第9話 キャー獣に襲われる♡
(あー、なんか生き物いたー。鳥か? 逆行でよく見えないけど、大きい鳥でもないような……。異世界だからドラゴンとかもいそうだけど、アレは多分、ただの小鳥だね。こっちに来そうだけど、野生動物だから人の気配がしたら逃げてくでしょ)
そう思ったサラは、風が気持ちいいなー、とか呑気に思いながら、そのままボーッと空を見上げて寝ころんでいた。
だが。
「ふへっ?」
サラの口からは変な声が漏れた。
空から降ってくる黒い影は軌道を変えることなく真っ直ぐに、サラを目指して飛んでくるように見えたからだ。
(ちょっ、待って、待って。直撃? いやいや直撃は小鳥でもマズイでしょ。このままだと、わたしヤバくない?)
慌てて起き上がろうとワタワタしていると、急に速度を上げた黒い影がボテッとサラの顔に落ちてきた。
「わわっ、なに⁉ なに⁉」
「ぴぎゃーっ!!!」
影は大きな奇声を上げると、バタバタと翼でサラを叩きながら爪を立てて顔の上で踊った。
「いたっ! 痛いって! え⁉ なに⁉ わたし小鳥に襲われてる⁉」
「ぴぎゃーっ!」
わっさわっさした翼でサラの頬を叩いたり、衝撃で抜けた羽根が盛大に舞い踊ったりと大騒ぎである。
小さなクチバシで突かれたり、小さな舌で舐められたりしているような気がするが、女神の加護があるせいかサラは特に危険を感じてはいなかった。
(でも痛いし、鬱陶しいっ! それに何だか、わたしで遊んでいる気がするっ)
「こらっ! 悪い子っ!」
怒鳴ってみたが、小鳥が逃げていく様子はない。
「悪い子は捕まえちゃうぞっ」
サラは暴れる小鳥に向かって小さな手を伸ばした。
だが小鳥は逃げもしないし、暴れることも止めなかった。
手のひらに温かな羽根がパシパシと当たる感触が面白い。
「マジ捕まえるっ!」
顔の上で白い羽と白い粉を舞い上がらせながら暴れる小鳥の翼を左右からガシッと掴んで、サラはなんとか小鳥を捕まえた。
「ぴぎゃーっ!」
小鳥は抗議の声を上げているが気にしない。
サラは小鳥を自分の顔の正面に持ってくると、改めてまじまじと小鳥の顔を見た。
白い小鳥は黄みがかった冠羽とオレンジ色の丸い頬っぺたを持っている。
(暴れん坊だけど可愛いな? 可愛いけど、ちょっとムカつく)
ひっつかまれた小鳥は、サラの手を逃れようと身悶えている。
弱々しくすぐに潰れてしまいそうなのに思いのほか力強く動く小さな体を抑えながら、サラは小鳥をジッと見つめて言う。
「ん? 君はオカメインコかな?」
「ぴぎゃーっ!」
小鳥は不満げに声を上げた。
自分からサラへとまった癖に、捕まえられて不満のようだ。
黄色の冠羽を立ち上げ、黒い目を三角にして怒っている。
「『ぴぎゃーっ!』じゃないっ。顔をペシペシと翼で叩いたり、爪で引っかいたりしたら痛いでしょ⁉ 悪い子っ!」
「ぴぎゃーっ!」
ジッと目を覗き込んでいると、抗議の声は上げ続けているが目を逸らすように顔を傾け、立ち上げた冠羽を迷いながらおろしたり上げたりしている。
サラは小鳥がクチバシも迷うように大きく開けたり、ちょっと閉じたりしているのを見ながら、(あ、ちょっと可愛いかも。この子、飼っちゃおうかな)などと呑気に思った。
そんなサラの横で声が響く。
『あー、その子は小鳥タイプの聖獣だね』
「そうなんだ、聖獣……」
さすが異世界っ! とサラは思ったところでハッとなる。
(話しかけてきたのは、誰っ⁉)
慌てて顔を横に向けると、真っ黒な獣がサラを覗き込んでいた。
「ひっ!」
(豹⁉ 黒豹⁉ こんなん居るの異世界⁉ てかさっき喋ったよねっ⁉)
サラは小さく悲鳴を上げると両手のなかに小鳥を捕まえたまま、ジリジリとお尻で歩くようにして後ろへと下がった。




