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灰色の空を泳ぐ龍(ドラグーン)〜追放された落ちこぼれ調教術師、前世の「心理学」で伝説の霊獣を懐かせる〜

作者: 佐新
掲載日:2026/02/26

第1章:終わりの始まりと、泥の味

その日、俺の人生はあっけなく詰んだ。


「アルス・クライネル。貴様を本日をもって、聖竜騎士団から除名する。竜も操れぬ『調教術師テイマー』など、この国には不要だ」


騎士団長の声が、冷たい石造りの謁見の間に響く。

隣では、かつての親友が勝ち誇ったような顔で、俺の婚約者だった女の腰を引き寄せていた。


あぁ、なるほど。

これが巷で流行りの「追放」ってやつか。

前世の記憶がある俺からすれば、あまりにベタな展開に笑いすら込み上げてくる。


……いや、笑えない。

腹の底に溜まっているのは、どろどろとした黒い感情だ。

「無能」と呼ばれ、石を投げられ、信じていたものに裏切られる。

前世、日本の安アパートで孤独に死んでいったあの時と同じ、鼻をつく「絶望」の匂いがした。


俺は、王都を追い出された。

持たされたのは、ボロボロの杖一本と、数日分の干し肉だけ。

馬車に揺られる金もなく、俺は雨の降る泥道をトボトボと歩いていた。


「……腹、減ったな」


独り言が、冷たい雨に消える。

この世界に転生して20年。俺は必死に生きてきたつもりだった。

前世で学んだ「行動心理学」や「動物行動学」の知識を、魔物を操る『調教術』に応用しようとした。

だが、この世界の常識は「魔力による力ずくの支配」だ。

魔力が平均以下の俺が提唱する「信頼関係」なんて、騎士たちにとってはただの綺麗事に過ぎなかった。


足がもつれ、俺は派手に泥の中に突っ伏した。

口の中に、鉄の味と土の味が広がる。


(ああ、またか。また俺は、何者にもなれずに終わるのか?)


視界が霞む。

雨脚が強まり、体温が奪われていく。

意識が遠のく中、俺は見てしまった。


崖下の深い深い淵。

そこには、この世のものとは思えないほど美しい、「灰色の鱗」を持った巨大な生き物が横たわっていた。


それは、伝説に謳われる『古龍』。

しかし、その翼は無惨に引き裂かれ、腹部には漆黒の呪いがこびりついている。

死にかけていた。

世界最強の生物が、俺と同じように、孤独に終わりを迎えようとしていた。


「……おい、お前もかよ」


俺は、吸い寄せられるように崖を降りた。

死ぬのが怖くないわけじゃない。ただ、その龍の瞳に宿る「諦念」が、鏡を見ているようで耐えられなかったんだ。


龍の黄金の瞳が、ゆっくりと俺を捉える。

それだけで、心臓が握りつぶされそうなプレッシャー。

だが、俺は逃げなかった。


「なぁ、死ぬ前に一つだけ試させてくれ。……『支配』じゃない。あんたの痛みを、俺に分けさせてくれないか?」


俺は震える手を伸ばし、その冷たい鱗に触れた。

その瞬間、俺の頭の中に、膨大な「悲しみ」と「怒り」、そして「孤独」が流れ込んできた。


第2部:黄金の瞳と、共鳴する孤独

龍の鱗は、想像を絶するほど冷たかった。

永久凍土に触れたかのような冷気が、指先から骨まで突き抜ける。


「……ッ!」


龍が、その巨大なこうべをわずかに持ち上げた。

ただの動作だ。だが、それだけで空気が凍りつく。

捕食者が被食者を見る目。それも、羽虫を見るような無関心な殺意。

黄金の瞳の中に、俺の惨めな姿が映り込んでいる。


(怖いか? ……ああ、怖いさ。死ぬほどな)


だが、不思議と足は震えなかった。

前世で、末期の癌に侵され、白い天井を見つめながら一人で死を待っていたあの時間に比べれば。

「何も成し遂げられない自分」を突きつけられる、あの精神的自殺に比べれば。

この圧倒的な「生」の暴力に晒されている方が、よっぽど心が震えていた。


「グルルル……」


喉を鳴らす地響き。

それは警告だった。近寄るな、さもなくば噛み砕く。

だが、俺は前世の知識――『動物行動学』の核心を思い出す。

強大な野生動物ほど、傷ついた時は「弱み」を見せまいと過剰に攻撃的になるものだ。


「いいよ、怒って。……でもさ、そのお腹の傷。相当キツいだろ?」


俺は視線を逸らさず、だが敵意がないことを示すように両手を広げた。

龍の腹部。そこには漆黒の痣のような「呪い」が脈打っている。

それは魔力を吸い取り、肉体を腐らせる『魔食の呪印』だ。

この世界の騎士たちが「調教」と称して行う、魔力による暴力的な服従の成れの果て。


「あんたを縛っていた奴らがやったんだな。……ごめんな。人間が、こんなクソな真似をして」


龍の瞳が、一瞬だけ揺れた。

知性がある。それも、人間を遥かに凌駕するほどの。


「俺は、あんたを支配しに来たんじゃない。……俺も、捨てられたんだ。同じだろ?」


俺は泥にまみれた膝をつき、龍の目の前で杖を置いた。

武器を捨てる。それはこの世界では「死」を意味する。

だが、心理学において『自己開示』は信頼を築く第一歩だ。

自分の弱さを晒すことで、相手の警戒心を解く。


「俺に、その呪いを分けてくれ。全部は無理かもしれない。でも、あんたが立ち上がるくらいには、軽くできる」


龍の口が開き、鋭い牙が露わになる。

食われる、と思った。

だが、龍が選んだのは「拒絶」ではなく「試行」だった。


ゴォッ、と。

龍の鼻孔から熱い吐息が吹きかかり、俺の体を吹き飛ばさんばかりの風圧が襲う。

同時に、俺の手のひらを通じて、ドロリとした「毒」が流れ込んできた。


「が、あ、あああああッ!!!」


熱い。熱湯を血管に流し込まれたような激痛。

これが『魔食の呪印』の正体か。

龍は、何十年もこの苦痛に耐えていたというのか。


俺は歯を食いしばり、魔力を練った。

前世で学んだ『認知療法』の応用。

苦痛を「敵」と見なさず、自分の体の一部として「受け入れる」。

痛みを記号化し、意識の隅へ追いやる。

俺の少ない魔力では、呪いを消すことはできない。

だが、**「俺の体という別の器に、呪いを分散させること」**ならできる。


「……ふぅ、ふぅ……。どうだ、少しは……マシになったか?」


視界が赤く染まる。鼻から血が垂れた。

だが、龍の表情が変わっていた。

険のあった黄金の瞳が、驚きに。そして、深い「興味」へと。


『……奇妙な、子だ』


直接、脳に響く声。

性別も年齢も超越した、古の調べのような響き。


『我の呪いを、自ら望んで引き受けるとは。……人間よ。名は、何という』


「……アルス。アルス・クライネルだ」


『アルスか。……お前の魂は、この世界の者とは違う色がする。泥にまみれながら、空を見上げているような、歪な色だ』


龍がゆっくりと、その大きな頭を俺の胸元に寄せた。

それは服従でも支配でもない。

孤独な魂同士が、冷たい雨の中で寄り添うための儀式だった。


『面白い。その矮小な命が尽きるまで、見守ってやろう。……我はシルフィード。かつて空を統べ、人に裏切られた龍だ』


その瞬間、俺の右手の甲に、灰色の鱗のような紋章が浮かび上がった。

契約。

だが、それは主従の契約ではない。

「共犯者」の契約だった。


第3部:泥を噛み、空を仰ぐ

龍と契約したからといって、翌朝起きたら最強の英雄になっていた……なんてことはなかった。


「……っ、がはっ!」


俺は、洞窟の湿った地面に這いつくばっていた。

全身の毛穴から針を刺されたような激痛。

右手の甲に刻まれた『灰色の紋章』が、ドクドクと脈打っている。


『案ずるな。ただの魔力酔いだ。我の魔力はお前の器に対して、あまりに重すぎる』


シルフィードが、大きな翼を畳んで俺を見下ろしている。

その声は脳に直接響くが、どこか楽しげだ。


「……ハァ、ハァ……。重すぎる、なんてレベルじゃない……。鉛を飲み込んだみたいだ……」


俺の魔力容量キャパは、バケツ一杯分くらい。

対して、シルフィードの魔力は大海原だ。

蛇口を全開にしただけで、俺のバケツは一瞬で弾け飛んでしまう。


前世で学んだ『漸進的筋弛緩法』を魔法に応用してみる。

一気に魔力を流すのではなく、毛細血管一本一本に「馴染ませる」イメージ。

少しずつ、少しずつ、熱を逃がしていく。


「……ふぅ。……よし、少し落ち着いた」


俺は震える足で立ち上がり、焚き火に吊るした鍋の中身をかき混ぜた。

中身は、そこらで採った薬草と、シルフィードが仕留めてきた森のウサギの肉だ。


「……食うか? 味付けは薄いけど」


『我に食事は不要だ。大気中の魔力があれば十分……と言いたいところだが。その、"出汁"というやつの匂いは悪くないな』


巨大な龍が、鼻先を鍋に近づける。

その光景は、客観的に見ればシュール極まりない。

だが、この数日間、俺はこの超越者と対等に言葉を交わしてきた。


騎士団にいた頃は、竜は「乗り物」か「兵器」だった。

誰も竜の目を見ようとはしなかったし、意思があるなんて考えもしなかった。

でも、シルフィードは違う。

彼女は俺の「孤独」を知り、俺は彼女の「誇り」を知った。


「シルフィード。俺に、あんたの力を貸してくれ。……いや、違うな。あんたの力を扱えるだけの『技術』を教えてくれ」


俺はスープを飲み干し、真っ直ぐに彼女を見据えた。

復讐したいわけじゃない。

ただ、俺を「無能」と決めつけた奴らに、俺のやり方が間違っていなかったことを証明したい。

そして、この広い世界を、今度は自分の足で歩いてみたい。


『……よかろう。だが、我の修練は厳しいぞ。死んでも恨むなよ、アルス』


そこから始まったのは、地獄のような日々だった。

魔力制御の訓練。

シルフィードの圧倒的な圧力を浴びながら、一滴の魔力も漏らさずに精密な魔法を展開する。


「……『土壁アース・ウォール』!」


俺が叫ぶと、目の前の地面が盛り上がる。

以前なら、せいぜい膝丈の脆い壁だった。

だが今は、シルフィードの魔力を「触媒」にすることで、鋼鉄よりも硬い、巨大な防壁がそびえ立つ。


『甘い。構造が雑だ。そんなものでは、我の吐息ブレスはおろか、下級の飛竜の爪すら防げんぞ』


ドォォォン!


シルフィードの尾が一振りされるだけで、俺の壁は粉々に砕け散る。

飛散する土塊が頬を切り、血が流れる。


「……くそ、もう一回だ!」


俺は立ち上がる。

何度も。何度も。

前世の俺は、ここで諦めていた。

「才能がないから」「環境が悪いから」と言い訳を探して、逃げていた。


でも、今は違う。

隣には、俺を信じて(あるいは面白がって)見守ってくれる相棒がいる。

そして俺の手には、かつて蔑まれた「心理学」と「対話」で得た、世界で唯一の絆がある。


「見てろよ……。俺は、泥の中でも、空を泳げるようになるんだ」


一ヶ月が過ぎた頃。

俺の体つきは見違えるほど引き締まり、魔力の扱いは騎士団のトップクラスをも凌ぐ精密さを手に入れていた。


そして、ある朝。

洞窟の外から、不穏な「羽音」が聞こえてきた。

それは、俺を追放した『聖竜騎士団』が使う、軍用竜の羽音だった。


第4部:再会と蹂躙

羽音が空を切り裂く。

洞窟の入り口に降り立ったのは、三騎の飛竜ワイバーンだった。

その背に乗っているのは、見覚えのある白銀の甲冑。


「……いたぞ。こんな僻地の穴ぐらに、泥ネズミが潜んでいたとはな」


飛竜から飛び降りた男が、蔑むような笑みを浮かべる。

かつての親友、そして俺を追放した急先鋒――カイルだ。

その後ろには、かつての婚約者、リニアも控えている。


「アルス、みっともないわ。こんなところで野垂れ死ぬのを待っているなんて」


リニアの瞳には、哀れみすら浮かんでいない。ただの「不要品」を見る目だ。

俺は焚き火のそばに座ったまま、静かにスープを啜った。


「……何の用だ。わざわざ王都から、ゴミ掃除にでも来たのか?」


「はっ、相変わらず口だけは達者だな! 王命だ。この付近で『強力な魔力反応』が観測された。伝説の古龍が目撃されたという噂もある。無能な貴様が餌食になる前に、我ら聖竜騎士団が保護……いや、駆除しに来てやったんだよ」


カイルが剣を抜き、俺の首筋に突きつける。

彼の操る飛竜が、威嚇するように喉を鳴らした。


(……保護、か。本当は、手負いの古龍を仕留めて手柄にしたいだけだろうに)


俺は、背後に潜む「影」に目をやる。

洞窟の奥、暗闇の中に鎮座するシルフィード。

彼女は俺の合図を待っている。

俺は前世の知識――『ポーカーフェイス』を維持しながら、カイルの目を見つめ返した。


「カイル。……その飛竜、泣いてるぞ」


「……あ? 何を言ってやがる」


「無理やり魔力を流し込んで、恐怖で縛り付けている。……そんなやり方じゃ、いざという時に背中を預けられないぞ。心理学的に言えば、それは『負の強化』だ。いつか、反動が来る」


「黙れ! 落ちこぼれの説教など、ヘドが出るわ!」


カイルが苛立ち、剣を振り上げる。

その瞬間、俺は指をパチンと鳴らした。


「……シルフィード。少しだけ、風を通してくれ」


ゴォォォォォォン!!


洞窟の奥から、文字通り「格」の違う咆哮が放たれた。

物理的な衝撃波が、カイルたちを吹き飛ばす。

飛竜たちは悲鳴を上げ、あるじの命令を無視して地面に伏した。

本能的な恐怖。食物連鎖の頂点に君臨する者への、絶対的な服従だ。


『……騒がしいな。アルス、この羽虫共を食い散らかしてもよいか?』


暗闇から、巨大な、あまりに巨大な灰色の影が這い出してきた。

太陽の光を浴びて、鈍く光る鱗。

カイルたちの乗る飛竜が「トカゲ」に見えるほど、圧倒的な存在感。


「こ、古龍……!? なぜ、こんなところに……!?」


カイルの顔から血の気が引く。

リニアは腰を抜かし、泥の中に尻もちをついた。

彼女の綺麗なドレスが汚れていくが、それを気にする余裕さえないらしい。


「アルス、離れろ! そいつは……そいつは厄災だ! 貴様のような無能が隣にいていい存在じゃない!」


カイルが震える手で魔法を放とうとする。

だが、遅い。

俺は一歩踏み出し、カイルの鼻先に手のひらを向けた。


「『重圧プレッシャー』」


シルフィードから供給される膨大な魔力を、一点に集中させる。

重力魔法ではない。魔力密度の差を利用した、ただの「威圧」だ。

だが、カイルにとっては、頭上に山が落ちてきたような感覚だろう。


「が、はっ……!? あ、あああ……」


カイルは地面に叩きつけられ、泥を噛んだ。

かつて俺が味わった、あの味だ。


「カイル。君たちのやり方は『支配』だ。でも、俺のやり方は『共生』だ。……どちらが強いか、もう分かっただろう?」


俺は冷たく言い放ち、シルフィードの首筋に飛び乗った。

彼女が優しく翼を広げると、周囲の木々がなぎ倒されるほどの風が巻き起こる。


「……リニア。君が選んだ『強い男』は、今、俺の足元で這いつくばっているぞ」


リニアは何も答えられず、ただガタガタと震えていた。

かつて俺を捨てた彼女に、もはや怒りすら湧かない。

ただの、哀れな通行人にしか見えなかった。


『行くぞ、アルス。こんな狭い場所は、我らには似合わぬ』


「ああ。……空へ行こう、シルフィード」


巨大な翼が一振りされる。

俺たちは重力を置き去りにして、一気に雲の上へと舞い上がった。


眼下に広がるのは、見渡す限りの緑と、遠くに霞む王都の街並み。

前世では決して見ることのできなかった、本物の「自由」がそこにあった。


第5部:灰色の空を泳ぐ龍

風が、鼓膜を激しく叩く。

高度数千メートル。肺に流れ込む空気は薄く、凍えるほど冷たい。

だが、俺の体は不思議と温かかった。

右手の紋章を通じて、シルフィードの膨大な魔力が血の巡りを加速させ、極限の環境から俺を守っている。


「……すごいな。本当に、空を飛んでる」


俺は、龍の首筋にある硬い鱗をしっかりと掴み、眼下の世界を見下ろした。

王都はもう、親指の先ほどの大きさにしか見えない。

あそこで俺を「無能」と呼び、笑っていた連中。

あそこで「何者かにならなきゃ」と焦っていた、前世の俺。

すべてが、ちっぽけな砂粒のように思えた。


『アルス。満足か? あの羽虫どもを、もっと徹底的に踏みつぶすこともできたのだぞ』


シルフィードが、念話で茶化すように問いかけてくる。

彼女の背中は広く、まるで一つの島に乗っているような安心感があった。


「いいよ。あいつらには、一生『得体の知れない恐怖』を植え付けただけで十分だ。……復讐に時間を使うより、俺は、あんたと見たい景色がある」


俺がそう言うと、シルフィードは満足げに喉を鳴らした。

彼女もまた、人間に裏切られ、孤独に死を待っていた存在。

俺たちは互いに、欠けた魂のピースを埋め合うようにして、今ここにいる。


数時間後。

俺たちは、王都から遠く離れた、未踏の「大樹海」の奥深くに降り立った。

そこには、人間が足を踏み入れることを拒むような、原始の魔力が満ちている。


「ここなら、誰にも邪魔されずに修行ができるな」


俺はシルフィードの背から飛び降り、ふかふかの苔の上に立った。

手元には、騎士団から持ち出したボロボロの杖。

だが、今の俺には、それだけで十分だった。


「シルフィード。俺、決めたよ」


『ほう? 何をだ』


「俺は、世界一の『調教術師テイマー』になる。……でも、力でねじ伏せるんじゃない。前世の知識と、あんたと築いたこのやり方で、魔物と人間が対等に笑える場所を作るんだ」


笑われるかもしれない。

綺麗事だと切り捨てられるかもしれない。

でも、前世で「何もなさずに死んだ」俺が、この世界で初めて見つけた、心の底からやりたいことだった。


『……ククッ、面白い。矮小な人間が抱くには、あまりに壮大な夢だな。だが、我の契約者ならば、それくらいでなくては困る』


シルフィードが翼を広げ、空に向かって雄叫びを上げた。

その咆哮は、新しい時代の幕開けを告げる鐘の音のように、森の奥深くまで響き渡った。


それから、数年の月日が流れた。


大陸の各地で、奇妙な噂が流れ始める。

「灰色の龍に乗り、傷ついた魔物を癒して回る青年がいる」と。

彼は決して剣を抜かず、ただ言葉と、不思議な「心の術(心理学)」で、狂暴な魔物たちを鎮めてしまうという。


かつて彼を追放した聖竜騎士団は、没落の一途を辿っていた。

恐怖で支配された竜たちは次々と逃げ出し、彼らが信奉した「力」は、一人の「無能」が築いた「信頼」の前に、脆くも崩れ去ったのだ。


俺は今日も、シルフィードと共に空を飛んでいる。

目的地はない。

風の向くまま、助けを求める声が聞こえる場所へ。


「……なあ、シルフィード。俺、今、最高に生きてるって感じがするよ」


『左様か。……ならば、その命、存分に燃やすが良い。我も、最後まで付き合ってやろう』


雲を突き抜け、太陽の光が俺たちを照らす。

灰色の鱗が白銀に輝き、俺たちの影が、広大な大地に刻まれていく。


俺の名は、アルス・クライネル。

かつて泥を舐め、一度は人生を諦めた男。

だが今は、世界で唯一、**「龍と共に空を泳ぐ」**物語の主人公だ。


一度人生に失敗した人間が、泥を舐めてからもう一度立ち上がる。そんなアルスの姿に少しでもワクワクしていただけたなら、作者としてこれほど嬉しいことはありません。

もし、よろしければブックマークと下の星を★★★★★にしてくださると執筆の励みになります!

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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