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辺境王女の「勇者召喚」活用術 ~王女様、それは勇者様の無駄遣いでは?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第3幕 王女様、気弱な勇者様を救い出す

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3-1.新たな勇者様


 ヨーベルト=サモン。

 

 エルギアン王国の王族にして、1000年前に魔王を打倒した勇者の末裔。

 

 王族は皆、その容姿は例外なく美しいと国内外問わず評判だ。

 噂は誇張されて広まるのが通常である。

 だが、実際に外出されている第1王子様や王女様を見かければ、その清廉なる美しさに男女問わず見惚れてしまう事例が相次いでしまう。

 

 噂は真実として広まり、その美しさを少しでも後世に伝える手伝いがしたいと、あやゆる芸術家が売り込みをかけてくる。

 なので国王と王妃はもちろん、その子供である王子や王女の1人1人に専属の宮廷画家や彫刻家が当たり前のように居る。

 日々その美しさは形となり、城下町には王族の作品だけを集めた美術館が出来上がるほど。

 連日、それらの作品を見ようと近所はもちろん国外からも。庶民から貴族まで、様々な人達が鑑賞にやってくるぐらいだ。


 しかし、美術館へ行った事のある少なくない者は首を傾げる。


 何故、第2王女であるアイラ様の作品は――幼い頃のしか無いのだろうと。



 ◇


 領主の自室――つまりは第2王女アイラの自室。

 

 公務を行う執務室は他にあり、ここは純粋に寝泊りと私生活を送る為だけの部屋だ。

 それでも中型の魔獣なら容易く入れそうなくらい広い。

 だがその広さに反し、あまり調度品が置かれておらず、清廉さを強調した白く独特な形をしたタンスや本棚が並べられている。

 さらに部屋の奥には、様々な用途に合わせてオーダーメイドされたドレスなどの衣装が置いてある衣裳部屋まであるのだが、基本的に人が立ち寄らない事をいい事に、アイラの人に見せられない私物なんかも置いてある。

 

 今日はそんなアイラの自室に関して通達を出してある。

 他の使用人、メイド達はアイラまたはリーシャが呼ぶまで近寄るべからず。

 

 その理由は――。

 

 

 

「はい第3回、勇者様召喚の儀を執り行いたいと思います。パチパチパチ――」

「パチ、パチ、パチ」


 2人と1冊しか居ない部屋に、乾いた拍手が響く。

 

 通常の公務を終えたばかりなので、まだドレス姿のままのアイラ。

 いつも着ている胸元を強調し、丈の短い専用のメイド服を着ているリーシャ。

 フワフワと宙に浮いている白い魔導書ソロ。

 

 いつもの2人と1冊だ。


『今日はササキの奴はいねーのか?』


 ソロがそう聞くと、不満そうに頬を膨らませるアイラ。

 そういった表情をしている時は、年齢相応の少女のようだ。

 しかしこれが本当の顔という訳でもない――公務を行っている時の彼女もまた、本当の顔ではあるのだ。


「ずっと筋肉痛が酷いからって召喚拒否してんのよ」


 やれやれ――と首を振るアイラ。

 

『まぁ、あんだけ長時間トンネル掘らされて、呪文で回復され続けたらそうなるか……』


 ほんの半日くらいだ。

 確か岩盤が硬く、消耗も激しいから必要以上に佐々木へ魔力を注ぎ込んだ気もするが――アイラは気にしないでいた。

 

「それで、今回はちょっと目的があるのよね」

『条件の指定か? どんなの喚ぶ気なんだ』


 ソロの召喚術。

 それはこの世界とは違う、異なる世界より“勇者”を喚び出す魔術。

 門外不出。前代未聞。これをダンジョン深くへ隠した事も頷ける話だ。

 しかも事前に条件を指定すれば、それ合う人材が自動で選ばれる。

 便利が故に、新規の召喚は1日に1回が限度――それでも充分過ぎるほどに凄まじい魔術だ。

 

「画家よ」

『画家。なんでまた』

「この間、用事があって町長の家に行ったんだけど――息子に立派な肖像画を描いて貰ったって自慢されてね」


 ちなみにその息子さんは7歳だ。

 絵は――中々に前衛的な印象派という事だけ記しておく。


『それに対抗しようと?』


 その問いには否定する。

 

「ううん……それで最近、絵とか全然描いて貰ってないって言ったら町長が『アイラ様の美しさを残せないなんて、芸術界の汚点になります。もし誰かに描かれる予定が無いのなら、ワシが描きます! 描かせて下さい!』って言われて……」


 必死に懇願する、頭頂部の薄い町長の姿が目に浮かぶ。

 

「いくらなんでも、それを屋敷へと飾るハメになるは回避したいですね」

『それで画家か』

「私が領主としてこの屋敷に来てから、色々忙しくて描いて貰ってないのよね……専属の人も居ないし」

「王都に連絡して、他の宮廷画家の人に来て貰う事も出来ますが――」

「片道1週間もかけて呼ばせるのも悪いし……何より、あの人らの描く肖像画ってあんまり好きじゃないのよね」

『どんなの描くんだよ』

「なんかもう、めっちゃ誇張すんの。実物よりも眼がキラキラしてる。グレンデル兄様は縦に細くなってるし、姉様なんか胸10倍も盛ってるし」


 自身より遥かに大きな胸を誇張して表現する様子に、ソロも笑ってしまう。

 

『ガハハッ。そりゃちょっと1回見てみてーな。画も、本人も』


 アイラはアゴに手を当て、思案するように片足を椅子に乗せる。

 行儀が悪い。

 

「そんなんじゃなくて、もっとカッコイイのにして貰いたいわ」

『……ん?』

「やっぱりこう杖を構えて、ソロを片手にポーズとか――あと背景で、爆発なんか起きてるとより良いわ」


 キラッと目を輝かせるアイラ。

 

『あっ、そういうの……』

「でも立場上、そんなのオーダーできないし」


 心から残念そうにベッドへと腰掛ける。

 

「できたとして、それ屋敷の貴賓室などには飾れませんね」

『まぁいいや。ともかく絵が描ける勇者だな』

「ええ。じゃあいくわよ――」


 杖を両手で構え、一呼吸を挟む。

 アイラは、魔力を魔導書へと伝え、呪文を唱え始める。

 

「――魔導書ソロ、6ページ!」


 その声に答え、ソロからもまた魔力の波動が発生する。


「来たれ、我が呼び声に応え給え――現れ出でろ、顕れ出でよ。顕現せよ、異界の勇者――サモン!」


 いつものようにソロの中心より多重魔法陣が起動される。

 様々な色の魔法陣は、その場で回転し、その速度はどんどん上がっていく。

 次の瞬間――白い閃光は部屋に居る者すべてを照らし覆い尽くす。

 

 やがて光は収束し、その中心には1人の少女が居た。

 

「……ふぇえ!?」


 黒髪は細くて柔らかそうで、ふわりと肩に乗って揺れていた。

 その愛らしい顔立ちは、どこか幼さの残る。


 今の彼女は、まるで追い詰められた小動物だ。


 目はうるうると、頬はこわばり、今にも逃げ出しそうな気配を全力で発していた。

 オオカミを前にした兎のように、その小さな身体を震わせていた。


 背丈はアイラよりも小さい。

 さらに猫背気味に縮こまっているせいで、余計に“ちんまり感”が強調されてしまっていた。


 そして両手には、ぎゅっと握りしめられた青い麻袋。

 ……いや、麻袋と言っているが、見た目には異世界の材質で出来た袋だ。

 アイラの記憶では、確かリュックサック――という名前だったはず。

 本人の抱え方だけは妙に切迫していて、まるで命より大切なモノでも入っているかのようだ。


 とにかく、見ているだけで保護欲を刺激される、そんな少女だった。

 

「こ、ここここ――」

「ニワトリかしら」


 キョロキョロ辺りを確認する少女。

 ブレザーと呼ばれる紺色の制服を着ており、スカートも紺と黒のチェック柄だ。

 恐らくは佐々木と同じく彼女も、異世界での学生だろう。

 少女は思わず傍にあった椅子に隠れ、叫んだ。

 

「――ここはどこですかぁ!?」


 当然の反応ではあるが、彼女はもう少し大げさだ。

 それに対して、不安になりそうなくらい威圧感のある声色のままリーシャはこう告げる。

 

「ここはエルギアン王国です。そして、こちらにあらせられるのは――」

「私はアイラ=ヨーベルト=サモン。このエルギアン王国の第2王女です」


 ドレスの端を掴み、お辞儀するアイラ。

 初対面なので、世間様モードである。

 

「お、おおおお――お姫様ッ!?」


 小さな口を大きく開け、可愛らしい声で驚く藤花。

 

「ちなみにこちらは従者であるメイドのリーシャです」

「どうも」

「メ、メメメメ、メイドさん!?」

「あとこの本は大魔導師のソロです」

『よろしくな、ちびっこ』

「ほ、ほほほんが浮いて喋ってるぅッ!?」

「面白いわね、この子」


 驚きの連続過ぎて、空いた口が開きっぱなしの少女を見て、クスリと笑うアイラであった。


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