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King of the forest ~Improved version~  作者: 龍門 
【 森 】 ~ 邂逅 ~
9/21

Concealed ability and insult



今回は2話連投







 狼達が蹂躙する中、兵士以外の人間、ナイトメアーは黒い鎌を振るっていた。


「『悪霊の悪夢ナイトメアー・オブ・ナイトメアー

 手に持つ鎌は不規則に揺れ、その大きさを変えて兵士達を切り刻む。


「ぎゃぁあああぁぁぁあああああああ――――――」


 一人、また一人。

 素早く、力強く、恐ろしく。


 鎌を振っている間、ナイトメアーは見ていた。

 視線の先に居るのは真っ赤な鎧とこの場に不相応な少年。


 ………あの力は何だ?

 見ていた。戦いながら見ていた。


 瞬時に騎士の後ろに回り込み、少年の短剣が宙を舞う。胸を貫こうとする騎士の短剣。


 そして、まるで『不確かな狼』の様に黒い靄に包まれる少年。


 何故、人間の彼が『不確かな狼』の力を扱える?

 それ以前にも、彼の身体能力は常軌逸していた。


 センと、名乗っていたな………。

 珍しい名前。


 殺気は一流のモノだった。

 風格はまさしく………、


「王」


 白い『不確かな狼』は彼の事を『王』と呼んでいた。

 幻想種である彼等が、何故人間の彼を『王』と呼ぶのか。


 頭に浮かぶ疑問は考えただけで解決する代物ではない。

 だが、考えずにはいられない。


 可笑し過ぎる。

 あの力は『未知魔法アンノウ・マジック』か?


 解らない事が多過ぎる。

 私は、とんでもない者と出会ったのではないか?


 厄災を呼ぶのか。

 もしくは運命と言う安易な言葉で片付けるか。


 唯、ナイトメアーは少年、センの姿に見とれていた。

 戦う姿は、優雅。


 その細身からは想像出来ない程の力強さ。

 鼓動が早まる。


 戦いたい。だが、それ以上に何故か見ていたいと思ってしまう。

 もっと近くで。もっと長く。彼の強さに触れたい。


 今まで、散々強い者には出会ってきた。

 だが、心を震わせる者には出会った事がなかった。


「………矢張り、森には魔が住むのだろうな」

 心底嬉しそうに、呟く。


 心を惑わせる【森】に住まう魔。


 まさか、彼女本人も人に心を掴まれるとは思ってもみなかった。


 そして、同じ瞳の色。髪の色。


 この世界では、瞳も髪も真っ黒と言うのは珍しい。

 ナイトメアー本人も、この瞳と髪で迫害された過去がある。


 そんな、そんな自分と同じ瞳と髪をした色。

 同じ。


 それだけで、彼女は十分にセンに魅了されていた。


「余所見か? 戦闘狂!!」

 不意に、聞き覚えのある叫び声が響く。


 センから視線を外し、その声の主を見る。

「何だ、生きていたのか?」

 馬鹿にした様な目。


 声の主はこの部隊の部隊長。

「お前を嬲るまで死ねないからな」

 笑みも浮かべず、剣を肩で背負う。


「残念な事に、私は私以外の誰かが私の体に触れるのが嫌なんだ。それに、私はお前が凄まじく嫌いだ。速いところ命を散らして欲しいな」

 鎌を向ける。


「んあぁ? 何だ、もしかしてお前まだ処女か? お前みたいな奴は既に体で金を取っているかと思ったが………それじゃぁ、その大層な物も宝の持ち腐れだろ?」

 隊長は頬を吊り上げ、ナイトメアーの胸を指さす。


 真っ黒な服とは対照的に、白い肌。露出する胸元。

 男なら目が行ってしまう程の豊満な胸。


「私の体に誰かの手や舌が這うのを想像しただけで、悪寒が走る。そんな事をしてまで金を欲してないからな」


「ありゃ、そうかい。俺ので穴と言う穴を慰め様の玩具としてやろうと思ったんだがな………まぁ、無理矢理って言うのもそそられる、か」

 隊長は生やした顎の無精髭を擦りながら下種な笑みを浮かべる。


 侮辱。完全に女を性処処理機としか見ていない様な目。

 自身に誇りのある女性ならば、憤怒するだろう。


 だが、ナイトメアーは涼しい顔で笑みを浮かべる。

「フッ、挑発して突進してくるのを待っているのか? それは残念な事に無駄だ」


「んあぁ?」


 隊長は詰まらなそうに肩に背負っていた剣を構える。

「残念だ。お前の力は不規則な動きだから、怒らせて単調にしようと思っていたんだがな」


「お前の目、不自然なんだよ………演技だって丸わかりだ」


「………これでも演技には自信があったんだが………まぁ、良いか」

 男の雰囲気が変わる。


 その雰囲気を感じ、ナイトメアーは鎌を構える。


「伊達に………隊長ではないらしいな」

 笑みを浮かべる。


 目の前に立つ男は、確実に強い者に分類されるだろう。

 血が付いた剣。と、言う事はこの場を蹂躙する狼を切り倒したと言う事だ。


 最初は短気な阿呆かと思ったが、どうやら人を騙すのが好きらしい。


「あぁ、それとだ。これは俺のプライドの為に言わせてもらう」


 男が片目を瞑り、笑みを浮かべる。

「………俺は従順な子が好きなんだよ」


「一生私はお前に尻尾は振らないさ」


「ハハッ! 俺もお前を乗りこなせると思ってねぇ、よッッ!!!」

 一気に詰め寄る。


 刃先がギリギリ地面に付かない程度に下げ、そして走る動きに合わせて剣を振り上げる。


「お前が私に乗る姿を想像しただけで、吐き気がするな」

 振り上げられた剣を、バックステップで躱す。


「それに俺はスレンダーな女が好みなんだよッッ!!」

 ナイトメアーの眼球を狙い、剣を突き出す。


「人の胸をガン見していたのは誰だ?」

 首だけを動かし、躱す。


「ハハッ! 演技だよ演技!! 今回はエロい馬鹿な男を演じたんだよ!!」

 距離を取ろうとするナイトメアーに、直ぐさま近づき剣を振る。


「後からだったら、幾らでも言えるだろ?」

 剣を躱しながら、ナイトメアーは内心舌打ちをしていた。


 距離が取れない。

 鎌と言う武器はこう近づかれてはその威力を発揮出来ない。


 間合い。それは小回りの利かない武器に取って重要な事。

 この男は解っている。

 その為、距離を開けずに攻撃を仕掛けて来る。


 随分と、最初の印象からかけ離れて行く男だ。


「それもそうだな!! んじゃぁ、信じなくとも良いぜ!?」

 叫びながら、避けづらい箇所を狙い剣を振るう。


 戦い慣れしている。


「お前………その部隊長と言うのも偽りだな」

 目を細める。


 男の動きは、部隊長と言っても一端の兵士が成せる動きではない。

 正確であり、攻撃の中に含まれるフェイクは兵士のそれを凌駕している。


「んあぁ? ………さぁ、どうだろう、なッッ!!!」

 突く。振るう。


 その攻撃はナイトメアーを苛立たせた。


 内心舐めていた。

 最初の印象は阿呆。次に中々出来る男。

 だが、それも改めないと駄目らしい。


「………認めるぞ。お前は、十分に強者だ」


「嬉しいねぇ!!」

 首を狙い凄まじい速さで剣を振るう。


「だからこそ、本気を出す」

 その言葉は、不吉そのものだった。


 隊長は直感で感じた。

 ヤバイ、と。


 だが、振るった剣を止める事など不可能。

 止めれば、隙が生まれる。自分から殺してくれと言っているものだ。


 けれども、離れ無いとヤバイ。


「………『影踏シャドーステップ』」

 隊長の感じた直感は、見事に的中する。


 ナイトメアーがそう呟いた瞬間、剣が止まる。

 いや、隊長の動きそのものが止まる。


「なっ!?」

 予想外過ぎる。

 何故、動けない!?


 後数㎝。剣が首を刎ねるまで、たったそれだけの距離。

 それが、何かの力により止められた。


 隊長は顔を歪めた。

「貴様………その鎌以外に『未知魔法』を!!?」

 自分の動きを止めた方法など、考えなくとも解る。


 十分過ぎる隠し玉。

 動きを止めるだと? 反則過ぎるだろ!!


 ナイトメアーは隊長の問いに答えず、鎌を宙に放った。


「なっ!?」

 いきなりの行動に驚いたが彼女が発した言葉が耳に届く。


「『幾千もの悪夢サウザンド・オブ・ナイトメアー


 直ぐさま後ろに跳んだ。

 ナイトメアーが後ろに跳んだ瞬間に、隊長の剣は空気を斬った。


「!? 動け………!!」

 動けた事に驚いたが、それ所ではないのを思い出す。


 瞬時に、その場から離れようとするが、遅過ぎる。


 宙に放られた黒い鎌は、破裂しその破片は黒い刃と化して飛び散る。


「畜生がッッ!!!!」

 逃げられないのならば、隊長は頭部を腕で隠した。


 ブシュゥ! ブシュッ! ブシュゥウウウゥゥウウウウウゥゥッッッ!!!!


「ぐがああぁぁああぁぁぁぁああああああああぁぁぁあッッッ!!!!!」


 黒い刃は、隊長の腕、体に突き刺さる。

 血が飛び、痛みが襲う。


 幾つもの刃を体に受け、血を流しながらも隊長はその場に膝を突く事はしなかった。

 肩で息をし、頭部を守っていた腕をゆっくりと下げる。


「畜生が―――!?」

 何とか凌いだ。だが、気が緩み過ぎた。


「フッ!!」

 腕を下げた瞬間、目の前には黒い鎌が迫っていた。


 何故、油断をした!!


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!


 黒い鎌は、隊長の左目を縦に斬りつけた。

「ぐがあぁぁあああぁぁぁあああぁぁああああああああッッッ!!!!!」


 先程とはまったく比にならない痛み。

 焼ける様な痛み。


 左目を押さえ、膝を突く。

「クソ………が………クソが………」

 ドボドボと流れる血。


「………凌いだのは流石。だが、その後が甘いぞ?」

 隊長の目の前で、鎌を構える。


「クソ女が………」

 見える右目で彼女を睨み付ける。

 油断した自分への苛立ち、そして目の前に立つ女への苛立ち。


 悠然と立つ姿は、何よりも腹立たしい。

 何故お前は無傷なのだ、と。


「巫山戯やがって………殺ス………テメェは………殺ス」

 憤怒。目に浮かぶは殺意。


 ナイトメアーは鎌を振り上げた。

 何かする前に殺す。


 相手の出方を見る場面でもない。

 確実に、仕留める。


 だが、次に隊長が言った言葉は耳を疑った。

「………ハッ! 今回は割に合わない仕事だったぜ………」

 いきなり殺意が消え去る。


「何?」

 眉を細めた。


 仕事? 何を言って―――、


「左目の代償は………いずれだ」


ボトッ―――。


 何かが男の目の前に落ちる。


「!? 閃光だ―――」

 ナイトメアーは鎌を振り下ろす速さを速めようとしたが、それより先に眩い光が炸裂した。


「クッ!!」

 この場が、昼以上の明るさに包まれる。


 目を開けていられず、腕で目を覆う。

 周りからも驚く声が上がる。


 ナイトメアーは慌てた。

 この隙は、仕留めるのに格好過ぎる。


「ハハッ! 仕留めはしねぇよ。それは俺の流儀に反する………だから、持ち越しだ」

 不意に聞こえた隊長の声。


 その言葉は、余りにもナイトメアーを馬鹿にしていた。

 流儀に、反するだと?

「………クソ野郎がッッ!!!」


 持ち越しだと? 確実に、私を殺す事が出来るのに………流儀に反するだと?

 優勢だった。だが、だっただけだ。


 完全に、生かされた。

 見えない目。だが、確実に怒りが宿っているだろう。


「クソがッッ!!!」


 最大の侮辱。

 生きる事に執着する彼女でも、これは余りにも腹立たしい。


 生きている事に喜びを感じるよりも、あの男への怒りが勝る。


「クソが………次は………殺す!!」

 行き場の無い怒りを、そのまま吐き捨てた。


 この時、この場で彼女の標的が決まった。














まさか、あの隊長さんが!?

なんて言う感じの回ですが、ハッキリ言います。


私も予想外でした!!


まさか、隊長さんがメアと互角に戦える程の実力者だとは………。



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