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第4話 死んだ!

 沙羅は真っ暗な中で薄っすらと意識を取り戻した。


(死んだ⁉)


 動揺するが、それはほんの一瞬。

 真っ暗な闇の中に吸い込まれるように動揺は消えていった。

 あとに残ったのは静寂。


(あー……死んだか。死んじゃったのか、わたし。ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ。こんなことなら、もっと早めに慰謝料で豪遊しておけばよかったー)


 後悔が怒涛の如く押し寄せても、それもまた真っ暗な闇の中に吸い込まれて消えていく。


(これが成仏するってこと? わたしは仏になってしまうのか? 現世は我慢してばかりだったから、あの世でくらい煩悩だらけでもよくない? いや、それだと地獄になっちゃうか?)


 死んだら天国へ行ける、などと能天気なことを考えていたわけでもないし、綺麗さっぱり消滅できるとも沙羅は思っていなかった。


(でもわたしってば、意外と消滅コースなの? 綺麗に消えてなくなるには、後悔ありすぎるのよ)


 沙羅の人生は走馬灯のように現れることはなかった。

 胸糞悪すぎて、走馬灯を回すのも嫌だからだろうか。


(我慢してれば幸せになれると思ったから、嫌なことも我慢してきたのに。会社は基本給上げないし、なんだったら残業代もケチるし。わたしの労働サブスクかよっ。ヘロヘロになりながら家事を頑張っても、女捨ててるって夫は浮気するしさ。イイトコナシだわ。なんなの人類? 女を生きるって難しすぎるっ!)


 終わった後で悔やんだって意味はない。

 沙羅は嫌という程、それを学んだ。

 だから慰謝料片手に新たな生活へ挑もうと思っていたのだ。

 しかしそれすら叶わぬ夢となり果てた。


(我慢したって基本給は上がらないし、夫の浮気を止める理由にはならないのよ。無駄無駄無駄無駄ムダァ。わたしの我慢、全部ムダだったぁ~)


 悔やむ気持ちがドドーンと大きな波のように沙羅の心へと押し寄せる。


(だから楽しもうと思ったのに、その矢先にこのざまか。こんなことなら周りに迷惑かけまくって、好き勝手に生きとけばよかったなぁ)


 悔いは闇の中へと消えていく。

 それはそれでスッキリするはずなのに、沙羅には不満と不安しかない。


(子どもを助けて死ぬならまだしも。アレ、わたしが飛び出していかなくても、子どもひかれなかったよね? 技術の進歩万歳! でもわたしの行動、全て無駄エンドってことじゃない? まぁ……子どもは死ななかったし。運転手さんに後味悪い思いもさせずに済んだけど……わたしの存在意義ってなに? なんだったの?)


 後悔が全て闇の中へと消えてしまったら、その後に沙羅の中へと残るものは何なのだろうか。


(なぁ~んも残らないよーな気がするなぁ。わたしの人生、何なのよ。こんなことなら、もっといろいろと楽しんでおけばよかった……次があったら、もっと楽しむことに全振りするのに……)


 そんな風に思った沙羅の意識は、再びスゥーと遠くなっていった。

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