Idea. Idea. Idea. His idea?
お久しぶりなのでしょうか?龍門です。
いやはや、卒業シーズン。
毎年訪れるモノですが、余り好きではないですね。
もう、一生出会う事のない人も居るだろうし。
さて、話を変えまして、今回は今までで一番長いです。
その割には進んでいません。
戦闘シーンを書きたいが、入れる場所なんて無い。
話してばっかり!!
此所は?
『何処だろうね』
私は?
『誰だろうね』
お前は?
『なんだろうね』
私は死んだのか?
『どうだろうね』
問答。ちゃんと喋れているのかすら解らない。
そこに私が居るのか、側に誰か居るのかすらも解らない。
暗いのか、明るいのか。
狭いのか、広いのか。
大きいのか、小さいのか。
此所は何処だ?
『さぁ、記憶に無いなら知らない場所。思い出せないのなら知っていた場所。名前を知らないなら、知っていても無駄な場所』
お前は?
『名前? 性別? 容姿?』
………名前だ。
『さぁ、仰仰しい名前か。弱々しい名前か。それとも可愛らしい? 儚げ? どれでも構わないけど、知らないモノは知らないままの方が幸せだよ? 知って得するのは誰かの好みと嫌いな物ぐらいじゃないかな?』
要は答えたくないって事だろ?
『それは違うね。まず、名前を尋ねる時点で場違いなんだよ。此所は互いに名乗り、お辞儀をする所ではないからね』
その口ぶりからすると、お前は此所を知っているのか?
『さぁ、どうだろうね。知っているかもしれないし、知らないかもしれない。知っていても言わないかもしれないし、言いたくても言えないかもしれない』
凄まじく無駄な問答をしている気がするが?
『奇遇だね。同じ事を今思ったよ』
………で、私は何故此所に居る?
『その問いは此所が何処かによるね。天国か地獄か。現実か幻想か。もしくはそれ以外か』
お前は何も知らないのか? それとも知っているが言わないのか?
『そうだね………それじゃぁ、一言だけ』
『―――まだ、早いよ』
「!!?」
【森】………。
草木が生い茂っている。
背中が少し冷たい。
横になっているらしい。
首だけを動かし、辺りを見渡す。
生き物の気配はない。
だが、【森】だろう。
「………私は、何をしていた?」
記憶があやふやだ。
センと、狼二頭。
話している途中に………『森神樹』の声を聞いた。
「………あの後、私はどうなった?」
何か、『森神樹』と話した気がするがそこの記憶がもの凄くあやふやだ。
思い出せない。何を思い出せば良いかすらも解らない。
根本から記憶を持って行かれた様な、不快な感覚だ。
だが、思い出せなくとも解る事はある。
………私が気を失ったと言う事だ。
何分、何時間、もしかしたら何日。
そんな時間を無防備に私は過ごした。
上半身だけ起こし、ナイトメアーは自分の左手首を思いっきり握った。
悔しい。
此所は敵地だ。
そんな場所で、気を失うだと?
無謀。笑える話だ。
何も出来ずに死ぬ所だった………。
このまま目を覚ますのが遅ければ、もしかしたら………いや、確実に死んでいただろう。
何だ。今の私は。
………何も出来ていない。
此所に来たのは無謀だったか?
もっと自分の力量を極めてからの方が良かったか?
「………クソッ」
苛立ちが募る。
自分の弱さに腹が立つ。
今の実力でも、十分に戦えると生きて行けると思っていた。
だが、場所が変われば相手が変われば。
気がつけば死に近い負けを味わっている。
相手が強過ぎるなどと言うのは言い訳に過ぎない。
「不甲斐なさ過ぎるだろ………ッッ!!」
吐き捨てる。
どうして、どうしてッッ!!!
あの部隊長の男と戦った時、最初から本気で行かなかった!
どうして、狼共を見て直ぐに負けると悟った!!
浮かぶのは今までの自分の不甲斐なさ。
それが限界を超えて溢れ出す。
何故ッ! 何故ッ!
死ぬ事が怖いのか!?
死ぬより生きる恥を選んだのかッ!!
生きていればどうにかなる!?
此所まで自分の不甲斐なさを突き付けられ、何をどう糧にすれば良い!!
生きていれば、と言う彼女の信条が崩れて行く。
彼女は強者に会うのが早過ぎたのだ。
一気に相手のレベルが上がり、置いて行かれる。
強者に出会った事に喜ぶが、その反面自分の弱さを悔いる。
面と向かって立っただけで、相手との力量差が解るのは戦う者としては屈辱だ。
勝てない。絶対。
そう過ぎる考えをねじ伏せ、何とか彼女は立っていた。
だが、流石に今回は立ち上がれない。
気付けば気を失っていた。
何故気を失ったか解らない。
しかも此所は敵地。
これだけのミスが連発すれば、流石の彼女でも立てない。
彼女のプライドはズタボロに裂かれ、今にも全てを繋ぎ止める何かが千切れる。
「クソが………」
涙は出ない。が、その分自分への苛立ちが口から零れる。
「随分荒れていますね」
「!? 誰だッッ!!?」
突然自分へ向けられたであろう声に対し、叫ぶ。
すると、彼女の向いていた方の【森】の闇から、白いローブが現れる。
「脅かせてしまいましたか? それは失礼。………殺気を抑えてくれませんか? 今の貴女の殺気は、随分痛々しいです」
現れたのは白いローブを着た、声からして男。
男はローブのフードを深々と被っており、表情が解らない。
ナイトメアーは掌を開き、鎌を造り出す準備をする。
相手が敵味方解らないのであれば、まずは敵と判断する。
それは独りで生きていくには必要な事だ。
警戒に気付いたのか、白いローブの男は両の手を小さく上げる。
「ハハッ………怖いですね。ですが、私には戦意も殺意も無いですよ?」
「………何者だ? この森に居ると言う事は………お前も幻想種か?」
「そうですよ。私も幻想種と言われている者です」
殺気を弱めず、鋭い眼で睨むナイトメアーに若干畏縮しながらも白いローブを着る男は答える。
「………そのフードを取れ、と言ったら素直に取り、素顔を見せるか? ………この私に」
「えぇ、取れますよ」
男は何の躊躇も無くフードを脱いだ。
「………ッッ!?」
現れた男の顔を見て、ナイトメアーを驚く。
現れたのは白い長い髪。蒼い瞳。そして尖った耳。
幻想種、『エルフ』と呼ばれる人外。
「驚きましたか?」
男はニッコリと微笑む。
「………随分有名所が出て来たな」
「そうですね。まぁ、有名になればなるほど色々と尾ひれが付いてしまいますけどね」
「そうだな。傲慢で他の種族を蔑む神の隣を気取る人外、だったか?」
ニヤリと笑みを浮かべ、軽く挑発をする。
沸点の低い奴は、これぐらいで挑発に乗る。
ナイトメアーの中では、『エルフ』と言う種族はまさしくそれなのだ。
己が何よりも勝っていると。
「フフ、その通りですよ。居るかどうかも解らない神の隣を名乗る、哀れな道化です」
「…………」
この返しは予想外だった。
浮かぶビジョンでは、あの挑発で憤怒し何かしらのアクションを見せると思ったのだが、苦笑を浮かべるだけで剰え自分で自分を罵った。
「さて、もうそろそろ私が貴女の敵ではないと解っていただけましたか?」
その言葉通り、ナイトメアーはこの男は敵ではないと認識していた。
まず、フードを彼女の前で躊躇無く脱いだ時点で解ってはいた。
敵である相手に、態々素顔を見せる者も居ない。
「………そうだな。敵ではないかもな。………だが、味方とも考えられない」
油断はしない。
「御賢明な判断ですね。ですが、一応は信じて貰いたいですね。………あぁ、こう言えば良いですか? 私はセン側の者だ、と」
胸に手を当て、お辞儀をするかの様に前屈みになる。
セン側の者。
この言葉はこの【森】に措いて、ナイトメアーの敵味方を区別する重要な事だ。
此所にナイトメアーを連れて来たのはセンの独断。
『不確かな狼』であるあの二頭が手を出さなかったのも、あの二頭がセン側の物だったからだ。
即ち、セン側の物にはナイトメアーに手を加える気は一応は無いと言う事。
「そう、か」
気を緩めても良い物か、軽く息を吐く。
「そう、張り詰めなくとも良いですよ。此所は既に『中央』の中央です。殆どがセン側の物であり、そうでない物でも下手に手出しが出来ません。………それに、貴女は既に加護を受けていますから」
「!!? ………加護、だと?」
その驚きは先程までのモノとは全く違うモノだった。
此所までの流れ、記憶が中途半端に途切れ詳しくは解らないが、加護を受けられる様な流れでは無い筈だ。
自分で言うのも何だが、私は十分過ぎる程凶器だ。
抱えてメリットが有るとも思えない。
それなのに、加護を与えた?
加護の事も詳しくは知らないが、この【森】に認められたモノが受ける風に聞いている。
それを、この私に?
「………冗談か?」
「いえ。そんな詰まらない冗談など言いませんよ」
「………何故?」
その疑問に『エルフ』の男は首を傾げた。
「何故? 加護を受けた事がそんなにも疑問ですか?」
「大ありだよ。少なくとも私に加護を与える義理は無い筈だ。下手をしなくとも誤爆しかねない者を抱えるんだ。そう簡単に容認出来る程、甘くはないだろう?」
自身の立場が解っているからこそだ。
だから、「そうか、良かった」と納得出来ない。
深読みのし過ぎかもしれないが、下手に納得するより追求してちゃんと納得出来る方が良い。そう判断し、彼女は尋ねている。
もし、ナイトメアー自身に利用価値がありそれを利用したいのなら、それはそれで良いのだ。
明確な理由の無い善意は悪意だ。
与えれば、何かを渡さなければならない。
この【森】が、与えるだけで終わる筈がない。
何かしらの見返りがある筈だ。
彼女はそれが何か知りたい。
それに、加護を受けたと言う事は、既にナイトメアーは知る権利を得たと言う事。
先程までの様に、端折りまくった説明でなく、ちゃんとした説明を聞ける筈。
「………そうです、ね。貴女が疑う気持ちは解りますよ。私が貴女と同じ立場であれば、同じ様に疑い、勘ぐりますからね。………ですから、素直に説明致しましょう」
そう言いながら、『エルフ』は木の根っこに腰を下ろす。
「さて、まずは自己紹介をさせて貰いましょう」
先程と同じ様に胸に手を当て、お辞儀するかの様に前屈みになる。
「私の名は、ラル=シューです。好きな様に呼んで下さい」
「私の名は、ナイトメアー。此方も好きに呼んで貰って構わない」
互いに名を交わし、ラルは笑みを浮かべ口を開く。
「さて、まず説明しなければならないのは、貴女がどうやって加護を受けるまでに至ったか、ですかね」
「そうだな。一番気になる所だしな」
「まぁ、簡単に言ってしまえば、センのお陰、ですかね」
「センの、だと?」
「はい。少し戻って数時間前です―――」
【森】『中央』
『エルフ』、ラル=シューは木の根っこに腰を下ろしながら本を読んでいた。
辺りには誰も居なく、彼一人だ。
一枚、また一枚と結構な速さで本の頁を捲って行く。
そんな中、辺りの雰囲気が少し変わったのを感じる。
「………帰って来たのでしょうか?」
辺りを見るが、現れる気配は無い。
だが、確実に雰囲気は変わっている。
少し警戒し、ラルは持っていた本を閉じ、立ち上がろうとした瞬間。
「!!?」
突如目の前が輝き出し、虚空が捻れる。
そして、その捻れからまるで吐き出されるかの様に何かが現れ、地面に落ちる。
ドサ、ドサ、と二つの何かが落ちる。
普通であれば、その瞬間に叫びたくもなる様な出来事だ。
だが、ラルは一瞬にして理解した。
この様な現象の事ではなく、落ちた二つのそれがなんなのかを、だ。
「セン!?」
思わず倒れるそれ、つまりはセンを見て驚く。
センは地面に倒れ、全く動かない。
直ぐさま側に駆け寄る。
「………死んでは、いない様ですね」
思わず吐き忘れた息を吐く。
「………ですが、何故?」
センに外傷などは見あたらないが、顔色が芳しくない。
何かしら、内面的な精神的な何かを受けたのか?
直ぐさま原因を考える。ふと、センの隣に目が行った。
「………人間の、女性」
センの隣に倒れる、漆黒に身を包んだ人間の女。
見覚えが無く、そしてラルはその女の内に在る魔力に気付く。
「………これは」
見覚えが無いと言うことは、外部の者。
では、何故その者が此所に? そしてどうしてセンと共に現れた?
人間の女には致命傷となるであろう外傷は無いが、所々服が破けたりかすり傷がある。
その程度だが、この女性も顔色が悪い。
考えに没頭していると、
『クソがッ! いきなり飛ばしやがってッッ!!』
聞き覚えのある声が響いた。
『全くだ。随分手荒い運び方だ』
その声がした瞬間、【森】の闇から二頭の獣が飛び出す。
『不確かな狼』、ディガーとバルデト。
「二頭共無事でしたか」
『ん? ラルか』
ディガーがラルを見て、近づく。
『かァー、やっぱ気を失ってるか』
倒れるセンを見つけ、バルデトが言う。
「やっぱり、と言う事は」
『あぁ。俺等は一応立ち会った』
ディガーのその言葉に、ラルは思わず眉を細めた。
「………立ち会った? もしや、契約の………ですか?」
『その通りだぜ? しかも相手は『森神樹』だ』
「なっ!? 正気ですか!?」
思わず叫んでしまうが、それは正常のリアクションでる。
『正気か異常かは、俺等には判断しかねる。全てセンが「セン」として決めた事だ』
ディガーのその言葉により、ラルは全て理解した。
何故、契約などと言う危険な手を使ったのか。
そして、センが少なくとも何かしらの覚悟を見せた、と。
「………この、女性のためですか?」
センの横で倒れる女を見ながら尋ねる。
『あぁ。胸くそ悪い話しではあるがな。どうやらセンの野郎その糞女を随分気に入ったらしくてよ。契約結んでまで護るつもりらしいぜ?』
表情を歪めながらも、口元だけは吊り上げるバルデト。
『進歩と言えば進歩だ。それが俺等にとってプラスかどうかはさておき、な』
そう言うディガーの表情も言葉とは裏腹に明るい風に見える。
「そうですか。まぁ、彼が彼で決めた事ですからね。………ですが、問題は契約の内容ですね」
『あぁ。まぁ、予想通りに不利な条件だった』
矢張り、か。と納得する。
『森神樹』が態々契約まで持ち出したのだ。生温い内容の筈がない。
「………大方内容は予想出来ますからね。センの行動を縛るのと同時に、森への奉仕ですかね」
『あぁ。その通りだ。結ばれた契約内容は三つ』
一、【森】に住まう物を護る為に命を捧げろ。
二、【森】に害があると判断した場合、如何なる手段を用いてでも排除せよ。
三、【森】に関して害があると見なされる行動を行った場合、その場で死す。
「………成る程、他の森に住まう物からしては痛くも痒くも無い内容ですが、センに取っては痛手ですね」
内容を聞き、ラルが難しい表情を浮かべる。
『あぁ。俺達からしてはな。けど、センは「王」を拒絶している。「王」自体が嫌なんじゃなく、「王」の在り方を嫌ってるからな。この契約内容は、否応無しにセンに「王」として生きさせる為のもんだ』
バルデトの言った通り、【森】に住む物からしては当たり前の様な内容だ。
だが、センからすれば最悪と言えるモノだ。
契約内容は「王」としての責務なのだ。
【森】の「王」は【森】の為に生き、【森】の為に死ぬ。
これは他の選択肢が無く、死ぬまでの一生を【森】に捧げなければならないのだ。
既にセンは「王」見習いではなく、「王」そのものに実質上なってしまった事になる。
詰まる所、今後センは「セン」としての行動を行えなくなる。
「セン」としての行動はセンの為の行動であり、【森】の為ではない。
最悪の場合「セン」の行動によって【森】に害が及ぶ可能性がある。
その為、無闇矢鱈に「セン」として行動したのならば、契約の内容により害となると判断され、その場で死ぬ。
既にこれは、契約などではなく一種の呪いだ。
「センを縛り付けるには、十分な内容ですね」
『今回、センの願いが願いだったからな。拒否したくとも出来ない状況だった』
「今後、センが「王」になる事を拒否させない為の布石でもあるのでしょう。「王」を拒絶する事が森の害になる行動と判断されても可笑しくはないですから」
『こんな契約結ぶ程、俺にはあの女に価値があるとは到底思えないがな』
「『………』」
バルデトの言った通り、現段階ではナイトメアーの価値など無いに等しい。
そんな者の為に、センは一生を捧げるのだ。
ディガーもバルデトも、そして他のセン側の物からしても其処だけが煮え切らない部分だった。
この契約が結ぶ原因となったナイトメアーが消えれば破棄される。などと言うモノであれば、即座に皆が殺しに動くだろう。
セン側の物は是非ともセンに「王」になっては欲しいが、それは飽く迄センの意志によるモノ望んでいる。
強制でなったとしても、此方は此方で煮え切らない。
『………今更、言っても遅いだろう』
「そうですね。既に、賽は投げられました」
この騒動の善し悪しに関係無く、センと言う男が【森】の「王」に実質上なったのだ。
外であろうが、内であろうが、否応無しに動き出す。
それが全て裏目に出るか、それとも思いがけない当たりを出すか。
『全ては、センとこの女が握っていると言っても過言ではないな』
中心に立ってしまった少年と、その少年を動かした女。
『ケッ! 面白くねぇ話だ!』
「何処かの御伽噺の様な、少し夢のある内容なんですけど。此方としては、心臓に悪い話です」
『そうだな………この事は直ぐにでも森へ伝わる。そうなれば、『無法』の阿呆共は必ず動く。最悪の場合は溢れ者すらも動く。本当に、困った展開だ』
否セン側の物が動き出すには、十分な理由。
あわよくば殺す。そうでなくとも殺す。そんな危険思想の持ち主が一斉に動けば、【森】の内部で争いが起こるのは目に見えて明か。
「今後は、『無法』への牽制なども考えなければいけませんね。………まぁ、あの方が動けば全て丸く収まるんですが、無理でしょうし」
『あの方を可能性に入れるのは無意味だ。あれ程までに自由奔放は他に居ないだろう。それに、センに取ってあの方は天敵だろうしな。助力して貰おうとしたら、センがまず拒否するだろう』
『んじゃぁ、一先ずは俺等の内だけで様子見って事か』
「そう、ですね。下手に動くよりまず相手の出方を見ましょう。向こうも下手には動けないでしょうし、動くとしたら此方が動く時だけ。もしくは痺れを切らせてか、です」
此方から動けないのは痛手ではあるが、向こうもそれは同じ。
どんな大義名分で動くのか。それが問題であり、それになり得るのがナイトメアーと言う事である。
『………まぁ、こう言う言葉は使いたくはないが、成る様に成るだろう』
ディガーのその言葉に、何ともやるせない表情でラルが頷く。
『まぁ、向こうから動いてくれれば、俺等も大義名分で存分に暴れられるんだ。此所は我慢ってヤツだな』
『ほぉ、貴様もやっと我慢を覚えたか? 進歩だな。もしくは遅い進化だな』
『んあぁ!? どう言う意味だコラァ!!』
「さて、取りあえず、センと彼女を運びましょうか」
ディガーとバルデトのやり取りを気にせずに、さっさとセンを抱え上げる。
「どちらか彼女を運んで下さいね」
その言葉に心底嫌そうな表情を二頭が浮かべる。
『………バルデト。お前が運べ』
『嫌だ。もしくは嫌だ』
『どっちも同じだろうが………』
二頭はナイトメアーを見下ろす。
『………良し、アレで行こう』
『そうだな。アレしかねぇ』
「………私はどうやって運ばれた?」
色々と気になるワードは出たのだが、最初に気になってしまったのは此所まで運んだ方法が何か、だった。
「さぁ、私は見ていませんでしたから」
ニコニコと笑みを浮かべながら首を傾げる。
明らかに、この『エルフ』は知っているだろう。
思わず鎌を造り、首筋に刃先を当てそうになる。
「………まぁ、良い。それよりも、だ」
溜息を吐き、話を変える。
「契約の内容は解った。それと私の立ち位置もだ。だが、一番重要な所が抜けていないか?」
「はて、何でしょうか。一応は言いましたけど?」
「………今、お前が言った事も私が知りたかった事の一つだ。だが、それ以上に、いや、それを聞いたからこそ尚知りたくなった事がある」
ラルは変わらず笑みを浮かべている。
それがナイトメアーからしては不敵な笑みにしか見えない。
睨みに近い眼差しを向ける。
「………何故、センは私にそこまで?」
「? ………フフ、そうですか。それが一番知りたいのですか」
一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、直ぐに笑いがこみ上げた。
「それが一番重要なんだ。今の話を聞いた限りでも、自分で言いたくはないが私には利用価値は無い。それなのに、何故センは周りの反対を押し切り、契約と言う自分の首を絞める様なモノを受けたのか。私には、センに取って何か価値があるのか?」
疑い。とは少し違う。けれど切実な思いだ。
利用する為の行為なのか、それとも全く違う、センが何か思っての行為なのか。
【森】の為か、センの為か。
それによって、ナイトメアーの心境は大きく変わるだろう。
向こうが自分を利用しようとしているのか、どうなのか。
「………そうですね」
ラルは態とらしく間を置いた。
次の言葉を待つナイトメアーの表情は、今までのとは違う表情だった。
………随分、乙女な所もあるのですね。
思わずそう思ってしまった。
ナイトメアーの表情は、年相応のモノだった。
何かに締め付けられるかの様な、切なそうな表情。
多分、自分では気付いていない。
無意識に、彼女は願っている。
【森】の為ではなく、センの為に自分を求めたのだ、と。
その思いが、何処から来るのかは解らない。
だが、少なくともこの【森】では彼女に取って一番安心出来る場はセンの側なのだろう。
言い方が合っているかは解らないが、彼女もまた、センに惹かれているのだろう。
「………私には解りませんね」
「ぐっ………間を置いてそれか?」
「まぁ、本人に聞いた方が良いと思いますよ? 彼の気持ちが聞きたい訳なんですし」
そう言いながらラルは立ち上がる。
「………そう、だな」
歯切れ悪く答える。
その様子を見ながら、ラルは笑みを浮かべる。
「フフ、怖いのですか?」
「………何言っている。怖い訳ないだろう」
首を横に振りゆっくり立ちがある。
「さっさと行こう」
ナイトメアーはさっさと歩き出す。
後ろ姿を見ながらもラルの笑みは消えない。
「………無意識ですね。これは」
思わずそう零してしまう。
恋、とはまた違うのだろう。
でも矢張り、必要とされたいのは彼女の価値ではなく、彼女そのものなのだ。
どんな返答が待っているのか、言わばこれも分岐点だ。
「センも、罪作りな男ですね」
他人事の様に、まるで楽しむかの様に、歩き出す。
「………あ、そっちじゃなくてこっちですよ?」
恋ではないです。
それに似た、だけどまだ程遠い感情とでも言いましょうか。
やっとラブが書けそうな予感がします。
甘いのを書きたいのですがね。この作品ではセンとメアに求めるのは無理ですね。
代わりに他の人で書こうかな?
今回は少し自分で書いていても「中身がありそうで無い」と思ってしまった。
ぶっちゃけると同じ事書いてる様な気がする。
まぁ、メアは今回余りの不甲斐なさに苛つき、
ディガー達は一応様子見に落ち着き、
ラルはメアの心境に気付き、それを楽しみ、
センの考え、本心が見えない。
などと言う感じ。
因みに、契約の内容は甘い様に感じますが、結構エゲつないです。
今後話が進むにつれ、どんどんセン君が縛られていきます。
次は「メア、センとお話する」です。
戦闘なんて………。無いですよ。
それでは、それでは………。