第8話 聞いてた話と違うな?
サラちゃん登場!!!
そんな気分で張り切って白いキラキラを通り抜けたサラは、足元をグラつかせて転び、ペチャンと平らに潰れた。
自分の体の下から、潰れた草の感触と匂い、あと湿った土を感じる。
どう考えても、ここは外だ。
(え? なぜ? わたしは神殿へ召喚されたのでは?)
サラは違和感を感じて顔を上げた。
「え? ここは……どこ?」
ポカンとした表情を浮かべたサラは、キョロキョロと辺りを見回した。
白くキラキラした光を潜り抜けた先は、神殿ではなかった。
視界の先に広がっているのは、だだっ広い草原。
その真ん中に転がり出たサラを、待っている人もいない。
「あれ? 聞いてた話と違う……」
サラはボソボソと呟き、戸惑いながらもヨイショヨイショと立ち上がった。
白いドレスのようなワンピースの膝をポンポンと叩いたが、別に汚れているわけでもないので生地がサラサラと風になびいただけだ。
加護や寵愛など女神から様々なモノをもらったサラは怪我などはしていないし、服はもちろん体も汚れてはいない。
「この防汚技術があったら、前世の世界で一財産作れたのでは?」
サラがちょっとだけそう思ったのも無理はない。
女神がくれた白いドレスはサラが地面にコケたにも関わらず破れてもいないし、汚れもなければシワもない。
問題は、場所である。
草原だ。
見渡す限りの草原だ。
草生える~、と笑っている場合ではない。
「誰もないし……」
転生したばかりの異世界人、見た目は3歳児が草原に1人ポツンと立っているのである。
問題大ありだ。
全く知識のない異世界で、大自然の真ん中に放り出されてしまったのだから。
「えっと……どうしよう?」
サラは首を傾げながら、頬をポリポリと掻きながら辺りを見回した。
このパターンは想定外だ。
誰かに事情を聞こうと思っても、周囲には草原が広がっているだけで民家は見当たらない。
草原の周囲は木で囲まれている。
森の中にある草原のようだ。
「そっかぁ……歓迎してくれる人たち……いないかぁ……」
(女神さまの話だと、神官や王族に囲まれて大歓迎されるから引かないでね、って感じだったけど……)
実際のサラは大草原にぼっちである。
「何だコレ……」
サラは空を見上げた。
そこには青い空が大きく広がっている。
視線を下ろしてキョロキョロと改めて四方を見てみたが、人影どころか動物の影もない。
「とりあえず危険はなさそうだけど」
拍子抜けである。
「なんか……ふわぁぁぁぁ」
サラは大きく溜息を吐きながら脱力し、大の字になって草原に寝転がった。
視界には空しか映っていない。
「ん。わたしらしいといえば、わたしらしいけど……ちょっと期待しちゃって、バカみたい。女神さまは一生懸命はげましてくれたけど……まぁ現実なんてこんなもんよ」
風が背の高い草を揺らしながら、そよそよと吹き抜けていく。
(草が長く伸びているのか、わたしがチビちゃいだけなのか。そこは審議~)
サラは1人ぼっちだが、この場所は心地よい。
(異世界が良い場所なのか、女神さまがくれた加護とか色々が凄すぎるからなのかは分からないけど。気持ちよく過ごせるならいっかー。無限収納庫にご飯も入っているし、生活魔法も使えるから生きていくのには困らない。細かいことは気にするのやーめた)
遠くのほうで鳥の鳴き声が聞こえた。
命の気配が全くないというわけでもなさそうだ。
「山はかなり遠いし……森からも距離がある。この辺で食べ物を探すのは難しそうだなぁ。無限収納庫に食べ物が入っているのは心強いね。あとはテントとか、雨露のしのげる何かが入っていないか確認しなきゃ。生活魔法が使えても、住むところは必要だもん」
寝ころんで空を見上げて、サラはこれからのことを考えていた。
「太陽は1個。地球と一緒だね。眩しいのも一緒だぁ。あとは……獣に狙われないといいけど」
そう呟いた瞬間。
サラは日差しの眩しさに細めた目で、自分を目指して降りてくる黒い影をとらえた。




