Combat mania and knight
連続投稿
書いたら投稿したくなる。
しょうがない。仕方無い。
ガランド大帝国側南領土。【森】付近。
時計の針が天辺を指す時間帯。
暗い空の下、100は超える兵士達が何かをしていた。
松明のお陰で辺りは昼並みだ。
だが、それでも【森】は暗闇と不気味さを放っていた。
鈍く光る鎧。そんな中に一人銀色の綺麗な鎧を着た兵士が居た。
この部隊を任されている隊長だろう。
その隊長は辺りを見渡しながら誰かを捜していた。
他の兵士と違って兜は被っていない為、表情が良く解る。いや、被っていたとしても解るだろう。隊長は苛立っていた。
「糞がッ! あの戦闘狂は何処だ!? 何故居ない!!」
舌打ちをし、唾を吐き捨てる。
丁度その隊長の前を通った兵士に尋ねる。
「あの女は何処だ!?」
いきなり大きな声で尋ねられ、兵士は畏縮しながら答える。
「は、はい! 先程「森を見てくる。直ぐ戻る」と言って森の方へ行きました!!」
「なにぃ? ふざけやがって!!!」
隊長はもう苛立ちを隠すつもりは無いのだろう。大きな声で叫ぶ。
「これだから―――」
「これだから何かな?」
隊長が何かを言おうとした瞬間、それを遮る様に声が響く。
その声が聞こえた瞬間、隊長はその声がした方を見る。
そこには黒髪・黒い瞳。そして全身を黒で固めた服装。
その格好でも十分異質だ。しかも鎧なでは着ていない。軽装なのが一層異質さを醸し出す。
それに、何よりこの場に不釣り合いなのがその者が女性であるからだ。
すらりと長い髪。女性らしい体型。美しい容姿。
それは凄まじく場違いさを醸し出す。
隊長は女性の顔を睨む。そして直ぐにその視線を落とす。
落とした先は女性の胸だ。
結構際どく開いた胸元。豊満な胸。激しい動きをすれば脱げるのでは?などと男ならば誰でも考えてしまう。
いつの間にか隊長は鼻の下を伸ばしていた。
女性はそんな隊長に気付きながらも気にせずに手を腰に当てながら尋ねる。
「それで、私を捜していた様だけれども? 何か御用かな?」
そう尋ねられ、隊長は女性の胸を見ながら答える。
「ん? あぁ、姿が見えなかったからな。貴様の様な賞金稼ぎは信用なんて無いに等しい。だから勝手な行動は慎め」
「そんな事で叫んでいたのか? 短気は損気だぞ。まぁ、今は雇われている身だ。これ以上は勝手な事はしないさ」
女性は【森】を見つめながら答える。
その様子を見ながら隊長はやっと女性の胸から視線を外す。
そして、横目で少し離れた場所に設置されたテントを見る。
そこには周りの兵士と違う鎧を着た兵士。
真っ赤な鎧。『紅蓮騎士団』と呼ばれる特務部隊だ。
エリートだけを集めた部隊。
入れれば一家永劫を辿れるとまで言われている。
そんな部隊の騎士が何故?
それが隊長が疑問に抱いている事だった。
【森】への侵攻は普通の戦争とは違う。
言わばこれも十分特務だろう。
だけれど、それでも『紅蓮騎士団』の騎士が出張る事でも無い。
何か在るのか?そう勘ぐるのも仕方の無い事だ。
紅蓮騎士団は二名。それだけでも十分な程だ。
そこまで戦力が必要な作戦なのだろうか?
そう思いながらも隊長は【森】を見つめた。
黒を纏う女性は赤い鎧を着た兵士を見ていた。
いや、騎士だったかな?などと考えながら見つめる。
『紅蓮騎士団』有名過ぎる『ガランド大帝国』が誇る部隊。
それが何故?『紅蓮騎士団』を寄こすのならば、自分を雇う必要が在ったのか?
何かが在る。女性は静かに笑みを浮かべた。
粗方の予想は付いていた。だからこそ笑みを浮かべたのだ。
戦闘狂。
先程隊長が言った事は間違いでは無い。
彼女を戦闘狂以外で表す言葉は無いだろう。
戦いを好む戦闘狂。
賞金稼ぎになったのも戦いと金稼ぎの両方を得る事が出来るからだ。
だが、理性を失い本能で戦う殺戮者ではない。
あくまでも仕事。殺したいと言う欲はそこまで強くはない。
けれども戦いたいと欲は強い。
生きる為の生存本能ではない。唯の戦いたいと言う欲だけで彼女は今まで生きてきたのだ。
ある意味獣だ。
理性が在るだけマシだとも思えてしまう。
人が本能で殺しをしないのは感情と言う理性が働くからだ。
それを破壊してしまえば例え、どの様な理由が在ろうが戦いから殺戮へと意味を変える。
その分彼女は戦いで止めている。
戦いと言っても殺さずではない。殺しの正当化は愚行だが、それでもマシと言えよう。
そんな彼女が笑みを浮かべている。
良い意味の訳がない。
戦える。それが今の彼女のモチベーションを保っている。
何よりこの【森】と言うのが彼女の欲を刺激していた。
未知なる何か。それと戦える事が何よりも楽しみであった。
『ガランド大帝国』から依頼。
最初は不審に思ったが、依頼内容と高額な金に釣られた。
受けた時は少し後悔していたのだが、「まぁ、良いか!」で片付けた。
ポジティブさが爆発している。それ程に楽しみなのだろう。
だが、そんな中でも彼女は考えていた。
何故自分を雇ったのだろうか、と。
兵士を使うならば自分の必要性は無いのではないか、と。
だが、その思考も途中で止めた。
考えるのが苦手な訳ではない。唯その考えはこれは以上無駄だと思ったからだ。
『紅蓮騎士団』から視線を外し再度【森】を見る。
風が吹き葉が揺れる。
ゆっくりと唇を舐める。
依頼内容は「森の中へ侵攻し敵の殲滅」。
不透明な依頼内容。
だが、それで十分だった。
彼女のモチベーションは十分上がっている。
戦いの本能を理性が必死に押さえているのも知らずに。
設置されたテントの中。真っ赤な鎧を纏う騎士が椅子に腰を掛けていた。
『紅蓮騎士団』
エリート集団と呼ばれる部隊の名。
その内の一人が椅子に腰を掛けたまま、微かに開いた隙間から外を見ていた。
「………アレが『黒き鎌使い』か」
目線の先には全身黒の女性。
先程まで此方を見ていたが今は【森】を見ている。
「『黒き鎌使い』名うての賞金稼ぎ。名をナイトメアーと名乗っています。偽名でしょうけどね」
もう一人の赤い鎧を纏う騎士が言う。
二人とも声からして女性だ。
『黒き鎌使い』を見る騎士がそれを聞いて呟く。
「悪夢………か。過ぎた名だ」
その後数秒『黒き鎌使い』を見て、騎士は目線をテント内のもう一人の騎士に変える。
「上の奴等もまどろこいやり方をする。態々雇う雇わないのやり取りの必要性が全然感じられない。余程暇なのだろうな」
面倒臭そうに騎士は言った。
それを聞いたもう一人の騎士は苦笑しながら答える。
「多少なりとも利益にしたかったのでしょう。所詮は戦闘狂。戦える場を与えれば戦う。裏切れば殺す。その為の私達ですよ? まぁ、だとしても面倒なやり方ですけどね。暇潰しと言うのが適切でしょう」
唯殺すのは勿体ない。ならば使おう。それが上の見解だ。
それは騎士の言った通り。だが、違う所が在る。
「まぁ、間違ってはいない。だけれど、最後の方は違うぞ?」
騎士が兜を脱ぎながら言う。
「最後? それは何処を?」
何処が違うのか?見当も付かないらしく尋ねる。
「簡単だ。裏切れば殺せではない―――」
兜を脱いだ騎士の素顔。
綺麗なウェーブのかかった金髪。碧と蒼のオッドアイ。容姿端麗と言える。
その美しい顔で頬を吊り上げる。
「―――裏切らなくとも殺すのだよ。それが………我々の任だ」
作戦開始は間も無く。
進まないのは今に始まった事じゃない。