第59話 幼女は養女になるそうです
サラはベッドの上で目を覚ました。
(ん……なんだか長い夢を見ていたみたい……)
もぞもぞと体を動かして、寝ぼけまなこで天井を見る。
(うむ、天蓋がある。あ~……やっぱりコレ、現実。ここは異世界)
とても深く眠った気がする。
頭がすっきりしてみると、改めて異世界にいることも、自分が3歳児の体であることも、銀髪であることも不思議でしかない。
(コレが現実なんだ……と、いうことは。あの掃除機も、魔獣も、瘴気も。なんか不思議なこと全部が本当のことで、わたしは大活躍しちゃったんだな)
パチパチと瞬きをすると、視界にニョッとオカメちゃんが入り込んできた。
クロも、ピカードも、バーンズにシローネ、シルヴィもいる。
みな心配そうな表情を浮かべてサラを覗き込んでいた。
(ん~……じゃ、わたしの手を握っているのは誰?)
サラは不思議に思いながら、ぬくもりを感じた左側に顔を向けた。
そこには椅子に座ったイザベルの姿があり、その背後には立っているミハイルの姿があった。
「イザ……ベル?」
サラが呼びかけると、イザベルはホッとしたように笑みを浮かべた。
「あぁ、気が付いたのね。よかったわ、サラ」
「サラ、大丈夫か?」
ミハイルが心配そうな表情を浮かべて覗き込んでいる。
(なんかムカつく)
「大丈夫っ!」
「なぜキレ気味⁉」
ミハイルが不満そうな声を上げるのを無視して、サラは勢いよく上半身を起こした。
イザベルは慌てた。
「あぁダメよ、サラ。急に起き上がったら……」
「うっ」
「ほら。クラッときちゃうでしょ? ゆっくりね、ゆっくり」
イザベルは急に起き上がってめまいを起こしたサラへ手を伸ばし、抱きかかえるようにしてゆっくりと横に寝かせた。
そして状況を説明する。
「サラは魔力切れと聖力切れを起こしたのよ。幼いから寝たら戻るけれど。ずっと寝ていたのよ? 急に起きたら危ないわ」
(そっか。全力で戦ったから……)
サラはイザベルに聞いた。
「魔力と聖力、どっちもなくなっちゃったの?」
「そうよ。頑張ってくれたから、どっちもなくなっちゃったのよ。でも心配いらないわ。魔力も、聖力も、寝たら戻るから大丈夫よ」
イザベルは優しくサラの頭を撫でた。
サラはイザベルの手のひらに頭を擦り付けるようにして聞く。
「寝たら戻る? 絶対?」
「ええ、大丈夫。寝たら戻るわ。たっぷり寝たから、もう戻っているとは思うけれど。サラは丸一日寝ていたのよ」
「おぅっ⁉ 丸一日⁉」
驚きの声を上げるサラに、イザベルは優しく言う。
「そうよ。目が覚めないから、みんな心配しながら待っていたのよ」
サラが聖獣たちの方を見ると、皆コクコクと頷いていた。
ミハイルも頷いていたが、サラはサラッと流した。
そしてあくびをしながら言う。
「でもわたし、まだ眠い」
「ふふ。サラは聖力の量が多いから、完全に戻るまでには時間がかかるかもしれないわ」
「あらあら」
サラはシーツを首元にまで引き上げながら目を丸くした。
それを見たイザベルが噴き出した。
「もう、サラってば笑わせないで」
(んー、イザベルを笑わせるつもりはなかったんだけど……)
「あー、サラ。可愛い。可愛いわー」
イザベルがサラの頭や頬、腕や手などを撫でまくっている。
戸惑うサラがミハイルの方を見ると、彼も戸惑っているようだ。
ミハイルは、ちょっと複雑そうにイザベルとサラを見比べていた。
(はーん。これは嫉妬。嫉妬ですね)
「ん~、イザベルゥ~」
サラがわざとらしくイザベルに甘えると、ミハイルのこめかみがピキッとなった。
(わかりやすっ。おもろっ)
サラはミハイルに見せびらかすようにイザベルへ甘えた。
イザベルは大喜びだ。
「あぁ可愛い。撫でちゃえ、撫でちゃえ」
サラとイザベルがキャッキャしていると、横から顔を覗かせたクロが訴えた。
『ボクたちも心配したんだからぁ~』
『そうよ、サラ。ワタシを心配させるなんて、許されなくてよ』
シローネもプンプンしている。
ピカードもたしなめるように言う。
『もう無茶したらダメだぞぉ~、サラ』
『そうだそうだ。びっくりしたぞ』
『うむ。驚いた』
バーンズも、シルヴィも、たしなめるように言った。
「ぴぎゃっ」
オカメちゃんも便乗するように抗議の声を上げた。
「ふふ。心配かけてごめんね」
サラは聖獣たちへ素直に謝った。
(あ、そういえばトイレ……)
サラは慌てて下着を触ると、オムツをされていることに気付いた。
「え? オムツ?」
「あ、大丈夫よ。魔法で処理をしているはずだから、大丈夫だけど……念のためにね」
イザベルは言葉を濁した。
(念のため……一応、大丈夫だったみたいだけど。えーオムツ。オムツかぁ……)
サラは分かりやすく落ち込んだ。
シューンとなっているサラに向かってミハイルは突然、妙な提案を始めた。
「サラ。私とイザベルの養女にならないか?」
「は?」
驚くサラにミハイルは説明する。
「今回のことで父があてにならないことがはっきりした。だから私は、イザベルと結婚して王座を継ぐことにしたのだ」
「そうですか。おめでとうございます。でもわたしには関係ないですよね?」
サラの反応はつれなかった。
「そうともいえない。今回の騒動でサラの力は王国内に知れ渡ってしまった。あれだけの力があって保護者がいない3歳児なんて、いいカモだ。サラを騙して利用しようとする者が現れないとは限らない」
「わたしがその辺の悪人に騙されるような馬鹿だと?」
「いや、そうは言ってないが?」
ミハイルの心配はもっともである。
だがサラは、乗り気ではない。
(国王さまの庇護下にあれば楽かもしれないけど。ミハイルがパパってイマイチ……というか、イヤなんだけど)
サラが眉間にシワを寄せて悩んでいると、イザベルも笑顔でサラを誘う。
「私とミハイルさまの結婚が正式に決まったの。だからミハイルさまの養女になるということは、わたくしの子どもになるということでもあるのよ」
「なりたいです。養女にしてください」
サラは即答した。
「イザベルさまの子どもになら、なりたいです。わたしを養女にしてください」
サラはイザベルの腕へ絡みつくようにして甘えながらねだった。
「まぁ~、サラ。本当に可愛い子ね。わたくしにこんな可愛い娘ができるなんて嬉しいわ」
「わたしも、こんなに綺麗なママができて嬉しいです」
イザベルにギュッと抱きしめられて、サラはニコニコご満悦だ。
(こんなに綺麗で優しいお母さんなら欲しい~。嬉しい~。わぁ~い)
2人の世界を作っているサラとイザベルの後ろで、ミハイルは自分を指さしながら言う。
「えーと、私も仲間に入れてくれるかな?」
(しょうがないなぁ。もう)
渋々と頷くサラを見て、聖獣たちは声を上げて笑った。




