第44話 王子の説得、聖女の拒否 2
王子は拒否されたことに衝撃を受けて唖然とした表情を浮かべ、一瞬動きを止めた。
聖獣たちは息を呑んで見守っている。
ミハイルは突然に意識を取り戻したようにハッと表情を変えると、叫ぶように訴え始めた。
「なぜですか聖女さま⁉ 幼くとも貴女は聖女ではありませんか。瘴気払いをしてください、お願いします」
「うーん。でもなぁ……」
サラは仁王立ちして両腕を組むと、わざとらしくアゴの下を小さな手でさすりながら言う。
「わたしを召喚したのまではいいけどぉ~。召喚先が聖獣の森だったわけだしぃ~。それってさぁ~「私共は瘴気払いなど結構でございます」ってことじゃないの? 実際、聖獣の森には瘴気入ってこないから、わたしは困ってないよ?」
「そっ、それは……」
痛い所を突かれたようにミハイルはダラダラと汗を流している。
(あー悪いことをしたという自覚はあるんだ)
ちょっと腹の立ってきたサラは、わざとらしく言う。
「わたしはぁ~、やる気満々で召喚されて来たわけだけどぉ~。「必要ないです聖獣の森にいてください」みたいな感じのをやられてぇ~。知らない場所へ放り込まれた上に、ちょっと慣れてきたら「気が変わりました。必要だから来てください」って感じで言われてもさぁ~」
「あ……あ……えっと……」
ミハイルの顔色が悪くなったのを確認しつつ、サラは追い詰めるように言う。
「そっちが呼んだのに酷くない?」
「あ、ああ。それは確かに……」
サラは青い顔をしてダラダラと汗を流すミハイルを眺めながら、ニンゲンってこんなに汗を流せるんだと何となく思った。
(うん、我ながら嫌味臭い物言い。でもでもでも。前世でも散々社畜OLとして仕事に振り回されてきた身としては、ちょっと辛抱ならねぇな?)
サラは複雑な心境を3歳児の体に隠しつつ、天井に顔を向けてから視線を下ろしてチロリと王子を見る。
ミハイルは聖女が思ったような反応をしなかったので、次にどうすれば分からずに悩んでいるようだ。
(王子たる者、代替え案の1つや2つは持ってこなきゃダメでしょ。説得材料は複数ないと、提案はなかなか通らない……)
ミハイルはソファから下りて両足の膝を床につけると頭を下げて訴えた。
「お願いです、聖女さま。瘴気払いしてください。魔獣も発生して困っているのです」
土下座する勢いで頭を下げている王子を見ても、サラは首を縦に振らない。
聖獣たちは、王子とサラを見比べるようにキョロキョロしている。
「どうしようかなぁ~……」
サラは迷うように頭を左右に振りながら、チラッと王子を見た。
(王子の土下座を見て、気分がいいと思うほど性格悪くないものの……サラちゃんは3歳児なのに、瘴気払いという危険な行為を依頼する大人だよ? 見ててちょっと腹立つな?)
サラの気持ちなどお構いなしに、王子は自分たちの事情を訴える。
「お願いです、聖女さま。魔獣による害も酷いのです。このままでは国が滅びてしまいます」
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」
サラは、床に膝をついている王子の前にかがんで彼の顔を覗き込んだ。
「わたしはなぜ聖獣の森に召喚されたのかな?」
「それは……」
ミハイルは真っ直ぐに見てくる聖女の青い瞳から自分の金色の瞳をそらしつつ、王国の事情をポツリポツリと話し始めた。
その話を聞きながら、サラの目は細く鋭くなっていく。
(なんだその政治的茶番。そして王子の聖女イザベルへの愛情。どっちにもムカつくな?)
ブラック企業にこき使われた記憶と、結婚しても真実の愛を得られなかった過去のあるサラにとって、イザベルを排除しようとしている貴族たちにムカつく気持ちがあるのは確かだ。
だが同時にミハイルに愛されて守られているイザベルへの嫉妬も確実に感じている。
(こちとら不倫されて離婚した社畜OLの上に、不慮の事故で命を落としてるんだよ。なのになんなのこれ? 振り回されている自分が馬鹿みたい)
そう感じたサラは、ミハイルの説明を聞いても首を縦に振る気にはなれなかった。




