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辺境王女の「勇者召喚」活用術 ~王女様、それは勇者様の無駄遣いでは?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第2幕 王女様、勇者様を召喚せん

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2-1.まず自己紹介から帰還まで


 アイラ=ヨーベルト=サモン。

 

 エルギアン王国の王族にして第2王女。年齢は15歳。

 その王族を象徴するかのような美しい金の髪は、見る者を魅了する。

 容姿端麗で品行方正、しかし同年代と比べるとやや身長が低め。

 

 この国では王族は、まずは領主を数年務める。

 その中で民の声を拾い上げ、また公務に携わる事で責任感と現地と実態を学ぶ――。


 しかし彼女がまだ10歳の頃、領主に就任した事はこの国でも異例中の異例だ。

 それだけ彼女が優秀だった事もあるが――真実を知る者は、ごく一部の関係者のみだ。


 ◇ ◇ ◇



「じゃあ第1回。勇者様を囲う会を開きたいと思います。はいパチパチパチ」

「パチ、パチ、パチ……」


 2人の拍手が広い部屋に空しく響く中、呼び出され勇者と呼ばれた青年は困惑していた。

 

「……勇者って誰? オレ?」


 アイラは改めて勇者を視野に入れ、上から下まで観察していく。

 

 頭は黒曜石のような黒い髪が短く整えられているが、どこか不均一でツンと立っている。


 この国のどの青年にも似ていない顔つき、不思議な佇まい、見た事もない生地の服装。

 身に着けている服は、鎧でも礼服でもなく、均一な布で仕立てられた厚みのある上着と、タイル柄のズボンの組み合わせ。

 肩や胸に金属の装飾はなく、貴族でも庶民でもない――どれにも当てはまらない“異国の装い”だった。


 背丈は十分に高く、アイラより頭2つ分ほどは上にある。

 すらりとした体つきには、どこか男性特有の力強さを感じる。

 その瞳は、曇りのない鈍色。

 戸惑いの色を隠さない、まっすぐな光を宿していた。


 不思議な世界から突然やってきた、陽の気配をまとった異郷の青年――そんな印象だった。


 

 ソロとの契約、からの勇者召喚は光だけでなく音や振動なども凄かったらしく――屋敷中のメイドや使用人達が何事かと騒ぎだしたので、それを収める為に色々と駆け回った。

 幸いにもこの屋敷は小高い丘の上に建っており、その周囲を森で囲まれて民家などは一切無いので、領民まではこの騒動は届いていない――と、アイラは思う事にした。


 自室に待機して貰っていた勇者は、目をパチクリさせながら突っ立っている。


「そうです。さぁ、お掛けになって下さい」


 手近にあった椅子へと着席を促す。

 ここには客人を呼ぶ事は無いので、アイラ自身はベッドへと腰を掛ける。

 リーシャは後方で。勇者を観察しながらも待機している。

 

「はぁ――アンタ……いや、貴女は王女様って言ったよな」

「そうです。改めて名乗りますわ」


 アイラは立ち上がり、少しだけノドの調子を整える。

 そして胸元を上に逸らし、自身の手を当てた。

 

「――私はアイラ=ヨーベルト=サモンですわ。気楽にアイラとお呼びください」


 そう言い終えると、青年はすかさず挨拶を返した。

 

「オレは“佐々木 大樹(ささき だいき)”だ。高校生で、今年16歳になる」


 自己紹介をされたが、いきなり知らない単語が出てくる。

 

「コウコウセイ?」

「……アイラってアメリカ人とかじゃないよな。日本語上手いな。日本知ってる?」

「アメリカ? ニホン? ここはエルギアン王国という、勇者様から見て異世界の国ですわ」

「異世界!?」

「理由があり、この世界へ勇者様をお呼びしたのです」

「それで俺が勇者……」


 まさか契約のテストで適当に呼んだとは言えない。

 

「よろしければ、そのニホンというものを教えて頂きたいのですが」

「えーっと……オレは日本って国に住んでいるんだが……日本語ってのはそこの言葉だ。他に英語とかフランス語とか色々あるけど」

「いいえ。さっぱり話せませんわ――でも別世界から呼んだのに、なんで会話ができるんでしょうか」


『そこは俺様が説明してやろう』


 アイラの机の上に置いてあったソロが、宙に浮いてアイラ達の下へとやってきた。


「説明されても私しか聞こえないんじゃ……」

「えっ、何この本。宙に浮いてるし……なんか生きてるのか?」


 佐々木が本の端っこをツンツンと触る。


『本ではない。大魔導師ソロ様だ。あとツンツンするな』


「ソロって言うのか」

「普通に会話してますね……」

『召喚対象とは会話できる。さらに言えば、召喚された勇者はすべて嬢ちゃんの知識の一部を継承する』

「知識の一部?」

『この世界の言葉とか文字とか――まぁそういう最低限の部分だな』

「便利だなぁ……じゃあ、やっぱりオレって異世界に召喚されたって事なのか?」

『そうなるな』

「すげぇ! 漫画とかゲームでよくあるヤツじゃん」

「全然言葉の意味が分からないわ……勇者の知識は継承されないのね」

『水で例えるなら、術者の方が上流だと考えてくれていい。上流から下流へ魔力や情報は伝達できるが、逆は難しいと――』


 ソロの説明を聞き終える間もなく、佐々木は身を乗り出すようにアイラに迫る。

 

「それで!? オレってどんなチートスキルとか持ってんだ?」

「ちーとすきる?」


 またアイラにとって聞き覚えの無い言葉。

 しかし、それにソロは反応した。


『おいおい物分かりが良いじゃねーか。説明もしてないのに、加護(スキル)についてもう知ってんのか』

「そりゃ異世界転移とか転生だと定番だろ。呼ばれる特典で色々できたりするのは」


 自信満々にそう断言する佐々木。


『ニホンという国じゃ加護(スキル)持ちがそんなに居るのか?』

「いやいや。魔法もスキルもなんもない。でも、そういった創作? おとぎ話と言えばいいんかな。そういうの流行ってんだ」

『まぁそれなら話は早い。お前の言うチートスキルってのは、もう付与されてるぜ』

「マジか」

「それはどんなものですの?」


加護(スキル)の種類については呼び出された勇者によるけどな……ただ召喚の時に使う魔力量が多ければ多いほど、より強力なスキルが付与される。さてササキのスキルは……』


 <身体能力を倍にする>


「なんですの、ササキ様の頭上に出てるこの文字は」


 こちらの世界の言語で書かれた、白い文字が浮かび上がっている。

 佐々木が自身の頭上で手を振って見るが、すり抜けるだけだ。


『俺様が分かりやすいように出してやってんだ。これも嬢ちゃんか、勇者と俺にしか見えない文字だから安心しな』


 片方の手のひらに、もう片方の握り拳を打ち付ける佐々木。


「身体強化か。いいじゃねーか!」


 目を輝かせ、勢いよく立ち上がる。

 窓の外へ視線を移し、思案するポーズを取った。


「せっかく異世界に来たんだし、モンスターとか戦ってみたいなぁ」


 佐々木は軽く言ったつもりなのだが、それにアイラとリーシャは渋い顔をした。

 

「うーん……流石にササキ様を外に連れ出すのは……」

「そうですね。アイラ様も公務以外でお外に出られるのは止めた方が良いかと――」

「それにこの部屋の泊まるのは……ササキ様は、ずっとこちらに居るんですの?」


 最大の懸念だ。

 王女の部屋に使用人でもない、どこの馬の骨とも分からない男が寝泊まりするなど言語道断だ。

 この部屋からの出入りすら見られれば、どんな噂が立つか予想できる。


『送還は可能だぜ。1度呼び出した勇者は、次回呼び出す時には半分の魔力量で済むしな』


 ソロは事も無く言った。

 これはアイラにとっても願ってもない話である。


「なら話は早いですわ。夜通しで私も疲れてますし、1回帰って貰ってよろしいですか?」


 いきなり呼び出した側とは思えない発言に、佐々木も驚く。

 

「えっ。日本に帰ったりする展開って、ストーリー終盤とかエンディングくらいじゃね?」

「そういうものなんです?」

「ああ。それでヒロインを連れて帰ったり、あるいは永住を選んでずっとこっちに居たりと色々あるん訳だが……」

「それは大変興味深いですね」

 

 佐々木がアイラの部屋の中を、不躾(ぶしつけ)にジロジロと見る。

 

「しかしこの屋敷大きそうだし、他に客室とか無いのか」

「あるにはありますけど、ササキ様を呼び出した事そのものが公にできない事なので……」

「布団だけ用意してくれたら、別にちょっとぐらい泊っても構わないけどな。オレにも小学生くらいの妹居るし、気にしないぜ」

「ショウガクセイ?」

「ああ。年齢だと10歳くらいだな。アイラも、そんくらいだろ?」


 一瞬だけだが、空気が軋んだ音がした。

 

「……私、こう見えても15歳ですの」

「えっ。1歳下!? 妹と同い年くらいかと思った」


『ギャハハ! そりゃ嬢ちゃんに色気は無いもんな!』


 ソロを床に叩きつけて足で踏みつけるアイラ。

 もちろんダメージなど入る訳がないが、それでもやりたくなったからやったのだ。


「――ともかく私も王女としての立場がありますし、殿方を部屋に泊める訳にはいきません」

「お、おう……じゃあしょうがないな」


 佐々木は少しビビったような表情をしている。

 アイラはソロを掴み上げ、本を開き帰還用の陣を展開する。


「ではまた空き時間が出来れば、呼びますので」

「おう。ゴブリン退治でもなんでもやるぜ」


 それだけ言い残し、佐々木は陣の中へと消えて行ったのだった。


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