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第45話 王子の説得、聖女の拒否 3

「ちょっと無理。わたしは納得できない。まずは政治的な問題を解決して、今いる聖女さまを守りつつ、自分たちで対処するべきでしょ」


 サラはキッパリと言った。

 だがミハイルの方も納得できないようだ。


「聖女さまっ。そんなことをおっしゃらないでくださいっ。力があるのだから助けてくれてもいいでしょう? それに聖女さまは転生者なのですから、3歳児の姿でも中身は大人ですよね⁉ そこは大人の配慮で助けてくれてもいいじゃないですかっ!」

「はっ?」


(なんか図々しいことを言い出しだぞ、この王子)


 サラが黙ったことで勝機を見出したのか、ミハイルはまくしたてる。


「聖女さまはもちろん、聖獣も【聖】の字がつく存在は1回亡くなっているはずです。その上、女神さまから特別な力も与えられている。前世での経験もあって力もある。だったら我々を助けてくれたっていいじゃないですか⁉」

「……は?」


 サラはポカンと口を開けて、ミハイルを見た。

 そしてゆっくり聖獣たちを振り返る。

 聖獣たちはサラから視線をそらしたり、頷いてみせたりと反応は様々だ。


(これは……王子さまが言う通り、【聖】の字がつく存在は1回亡くなっているってことか。仏教における仏さまになるってのと似た感じかな? でも事前説明なしで察しろっていうのは無理があるでしょ~。わたしは確かに1回死んでるけどぉ~)


「女神さまから与えられた力があるのだから、貴女には王国を救う義務がある!」

「はっ⁉」


(何言ってんの、こいつ⁉)


 もはやサラにはミハイルを敬う気持ちはない。


「その力を使って王国を救うのは義務です! 私の愛するイザベルも、そう言って瘴気払いの任に当たりましたっ」


(そうか。【聖】が付いているから聖女イザベルは転生者なのか。だから愛する王子と聖力を持つ者の義務として、命をかけて王国を救おうと……)


 サラはギュッと唇を噛んだ。

 力の入った両肩は上がり、両腕はピンと伸びたまま指をギュッと握り込んで拳が2つ出来上がる。


「ですから、聖女さま! 王国を救って……」

「違うっ!!!」


 サラは窓ガラスが揺れるほどの大きな声を出した。

 ミハイルは気圧されて目を見開いたまま固まり、聖獣たちもびっくりした様子でサラを見ていた。

 サラは右腕をミハイルへ向けると、人差し指をピッと立ててキラキラの王子さまを指さして叫ぶ。


「女神さまは確かに力をくれたっ! 聖力だけじゃないっ。色んな物をたくさんくれたっ。でもそれは王国を救う義務を負わせるためのものじゃないっ。わたしの【幸せを願って】くれたものなのっ! 義務を負わせるためじゃないっ!」


(女神さまから義務のことなんて聞いてないっ。あの女神さまは、純粋にわたしの幸せを願ってた)


 サラは全身に力を込めて叫ぶ。


「女神さまの純粋な好意を、義務なんて安っぽいものにすり替えんなパカッ!」

「私はそんな風には言ってないっ」

「言ってんのと同じなら同じっ! わたしがそう感じたなら事実になるっ! 王子だか王族だか知らないけど、相手を勝手に侮るなパカッ!」


 キラキラとした王子さまに向かって、サラは力いっぱい叫んだ。


 キャリアアップを目指して入社した会社で社畜OLになってしまったことや、幸せな未来を描いて結婚したのに不倫されたことや、離婚にあたって沙羅の味方になってくれなかった実家のことがサラのなかに悶々として沸き上がる。


「みんな勝手なことばっかりっ!」


 サラの中に不満や怒りが渦巻いた。


『瘴気払いや魔獣退治くらいしてあげたら? ボクたちも手伝うよ?』


 なだめるようにクロが言う。

 他の聖獣たちも彼の後ろでウンウンと頷いた。


(クロの言うことも分かるけど……)


 サラの心にある【そのくらいしてあげてもイイじゃない】という気持ちが、ちょっとした後ろめたさを感じさせた。

 だが今のサラにとっては、その後ろめたさも火に油を注ぐようなものだ。


「わたしは1回死んで、今は3歳児のサラなのっ! そのことに不満はないけど、こんな扱いは不満よっ! 王国っていうくらいだから、いい年した大人が揃っているんでしょ⁉ なら自分たちで処理したらいいじゃないっ」

「だから……」

「どうせ自分たちは偉いと思ってるんでしょ⁉ だから誰か他の人にやらせたらいいと思ってるんでしょっ⁉ 偉いと思ってるんなら自分たちで処理したらいいじゃないっ! わたしには関係ないっ」


 激しく言い募るサラは、まるで癇癪を起した子どものように見えた。


(大人げなくても仕方ないっ。今のわたしは3歳児のサラちゃんなんだからっ)


 サラは何処か冷静に自分を分析しつつも、感情の爆発は止まらない。


「出てって! 出てってよ!!!」

「えっ、ちょっと……」


 サラは戸惑うミハイルを無理矢理立たせて掃き出し窓の向こうへと追い出しすと、窓を音を立ててピシャリと閉めた。

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