業員の95%は女。つまりメイドである。

残りの5%が男。執事なわけだが、従業員の数は男女合わせて20人しかいない。

何が言いたいかと言うと、この店の従業員は俺だけなのだ。

つまり、ハーレム状態だ。しかし、この店に訪れる客の割合は、女:男=3:7くらいだろう。

それだけ俺目当ての客が多いということになる。


「・・・。」


客からの反応はない。はとが豆鉄砲を喰らったような顔をしている。


「お嬢様?」


「あ、えっ・・・。ううっ、えっと、二人なんですけど。」


「かしこまりました。二名様ですね。それではご案内します。」


俺が席へ案内すると、後ろからおずおずと着いて来る。案内をする間にも、客からはさまざまな視線が飛んでくる。

幼少の頃、礼儀作法をしっかりと叩き込まれた俺にとって、これくらいの動作は当たり前の様にこなすことができる。

・・・そんな珍しいものか?


「それでは、ごゆっくりどうぞ。」


まぁ、やっぱり顔なんだろうなぁ・・・。



―――時間は過ぎ、午後4時―――


土曜日ということもあり、店は朝から満員御礼である。午前10時からホールで忙しなく動いていた俺の顔には

多分疲労の色が浮かんでいるだろう。この店には指名制度があるので、体力的にも精神的にも「来る」ものがある。

その時、ほかのメイドとは違うタイプのメイド服を着た女性が俺に話しかけてきた。


「お疲れ様ケイ君。あなた朝から休憩とってないじゃない。少しは休みなさい。」


声を掛けてきた女性はメイド長。つまり、店長である。


「申し訳ありません、10分程休憩してきます。」


「短すぎよ。最低でも30分は取りなさい。これは店長命令です。」


「・・・分かりました。」


店長命令なら仕方がないな。と、恵は休憩室に引っ込んだ。

30分あれば何か食えるな・・・。さて何を食べようか。


まかないのメニューを考えていた時、横から声がかかった。


「ねぇ、ちょっといい?」


時間がないから手短にしてほしいもんだ。


「ん。」


「よかったら一緒にご飯食べない?私も休憩時間ずれちゃって・・・。」


とか何とか言っているが、恵が休憩に入った後、2~3人のメイドが俺の後を追う様に休憩を取ろうとしていたのを

恵は見ていた。一人しか居ない所を見ると、他のメイドは休憩に入れなかった様だ。


「いいよ。」


そういうと、メイドの顔には、笑顔というなの花がぱぁっと咲き誇り、うれしそうに恵のそばに寄ってきた。


「そ、それじゃあ何食べる?私、神代君と同じのがいいな。」


「・・・カルボナーラ」


「うん、カルボナーラね!二人分持ってくるから神代君は座って待っててね!」


「ん。」


メイドが奥にひっこんだのを確認して、恵はメガネを外した。

カルボナーラができあがるまで10分はかかるだろう。そう判断し、鞄から一冊の小説を取り出した。

空腹を紛らわすための手段だろうが、この際空腹を紛らわせるのなら何でもいい。




―――Side メイドA―――


「えへへ・・・。」


私は今日、ついてる! なんてったって、神代君と一緒にご飯を食べられるんだもん。

・・・カロリー的にはちょっぴりきついけど、必要経費だからしょうがないよね!


「ちょっと一花いちか。」


カルボナーラをトレイにのせて休憩所に行こうとした時、不意に呼び止められた。


「なにー?私これから休憩なんだけど。」


「あれ?今休憩には神代君・・・チッ!」


忌々しげに私を見てくる知り合いのメイド。後が怖いけど、今は神代君とのご飯タイム!急がなきゃ!


――― メイドA(一花)Sideout―――



小説を4~5ページ読み進めた所で、カルボナーラが放つ濃厚な匂いと共に一花と呼ばれていた女の子が戻ってきた。


「お待たせ!さ、冷めない内に早く食べよ?」


「ん。」


一花は慣れた手つきで食器を並べる。ああ、いい匂いだ。忙しさで忘れていた空腹感が一気に強くなる。

「いただきます。」


「あ、うん。どうぞ、召し上がれ。」


自分で作ったわけではないだろうに・・・。一花からはそんな返事が返ってきた。






カチャ・・・カチャ・・・

休憩室から食器同士が当たる音だけが響いてくる。


「どう?おいしい?」


「ん。」


「よかった。足りなかったら私の分も食べちゃっていいからね。」


「・・・いい。」


「ふふっ。それじゃ、私もいただきます。」


どうやらこのカルボナーラ、本当に一花が作ったものらしい。

時折「もうちょっと卵を入れるタイミングを・・・。」とか聞こえてくる。

本人は失敗だったと思っているらしいが、普通にうまい。

料理人ならいざしらず、一般人だったら十分上手なレベル・・・だと思う。

どうやら、相当腹が減っていたらしい。あっという間に食べ終わってしまった。


「ごちそうさま。」


「はい、お粗末さまでした。ごめんね。ちょっと失敗しちゃった。」


「ん。おいしかった。」


「そ、そう?次はもっと上手に作るね。」


次があるのかよ。でもまぁ、せっかく作ってもらったんだ。次は俺が作ろう。


「次は俺が作る。」


「え?」

一花は困っていた。どうやら想定外の答えだったらしい。


「お礼。」


「い、いいのかな。次一緒に休めるのいつになるんだろ・・・。」


なんだかゴニョゴニョ呟いているが、聞き取れない。

「嫌?」


「えっ、嫌じゃないよ!それじゃあ・・・次休憩時間が一緒になった時お願いね。」


「ん。分かった。」


「次の休み時間一緒になりそうな人を買収しないと・・・。」


また何か言ってる。聞き取れないけどさ。



休憩時間も終わり、上がり予定の9時まで残り2時間というところで、事件は起こった。

メイド喫茶で避けては通れない道、客の過剰なスキンシップである。


「ねーいいじゃん。あがった後どっか遊びにいこうよ。


「やめて下さい!」


どうやら指名制度を利用してナンパに来たらしい。ナンパお断りと入り口に書いてあるんだが・・・。

おーおー腕つかんで離さないよあれ。さて、お帰りいただきますかね。冷静に冷静にっと。


「お客様。」


「なんだ?」


やたら態度がでかい男の客二人の前に立つ。すごんでいるがぜんぜん怖くない。親父に比べればカスも同然だな。


「お客様がお望みのサービスは当店ではいたしておりません。それ以上この行為を続けるのであれば

営業妨害とみなし、然るべき対応をさせていただきますので、お引取り願います。」


「なっ・・・。」


驚いている。それもそうだろう、メイド喫茶から執事が出てきたからだ。それも男。当り一面に静寂が訪れる。

客と店員の視線を一同に集めた男達は、自分達の立場の悪さを自覚したのだろう。そそくさと会計を済ませて

帰っていった。常連からするといつもの光景だが、初めて来た客なら驚くだろうな。


「お疲れ様。」


後ろを振り向くと、店長がトレイにコーヒーとケーキを載せていた。これから休憩だろうか。


「お疲れ様です。ごゆっくりどうぞ。」


「ん?・・・ああ、これ?ケイ君のよ。ありがとうね、追っ払ってくれて。」


「はぁ・・・。」


「と、いうことで。15分休憩入れてきなさい。店長命令です。」


「ん。」


おっと素が出てしまった。いかんいかん。




休憩室でコーヒーを飲みながら、ミルフィーユに舌鼓を打っていると


「あ、あの!」


声を掛けられた。


「なに?」


「あの、先程はありがとうございました。何かお礼をさせてください。」


「いいよ別に。」

そう言いながら振り返ると、ボブカットが印象的な、メガネを掛けた女の子がこっちに歩いてきた。


「私の気が済まないんです。さっきはとても怖かったから・・・。」


少し、手が震えているみたいだ。男嫌いなのかなこの子。なんでここで働いてるんだろう・・・。


「ん。じゃあ、ブッシュ・ド・ノエル。」


「え”っ。」

さすがにそんな高いのは頼まないと踏んでいたのだろう。目が泳いでる。


「あの、すいません・・・。実は今月厳しくて・・・。」


「冗談。じゃあ、モンブラン。」


「あ、はい。すぐにお持ちしますね。」

彼女はててて・・・と小走りに休憩室を出て行こうとする。


「ねぇ。」


「あ、はい何ですか?」


「震え、止まったね。よかった。」


「あ・・・。」

今頃気づいたのだろう。顔を少し赤くして部屋の奥に消えていった。






そして、時計の短針が3/4回転。


閉店時間となり、魔法が解け、メイド達は普通の女の子へと戻り始める。

俺も執事から一般男子に戻ろうと思って、男性用の更衣室に向かおうとした時、


「ケイ君。ちょっといいかしら。」

メイド長からお声が掛かった。

「はい、なんでしょう。」


「前から思っていたのだけれど、私に対してだけそんな改まった口調じゃなくていいのよ?」


「いえ、上司ですし。」


「じゃ、店長命令!」


「・・・ん。」


「よろしい。」


「で・・・。何か用?」


「そうなんだけれど、ケイ君って明日もシフト入ってるわよね?」


「ん。」


「明日はイベントの日にしようと思っているのよ。それでケイ君に折り入って相談があるの。」


「ん。」


「せっかくのイベントだし、楽しくしたくない?」


「ん。」


「よかった。それでね?ケイ君にはメイドさんの格好をして欲しいのよ。」


「ん。・・・ん?」


「言質は取ったわ。それじゃ、明日もよろしくねケイ君。」


「え・・・。ちょっと・・・。」

反論も碌に聞かず、店長は足早に事務所へと戻っていってしまった。

・・・まぁいっか。皆の驚く顔みたいし。







愛車に乗って15分、既に我が家と呼んでも過言では無い程馴染んでしまった明の家に着いた。


「ただいま。」


「お帰り。ご飯出来てるわよ。」

明はいつも恵が帰ってくるまで晩御飯を食べないで待っている。」


「ん。」

二人がテーブルに着くと、いただきますの合図の後、何時もどおりの食事が始まった。


「今日はどうだったの。」


「男二人。追い返した。」


「そ。」

このやり取りで自体を大体把握できるというのだから、明もすごい。


「他には?」


「ん。・・・明日女装することになった。」


「は?」


「店長命令。」


「ケイ。」


「ん。」


「無理やりやらされた訳じゃないのね?」


「ん。イベントを盛り上げる・・・らしい。」


「そ、じゃあ何も言わないわ。」


「ん。」


「でもね、やるからには徹底的にやるわ。まずは無駄毛処理からよ!」


「ん。」


二人ともノリノリであった。






翌日、恵と明は普段よりも2時間以上早く来た。


「おはようございます。」


「おはよ・・・あら?誰かしら。」

ケイの横にいる明を見て、店長は不思議そうに恵に問いかけた。


「おはようございます。恵の従兄弟の野崎明です。ケイの化粧を手伝いに来ました。」


「女の子を連れて出勤なんて・・・すごい気合の入れようねケイ君。」


「ん。」


「無駄毛処理などは昨日済ませてありますので、後は顔と髪と服だけです。一緒にケイを綺麗にしましょう!」


「分かったわ。さてケイ君。時間はたっぷりあるわ。準備しましょうか。」


「ん。」




―――1時間半後―――

サプライズということで、皆が出勤してくる前に事務所に移動した。呼ばれたらホールに来てくれということなので、

女性の動作や仕草をを復習している。一通り終わったところで、メイド長から声が掛かった。皆の驚く顔が目に浮かぶぜ。

さぁ、突撃だ。




―――Side一花―――


今日も元気に働くぞー!とバイト先に向かったら、神代君を除いた全員がホールに集められていた。

なんかあるのかな?他の人達も動揺してるみたい。そりゃそうだよね。こういう場合、大抵突発的なイベントとか

開かれたことが多いから・・・。店長のことだから、私達にお客さんとゲームでもやらせるんだろうな。

・・・気持ち悪い人もいるからあんまやりたくないんだけど・・・。なんて予想を立ててたらメイド長が事務所から

出てきた。


「おはよう皆。準備中の所集まってもらってるから、手短に済ますわね。」

気づいたらみんな静かになってる・・・。すごいなぁ、切り替え早い。

「今まで突発的に色んなイベントをやってきたけれど、今日から毎週日曜日にイベントを行うことにしたわ。

今日はその先駆けとして、神代君にお願いしたわ。ケイ君、入ってきて頂戴。」


店長の発言の後、事務所のドアが開いた。

その瞬間、皆の唾を飲み込む音が聞こえた気がする。

・・・あれが、神代、君?どこからどう見ても完全に女の子じゃない!

しかもとびっきりの美人さん!膝まで届きそうな絹の様な銀色の髪・・・綺麗。

お化粧も全然いやらしくない。ナチュラルメイクでここまで綺麗になれるのって素材が良いからだよねぇ。

スタイルも抜群で、まるでモデルさんみたい・・・。うらやましいなぁ。

歩き方なんて、どこかの上流階級のお嬢様みたい。まさか、この日のために練習したとか?

そうじゃないとしたら、もともとどこかのお坊ちゃんなのかな・・・。

なんて考えてたら神代君の挨拶が始まった。


「おはようございます。一応、本日限りですが、この格好でお客様にご奉仕をさせていただきます。

神代恵です。一日という短い期間ですが、どうぞ皆さんよろしくお願いします。」


うわ・・・。本物のメイドさんみたい。見たことないけど。

でもなんていうか、こう、背徳感が。女装しているはずなのに、どう見ても女の子にしか見えない。

挨拶が終わるな否や、メイド長から突っ込みがはいった。


「ねぇ、ケイ君。言葉遣いが丁寧なのは何時ものことだけど、たまには変えてみない?

せっかく女装してるんだからさ。」


なんて言ってる。さすがにこれは神代君も怒るんじゃ・・・。



「ん。何がいい?」


うええ!?やる気満々だよ神代君。これは意外だなぁ。というか、この状況をどうにかして楽しもうと

してるのかもしれない。でも、いっつも何考えているかわかんないからなぁ・・・彼。



「そうね、強気なお嬢様風味なんてどう?ケイ君なら演じられると思うのだけれど。」


「ん。」


神代くんは頷いたあと、10秒ほど考え込んだ。お嬢様キャラを自分なりに考えてるのかな?


「本日限りだけど、お世話になるわ。まったく、世話が焼ける後輩を持つと苦労するわね・・・。

ああ、そうそう。私の視界の中でお客様にご迷惑をおかけしたら罰則を与えるわ。いいわね?」



・・・へ?



「返事は?」



「は、はい!」

うわ、皆すごい緊張してる!ていうかなにこのプレッシャー!?メイド長より遥かに怖いんですけどっ!!


「ん。・・・罰は嘘。何時も通りで。」


一瞬神代君が素に戻った後、皆へなへなと座り込んでしまった。・・・彼は一体、何者?




―――Sideout一花―――






むぅ、スカートって落ち着かないなぁ。足がスースーする。

化粧ってのもなんか気になる。唇乾いたからって舐めることできないし・・・。

始業時間まで後5分か。今日は気合入れていくかねぇ。

上流階級の腕を見せてやるぜ。元、だけどな。



―――営業開始5分後―――

人気店だけあり、開店前から既に数人の客が並んでいた。店の中を気にしていた客達は、開店と同時に

お目当てのメイドを指名しようと思っていたのだが・・・。

「お帰りなさいませご主人様。」

今まで見たことのない新人と思われるメイドが客を迎え入れた。凛々しさと同時に憂いを帯びた黒い瞳に、

客達は次々と引き込まれていった。そして、目の次に容姿を見た客達は、もう彼女(?)の事を

忘れることができないだろう。訪れた客、更に同じ従業員であるメイド達を魅了し続ける当の本人は、

視線を感じても気づかないことにした。


―――元々女顔だったし、声も高いからな―――


本人も、顔と声については自覚していた。子供の頃に、女物の服を着ていた事もあった。

いくら子供とはいえ、異性の服を着ることは抵抗がある。まぁ、親の趣味だったのだが。

それにしても、エクステとは便利なものである。髪をある程度とはいえ自在に変更できる。

便利だなぁ~などと恵は考えていたが、次々に客に指名されるため、その辺の考えは一先ず

頭の片隅に置いておく事にした。


―――そして休憩時間―――

例によって店長命令が発動し、恵は40分という、本人からしたらありえない程の長い時間、休憩を取る羽目になった。

「ふぅ。」


「えっと・・・。神代君でいいんだよね?」


振り返ると、3人のメイドが恐る恐る恵に挨拶をしてきた。


「ん。」


「あ、本当だ。・・・綺麗だなぁ。」


「ありがと。」


「・・・すごいギャップ。あの氷みたいな微笑はどこにいったの?」


「あっちのほうがいい?」


「・・・恥ずかしくない?」


「別に。」


「じゃあ、休憩時間の間だけお願い。」


「ん。・・・わかったわ。これでいいかしら。」


「!」


態度が豹変した恵を見て、メイド達は唖然とした。妖艶な笑みを浮かべ、誘う様な声で3人のメイドに呼びかける謎の女。

メイド達の目には明らかに困惑と畏怖が浮かんでいた。


「どうしたの・・・?まさかとは思うけれど、私が怖いという訳じゃないわよね?」


「あ・・・。えっと・・・・。」


メイド達に焦りの表情が浮かぶ。というよりも、恵が放つプレッシャーのせいなのだが・・・。


「・・・やめる?」


一瞬、恵が素に戻り3人のメイドに尋ねる。途端、メイド達が堰を切った様に喋り始めた。


「すごい!神代君女優になれるよ!」


「なんか、お姉さまって感じだった!」


「・・・男なんだけど。」


「あっ・・・。そうだったね。」


今頃思い出したのか、メイド達は苦い笑みを浮かべていた。


「で、どうすんの。」


「えっとね。・・・今日一日それでいて下さい。」


期限延びてるし。


「ん。・・・それじゃあ、あなた。名前は?」


「三島です。三島香織。」


「そう。香織、あなたは先輩にお茶を持ってくることすらできないのかしら?」


「は、はい!すぐにお持ちいたします!」


演技を分かっていても、違和感ゼロのそれを見て、三島香織は、思わず自分が本業のメイドで、

上流階級のお嬢様に仕えていると錯覚を起こしていた。


「お、お待たせしました。」


「いただくわ。・・・あら、美味しいじゃない。」


「ありがとうございます。」


「ふふっ、これからも私のためにお茶を入れなさい。いいわね?」


「はいっ!」


得てして、休憩室はカオス空間となった。



―――30分後―――

女装をした恵の人気があまりにも高く、客からの指名が殺到したため、メイド長は恵に休憩時間を早めに

切り上げてもらおうとおもって休憩室に赴いたのだが・・・。


「お姉様!私が入れた紅茶を飲んでみてください!」


「お姉様!・・・あ、あの!今度休みの時に一緒に買い物に行きませんか?」


「お姉様!」


「・・・。」


あまりのカオスっぷりにメイド長は固まっていた。


「はいはい、そんなにがっつかないの。・・・あら、メイド長じゃない。どうしたの?」


「えっと・・・。ケイ君よね。」


「そうよ。」


あまりの豹変っぷりに、困惑が止まらない。

「お客様の指名がケイ君に殺到していてね。ちょっと早いんだけど、ホールに戻ってもらえないかしら。」


「お断りしますわ。」


「えっ?」


予想外の回答に、メイド長は固まる。今まで一度も反論をしたことがない恵が、メイド長の提案を拒んだのだ。


「休憩は当然の権利。時間いっぱいまできっちり休憩を取らせていただきます。」


「・・・そこを何とかお願いできないかしら。」


「しつこいですわ。」


「そんなこと言わないで頂戴。お客様だけではなくて、他のメイドからのお願いでもあるの。」


「・・・しょうがないわね。」


「ごめんなさいね。色つけておくから。」


「皆も聞いたでしょう。休憩時間はお終い。2~3人私について来なさい。戦場に戻るわよ。」


「はい!お姉様!」


メイド達は徹底的に訓練された兵隊のように足並みを揃え、恵と共にホールに突撃していった。


「一体何があったの・・・。」

メイド長は頭を抱えるしかなかった。





「一番テーブルにブレンドコーヒーとモンブラン。三番テーブルは片付けをお願い。お客様がお帰りになってから

2分以上経ってるわよ!四番テーブル!お客様から注文した品が来ないと苦情が来てるわ!七番テーブル!・・・」


いつもは皆テキパキを働いているからここまで忙しくならないのだが、どうにも今日に限って皆の動きが悪い。

どうも俺に見とれてしまって作業効率が落ちている様だ。稼ぎ時である日曜日の、

しかもイベントの日でこれではもったいない。しかたない。一肌脱ぎますか。


―――店長Side―――

やっぱり、皆ケイ君に見とれているわね。予想通りといえば予想通りなんだけど、作業効率まで落ちるのは

計算外だったわ・・・どうしたものかしら。


・・・ん?ケイ君が見当たらないわ。それに、2分おきにバイトの子が入れ替わりで更衣室に・・・?

何をしているのかしら、気になるわね。・・・あら、この声はケイ君かしら。


「あなたたち、少しタルんでいるんではなくて?自分で言うのもなんだけど、私に見とれるのはかまわないけど、

それで仕事が疎かになるのはいただけないわね。」


「いえ、そんなことは・・・。」


「あるわ。仕事をしながら店員全員の様子を見ていたけれど、少なからず全員の動きが悪くなっていたわ。」


「・・・申し訳ありません。」


「プロ意識を持ちなさい。いくら私達がバイトとはいえ、お客様からお金をもらっている以上プロなの。

そして、私達は働かせてもらっている立場。そのことを忘れてはいけないわ。」


「・・・はい。」


・・・思いっきり凹んでいるわね。業務に差し支えが出なければいいのだけれど・・・。


「私というイレギュラーな存在のせいで、仕事に手がつきにくいのも事実。その点については私に非があるわ。

ごめんなさい。」


「い、いえ!お姉様が謝る必要はありません!」


「ふふ、ありがとう。あなたは細かい気配りができる子なのだから、きっとできるわ。」


「いえ、私なんて・・・。」


「仕事が終わった後、皆への労い。誰も気がつかない花への水遣り、他の子がミスをした時にフォロー。

数えればキリがないわ。ここまで気配りができるのだから、今の状況でもきっとあなたなら本来の力を発揮できるわ。

私が保証する。だから、がんばって頂戴。」


「お姉様・・・。ありがとうございます!」


「期待してるわよ?」


「はいっ!」


「それじゃ、次の子を呼んで来て頂戴。」


「わかりました。少々お待ちください。」


お姉様から激励をもらった子は、意気揚々と職場という名の戦場へ突撃していった。

ケイ君・・・。こっちの方が似合っているわよ。それと、ありがとう。給料割り増ししておくわね。




ぬはーっ。やっとメイド全員の説教が終わった。さて、ホールに戻らなきゃ。


「ケイ君、ちょっと事務所に来てもらっていいかしら。」


「何かしら?忙しいから手短にして欲しいのだけれど。」

ただでさえ30分近くホールを空けていたんだ。早く戻りたい。


「手短にできるかどうかは分からないけれど、真面目な話なの。ついてきて頂戴。」


・・・演技はやめるか。


「ん。」




―――事務所―――


「お茶を入れてくるから少し待っててね。」


「ん。」

さて、何の話だろう。やっぱさっきの説教の件についてだろうか。

明らかに越権行為だったし・・・。減給くらいは覚悟しておくか。


「お待たせ。・・・何から話したらいいかしら。そうね、まずは他の従業員達への激励の件から話ましょう。」


・・・ん?激励?俺は説教をしたんだが。


「正直な所、ケイ君が女装をしてから、他の子が見とれるだろうとは予想してたの。でもね、それで作業効率が

落ちるのはさすがに予想外だったわ。」


「ん。」


「店長ですら対処に困る問題を、あなたがあっという間に解決。しかも従業員達のモチベーションまで上げてくれた。

このままじゃせっかくのイベントを継続できなくなる所だったわ。本当に、ありがとう。」


店長はふかぶかと頭を下げた。・・・予想の斜め上を行く展開だ、ついていけん。


「ん。」


「この件に関してはお終い。それじゃあ本題に入るわね。本当は閉店してから話そうと思ったのだけれど・・・。」

だったら閉店してから言えや。はやくホールに戻りたいんじゃ。


「でもね。私の気持ちが変わらない内にこの件はケイ君に聞いてもらいたかったの。」

さいですか。


「ん。」


「単刀直入に言うわ。神代恵君。あなた、この店で社員として働く気はない?」


「・・・なんで?」

予想の斜め上の斜め上を行く展開だ、何を言われているのかよくわかんない。


「ケイ君がバイトとして採用されてから一年。このままバイトにしておくのはもったいないと思ってね。

もし正社員になったら時給制から月給制に。賞与もあるし福利厚生もしっかりしているわ。もちろん、

指名料は基本給とは別に上乗せするわ。」


いい事尽くめで怖い。何か裏がありそうだな・・・。

とりあえず正社員としての業務内容を聞いてみるだけ聞いてみよう。


「・・・業務内容。」


「何時も通り、ホールに入ってくれれば良いわ。あなたは稼ぎ頭の一人だし。あ、でも、日曜日だけは

メイドの格好をしてもらえないかしら。まだ午後3時半過ぎだけれど、いつもの売り上げを既に抜いているのよ。

ケイ君がメイドの格好をして接客してくれるだけで売り上げUPにつながるわ。」


「それだけ?」


「できれば、定休日にはやる気のある子を集めて、お嬢様の仕草や素振りを指導してあげて欲しいわ。」


うおおい。それじゃ休みがないじゃないか。

「・・・休みがない。」


「最低でも週に1日は休日を作る。もちろん、定休日の指導には、休日出勤手当てをつけることができるわ。」


それが狙いかこの狸。食えない人だ。・・・しかし、ボーナスや福利厚生があるのはでかいな。

手取りが一気に増えそう。ちょっと欲張ってみるか。いきなり手札を大量に切ったけど、余力があると考えるのが

ベターだ。


「もう一声。」


「・・・意外と欲張りなのね。」


「ん。交渉。」


「そうね・・・。それじゃあ、メイドの格好をしているときは、別途手当てを出すわ。これでどう?」


ふむ・・・。ここいらが落としどころか。


「服?」


「え?」


「何を着てくれば?」


「交渉成立ね。用意が出来次第スーツで来て頂戴。それまでは今まで通りでかまわないわ。」


「ん。」


「始業時間は午前9時。退社時間は・・・閉店時間ね。」


「長い。」


「終業時間は18時よ。それ以降は残業扱いになるわ。」


「ん。」


「それじゃ、改めてよろしくね。」

なんか胸元から皮財布みたいなのを取り出した。その中から四角い紙が出てきた。・・・名刺かな?」


どうやら店長はメイド喫茶を開店させた企業の課長さんらしい。新しいプロジェクトとして立ち上げた

FCフランチャイズがこのメイド喫茶。これまた、思い切ったことをするもんだ。

ちなみに、店長の名前は藤原岬ふじわらみさき。みんな店長とかメイド長としか呼ばないから忘れてたよ。


「用件は以上よ。さ、ホールに戻って頂戴。」


さて、ちょっとからかってやるか。


「言われなくてもそのつもりよ。”岬お姉様?”」


「!?」


お、店長が驚いていら。おーおー顔赤くしちゃって。そんな年でもないだろうに。


「さっさと行きなさい!」


「ふふっ、分かりましたわ”岬お姉様”。」


「~っ!!」


これ以上はやめておこう。なんか。色々と爆発しそうだ。」





―――午後4時―――

この店の傾向として、16~18時にトラブルが発生しやすい。そう、今回みたいに。


「お姉さん綺麗だねー。こっちに来て一緒に飲もうよ。」

風俗じゃねーぞここは。


「ありがとうございます。指名は別途料金を頂きますが、よろしいでしょうか。」


「OKOK、早くこっちにおいで。」


「かしこまりました。」


ムカつく客にも笑顔を忘れず。サービス業のつらいところだ。なんて考えていたら、腰に手を回され

引き寄せられた。そのまま背中を撫でてくる。きもちわりぃ。


「ほっそいねぇ。」


「お止めください。このようなサービスは当店では行っておりません。」


「無表情でハッキリと断ってやる。しかしこの客、どうにも俺がそういうキャラを作っていると思ってるみたいだ。

まぁ、半分正解なんだが。


「まぁまぁ、そんな堅いこといわないでさぁ。」


「これ以上この行為をお続けになるのであれば、セクハラと見なしますが。」


「んだよ・・・。連れないな。」


「他のお客様からご指名が入りましたので、これにて失礼させていただきます。ごゆっくりどうぞ。」


最上級の微笑と共に、他の席に移動してやった。これであの客も懲りるだろう。













なんて思っていたら20分くらいして、例の客が座っている席からメイドのものと思われる悲鳴が上がった。

あのやろう。全然懲りてねぇ。他のメイドにおさわりをしたみたいだ。触られた子は涙目になっている。

改めて例の客を見てみると、どうやら酔っ払っているらしい。この店に来る前に居酒屋にでも行っていたのだろう。

これは完全に俺のミスだな、あの時点で止めておけばよかった。


「ケイ君、お願い。」


「ん。」


さて、俺の出番か。


カツカツカツカツカツカツ






―――例の男のテーブル―――


「お客様。」


「ん?おおっ、さっきのお姉さんじゃないか。戻ってきてくれたのか。」


「あれ以上の行為はセクハラと見なすと警告したはずですが。」


「あんたには、だろう?他の子ならノーカンだ。」

最早言っている意味がわからない。支離滅裂だ。


「かしこまりました。それでは営業妨害と見なし、警察に通報させていただきます。」

警察という単語が出た瞬間、男は逆上して恵の胸倉を掴んできた。


「んだよ。それで脅してるつもりか?」


「脅しではございません。通報させていただきます。さ、行きなさい。」

恵が被害にあった子にそう告げると、涙目になっているメイドは足早に店の奥へと消えていった。


「!待てよおい!どけっ!この野郎!」


男は恵に殴りかかるが、いかんせん相手が悪い。恵は子供の頃から親に武術の英才教育を叩き込まれている。

それこそ、免許皆伝クラスの地獄というなの英才教育を。恵の性格がここまで歪んでしまった原因のひとつである。

恵はギリギリまで酔っ払いの拳をひきつけ、その腕を取り、捻り、地面に押さえつける。


「痛い痛い痛い!離せよ!」


「営業妨害に加え障害未遂も加わりましたね。離しませんわ。警察が来るまでこの体制を維持させていただきます。」






5分後、やっと警察がきた。全く、俺は用事棒かっての。


ちなみに。この一部始終を見ていた客は、男女問わず恵のファンになったとかならなかったとか。

お読みいただきありがとうございます。


いやはや、一話目から長すぎましたかねー。

・・・次話と投稿できるのはいつになるのやら。



では、また。

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