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King of the forest ~Improved version~  作者: 龍門 
【 森 】 ~ 邂逅 ~
20/21

Intuition. It is a wonderful action reason.

どうも。龍門です。

今回は速めに投稿出来たと思います。


改めて思いました。

俺にラブは無理だ。


少しその分を書いたのですか、なんともまぁ~………。


今回も長いですが、少し不調。

何て言うか、焦ったのかなぁ~、って。


それでは、寛大な心で読んで下さい。












【森】『中央』


 年十年も前に倒れたであろう巨木。

 その巨木に三頭の狼が鎮座している。向かいには三頭の狼。

 巨木に鎮座する一頭の狼が、震え出し、そして叫んだ。


『に、に、に、人間の女だとォォォッッ!!? 巫山戯んじゃねぇぞゴラッ!!』

 耳に複数のピアスを付け、低い声で叫ぶ、『不確かな狼ゴースト・ウルフ』。


『私が処理している間に、まさかそんな事になっているとはね』

 唯一の白い毛の色を持つ、『不確かな狼』クィス。


『センさんが押し通したんだよね? それだったら文句の言いようが無いよ』

 左の後ろ足が無く、少し高めの声で丁寧に話す『不確かな狼』。


『そうですかぁ~、人間の女の人ですかぁ~。どんな方なんですかぁ~?』

 首から十字架のネックレスをかけ、ゆったりと話す雌の『不確かな狼』。


『ケッ! 俺はだって承知した訳じゃねぇよ! あの糞女がヘマすれば直ぐさま首噛み千切るつもりだ』

 尻尾に鎖を巻き付け、お馴染みに叫ぶバルデト。


『クラフト。余り騒ぐな。バルデトの様になるぞ?』

 いつもの様に冷静にバルデトを貶す、右側の牙が欠けたディガー。


 喋る狼が六頭。一般人が見れば腰を抜かし叫んでしまう程の異様な光景。

 六頭とも『不確かな狼』に名を連ねる、いや、この六頭こそが『不確かな狼』なのだ。


『女連れ込んた結果がそれか!?』


『い、いや、クラフト。連れ込んだって言い方は………どうかと思うよ?』


『何言ってやがる!? 此所に連れてきたんだ、連れ込んだで間違いねぇだろうがッッ!!!!』


 クラフトと呼ばれた『不確かな狼』は盛大に叫んでいる。

 左の後ろ足が無い『不確かな狼』はまるで苦笑しているかの様に歯切れの悪い声を漏らす。


『連れ込もうが、何しようが構わないのだけれど、少し不味い事になってるんじゃないの?』


『あぁ。至極不味い事になっている』

 クィスの言葉に肯定し、ディガーが頷く。


『契約の期限は無いんですよねぇ~?』


『あぁ、ねぇ………てか、アルネリア! その喋り方どうにかならねぇのか!?』

 バルデトがゆったりと喋る『不確かな狼』に向かって怒鳴る。


『それは無理ですねぇ~。これが素ですぃ~止めさせたかったら何か面白い事して下さいぃ~』

 狼からは考えられない口調で話すアルネリア。


『んあぁ!? 面白い事!?』


『はいぃ~。この前やった死んだフリでもやって下さいぃ~』


『アレは死んだフリじゃねぇよッッ!! 死にかけたんだよ!!』


『えぇ~、そうだったんですかぁ~』

 本気で驚くアルネリアを見て、バルデトは溜息を吐いた。


 そんなやり取りをしている横で、


『その女を此所に連れて来い! 俺が直ぐさま殺してやる!! 噛み千切って、砕いて、裂いてやる!! ナトルト! さっさと連れて来い!!』


『無理だよ。それよりも落ち着いて』

 騒ぐクラフトを抑える、左の後ろ足が無いナトルトと呼ばれた狼。


『止めるな! 人間なんてもんは見つけたら直ぐさま殺すのが鉄則だ!! 俺は今それを実行しようとしているだけの話だァァァァァァ!!!!』

 狂うように叫ぶ。


『だから!! 無理だし駄目だし!! 兎に角落ち着いて!!』

 それを必死に抑える。


『喧しいわね。クラフトの人間嫌いもあそこまで行ったら一種の病気よね』

 四頭の馬鹿騒ぎを見ながらクィスがそう零す。


『全くだ。阿呆ばかりで話など一向に進まない』


 クィスは「嫌だ、嫌だ」と言う風に首を横に振り、ディガーが最近増えてきた溜息を吐く。

 ふと、クィスが尋ねる。


『………女って、あの子でしょ?』


『あぁ』


 少し間を開け、クィスは尋ねる様に自分の考えを口にする。

『………『森神樹グランドツリー』は王を「王」にしたくてその子を容認したのかしら?』


『………それはどう言う意味だ?』

 ディガーは解らないと言う風に尋ねた。


『解っているでしょ? 『森神樹』は過去を視る事が出来る。あの子が本当に危険かどうか確かめる事が出来る。もし、視たのであれば、あの子がどんな子かは解る。それを視た上で、あの子をこの森に置く事を容認した。剰え、加護を完璧でなくとも与えた。………王を縛るだけ為に、此方の首を絞めかねない者をあの『森神樹』が置くかしら?』


『………俺等が気付かないあの女の価値があると?』


『可能性の話よ。………どうも、あの『森神樹』の対応が優し過ぎる。不気味な程に。契約だって、「セン」として行動させないだけ。契約まで持ち出すのならば、もっとキツくても可笑しくはない筈。………どう? 少しは可笑しいと思わない?』

 そう言い、クィスがディガーを見る。


 その可能性の話に、ディガーは考える。

 随分すんなりと話が進んだ、とは思ってはいたがまさか、な。


 ナイトメアーの価値。

 現段階でディガー達は無いと思っている。

 センはどうか解らないが、あれは可能性を感じてではなく、唯々惹かれた様に見える。

 では、『森神樹』は?


 契約もそう言われれば、結構甘いのかもしれない。

 センは直感で動くタイプの為、【森】に害なす行為って言うのは多々ヒットするだろう。


 それだけを見れば十分に縛ってはいる。

 が、逆に言えば「王」としての行動をすればセンは幾らでも動ける。


『………やられたかもしれんな』


 思考が辿り着いた可能性の一つの答えは、「セン」の行動が縛られ行えなくなったが、「王」としては動けると言う事。


 「王」とは即ち【森】の為、【森】に住まう物の為。

 そして、その住まう物には加護を受けた外部の物も含まれる。


『センは、あの女の為に今後も動く事が出来る………』


 『森神樹』はあの女を害と言った。

 それなのに、何故契約内容に「ナイトメアーの為の行いを禁止」としなかった?

 何故、「これ以上の人間との余計な接触を禁止」としなかった?


 何故、逃げ道を残した?


 今後、あの女に纏わり付くのは面倒事だ。

 この【森】ではあの女は異端。外であろうとも、あの女は異端に近いだろう。

 そんな女が面倒事を起こさない筈が無い。


 つまり、センはあの女と共に居る事で何かしらに捲き込まれる。もしくは自ら飛び込む。

 それを防ぐ為の契約、ではないのか?


 此所まで考えると、あの女には何かしらあるとしか言えない。

『………あの女に何があるって言うんだ?』


『………考えれば考える程泥沼に嵌っていく感覚ね。………現時点で言える事は、あの子には何かしらの秘密がある。それは『森神樹』がこの【森】に有益と考える程の事。それ以外はサッパリよ。でもまぁ、センは一応あの子の為に動ける。あの子に危機があれば助けられるし、あの子が助けを求めても助けられる』


 クィスの言葉にディガーは苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。

 まんまと嵌められた。


 契約の実体はセンを「王」とするのではなく、行動を強制する事だけ。

 【森】に住まう物の為なら危険が在ったとしても、動かなければならない。


 それにはあの女も含まれている。

 これではまるで、あの女を護る為の契約だ。


 ………いや、考え過ぎか。

 だが、契約内容からしてはこの考えは妥当。


『………鍵はあの女の過去』


『そうね。『森神樹』が視るのは過去。その過去を視てのこれだから、きっとそうなんでしょう。知りたい内容ではあるけど、尋ねて教えてくれる訳ないし、あの子に聞いてもきっと無理よね』


『あぁ。女に尋ねて答えが返ってくるのなら簡単な話だ。だが、『森神樹』があの場で言わなかったんだ。何かしら女の記憶にでも細工しているだろう』


 ディガーが溜息を吐く。

 結局は、『森神樹』の掌の上と言う事に変わらない。

 考えた所で解らない問題を残し、態と考えさそうとしている様にも思える。


 全てが考え過ぎで、杞憂に過ぎれば良いのだが。

 そう考えたが、直ぐに鼻で笑い消し去る。


 消し去るには、些か大きい事だ。

『………結局は成る様に成る、か』


 その呟きに、クィスが笑う。

『あら? アンタがそんな言葉を言うなんてね。他にアンタらしい言葉が無かったのかしら?』


『茶化すな。………十分に今に適している言葉だろう?』


『フフ、それもそうね。………今は場に身を任せて。分岐点を見極めながら、じっくりと行きましょう。無限ではないけれど、有限も結構たっぷり有る訳だしね』


『………その考え方はお前らしい』


『フフ、どうも。一応褒め言葉として取っておくわ。………バルデト! いい加減叫ぶの止めなさいよね?』

 笑みを零し、クィスは歩き出しながらバルデトを止めに入る。


『だ、だけどよ! コイツの喋り方が鬱陶しいんだよ!』


『アンタも十分鬱陶しいわよ。それとクラフト! いい加減アンタも落ち着きな! それ以上騒ぐなら灰に変えるわよ?』


『う、鬱陶しいって………』


『んな!? サラッと恐ろしい事言うんじゃねぇよ!!』


『んん? 私に命令するの? この私に? この、わ・た・し・に?』


『あ………いや………スマン』


『よろしい』


『………アレはアイツの凄い所なのか?』


 威圧かはたまた、クィスの強さか。

 騒ぐバルデトとクラフトを一瞬にして大人しくさせた。


 バルデトは穴を掘りながらブツブツと何かを呟き、クラフトは目を泳がせながら俯いている。

 その様子を見ながら何故かクィスは満足した表情を浮かべている。


 ディガーは軽く再度溜息を吐く。

 問題などが色々浮き出てきたが、今の所はこの有りそうで無い統率が気がかりである。


 考えても仕方がないので、ディガーは「雌は強い」で片付けてしまおうと心の奥底で納得していた。



























 『光の雨ライト・レイン』の輝きがまだ残っており、暗い【森】を薄く照らしている。

 地面は濡れ、木が濡れ、葉が濡れている。


 センはゆっくりと一本の木に掌を当て、静かに目を瞑った。

 心地の良い風が吹き、センの黒い髪を揺らす。


 静かに息を鼻から吸い、口からゆっくりと吐き出す。

 センの顔色は未だ芳しくはないが、絶不調と言う訳ではない。


 此所に運ばれる前に比べれば、幾分良くはなっていた。


 再度、鼻から吸い口から吐き出す。


「あれ? 起きてたんですか?」


「さっき起きたばっかりだよ」

 後ろから掛けられた声に振り返り、センは軽く笑みを浮かべる。


「もう少し寝ていた方が良いんじゃないですか?」


 センの後ろに立っていたのは金髪天パでタレ目の人間。

 黒と赤の上下が繋がった服を着ており、ブーツを履いている。


 至って普通の青年。

 表情からどことなく頼りなさそうな雰囲気を醸し出している所も、特別変な所ではない。


「起きちゃったから。それに、今は起きていた方が楽なんだ」


「そうですか? あ! でも余り激しい動きとかはしないで下さいね? 全快している訳じゃないんで」


「ハハッ! 大丈夫だって! 今の所は身体を動かす予定はないから。………そうだ」

 青年の言葉に笑い、そして思い出した様に尋ねる。

「メア………俺と一緒に居た女の人は今何処に?」


「女の? あぁ、確かラルさんが一緒に居る筈ですよ? 監視って訳じゃないみたいですけど、独りにするよりは良いだろうって」


「俺と一緒にすれば良かったじゃん。それなら態々ラルが付いて居なくとも」

 若干不満そうな表情を浮かべるセン。青年は思い出した様に付け足す。


「離れさせたのはディガーさん達が」


「えっ? そうなの? ………うん~、どうもディガーとバルデトはメアを嫌うよなぁ」

 腕を組み、首を傾げる。


「メア? あの女性の名前ですか?」


「そっ! 俺が付けたあだ名。結構良いと思うんだけど、どう?」


 嬉しそうな表情を浮かべるセンに苦笑しながら頬をポリポリと掻く。

「いや、どう? と言われても、僕あの女性の名前知らない訳ですし」


 言われれば、と手をポンっと叩く。

「そっか、そっか! メアの名前はね! ナイトメ―――」


「あれ? 起きたのですか?」

 【森】の闇から現れたのは白いローブを着たラル=シュー。

 表情には変わりの無いニコニコの笑みを浮かべている。


「あっ、ラルさん」


「おっ、ラル! ゴメンね! 心配掛けたみたいで」

 頭を掻きながら照れくさそうな表情を浮かべる。


「フフ、無事でなによりですよ」


「おい! 一人で行くな! こっちは此所の土地勘なんて無いんだよ! お前が見えなくなったら確実に私は迷うぞ!?」

 ラルの後ろから女性の怒鳴り声が響く。


 その声に反応したのはセンだった。

「メア!?」


「ん? その声は………センか!?」

 そしても向こうもセンの声に反応した。


「フフ、まるで惹かれあっている男女ではないですか」

 楽しそうに顎に手を当てながら笑みを浮かべるラル。

 随分場違いな言葉だ。


 ガサガサ、と言う音が聞こえ、闇から葉まみれのナイトメアーが現れる。

「おっとっと、………全く、葉っぱだらけだ」

 肩や服に付いた葉を払いながら愚痴を零す。


「ハハッ! まだ夜目が利く訳じゃないみたいだね!」

 センは楽しそうな表情に楽しそうな笑い声を出し、木の根っこを飛び渡りながらセンの目の前に立ち、ナイトメアーの頭に手を伸ばす。


「ん?」

 若干身構えそうになったのだが、センの表情を見て直ぐに反射的に払おうとした手を止め、片方の手で黒い自身のスカートをぎゅっと握る。


「ほら、頭にも!」

 取った葉っぱをナイトメアーに見せながらセンは満面の笑みを浮かべた。


「!! ………あ、ありがと」

 その笑みに思わず赤面し、止めていた手をゆっくりと元に戻す。


「チキン………見て下さい。アレが属に言う天然ですよ」


「………ラルさん。何でそんなに満面の笑みを浮かべてるんですか?」

 少し離れた所でラルとチキンと呼ばれた青年がコソコソと話している。


「あっ、怪我とか、具合とかはどう?」

 笑みから一変、心配そうな表情を浮かべ尋ねる。

 その表情は言うならば、母性を擽ると言うのだろうか? 何とも言えない破壊力。


 ナイトメアーのその表情で見つめられ、またまた頬を赤くしてしまっていた。

「えっ!? あ、具合? だ、大丈夫だぞ? 少しダルさが残っているぐらい、かな? ハハハ」

 少し声が裏返り、クールな彼女からは想像出来ない様な慌て振り。


 大抵の者ならこのナイトメアーの様子で色々勘ぐるものだ。

 だが、センはその言葉を聞き、直ぐに笑みを浮かべる。


「そっか! なら良かった! 何処か怪我でもしてたらって心配だったからさ!」

 全く気付かず、無邪気か素直か喜ぶセン。


 ラルの言った通り天然なのか、鈍感なのか。

 ………どっちもだろう。

 此所で「あれ? 顔赤いよ? 風邪?」と尋ねないだけマシとも言える。


「そ、そうか。心配、してくれていたのか」

 センの心配と言う言葉に若干喜んでしまう。


「当たり前じゃん!」


「あ、当たり前か」

 その言葉に再度顔を赤くする。


 この当たり前、がどの当たり前かは知らないが、残念な事に特別な意味は含まれていない。

 それが解っていても、ナイトメアーは顔を赤くしてしまう。


 原因としては、此所に来る前のラルとの会話。

 センがどうして私を? などと言う会話が変にナイトメアーを意識させていた。


 別にこれが恋だとか、そんな事は微塵も考えていないのだが、それでも女性の無意識と言うのか、反応してしまうのは仕方無いだろう。

 センの勘違いし易い言い方も言い方なのだが、それは天然だと片付ける以外ない。


「………し、心配かけた、な」

 歯切れ悪く、俯きながらの一言。


「まぁ、原因が俺にもあったしね。言い方は変かもしれないけど、お互い様で」


「………原因」


 赤くなっていた頬の熱が引け、聞きたい事が脳裏に再度浮かぶ。

 チラッと、上目遣いでセンを見た。


 少し、苦笑いを浮かべて頭を掻いている。

 それが凄く年相応で、でも何処か大人びて。


 どうして、どうして。

「どう、して………」


「ん?」


「あ、いや」

 途中まで出かけた言葉が、突然出るのを躊躇する。

 言葉が出ないのは、返ってくるその問いの答えを聞きたくないからなのか。


 利用したいのか?

 その問いを言いたくない。


 返ってくる言葉が、安易に予想出来てしまう。

 別に、価値がどうこう言われても大差気にはしないだろう。


 だけれど、センには言われたくない。その言葉を、私に言って欲しくない。

 「セン」の言葉で、言って欲しくない。


 此所に私を連れて来て、私の力を悉く壊し、私のプライドを潰した。

 けど、私に次を教え、私に違う名をくれた。


 味方か敵か解らない関係が、今の私に取ってはある意味心地良い。

 変に気遣わず、センも、私も互いを気にしなくとも良いから。


 でも、この問いを尋ねてしまったら、解ってしまう。

 向こうが私を利用しようとそれで引き入れたならば、私はきっと味方として接する事が出来ないだろう。

 敵ではないのに、味方になれない。味方なのに、敵になってしまう。


 利用されたくない。

 そんな考えは、今まで微塵も考えなかった。


 利用したければ、すれば良い。

 その変わり、私もお前等を利用する。


 稼ぎ屋として変にプライドを持ったら仕事など出来ない。

 時には偉い奴に罵られ、時には共闘した者に裏切られ。


 利用し、利用され。

 そうしながら生きて着た。


 だから、特別利用される事を毛嫌いする訳ではない。


 それでも。


「………何故、私を此所に?」


 尋ねたくはない。けれども、尋ねなければ私は彼と共に戦えない。


「何故、契約を交わしてまで、私に加護を?」


 お前に取って、今の私は何だ?

 こんな言葉は、まだ会って数日も経っていない者が尋ねる言葉ではない。


「………そこまでして、何故………」


 ハハ、何だろうな。この不安な気持ちは。

 随分、胸が痛い。


「………わ、私を、利用する為か?」


 柄じゃない。

 これは、私じゃない。きっとそうだ。心身共に疲れているから、思ってもない事を考えてもいない事を言ってしまうんだ。


「………どうして?」

 あぁ、一体どんな答えが返ってくるのか。


 耳を塞ぎそうになるのは、矢張り私が疲れているからだ。

 きっと、そうなのだ。そうに、違いない。


 頭を振り、息を吐く。

 逸らしていた目を、静かにゆっくりとセンの目線に合わせる。


 言ってくれ。

 どんな答えでも、多分笑って私は返せる。


 センは、真剣な表情でナイトメアーを見ていた。

 黒い瞳で、ナイトメアーの黒い瞳を見つめ。


 ナイトメアーより少し低い身長。

 それでも、大差変わり無い。

 どことなく大人びた雰囲気を醸しだし、どことなく少年のあどけなさが残る。


「………解らない」


「……………………………」


 センの口から出た答えは、答えでは無かった。

 解らない。ある意味、逃げの言葉に感じる。


 だが、センが気遣ってその言葉を選んだのではないと、ナイトメアーは解っている。

 会って間も無いが、センがどう人間かは何となくは解っているつもりだ。


 だから、黙って次の言葉を待つ。


「………でも、興味があった」

 真っ直ぐに見つめながら紡いで行く。


「同じ髪の色。瞳の色。そして内に宿る魔力。『失われた魔法ロスト・マジック』を扱えて。だから、興味が湧いた」


「でも、今は何となく違う。勘、なのかもしれないけど、だけど、俺はメアと一緒に居たいと思った。一緒に居れば楽しいかもしれない。一緒に居れば違う景色を見る事が出来るかもしれない。新しい何かを見つける事が出来るかもしれない。そんな、あやふやな勘を信じて。きっと、メアを此所に連れて来た事は、未来の俺も後悔しないだろうって。未来の俺も同じ事をしただろうって。………でも、やっぱりちゃんとした理由を言えって言われたら解らないって答える。余りにもあやふやで、説明出来る言葉が見あたらないから」


 かもしれない。

 彼女と居れば―――かもしれない。


 特別、何かが有る訳ではなかった。

 あやふやで、思いっきり勘だ。


 だけれど、ナイトメアーは何処か安堵した表情を浮かべていた。

 これを聞き、スッキリする訳ではない。


 けれども、ナイトメアーは嬉しかった。


 ―――後悔しない。


 この言葉だけで、ナイトメアーは安心した。


 今言った言葉であって、本当に未来のセンがそう思うのかは解らないけど、それでも彼女は感じた。


 味方で、居られる。と。


 彼は信じられる。

 変に飾った言葉を言われるよりも、彼らしい言葉で飾られたそれが、何よりナイトメアーを安心させる。


 職業柄、人を直ぐに信用する事は愚かな事だ。

 それでも、信じられると思ってしまったんだ。


 どうしようもないだろ?


 どうして信じられる? など聞かれれば、彼女もこう答えるだろう。


 ―――勘、かな? と。


「………こんな答えで、良い?」

 心配そうな表情で、センが尋ねた。


 こんな、と言う事はセン本人もこれが答えになっていないのが解っている。

 でも、これ以上ちゃんとした答えが無いのだろう。

 元が勘だ。勘に答えを求めるのも酷と言える。


 センの表情を見て、思わず笑みを零してしまう。

「あぁ。十分だ。私の、聞きたい答えだった」


「そっか! なら、良かった!」

 心配そうな表情から一変、明るい表情に変わる。


 こう、表情がコロコロ変わる所は、年相応なのだろう。

 「王」としてのセンが余りにも大人びていて、「少年」のセンが少し新鮮に感じてしまう。


「………ありがとう」


「へ?」


 髪を耳に掛けながら、ナイトメアーは微笑んだ。

「………何となく、言いたかったんだ」


 照れ臭そうに、頬を赤くしながら、彼女は優しく微笑んだ。

 一瞬、呆気に取られたセンだが直ぐに満面の笑みを浮かべた。


「そっか!」


 これで、味方だ。

 そう心で踏ん切りを付ける。


 まだ、不安要素は消えていない。


 何故、こうもすんなり加護を受ける事が出来たのか。

 他の【森】に住まう物はどう行動するのか。


 味方など、センも含めてごく僅かだろう。

 敵はこの【森】と言っても過言ではない。


 進めるか?


 首を横に振る。


 違うだろう。

 進むんだよ。


 死ねない。死ぬ訳にはいかない。


 貪欲に、生きなければ。


 生きている事が、今誇れるモノなのだから。


 それに、生きていれば、センがちゃんとした答えを見つけてくれるかもしれない。

 その答えを聞く為にも、死ねない。














「ほおぅ………チキン。あれが属に言う青春ですよ」


「何で、隠れるんですか?」


 少し離れた木々に身を隠しながら、ラルとチキンが二人のやり取りを眺めていた。


「私達が居たら、素直に話せないじゃないですか。気遣いですよ。気遣い」


「はぁ~………何でそんなに満面の笑みなんですか?」


「ん? 笑みを浮かべているのはいつもですよ?」


「………そう、ですか」


「いやぁ~、初々しいですねぇ」
















狼かぁ~。もう良いだろうよって思った。

あと、デレって何?


セン君が少し幼い?と思ったかもしれませんが、これがセン君の地です。

戦闘時は「王」的な上からの口調になり、「少年」では年相応の明るい感じになります。

これが結構面倒。マジ面倒。


………愚痴はもう良いかな?

次回からやっと沢山の幻想種達が登場します。


それだけが今の楽しみです。

もう、狼だけは疲れた。


猿を書きたいぜぇ~。


それでは、それでは。


P.S.

オニグンソウさんの『ヒトガタナ』が面白い。

話もそうですが、なにより絵が好き。

格好いい。そう素直に読んでいて思った作品。


………伏せ字にしなくとも良いよね? 駄目?

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