6-5.名探偵な王女様、事件を解決
昼前、オーランが言った通りに街から駐在兵士を連れて戻って来た頃――再びホールには屋敷全メイドと執事、他使用人が集められていた。
「うん? これはなんの騒ぎだ」
「オーラン様」
「アイラ様。もうお加減はよろしいのですか?」
「もちろんですわ――そしてオーラン=ギルベルト! 第2王女アイラ=ヨーベルト=サモンの名において、アナタを……上級メイド殺人事件の、真犯人共謀の罪で拘束しますわ!」
「なっ!?」
これはオーランはもちろん後ろの兵士も、何をやるか聞かされなかった他多数の使用人たちは驚き、ざわめいた。
「なにをご冗談を……」
「まずアナタはあの事件が起きた夜――駆け付けた執事のギーヌさんに、警報を鳴らすよう指示しましたわね」
「その通りです。坊ちゃんに指示を受け、すぐさま鳴らしました」
「その後、他の警護兵やメイドがこの部屋にやってくるまでの間――何をやってましたか?」
「なにって……部屋に居たが……」
「部屋で、情事の始末でもしてましたか?」
「う”ッ」
「ササキ!」
「へーい」
アイラが手を上げると、バッとホールの窓のカーテンが閉められ――一瞬の暗闇。
そしてすぐにホールの白い壁にその“映像”が映し出されたのだ。
ササキの用意したホームプロジェクターと朝陽のスマホを繋げ――そこに、昨晩の情事が映し出された。
『ああ、オーラン様!』
『おお。さすがマレーナだ!』
ザワついていた者は皆、開いた口が塞がらなかった。
「こ、こここここ」
「ニワトリかしら」
「これはなんだぁぁ!?」
オーランは、これまでの紳士的な態度は崩れ去り――叫んだ。
「なにって、貴女が1番良く知っているんではないかしら……でもまぁ、今はこれが問題じゃないの」
マレーナが腰を振っている場面で一時停止。
まだ成人もしていない使用人の中には、顔を真っ赤にしている者もいる。
オーランは、別に意味で顔を真っ赤にしているが。
「ここのテーブルの上にある果物カゴ。美味しそうなリンゴね――ここに見覚えのあるナイフがあるわよね」
超高画質で撮影された映像は多少アップにしても、画質が崩れることなくナイフを映し出す。
そして、アイラはリーシャよりハンカチに包まれたナイフを受け取る。
「これはアナタの書斎に落ちていたナイフだけど――どう見ても一緒のモノよね」
「果物ナイフなんてこの屋敷にはいくらでも……」
「ところがなんと――アサヒ!」
「これはメイド達だけが使っていた帳簿です。最近、アタシが作り始めたモノですが――マレーナさんは非常に優秀な方です」
羊皮紙で作られた帳簿には、黒い罫線で区切られた帳面が開かれていた。
一頁の中で、品目ごとに行が引かれ、数量と保管場所が几帳面な文字で並んでいる。
「台所から持ち出したワイングラス、果物カゴ……そしてナイフ。全て、昨晩持ち出された記録が付いています。他、持ち出されたモノは全て所在を確認済みです」
「つまり――これは間違いなく、オーランの部屋にあったナイフです」
ざわっ、ざわっ――。
「でもこのナイフ、犯行に使われた訳では無い――」
「えぇ。このリーシャが鑑定する限り、これはまだ血を吸ったナイフではありません」
「どういう事だ、何が言いたい!」
「つまり――アナタはマレーナが刺されたナイフを回収して、果物ナイフに差し替えた――エリカさんに罪をなすりつける為にね」
アイラが指を差すと、オーランは口をパクパクとさせながら、今度は表情が青くなっていく。
「そしてアナタが私に見せてくれた、エリカさんを犯人だと断定する証拠――それ、ここで見せて頂いてもよろしいでしょうか」
「っ!?」
「確か、紫のタイ……侍女長である彼女のしか持っていないもの……」
「お、おおそうだ。このタイこそ、エリカが犯人である証拠――」
「すまねぇな、オッサン!」
「うわっ、なにをするッ!!」
懐から取り出したタイを――背後から奪い取るササキ。
そして、そのままアイラの下へと運んだ。
「ほれ」
「ありがと――やっぱり。このタイ、紫なのは半分だけね」
アイラが高く掲げると――確かに半分が紫色で、もう半分は青色だ。
ざわめきは収まらない。
「これ書斎にあった赤いインクが零れて、染み込んで――それを咄嗟に拾い上げたのでしょう。もしこれが見つかれば、決定的な証拠になると」
「そのせいで――左手の指先に、少しインクが付きましたね」
オーランが咄嗟に左手を隠すが、そのような行動を取れば周りにどう思われるか瞭然だ。
「ちなみに――あまり出したくはないけど、これ」
アサヒが、透明の巾着(ビニール袋)に入った汚れた紫のタイを出す。
「ササキ……うちの従者が今朝回収してくれたのよ。これで、彼女が犯人である根拠は無くなったわ」
「……」
「そしてオーラン。アナタがエリカを犯人に仕立て上げ、真犯人を庇った本当の理由――」
「ジェシーでございますね、坊ちゃん」
人だかりが左右に分かれ、1人の女性が警護兵に付き添われてホールへと入って来た。
侍女長の、エリカだ。
「ジェシーさんって確かアサヒを除けば年長の下級メイドよね」
「一言余計よ、アイラちゃん」
「エリカ――」
「坊ちゃんの部屋の合鍵を持っているのは警護兵長と私、亡くなったマレーナを除けば……それは愛人の女性のみ。そういったところまで、お父様に似られたのですね……」
「……くっ」
「もしかして犯人の姿を直接、見たのではないでしょうか」
「そうだ……アレは確かに、ジェシーだった……」
「アナタは私との縁談の話が来た時すぐに――マレーナさんに乗り換えたのですね。彼女が愛人だと知られては困るので……どうしてなんですか?」
「……彼女は、実は……」
オーランが言い掛けた、その時だった――。




