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第16話 あつまれ聖獣の森 6

 椅子というものは、時として無粋だ。


『本当に、椅子じゃなくてぇ~。そこがぁ~いいの?』

「うんっ! ピカードが嫌じゃないなら、ココがいい」

『ふふふ。サラがいいならぁ~、僕は~、いいよぉ~』


 サラはピカードの大きな体を椅子にして座っていた。

 体が大きなピカードの声は、ゆったり、のんびり、響いてくる。

 肩にはオカメちゃんが相変わらずとまっていて、サラと一緒になってピカードのモフモフを堪能していた。

 クロもサラと一緒にモフモフのクマを椅子代わりにして座っている。


 目の前には大きなテーブル。

 その上には、様々な料理が並んでいる。

 クロは聖獣のなかでは若いので、料理の数々に興味津々といった様子で色々と聞いてきた。


『ねぇねぇ、サラ。この美味しそうな匂いのする熱々の茶色の塊は何ていう食べ物?』

「ハンバーグだよ。食べてみて」


 サラはクロの前にあるハンバーグへナイフを入れた。

 ホカホカと昇る白い湯気と共に、じゅわぁ~と肉汁が溢れだす。


『美味しそぉ~』

「おいしいよ。ほら」


 サラは切り分けたハンバーグをクロの口元へと持っていく。

 滴り落ちる肉汁で汚れても、聖獣の加護なのか、誰かが浄化魔法をかけているのか、スッと何処かへ吸い込まれるように消えていった。


(便利だな、異世界)


 サラはそう思いながら、クロの目が真ん丸になってキラキラしていく様子を眺めた。


「気に入った?」

『うんっ』


 元気なお返事と共に、クロはナイフとフォークを手に取った。


『あとは自分で食べるっ』

「え? ナイフとフォーク、使えるの?」

『うん。持ってるわけじゃないけど、女神さまの加護で色々とできるんだ』


 そう言いながらクロは自分の手元を見せた。

 ナイフとフォークは握られているわけではなく、ちょっと浮いた状態でクロの手の中にある。


『道具を使うときには、こんな感じなの』

「そうなんだ」


 クロが美味しそうにハフハフとハンバーグを頬張っているのを見て、ピカードが羨ましそうに言う。


『ねぇ~ねぇ~サラァ~。それ、おいしそうだねぇ~。ボクにもちょうだぁ~い』

「いいよぉ」


 サラは開けたままになっている無限収納庫からゴソゴソとハンバーグの乗ったプレートを探しだすと、頭の上へ掲げるようにしてピカードへと渡した。


『ありがとぉ~』


 サラが見上げると、ピカードは自分の胸のあたりをテーブル代わりにしてハンバーグの乗ったプレートを置き、一緒に渡したナイフとフォークを器用に使って食べ始めた。

 

(おままごとの玩具みたいになるのかと思ったら、相手の体に合わせてサイズまで変わってる)


 もともとの仕様がそうなっているのか、ピカードが魔法でも使ったのか。

 サラにとっては少し大きめでも、ピカードにとっては明らかに小さなサイズのプレートが、ちょうどよいサイズになっている。


(あのハンバーグ、わたしにとってはお布団サイズだ!)


 目を丸くして見上げるサラの横で、オカメちゃんも目を丸くして見上げている。

 そんなサラに、クロがハンバーグのお替りを要求しつつ話しかけてきた。


『コレ美味しい。もう一個食べたい』

「うん、いいよ」


 サラがハンバーグの乗ったプレートを渡すと、クロが心配そうに言う。


『サラも何か食べない? お腹空いてるでしょ?』

「あ、そうそう。わたしも何か食べなきゃ」


(いけない、いけない。長年の社畜生活で空腹を我慢する癖がついちゃって……この体は小さいから、こまめに栄養補給しなきゃ)


 サラはテーブルの上に視線を向けた。

 色々とごちそうが並んでいるが、今の気分はソレじゃない。


「ん~。もっと簡単に食べられるもの……」


 サラは無限収納庫のなかを覗いた。


(本当に食べ物だけでも色々あるなぁ。ピザやパスタもある。何がいいかなー)


 サラの肩に乗ったオカメちゃんも興味津々といった様子で中を覗いている。


「あー、オカメちゃんも食べたいものある?」


 サラは小松菜を取り出してオカメちゃんの前に差し出してみた。


「びぎゃー!」


 するとオカメちゃんは、興奮して葉っぱ相手に喧嘩を始めただけで、食べる様子がない。


「食べ物なんだけど……」


 サラは困惑した。

 どうもオカメちゃんは食への興味が薄いか、食べ物の好みがうるさいようだ。

 フルーツは食べるようだが、さっき試しに与えてみたシャインマスカットは少し齧っただけで、咥えては落とし、咥えては落としを繰り返していた。


「まずは、わたしの食べるものを探そう……あ、コレよさそう」

『もぐもぐもぐ。サラ、それは何?』


 クロはハンバーグに舌鼓を打ちながら、サラの手元に興味津々といった様子の視線を投げた。


「雑穀入りのおにぎり。コレは……シャケって書いてあるね」


 一個ずつ丁寧にお皿へ乗せられたおにぎりの横には、ステータスでも表すように品名やら中の具やら成分表やらが表示されている。

 サラはシャケの入ったおにぎりを取り出すと、両手で持って一口食べた。


「あ、美味しいっ。やっぱり日本人は米っ!」


 サラは自分が銀髪に青い瞳の3歳児に転生したことを忘れ、叫んだ。


「ぴぎゃっ」

「ん? オカメちゃんもコレ食べるの?」


 サラが肩の上で騒ぐ鳥類へと視線をやると、鳥類はサラの持ったおにぎりに熱視線を送っていた。

 ヨダレを垂らしそうな勢いで、クチバシからピンク色の小さな舌を伸ばしている。


「びぎゃっ」

「あーハイハイ。今あげますよ」


 オカメちゃんの要求に従って、サラはおにぎりを少しちぎって手のひらに乗せて、自分の肩に乗ったオカメちゃんの前に差し出した。

 すると鳥類は舌で一粒ずつペロペロしながら、器用に一粒ずつクチバシでとって食べ始めた。


「んー、オカメちゃんの好みは炊いた米ですか。雑穀入りだから、ヒエとかキビとかを選んで食べてるのかなぁ? でも鳥類、炊く前の穀物のほうがよくない?」

『ハハハ、サラ。ボクたちは聖獣だから、野生動物とは違うよ。オカメちゃんも聖獣で普通の鳥じゃないから大丈夫』


 クロが笑いながら言うと、オカメちゃんもその通りと言わんばかりに肩の上で「ぴぎゃっ」と胸を張る。


『それにボクたちが普段食べている物も、多分、サラの想像とは違うよ。木に実っているサンドイッチとか、サラダとかだったりするからね』

「それってどんな……」

『森のなかに行くと色々あるんだぁ。明日にでも案内するね』


 クロが言うと、他の聖獣たちもコクコクと頷いた。


(女神さまぁ~。甘やかしすぎというか、特殊設定すぎるのでは?)


 サラが口元をヒクつかせながら戸惑っている前で、聖獣たちは『ハンバーグうまー』とか言いながら無邪気にはしゃいでいた。

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