6-8.王女様と人形の戦い・2
「ひゃはッ! ヒャハハッ! 我が眷属よ、我が呼び声に、その姿を顕現せよ――」
自由に動きが取れないと考えたのか、すぐにジェシーは杖を構え、呪文を唱える。
宙に浮いた紙の魔法陣から黒い魔力がほとばしり、2人を弾き飛ばした。
「ぐぇ」
「ッ!」
そこですかさず、杖を正面に構え呪文を完成させる。
「魔導書クロ、9ページぃ――ドールッ!」
そこら中の土くれが、2mほどの人型へと変貌した。
その数11体。
「さぁ、さぁさぁさぁ――いきなさいぃ」
「……」
モノ言わぬゴーレム達はアイラ達に襲いかかる。
「やっぱり掴むだけじゃ! 根本的な解決に! ならないわね!」
「ではササキ様を囮にして、少し考えてみますか」
「さらっとなんか言ってけど! このゴーレム、腕とか頭とかふっとばしても再生しやがる!」
『そりゃ術者の魔力を絶たねーと、一生襲われ続けるぞ!』
「そうなると、やっぱり本体叩くしかないんだけど……」
最初にやった全力アッパーカットによる衝撃波でも、あの紙はビクともしなかった。
つまり、ソロと同じ物理攻撃を寄せ付けない材質で出来ているのだ。
どうにか出来るとすれば強力な魔術だが、当然アイラは使えない――。
『嬢ちゃん、66ページだ!』
「えっ、何よそれ」
『勇者召喚の魔術は1つだけじゃねー。その先がある』
「そんな便利なのがあるなら――」
『もっと嬢ちゃんが上達してからと思ってたんだけどなぁ、しょうがねぇ』
「みんな! 少しだけ、時間稼ぎよろしく!」
アイラは大きく後方へ飛び、息を整える。
どっち道、もう魔力解放できる残り時間は無い。
ならば、この新呪文に賭けるほかない。
「なぁにするのかしらぁ?」
2人だけでは流石に11体のゴーレムを抑えきれず――。
「くえええ!!」
「え、えーい!」
空からその鋭い爪が、ゴーレムの体を1撃で真っ二つにする。
さらに、光る障壁が他のゴーレムの進撃を防ぐ。
「藤花! それにグリも来たんだな!」
「くえー」
「グリちゃん、気付いたら屋敷近くまで来てて……ボクらのピンチ、察してくれたのかな?」
グリのもふもふした毛に覆われて藤花には見えないだろうが、その首にはあのお守りがしてある。
恐らくはそれのせいだろうと――アイラは微笑んだ。
「さぁ、ソロいいわよ」
『来たれ、我が願いに応え給え――現れ出でろ、顕れ出でよ――』
「来たれ、我が願いに応え給え――現れ出でろ、顕れ出でよ――」
魔力をソロへと送るのだが、その量がいつもより断トツに多い。
さらにソロを中心とした魔法陣も、その種類が3つほど増えている。
紅、蒼、碧、白、琥――それに紫、黒、緋が加わる。
「異世界の勇者よ、その真の姿を示せ――魔導書ソロ、66ページ。開かれよ!」
「メア・サモンッ!!」
魔法陣より放たれた山吹色の光が、全てを飲み込む。
そして爆発するような光の中、アイラは手を伸ばした。
パシッ。
「おかえりなさい、アサヒ」
「ただいま、アイラちゃん」
魔法陣から現れたのは朝陽だ。
その手をしっかりと握りしめ、魔法陣から引き上げる。
彼女は帰る前と同じ格好――ではなかった。
「なんか、服変わってない?」
侯爵家指定のメイド服ではなく、いわばリーシャと同じメイド服にモデルチェンジしていたのだ。
胸元は強調され、スカート丈が短く、長いニーソックスにガーターベルト。
「いかがわしさが増してるんだけど。こんなの見られたら、また泣かれちゃう……」
「きちんと、お話できた?」
アイラがそう聞く。
誰と――は聞かなかった。
「えぇ……これで、ジェシーとも向き合えそうよ」
「あらあらあらぁ……アサヒじゃない? 逃げたのかと思ったわよぉ!」
ジェシーは杖を振りかざすと、アイラと朝陽の周囲の土くれが、即座にゴーレムへと変貌する。
「わたしの子供達が、オーラン様との愛が! ここにある限り、わたしは強くなれるの!」
「きゃっはッ。もうアナタの愛なんかいらないわ!」
「そう――でも残念。アタシの愛は、そんな事じゃ挫けないから」
朝陽の頭上に現れた加護が表示される。
だがいつもと違い、その文字は金色に塗りつぶされていく。
<|サーキュレーション《愛を持って世界と貴女に祝福を》>
アイラには意味が分からなかった。
だが、朝陽の顔は――全てを理解しているように自信に満ちていた。
「アイラちゃん、私を強く想っていてね。信じてくれれば、アタシは戦える」
「分かったわ」
「でね……ちょっと悪いんだけど、今は自力でなんとかして!」
「……はい?」
さっきと言っている事が真逆である。
その間にもゴーレムは迫って来ていて――。
「この!」
残る数秒の解放を行い、その頭を粉砕するも――やはり再生していく。
「全くどういう事よアサヒ……あれ?」
さっきまで目の前に居た、朝陽が消えている。
いや、朝陽って誰だ――そう考えるアイラだったが、
『嬢ちゃん。アサヒは今、存在が消えているんだ!』
ソロの声で我に返る。
「――ハッ」
『あぶねーところだったな』
「ちょっと存在って、今までの姿を消すのとどう違うのよ」
『”不可在”のスキルと違い、これは完璧に世界そのものから存在を消せる――かなり危険なスキルだ。オレ様とお前は辛うじて認識できているが、ジェシーの見ろ』
「あれ、あれぇ……わたし、わたしは……誰を“愛”していたの? あい、あいってなんだっけ……」
すべてのゴーレムは動きを止め、元の土へと戻っていく。
「どういう事?」
『アサヒは自分の存在と一緒に、この世界の“愛”を一時的に消したんだ――』
「それ、かなり危険じゃないの!?」
『――66ページは、世界に干渉する力へと覚醒するとは限らねーが……まさかの大当たりだな』
「大丈夫なんでしょうね!」
『そこの嬢ちゃんの力量次第だ。いいか、心を強く持て。そして、アサヒの存在を強く願え!』
消えそうになるアサヒの笑顔。
パチンッ!
自身のビンタで、気合を入れ直す。
「やってやろうじゃない――再び世界に帰って来なさい、勇者アサヒ!」
アイラが全力でその名前を呼ぶ。
他のみんなは、アイラが誰の名前を呼んでいるのかさえ分かっていない。
『そして、この世界に再び顕現する時――』
アイラの目の前に、まるで最初からそこに居たかのように、メイド服の朝陽が立っていた。
光を発する訳でもなく、派手な演出があるのでもなく――世界が、朝陽を思い出したのだ。
『消していた事象の重さだけ、アサヒは強く輝く』
いや。
戻って来た朝陽自身は、まるで日の出の太陽のように――輝いていた。
「ありがとうアイラちゃん、じゃあ行ってくるね!」
朝陽はジェシーに、全力で駆け寄る。
「アサ、ヒ……?」
「ごめんねジェシー……」
朝陽が強く抱きしめると――ジェシーの体は砕け散り――二度と戻る事は無かったのだ。




