第52話 大人の事情会議紛糾
「だからイザベル嬢を後退させるべきだと言っているじゃないかっ!」
会議室に集められた要人を前にして、ミハイルは叫んだ。
聖女サラと聖獣たちを伴って神殿へと戻ってきたミハイルを待っていたのは、更なる状況の悪化だ。
瘴気は濃くなり、魔獣は王都近くをうろつき、なによりもミハイルを怒らせたのは――――
「なぜイザベル嬢を最前線へだしたのだ!!!」
「それは……」
ミハイルの迫力に、宰相の声も怯えて小さくなった。
「ただでさえイザベル嬢は大怪我をしたばかり! そんな令嬢を聖女とはいえ、なぜ最前線に立たせて瘴気払いさせているんだっ!」
怒り狂うミハイルへ薄ら笑いを浮かべた大神官が言う。
「ですが、王子。聖女イザベルは王国で唯一の聖女なのです。緊急事態になれば命を削って国に尽くすのが役目、かと」
「彼女が死ねば聖女はいなくなるっ。その意味が分かってるのかっ!」
次期国王であるミハイルに怒鳴りつけられても、大神官が動じることはない。
それどころか涼しい顔で言う。
「聖女ほどでないにせよ、神官たちにも瘴気払いはできますし……」
「ならばなぜ最前線に神官たちを向かわせないんだっ⁉」
酷い怪我をしたはずのイザベラに癒しを施して無理矢理に最前線へ向かわせた大神官は、ニヘラと笑うばかりだ。
(王都の空すらこんなに濁っているというのに。国民を避難させた最前線はどうなっていることか! 魔獣だってうろついているというのに……)
ミハイルは唇をキュッと噛むと父である国王を睨んだ。
ビクッと身を震わせる国王だが、息子の言う通りに動く気もない。
(能力の低さを認めて王座を譲ってくれればいいのに、まだ地位にこだわって……我が親ながら本当に情けないっ)
神官や宰相たちはビクビクしているが、そんなものは物事を決める役には立たない。
(そんなにサディア公爵の娘を王妃に据えたいのか? もうこんな国、捨てたいっ)
そう思っても民のことを思えば無責任なことはできない。
「聖女イザベルはお役目に殉じるのです。不満などないはず」
大神官の言葉はミハイルの神経をどこまでも逆なでした。
「だから聖女さまをお連れしたのだっ。サラさまは立派な聖女で聖獣さまたちもいらっしゃった。イザベル嬢を犠牲にする必要はない」
「そうはおっしゃいますが、サラさまは3歳児であらせられるではないですか。そんな小さき子を前線に送るなど、それこそ人道に反します」
ニヘラニヘラしながらいう大神官の言葉にも一理ある。
(ここはサラさま本人に対処してもらうしかないっ)
そう考えたミハイルは近くにいた衛兵に向かい、「誰か、サラさまをお連れしろ」と命令した。




