第30話 聖獣の森見学会 2
森の中は緑の濃い匂いがする。
だが森であれば普通の匂いだ。
(聖獣の森といっても、普通の森と変わらないような。背の高い木が多いけど、木と木の間は開いているし、下草もそんなに生えてない。手入れの行き届いた森林公園くらいの感じ?)
ピカードの背中で揺られながら、サラはキョロキョロと辺りを見回した。
(土は普通に茶色だし、草も緑だねぇ。花が咲いていても小ぶりな感じ。世界最大の花と言われているラフレシア並みにインパクトのある花は見当たらないなぁ。……あ、キノコ。地味な色のだから、食べられるヤツかなぁ?)
聖獣の森を見学してみたが、特別変わったところがあるようには思えない。
そのことがかえって不思議に感じられて、サラは首を傾げた。
銀色の長い髪がサラサラと風になびく。
頭の上には、相変わらずオカメちゃんが細い指を銀髪に絡めてガシッととまっている。
(オカメちゃんってば、いつ飛ぶのかな? 鳥なのに)
サラが不思議に思うポイントは、微妙にズレていた。
家にいた時とサイズをほぼ変えていないピカードの背中は快適だ。
シローネは出会った時と同じくらいのサイズになっているので、今はピカードと大きさがさして変わらない。
バーンズとシルヴィは、立ち上がるとニンゲンと同じくらいのサイズなので、縮んだままのようだ。
クロはサイズを変えない主義のようで、出会った時と同じ大きさのまま、ピカードの隣を歩いている。
『お腹空いたかもしれないけど、あともうちょっとだからね~。ふふ。サラの無限収納庫と同じくらい、美味しいご飯があるから、期待して待っててね』
小さく笑いながら言うクロにコクンと頷いたサラだったが、キョロキョロと周囲を見てもそれらしき物は見当たらない。
(朝ご飯を食べに来たけど、実のなっている木なんて見当たらないなぁ)
ピカードの背中でサラが不思議に思っていると、いい匂いが漂ってきた。
(近くにレストランでもあるのかな? でもここは聖獣の森だから、人間の住む家は近くにないはずだけど……)
ピカードが器用に首をサラのほうに向けて言う。
『着いたよぉ~』
『ほら見てサラ!』
クロが立ち上がって右前足で、ある一角を指示した。
そこには【料理】を実らせた木が立ち並んでいた。
「えっ⁉ 何これ⁉」
サラはびっくりして目を見開いた。
そこには他の木々よりも明らかに背の低い木が生えている。
そして緑の葉を茂らせた枝の先には、お皿の上に乗った状態で料理が実っていた。
「な、なにこれ? 幼児向けの絵本か⁉」
『ウフフ。食堂樹だよ。好きなモノを選んで食べられるんだ』
クロは自分で作ったかのように自慢げだ。
(女神さまのサービス良すぎ~)
『木に生っている状態なら保存状態もいいし、衛生面も問題ないわ。安心して食べられるわよ』
シローネはそう言いながら、サラダが実っている木の方へピョンピョンと跳んで行った。
「ぴぎゃ~」
「あ、オカメちゃん⁉」
サラの頭から飛び立ったオカメちゃんは鳥餌の入った器が実っている木にとまった。
「なんだアレは……」
サラは呆れて呟いた。
(シローネのサラダはともかく、オカメちゃんの鳥餌の入った器はおかしいのでは? そのまま実っているのを突いたほうが美味しく食べられそうなんですけど⁉)
サラは混乱した。
『フフフ。驚いてる、驚いている。フフフ。どの木のご飯も美味しいから、気になるのを選んで食べたらいいよ』
「ありがとう、クロ」
確かに食堂樹には様々な料理が実っていて、朝食メニューにぴったりのオムレツやフレンチトースト、ミルクやオレンジジュースなども実っていた。
(実らせるならオレンジの実でよくない? 女神さまが過保護すぎるっ)
サラの為なのか、味噌汁や炊き立てご飯なども実っていた。
至れり尽くせりである。
『高い所のを取って欲しい時には、ボクに言ってね。ボクが取ってあげるから』
「ありがとう、ピカード」
サラがピカードの背中をポンポンと軽く叩いてお礼を言っている横からバーンズが言う。
『魔法でも取れるが、無理しないほうがいい。魔力枯渇は厄介だからな』
(はっ。そうだ。ここは家じゃないから、魔力枯渇するとトイレとか困るっ!)
サラは入学したての小学一年生のように勢いよく右手を上げながら「はいっ」と答えて、聖獣たちを笑わせたのだった。




