第41話 聖獣の森は平和に日が暮れる
空の色が変わり始めれば、自宅へ帰る合図だ。
サラは足元のキノコが潰れるのを感じながら聖獣たちに宣言する。
「わたし、そろそろ家に帰るね~」
『えー、サラ帰っちゃうの?』
クロが残念そうに言えば、バーンズも『森にお泊りしたらいいのに』と誘った。
サラは首を傾げて考える。
「ん~。確かに外で寝るのも気持ちがいいけど。まだこっちの世界に慣れていないから、無理しないほうがいいと思うのよね。お家で寝るのが一番落ち着きそうだから、お家に帰る」
「ぴぎゃっ」
オカメちゃんもサラの頭の上で帰宅する気満々であることを訴えた。
オカメちゃんにとっての巣は、サラの家になったらしい。
「オカメちゃんもこう言っていることですし、わたしは帰ります」
(家なら魔力枯渇を心配する必要はないし。それにノーローンで手に入れたマイホームを堪能したい!)
貧乏社畜OL根性は健在だった。
楽しんだことのないものは、飽きるまでは楽しめる。
(無限収納庫から色々出して好みのインテリアに変えるのも悪くないっ!)
サラは小鼻を膨らませて張り切っているが、聖獣たちからしたら意味不明だ。
『元気だったらもっと遊んで行けばいいのに~』
ピカードが名残惜しそうに言えば、クロも便乗して引き留めようとする。
『疲れたら森で寝ちゃえば、気付いたら朝になってるよ?』
ピカードやクロの言うことももっともだが、サラの自宅へ帰る決意は固かった。
『なら、ボクが送るね』
「ありがとう、ピカード」
サラがピカードの背中に乗ると、シローネが寄ってきてモジモジしながら言う。
『もしも、もしもよ? サラが寂しいなら、ワタシも一緒にあの家で寝てあげてもいいわよ?』
『あっ、シローネずるいっ。自分だけサラの家へお泊りする気だっ!』
『そっ、そんなことないわよっ』
クロに突っ込まれて、シローネが焦っている。
(シローネ、ツンデレちゃんか?)
サラはニマニマしてシローネを見た。
『ワタシは、サラが寂しがると……』
言い訳がましくシローネが言いかけたが、そんなものクロは聞いていなかった。
『サラッ、サラッ、ボクもお泊り行きたい! 天井あるトコで寝たいっ!』
「ん、んん。来たらいいんじゃない?」
『やったぁー』
クロがピカードの横にトトトッと寄ってくると、シローネを始め他の聖獣たちもゾロゾロとならば私も、といった風情でついてきた。
「ん、じゃ今夜もわたしの家で、寝ようか」
サラがピカードの背中から聖獣たちに提案すると、賛成の声が上がった。
来た時と同じようにゾロゾロと帰る一同は、来た道を逆に辿る。
食堂樹の隣を通り過ぎるときに何げなく視線をむければ、早くもサラが作ったタケノコ料理と同じものが実っていた。
(女神さま、仕事はやーい)
森を抜けて広い草原の向こうに目をやれば赤い夕焼けが広がっていた。
「綺麗な夕焼け」
『あー……そうだね』
クロが呟くように反応するのを聞いて、違和感を覚えたサラは聖獣たちを振り返った。
バーンズが言いにくそうに説明する。
『瘴気が強くなればなるど、夕焼けが綺麗な赤になるのだ』
「あっ……」
サラは改めて赤く染まる空を見た。
(瘴気が相当濃いということ?)
心配げに空を見上げるサラに向かってバーンズが言う。
『ここは聖獣の森。瘴気は浄化されて入ってこられないから心配は要らないよ』
「ぴぎゃっ」
オカメちゃんも安心してとでも言うようにサラの頭の上で鳴いた。
(わたしが心配しているのはそこではないけれど……わたしの召喚先が聖獣の森だったということは、ニンゲンだけでなんとかなるってことよね?)
サラは空の色を気にかけてつつ、正面に向き直る。
(きっと大丈夫。わたしが必要なら、呼び出しがかかるでしょ)
サラは気を取り直して自宅へと戻った。
家では昨夜と同じように聖獣たちと大騒ぎして、疲れ果てて眠りに落ちた。




