第55話 瘴気はらうよ!
サラは無限収納庫を開けっ放しにして叫んだ。
「使えそうな物はテキトーに持ってって! 女神さまからもらったものだけど、このわたし、サラの名においてそれを許すっ!」
サラは無限収納庫から使えそうな物を片っ端から引っ張り出して、あたりにばら撒いた。
近くにいた兵士たちがワラワラと集まってきて、適当に使えそうな物を手にして去っていく。
サラの身長くらいありそうな長い剣も引っ張り出しておいたら、魔獣を相手にして剣が折れてしまったミハイルが持って行った。
「あー、ココに人が集まっちゃうと身動きできなくなっちゃうね。オカメちゃん。人間でも使えそうな物を空から適当に配ってくれない?」
「ピッ!」
バーンズの角にとまっていたオカメちゃんは、心得たとばかりに地面に散らばった道具をくちばしに咥えて空へと飛び立った。
それを見送りながらクロが聞く。
『ねぇ、サラ。ボクたちはどうすればいい?』
他の聖獣たちもサラの指示を待っていた。
(わたしが司令塔か。3歳児だけど!)
サラは首をちょっと傾げて、悩みつつ聞く。
「クロたちもシローネみたいに瘴気払いできるの?」
『うん。できるよ。魔獣も倒せるよ』
クロがコクリと頷いて答える。
他の聖獣たちもコクコクと頷いた。
「ならお願い。瘴気払いして、魔獣がいたら倒しちゃって」
『サラにお願いされちゃった。ボク、頑張るね』
クロは目を輝かせて頷いた。
ピカードやバーンズ、シルヴィもサラに頷いてみせてから、それぞれ違う方向へと散っていった。
(おお。さっそく瘴気がはらわれて浄化されていくぅ~)
聖獣たちは全身から銀色に近い白い光を放っている。
鳴き声で浄化できるのも皆同じようだ。
聖獣たちの放つ光に当たると瘴気は浄化されて薄墨色の空間が一瞬で透明になっていった。
(あーでも、ダメだぁー。すぐに瘴気で灰色になっちゃう)
根本的な解決にはならない浄化程度では、瘴気をはらうのは無理だ。
「えーとぉー。何かあるかなー?」
サラは無限収納庫をゴソゴソと漁る。
「武器っぽいものは……ないかぁ。ん?」
サラは女神がくれた、大きなリボンのついた子ども用のカラフルで派手なメイクボックスみたいなケースに気付いた。
「そう言えば、コレに色々と入っていたような……」
サラは派手なリボンのついた蓋をパカッと開けた。
中に入っている物を、サラは3歳児の細くて短い指でそっと取り出した。
「おっ⁉」
ケースから取り出したミニチュアの玩具のような物が、ポンッと音を立てて元の大きさになった。
「これは虫眼鏡か」
サラが虫眼鏡を覗いて空を見上げると、その方向にピカーと白い光が走って薄墨色の空気が透明になった。
「おお。これも浄化に使えるんだ」
サラは虫眼鏡のレンズが空に向くように角度をつけて地面にエイッと突き刺した。
薄墨色の空気は白い光の効果で透明になるが、空気が流れて新しい薄墨色が流れ込めば再び瘴気で満たされる。
一ケ所だけ透明になっても効果は薄いため、もっといい道具がないかサラは探した。
ケースの中からは短剣やポーションの瓶などが出てきたが、正直、サラには使い道が分からない。
空に向かって投げればオカメちゃんが器用に受け取って、使えそうな人のところまで届けてくれる。
(便利だな)
サラはそう思いながら、道具をチェックする。
周囲では兵士たちや聖獣たちがギャーギャー騒いでいるが、集中しているサラの耳には届かない。
騒ぎをよそに聖衣姿のサラは地面に足を延ばしてペチャンと座って真剣に道具を見ていた。
「んー、コレはなんだろう? 口紅とアイシャドウかな?」
アイシャドウの容器の蓋をパカッと開けると、そこから空に向かって白い光がパァァァァァッと昇っていった。
「おっ? これはもしや浄化作用のある化粧品?」
試しに魔法でミハイルの目元に真っ青なアイシャドウを塗ってみた。
「うわっ⁉ なんだこれ⁉」
ミハイルは目元から突然、ビームのような白い光が出たことに驚いて声を上げた。
「キャハハ。おもろ」
サラは口紅も光を放つことを確認してから、ミハイルに真っ赤な口紅を塗ってみた。
「うわっ⁉ 今度は唇から光がっ⁉」
口紅で真っ赤になった唇から白いビームを放つ王子さまは、なかなかシュールである。
サラは調子に乗って、頬紅も塗ってみた。
「うわっ⁉ なんだこれはーーーっ⁉」
ミハイルは訳が分からず、叫んでいる。
兵士たちも顔面をピカピカ光らせている王子さまに驚いているようだ。
「もちろん、他の皆にも塗ってあげるね」
サラは魔法で次から次に兵士たちの顔へ化粧を施していく。
「うっわ⁉ お前なんだその顔は⁉」
「お前こそなんだよっ! 顔光ってるぞ⁉」
「えっ⁉」
顔をピカピカ光らせた男たちが、右往左往しながらワーワー騒いでいる。
「おもろー」
サラは手を叩いて大笑いする。
だが浄化の方はといえば、進んでいるようでいてそうでもない。
「おもろい光景ではあるけど、瘴気の混ざった薄墨色の空気にすぐ戻っちゃうね」
サラはペタンと地面に座ったまま、空を見上げた。
この世界がどのような仕組みになっているのかは知らないが、墨を落としたような曇り空をどうにかしないことには先に進めそうにない。
「んー、なんかないかなぁ~」
サラは細くて短い指を顎の下に置いて考える。
もちろん考えているだけでは何も進まない。
(分かんないもんは分かんないんだから、トライアンドエラーでやるっきゃないねっ!)
サラは無限収納庫を漁った。
そして見つけた。
「お⁉ なんだこの掃除機みたいなのは」
サラが小さな玩具サイズの掃除機を人差し指と親指でつまむようにして外に出すと、それはボンッと音を立て、白い煙を吐きながら大きくなった。
「おおっ! これは期待の新人っ!」
あっという間に自分よりも大きくなった掃除機の周りをグルッと一周する。
卓上タイプのノズルが短い掃除機のような形をしている道具には、ゴミをためるような透明の容器がくっついていた。
「もしかして瘴気も吸引できる?」
サラよりも背が高くなってしまった掃除機に手を置いて呟くと、掃除機は頷いたような気がした。
「ま、ここは異世界。魔法の使える世界だし、これは女神さまのくれたものだからね。なんでもアリだよ。うん。そんな能力がなかったとしても、わたしの聖力でなんとかなるっしょ」
サラは目前にある自分の顔ほどの大きさの白いスイッチを眺めながら呟いた。
「えーい、なるようになれっ! スイッチ、オン」
サラは両手を白いスイッチの上に置き、全体重をかけるようにして押した。




