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第47話 王子の葛藤

(言いたいことは分かるけど、こんな扱いしなくてもいいじゃないか……)


 ミハイルはウッドデッキのブランコになった椅子へ座って室内にいるサラをジト目で見つめた。


(確かに私は聖女の気持ちについて深く考えてはいなかったかもしれない。けれど一番身近な聖女であるイザベルが、役目について否定的な意見を口にしたことはなかったんだ。そこまで気が回らなくても仕方ないじゃないか)


 視線を正面に戻したミハイルは、足元を見下ろた。

 ウッドデッキをトンッと蹴れば、ブランコが揺れてギコギコと音を立てる。

 金色の瞳をしたスラリとした王子さまが金髪を揺らしながらブランコに乗る姿は、現代人からすれば違和感があるが、美形は何をしても様になるのがお約束である。

 ちょっとした哀れな雰囲気の演出すら出来ない美形王子は思う。


(サラと言ったな。あれは変わった聖女だ)


 ミハイルはイザベルのことや王国のことは気にしていたが、召喚された転生者である聖女の気持ちを慮る必要があるとは思っていなかった。

 教えられもしなかったし、彼自身そんなことは欠片も考えていなかったのだ。

 サラのことも聖女としてしか意識していなかった自分に初めて気付かされた。


(でも仕方ないじゃないか。3歳児の見た目でも、相手は転生者なんだ。前世の記憶も、知識もあることを私は知っている。普通の子どもと同じように思えるわけがない)


 でも泣かせてしまった。


 ブランコを止めてチラリとガラス越しに室内を窺えば、サラはまだ泣いていた。

 こちらに見せつけるように泣きながら、何か食べている。

 ポロポロとこぼれる涙と、手元にあるおにぎりからポロポロとこぼれる米粒が、サラの幼児性を際立たせていた。


(あの食べ物は何なのだろうか? パンではないようだが、パンくずのように白い何かがこぼれているな。……あ、拾って食べた。聖女には浄化魔法がかかっているという話だが……お腹を壊さないか?)


 ボロボロと哀れっぽく泣く幼女に、ミハイルは罪悪感を覚えた。


(ちょっとだけ……ちょっとだけ、私が悪かったかもしれない)


 ミハイルは視線を正面に戻すとウッドデッキを見下ろした。


 反省はするも、どうしていいか分からない。

 なにせ王子さまなので、反省するような事柄は幼少時に済ませている。

 そしてだいたいのことは、相手が譲歩してくれるのだ。

 ミハイルは王子さまなので。


(でも人の命がかかっているのだし、同じような立場のイザベルが危機を迎えているのだから、私のお願いを聞いてくれてもいいじゃないか……)


 ミハイルに搭載された謝罪機能は弱い。

 

(王子が謝るなど……王子の謝罪は重いのだ。聖女とはいえ3歳児相手に……いや、3歳児相手に謝る程度のことに躊躇うなんて器が小さい? ……いや、3歳児相手でも王子の謝罪は重いはずだ……)


 ミハイルはウッドデッキを見下ろしたまま足元を蹴り、ブランコをギコギコ鳴らしながら、とってもくだらないことで苦悩していた。

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