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第60話 お前の養女になる前に言っておきたいことがある

 イザベルとミハイルの結婚が正式に決まった。

 同じ日に国王は引退し、ミハイルが国王となる。


 花咲く庭で、暖かな日差しのもと。

 サラはお菓子を食べお茶を飲みながら、今後の予定を頷きながら聞いていた。


 魔獣に荒らされた庭は城への滞在が長引くのを知ったとき、聖獣たちが自分たち好みに再生してしまった。

 だから大きな白いパラソルと綺麗なガーデンテーブルが設置されている庭は、城にあるわりにはデザインが少々ワイルドだ。


「結婚式と戴冠式が同じ日なんだ」

「そうだ。父から私に国王が代わる」


 ミハイルが胸を張って報告する。

 サラは眉をひそめた。


「私は父上のような国王にはならない。しっかりと民を守る立派な国王を目指すよ」

「頼もしいですわ、ミハイルさま。わたくしも微力ながらお手伝いさせていただきます」

「うむ。よろしく頼むよ、イザベラ」


(ミハイルは悪い奴ではなさそうだけど……。その父である国王はもちろん、大神官や宰相の態度を見ていたら、この王国の男たちを信頼する気にはならないなぁ。何かあったら、結局は誰かを犠牲にして切り捨て、王国を守るんだろうな)


 サラは横に座っているイザベルをちらりと横目で見上げた。

 ピンク色の髪と瞳を持った聖女は、戦いのときとは打って変わってツヤツヤのサラサラだ。

 長いピンク色の髪はツヤツヤサラサラで、ピンク色の瞳は未来への希望で輝いている。


(でもイザベルは、ミハイルのことが本当に好きなんだなぁ~。ミハイルは国王とは違うって言い張ってるけど、わたしから見たら似たり寄ったりだよ。大事だと言っているイザベルだって、いざとなったら【尊い犠牲】にしてしまうだろう。もちろん聖獣たちのことだって……)


 サラは溜息を吐いて熱い紅茶をすすった。

 そばにはメイドたちがついていて、サラを細かくお世話してくれている。

 聖獣たちもよくしてもらっていて、皆ツヤツヤのピカピカだ。

 表情も幸せそうで、半分とろけたようになっている。


(わたしは、こっちの世界では幸せなサラちゃん3歳として暮らしたい。聖獣たちにも幸せでいてほしい。もちろん、イザベルやメイドちゃんたちにも幸せになってほしい……)


 サラはミハイルを見た。

 ミハイルはキラキラした王子さまだ。

 金色の髪はツヤツヤサラサラで、金色の瞳は特別な人間であることを感じさせる。

 整った顔も、立ち居振る舞いも、魅力的ではあるけれど。

 高い地位にいる者が持つ独特な傲慢さはしっかり持っている、とサラは思っていた。


(わたしは聖獣たちに傷ついて欲しくない。命に別状がなくても、戦いになんて駆り出さないほうがいいに決まっている。彼らは彼らで平和で幸せに暮らしてほしい。他国を威嚇するためになんて使ってほしくない)


 サラが視線を向けたお菓子を、メイド取ってくれた。

 サラはメイドに向かってお礼代わりにニコッと笑みを向ける。

 メイドも柔らかな笑みを浮かべ、紅茶のお替りを注いでくれた。


(メイドちゃんたちにも幸せでいてほしい。彼女たちを盾にしたり、見捨てたりするような状況は許せない)


 執事がイザベルを呼びに来た。

 ウエディングドレスの衣装合わせがあるようだ。

 結婚式ともなれば、花嫁は何かと忙しい。

 イザベルは嬉しそうな表情を浮かべて、執事と一緒に行ってしまった。


(イザベルにも幸せでいて欲しいなぁ。女子は【綺麗で可愛くて自分に優しくしてくれる女子】が大好きなんだから)


 サラはイザベルの姿が消えたのを確認すると、正面に座るミハイルへ向き直った。


(ん、これはしょうがない。腹くくるか)


 サラは、口の中に残っていたお菓子と紅茶をゴクリと飲み込むと、ミハイルに向かって口を開いた。


「見てるからな」

「ん?」


 キラキラした王子さまが、物分かりのよさそうな笑みを浮かべて首を傾げた。

 サラは右手の短い人差し指をミハイルにビシッと向けて宣言する。


「わたしが2人の養女になるのはイザベルのためだから。イザベルが不幸にならないよう、しっかり見張っとく!」

「ん、そっか。わかった」


(おや、意外と物分かりがいいな?)


 キョトンとしてサラはミハイルを見上げた。

 ミハイルは照れたように言う。


「私はイザベルに弱いのだ。彼女を本当に愛している。サラが、イザベルが不幸にならないよう見張りたいなら、しっかり見張っておいてくれ」

「ん、わかった」


 サラはコクリと頷いた。

 そして続けて言う。


「でもわたしが見張るのは、イザベルへの対応だけじゃない。聖獣たちを雑に扱うのも許さないし、国民の皆を雑に扱うのもナシだからな? もちろん、ここにいるメイドちゃんたちも不幸にしたら許さない」


 サラの言葉に、メイドたちは頬を赤く染めながら目を潤ませた。

 ミハイルは驚きに目を見開く。

 だが次の瞬間には柔和な笑みを浮かべた。

 そして力強く言う。


「わかった。約束しよう。国民も大事にする。私は国王だからな」

「ん、国王さまだもんね。信じるよ」


 サラは右手を拳にして差し出し、小さな小指をピンと立てた。

 そして提案する。


「指切りしよう」

「指切り?」


 ミハイルは不思議そうに首を傾げた。


(この世界には指切りないのか)


 サラは説明する。


「異世界の……約束をするときにかける『まじない』みたいなものだよ。小指同士をひっかけて握り合い『指切拳万(ゆびきりげんまん)、嘘ついたら針千本(はりぜんぼん)呑ます』と唱えて、『指切った』と小指を離して約束するんだよ」


(もうこっちの世界が現実で、元いた現実世界のほうが異世界なんだ)


 さみしいような気もするが、サラはここで生きていく。


(わたしも覚悟を決めなきゃ)


 サラは右腕の肘をテーブルにつき、右手をミハエルの方へと差し出す。

 そして小指をピコピコ動かしてミハエルに催促した。


「ん……なんだか物騒な内容のような気もするが……異世界の約束の『まじない』か」

「そう。これをしたら約束はしっかり守ってもらう。わたしも約束を守るよ。2人の養女になってあげる」

「ふふ。養女になってあげる、か。わかったよ、サラ。指切りしよう」


 サラは自分の小指をミハイルの小指に絡めた。

 細く短いサラの小指に比べたら、ミハイルの小指は太くて長い。


(華奢なキラキラ王子さまにしか見えないけど。キチンと男の人なんだなぁ。この王子さまが国王になったら、王国は変わる? ……いやいや、油断大敵。わたしはしっかり見張らなきゃ!)


 サラはミハイルの小指を自分の小指でしっかりと握ってぶんぶんと揺らしながら、『指切拳万(ゆびきりげんまん)、嘘ついたら針千本(はりぜんぼん)呑ます』と唱えると、勢いよく指を離した。

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