The contract. If you want to stand up for the woman
お久しぶりで良いですか?
どうも、龍門です。
本当はもっと早く書き、投稿するつもりでした。
ですが、『森神樹』とのやり取りを何度も書き直して………。
まぁ、言い訳は後書きで。それでは。
【森】『北』付近
巨木が薙ぎ倒され、数メートル範囲内に草木が無く、地面が抉れている。
その真ん中。
白い、白い獣が一頭鎮座していた。
白い鬣。白い尻尾。蹄までも白い。
俯き、静かに、動かず。
白い獣の額には、1メートル強程の金色の角が一本生えている。
角は螺旋状に捻れ、暗闇の中でも輝いているかの様に見える。
白い獣は動かず、静かに俯いたまま、瞼を開けた。
現れた瞳も金色に輝いている。
『………久しい香りだ』
低い声。
白い獣はゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡す。
『『中央』、か………成る程。あの糞餓鬼が連れて来たのだな』
白い獣は歩き出す。
『糞餓鬼の好奇心は反吐が出る程嫌いだが、たまには良い事をするではないか』
白い獣は頭を振るう。
『………行こうとするか』
ゆっくりと歩き、白い獣は【森】深くへとその白い姿を消す。
そして、抉れた地面。
白い獣が鎮座していた場を中心に、螺旋状に抉れていた。
大量の血と肉片を残し。
【森】『中央』
「なっ………」
センは口を開き、阿呆な表情を浮かべていた。
『何を呆けている?』
「いや、ちょっと待てよ。俺はアンタと罵声飛び交う言い合いを想定して此所に来たんだが、何でこうもあっさりと」
センは眉間に指を当て、考える様に唸り出す。
先程まで、今にも殺り合いそうな雰囲気を醸し出していた筈なのだが、何故こうなったか。
理由としては、『森神樹』が言った言葉。
『認めよう』
と、結構簡単に言ってのけたのが原因。
ぶっちゃけると、呆気ない。
ナイトメアーの様子を見るからに、精神的攻撃、トラウマに鋭利な刃を突き刺した様なエグい方法を取ったに違いない。
それをしておいて、呆気なくナイトメアーを受け入れると言った。
メリットの無い爆弾の様な者を、『森神樹』が許可した。
その為、勘ぐってしまう。
何か、視たのではないか?と。
『森神樹』が有益と考える何かが、メアには有るのでは?
「………何を、視た?」
『汝は何時から他のモノの過去を知りたがる様になった?』
「………いや、教えてくれなくても良い。唯………その過去はアンタからしてはどんな感じだった?」
その問いに、遅れて『森神樹』が答える。
『―――醜悪』
「!?」
『一筋の希望も見えず、生きる意味を探す為に死ぬ。束縛から逃れても見続ける悪夢に自らの首を絞めて死ぬ。一言で言えば醜悪。他の言い方を探すのであれば―――歪』
物語の粗筋を説明するかの様に簡単に言ってのけた。
「………そう、か」
それ以外の言葉が見つからない。
『―――では、始めようか』
不意に、そして突然に『森神樹』は言った。
「何を?」
怪訝するかの様な目で尋ねる。
セン本人は、ナイトメアーを安全な所に連れて行きたいと言う気持ちがある。
それに、加護を受けられるのならばこれ以上の問答など不要だ。
『決まっているだろう。汝と我の―――契約だ』
「!!?」
契約。その言葉にセンは怒りを滲ませた表情で虚空を睨んだ。
「巫山戯るなよ………ッッ! 契約だと!?」
声を張り上げる。
『至極当然な流れだ。黒き女に加護を与える義理は何も無い。その者は厄災以外の何物でもない。それを受け入れるなら、対価を払うべきではないか?』
「………ッッ!!」
奥歯を噛み締める。
上手過ぎた。
『森神樹』が、そう簡単に利益にならない者に加護など与える筈がなかった。
何時爆発するか解らないモノを二つ返事で抱える程、優しい訳でもない。
だが、全て蹴って否定するのではなく、不利益なモノを抱える以上の利益を求めた。
それが、契約。
契約。この【森】では所謂呪いの様なモノだ。
結べば一生をその契約に縛られ終わる。
この【森】で契約を結んでいる物は少なからず居る。
先程の話でも出た、『見回り』がその一つだ。
『それ相応の対価。結ぶか否か―――選ばせてやろう』
選択はさせてやる。言い方はそうだが、実際に選ぶ権利は無いに等しい。
断れば、メアは此所で殺されるだろう。
しかもだ。既にセンは言ってしまっている。
「セン」として、と。
ディガーやバルデトの前で言った宣言。
もし此所で断れば、その言葉すらも嘘になる。
そうなってしまえば、信頼など消えて無くなる。
裏切る事など出来ない。
最初っから逃げ道など無い。
『森神樹』はそれを踏まえてこの様に言ったのだ。
飽く迄選ばせた、と。
お前が言ったのだから二言はないだろ、と。
「クソがッ………」
吐き捨てるその表情は怒りに染まり、彼の「少年」と言う部分を完全に消していた。
こう言う勝負でセンが『森神樹』に勝てた事は一度も無い。
センの意見が通る時は、『森神樹』が先を見通して折れる事が多い。
今回、強行に出てきた『森神樹』を納得させる程の説明は出来ない。
元より無理を言っているのはセンだ。
何かの条件を持ち出されるだけならば、覚悟の内だ。
だが、契約まで持ち出されるとは思って居なかった。
互いに縛りかねない諸刃の剣を。
『選べ』
一言言い放つ。
猶予など無い。
今此所で、直ぐさま選べ。
女の首を絞め殺すか?
自分を犠牲にして女を助けるか?
もしくは、第三の道でも見つけるか?
『選べ』
俯く。
必死に逃げ道を考える。
逃げ道など、言っていて格好悪いかもしれないが、そう易々と頷ける程に契約は甘くない。ましては、その内容が易々と予測出来るのだから。
『格好悪いぜ?』
不意に、声が響く。
「………バルデト」
声の方を向き、その獣の名を呼ぶ。
『セン。悩む必要があるなら其処の女など殺せ。その程度なら無意味だ』
もう一つ、違う声が響く。
「ディガー………」
ディガーはセンの横に立ちながら見上げる。
『元より何かしらの枷を嵌められる事は予測済みだ。例え、契約の内容がお前に対して限りなく不利であろうとも、此所で頷かなければ、あの女に道は無い』
バルデトもセンの横に立ち、虚空を見つめる。
『何の為の俺の説教だっつぅの。………無駄にすんなや』
センは二頭の言葉を聞き、拳を強く握る。
「………そうだな………そうだよ、ね」
「少年」が表に現れ、小さく笑みを作る。
「上等! 乗ってやるッ!!」
『フッ』
『んじゃ! 姿見せましょうか!』
ディガーが笑い、バルデトが叫ぶ。
その瞬間、バルデトの紅い眼から紅が消え、双眼共に白く塗り潰される。
白い双眼で虚空を睨み付けた時、目の前が歪む。
捻れる様に、割れる様に、潰される様に。
そして、まるで鏡が割れるかの様に目の前の景色が消え、現れる。
『―――汝と我との契約を始める』
巨木。
堂々と、一本の巨木。
威厳を醸しだし、その樹を見た者を威圧するその姿。
薄く発光し、鮮やかな緑を蓄え、その巨木は現れた。
『森神樹』
名に、【森】の神と付いた統べ、住まう物。
『―――異論は無いな?』
「無論」
『―――契約を交わす』
『ガランド大帝国』南西『ヴァジュラメイス』内
煉瓦で出来た建物が多く、大きな時計台が聳える比較的大きな街、
『ヴァジュラメイス』
商人達の多くが此所を通り、街は年中賑わっている。
出店の明かりが輝き、モダンチックな街をより一層引き立てる。
飴菓子を持った子供達が笑みを浮かべながら走り、出店の親爺が叫ぶ。
カップルの二人がお揃いの指輪を買い、頬を赤らめる。
大きなジョッキを持ち、高笑いする冒険家達。
街は盛大に、そしていつも通りに賑わっている。
そんな明かりに灯された表街の裏。
出店の明かりが届かず、暗い裏街。
酔いつぶれた男が酒瓶を抱き地面に寝転び。
野良犬がゴミ箱の生ゴミを漁り。
黒ずくめの男が家からゆっくりと出て何処かに走って行く。
暗い裏街。
その道の真ん中、ゴミ箱を荒らす野良犬を見ながら立ち止まる黒いローブを纏った人。
「グルゥゥゥゥゥゥ………」
野良犬はその目線に気付き、唸り威嚇する。
ローブの人はゆっくりと前を向く。
其処に複数の男達がやって来た。
皆それぞれ腰に剣などを下げ、いかにもな雰囲気を醸し出している。
その男達の集団の一人、真ん中を歩く男がローブの人に話しかける。
「ヴァジュラメイスの酒は?」
「………不味くて飲めたもんじゃない」
「んあぁ!?」
その返答に男は眉間に皺を寄せ、腰に下げていた剣の柄を握る。
「フフ、冗談ですので。ヴァジュラメイスの酒は大陸一の娯楽………でしょ?」
ローブの人はクスクスと笑う。
男は柄を握ったまま尋ねる。
「………随分若ぇな、しかも女か?」
「疑っているので?」
「いや………あぁ、そうだな。疑ってる」
そう男が言い、後ろに居る他の男達も剣なり槍なりを構えようとする。
「………では、これを」
ローブの女はゆっくりと右腕を前に出す。
一瞬男達は身構えたが、女の右手の人差し指で光る銀色の指輪を見て柄から手を離す。
「成る程な。スマンな、疑って」
男は頭を豪快に掻く。
「いえいえ、必然的ですので。疑わずにあれこれ言う様でしたのなら、この依頼は無かった事に致しまして、刺客を数名口封じの為に放っていた所でしたので」
さらりと背筋が凍る事を言ってのける。
「………まぁ、良いさ」
「では、今から簡潔に説明致しますので」
そう言いながら女は足下に置いてある小さな袋を持ち上げ、男に差し出す。
「これは?」
「支援品………と、でも言いましょうか、詰まる所差し上げると言う事ですので」
男は怪訝しながらもその袋を受け取り、開けて中身を覗き込む。
「………こりゃぁ」
目を見開き、小さく呟く。
男の後ろから他の男達が袋の中身を覗き込み、その中に入っている物を見て驚き小さな声で話し始める。
男は袋を覗いたまま尋ねる。
「ランクは?」
「Cです」
「上等なもんだな。しかも三つも………雇い主はそれ程俺等に期待してくれているのか?」
男は口角を吊り上げ、袋の中から入っている物を取り出す。
袋の中から現れたのは、黒い指輪。
宝石が黒いのではなく、指輪全体が黒く、宝石など嵌められていない。
「それ以上ランクを上げてしまいますと、足が付いてしまう危険性がありましたので」
女は少し申し訳なさそうに説明する。
が、男は指輪を眺めながら笑みを浮かべている。
「いやいや、十分上等なもんじゃねぇか」
「………その指輪の力は『器産』と言いまして、武器を産み出す『有限魔法』ですので。十二分に力を発揮して頂きたいと思いますので」
「成る程な。その期待に応えるとしようじゃねぇか」
男は指輪を袋に戻す。
『力の欠片』により機能した『有限魔法』はFからSに分けられる。
F、Eは一般的に出回る安い物。
D、Cは余り出回らず、能力的にも価値がある。
B、Aは国の所有物となり、勝手に扱う事、売る事を禁止し、破った者は処刑される。
Sはまず出回る事はなく、既に一種の宝具までと言われている。
このランク付けの基準は「破壊力」「扱い易さ」「稀少」で分けられている。
その為、ランクが上がれば上がる程、強く、使い安く、稀少価値があるのだ。
今男達が貰った『有限魔法』のランクはC。
十分に戦力と成る代物だ。
男達の浮かれようも頷ける。
「それでは、開始は一週間後ですので」
「了解だ。俺等を囲いたく成る程の成果を出してやるよ」
男は上機嫌に笑う。
「………楽しみにしておりますので」
「おうおう、しててくれや。さて、野郎共、今から呑み明かしに行こうじゃねぇか」
男は振り返り、男達に向かって言う。
男達はその言葉を待っていましたと拳を挙げる。
そしてゾロゾロと歩き出す。
ふと、男達は立ち止まり振り返る。
「おう、アンタもどうだ? ヴァジュラメイスの酒で宴会だ。参加するか?」
女はゆっくりと首を横に振る。
「素敵なお誘いなのですが、残念な事に私はお酒が飲めませんので」
「そうか、そうか。それじゃ、報告を期待しててくれ」
それだけ言って男は振り返らずに明るい表街に消える。
見えなくなるまで男を見続け、誰も居ないと確認すると女は呟いた。
「………あんな不味い酒、飲める訳ないので」
その瞬間、女は糸が切れたかの様にその場に倒れる。
「グルゥゥゥゥゥゥ………」
まだ居たのか、野良犬が倒れた女を睨みながら威嚇し続けている。
その時、女の右手人差し指に嵌っている銀色の指輪が突然割れる。
割れたのと同時に、女の右手が独りでに燃え出す。
「ガウッ! ガウッ!!」
野良犬はその火を見て吠え出す。
火は少しずつ大きく成って行き、倒れる女の体を完全に包み込む。
黒いローブは灰に変わり、女の皮膚が溶け、女の肉が露出する。
女の首筋には「0215」と謎の数字が刻まれている。
ふと、女の左手の人差し指が光る。
赤い、赤い火の中、黒い、黒い宝石すらも嵌められていない指輪。
同じ、同じ指輪。
あの男達に渡したのと同じ指輪が―――………。
はい。後書きと書いて言い訳と読む場です。
今回の『森神樹』とセンのやり取り。
最初はセンが臭い事を言ってOK貰う的な感じ。
次はナイトメアーは自分で自分の意見を言う感じ。
次はセンが『森神樹』との戦闘の末認めさせるな感じ。
………いやいや。
と、言う事で契約と言うある意味逃げを使いました。
まぁ、そのお陰でなんとか次へ行けると思いますね。
ナイトメアーをその場で直ぐに認めなかったのには、彼女の抱えている物全てが一気に書ける程薄くないからです。
ですので、あのナイトメアーが倒れる前のアレ何?的に思われると思いますが、片隅に………。
さて、言い訳は此所までに致しまして。
やっと動きましたね。はい。まぁ、微々たるものですが!!
もっと白い獣を書きたい。まぁ、既に何かは気付いていると思いますがね!!
次こそは早く投稿します!………と、思います。
それでは、それでは。