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King of the forest ~Improved version~  作者: 龍門 
【 森 】 ~ 邂逅 ~
10/21

Pride and self introduction




今回は2話連投。






「はぁぁああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああッッッ!!!!!!」

 『紅蓮騎士団』レイナードは叫び、短剣を振り下ろした。


 黒と緑のツートンカラーの短剣。

有限魔法リミテッド・マジック』と呼ばれる消耗品。


 その名の通り、『有限魔法』は持って一年程度しか使えない。

 『力の欠片アトゥレンクス・スポール』は力を有してはいるが、それは力を宿しているだけで、力を蓄える能力は無い。


 その為、使えば使う程宿っている力は消耗し、全てを使い切れば唯の物と化す。


 だが、レイナードは配分などそんな事は全く気にせずに短剣を振るい、風を起こす。


 少し語弊があった。

 気にしないのではない。気にする余裕が無いのだ。


 力を抜けば死ぬ。

 それは既に刻み込まれた。


 配分を考え戦うなど、この状況でそんな器用な事は到底不可能。

 自身の力不足と、相手との力量差。


 短剣を振るいながらレイナードは唇を噛んだ。


 苛立ち。恐怖。憤慨。嫉妬。悲哀。


 何故、何故、何故!!

「何故当たらないッッッ!!!!」


 思わず叫ぶ。

 振るう短剣。発せられる不可視の刃すら、目の前の敵、少年に掠りもしない。


 振り上げ、振り下ろし、突き、突き、突き、突く。


 だが、全ての攻撃は躱すか、『不確かな狼ゴースト・ウルフ』同様に黒い靄を纏消える。


 レイナードは確実に消耗していた。

 心身共に、そして手に握る『有限魔法』と共に。


 削られていく誇りプライド


 私は今、誰と戦っているのだ?

「貴様は………何者だあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁッッ!!?」


 名も知らない相手に圧倒され、剰え、手加減されている。

 屈辱。侮辱!!


「私を………舐めるなッッ!!!!!!」

 振るう速度が速まる。突く鋭さが増す。


 だが、

「………無意味」

 唯その一言。その一言で全てが霧散する。


 余りの力量差。

 一瞬。いや、確実にレイナードの脳裏に自身の死体が浮かぶ。


 勝ってしまう。怒りよりも、恐怖が勝ってしまう。


「………これで終わりか?」


「………なんだ………その言い方は………私は………お前を愉しませる………玩具では………ないッッッ!!!」

 叫ぶ。だが、疲れ果てた心身にはそれが精一杯だった。


 命乞い?

 まだ、私は死んでいない。


「………お前などに………私の終わりを決めさせてなるものかッッ!!!」


 その姿を見ながら、少年・センは目を少し見開いた。

 まだ途絶えないか、と。


 戦わずに制するには、圧倒的な戦力を見せるか相手の何かを奪う事に限る。

 センは切り札と言える物は既に切っている。


 その上で、態と攻撃をしないと言う相手の神経を逆撫でする様な行為に出た。

 狙いは相手の消耗そして自滅。


 だが、まだ途切れない。

 目の前で、憤怒を宿す瞳は消えていない。


 恐怖はまだ残っているだろう。

 プライドはズタズタにしただろう。


 それでも、まだ立つか。


「………惜しいなぁ」

 思わず、口調を戻してしまう。


 『王』ではなく、『少年』の口調に。


「??」

 この状況でも、レイナードにその違和感は伝わった。


 いきなり和らいだ雰囲気。突き刺す様に痛々しかった眼は消え去った。

 益々解らなくなる。


 私は、誰と戦っているのだ?


「少し、違うよなぁ」

 腕を組み、首を傾げながら考え込む。


「………何なんだ」

 思わずレイナードも口にしてしまう。


 拍子抜け、と言う訳ではないが。

 明らかに何かが抜けた。


「………よし、まずは自己紹介から始めようか?」


「………は?」


「いや、自己紹介」


「な、何を言って………」


 何なんだ?一体何が?

 思わず自問自答を始める。


 目の前に立つ少年は、先程まで私を殺そうとしていただろ?

 私も少年を殺そうとしていた筈だが?


 自己紹介?誰と誰が?


「此所は俺から名乗った方が良いのか?」

 センは首を傾げる。


 そう言う問題じゃない!

 思わずツッコんでしまった。


「ん~………そっちが名乗らないのに俺が名乗るのも不公平だよな。だから、次回かな」

 少年は笑みを浮かべた。


 純粋無垢な笑み。

 一瞬この場が戦場と言うのを忘れ、少し見とれてしまった。


 だが、直ぐにレイナードは少年の言葉の可笑しさに気付く。

「………次回だと?」

 眉を細めた。


「そっ! 次回」

 センは腰に手を当てながら辺りを見渡す。


 こうやって話している最中でも、狼と兵士の命の奪い合いは行われている。

 無防備のセンに向かって走って来る兵士も居るが、狼達に食い千切られ倒れ伏していく。


「後何分かすれば、此所に居る兵士は全滅する。これは絶対だ」

 センは先程までの雰囲気ではなく、少年の雰囲気で話を進める。


「…………………………」

 レイナードはその事について何も言わず、セン同様に周りを見渡す。


 そこで気付く。

 やっと気付く。


 狼達の殺気。

 牙は兵士達に剝いているが、殺気だけはレイナードに向いている。


『下手な事をすれば殺す』


 殺気は語っている。


 レイナードは自身の甘さに顔を歪めた。

 目先の敵に気を取られていた事。相手の力量を見抜けなかった事。


 そして、敵に恐怖してしまっている事。


 既に檻の中。

 狼の牙が外周を囲む檻。恐怖が支配する檻の中。


 この、目の前に立つ少年が狼達に「殺せ」と、一言命令すれば私の命など簡単に終わりを迎えるだろう。


 抜かっていた。

 何故、一対一にしてしまったのだと。


 全ては自身の「勝てる」「負けない」と言う、傲り。


「ぐぎゃぁああぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁあああッッッ!!!!」

 兵士がまた一人首を食い千切られた。


 奥歯を噛み締める。

 ゆっくりと周りの惨劇から視線を外し、センを見据える。


 目の前に立つセンは、真っ直ぐにレイナードを見つめている。

 レイナードは直視出来ず、俯く。


「………レイナード………だ」

 声を絞り出す。


「ん?」


「………私の名前だ………レイナード=アヒリア………お前の名は?」


 名乗る事は、場によって神聖な儀式だ。

 相手への礼儀。流儀。


 だが、この場に措いて名乗ると言う事は、センの言う「次回」を甘んじると言う事だ。


「俺の名前はセンだ」


 余りにも悔しすぎる。

 奪われるだけ奪われ、逃がされる・・・・・


 無力を絶対的な力量差で見せつけられ、感じさせられた。

 殺せる筈なのに、殺さずに………「次回」だと?


 沸々と、既に沸ききった筈の感情が湧き出る。

 それを必死に抑える。


 此所で、此所で晒してしまえば………一瞬で終わってしまう。


 それでもッ!!


 レイナードの口から、赤い血が流れ出る。


「………時として、その誇りプライドは未来を台無しにするよ?」

 レイナードの様子を見ながら、センはゆっくりと口を開いた。


「………黙れ………もう、私に話し掛けるなッ!!」

 怒鳴る。


 その瞬間、辺りが光に包まれた。


「!!?」

「なっ!?」


 センとレイナードは破裂したかの様な光に目を瞑る。


 その光の中、左目だけ瞑り右目を開けた状態でレイナードは立っていた。

 碧に光るその右目。


 その右目だけが光の中の世界を視ていた。


「…………………」

 だが、その様な状況でもレイナードは驚きもせず、目の前に立つ少年を睨む。


 この状況、視界が潰れたこの状況。

 今ならば………仕留められる。


 何がどうなり、光に満たされたかは解らない。

 けれども、そんな事はどうでも良い。


 今なら。今なら、殺せる。


 手に持つ短剣をセンに向ける。

「………………………」

 思わず、頬を吊り上げた。


 所詮は………子供。

 緊急事態に対応出来ない………子供。


 この任務は………完遂だ。


 レイナードが小さく口を開き、「貫け」と呟こうとした時、背筋に寒気が走る。

「!!?」


 唐突過ぎる、濃厚過ぎる―――殺気。


 片目だけ、碧色の瞳だけがその姿を焼き付ける。


 視えない筈だろ!?

 それなのに、何故、何故、何故!!


「何故ッ………貴様は私を視ているッ」

 レイナードは忌々しそうに吐き捨てた。


 目の前に立つ者、即ちセンは視えない筈の光に包まれた世界で、目を閉じながらレイナードを視ていた。


 レイナードの居る方向を見ていただけなのか、確実に捕らえているのかは解らない。

 だが、レイナードはその後者だと感じ取っていた。


 この殺気は………確実な物だと。


 突き出していた短剣をゆっくりと下げる。

 先程まで沸きかけていた感情は、余りにも唐突に熱が引く。


 それと同時に、じわりじわりと背筋の汗が引いていく。


「………仕留める事は不可能、か」

 甘過ぎた。


 レイナードは直ぐさま思考を切り換えた。

「撤退ッッ!!」

 声を張り上げ、走り出す。


 この声を聞き、何人逃げ延びる事が出来るか。

 もしかしたら、全滅しているかもしれない。


「フロア!!」

 蹲っていた部下である『紅蓮騎士団』の少女に駆け寄り、腕を持ち立たせる。


「す、すいません………」

 光で視えない為、目を閉じながら頭を下げた。


「謝るのは後だ。今は………」

 言葉を詰まらせる。


 この後に言う言葉に躊躇しているのだ。

 言葉が………「逃げる」と言う言葉が。


『………時として、その誇りプライドは未来を台無しにするよ?』


「つッ………逃げるぞッ!!」


「は、はいッ」


 フロアの腕を自分の肩に回し、駆け出す。

 逃げ延びる可能性は在るのか。


 考えてもみるが、そんな事よりも思考を支配するのは怒りと少年の対策だった。

 この状況で考える事では無かった。だが、考えずにいられなかった。


「この私に………「逃げ」を行わせたのだ………次は………抜からない」


 今この時、名前を聞いて良かったとレイナードは思っていた。


「………私の誇りは………安くはないぞ」


 強敵が現れ、興奮するなどと言う戦闘狂ではない。

 負け、次に生かそうなど戦う前に考える者など居ない。


 「勝てる」そう胸に刻んでいるのだ。


 だが実際は勝てず、任務も失敗。


 城に帰り、どんな小言を言われるか。どんな罰が執行されるか。

 頭に浮かぶその様な考えは、直ぐさま消え浮かぶのは矢張りセンと名乗ったあの少年の事だけ。


 どれ程感情に嘘を言おうと、矢張り―――惨めだ。













レイナードの眼。


ハッキリ言います!予想外です!!


やっちまった………。


この小説は視点が結構変わるって言うか、心理描写がいきなり変わるので結構読みづらい。


書いた本人がそう思う。


次回はまぁ、説明的な回です。




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