6-4.朝陽のメイド探偵活動
「いきなり交信してきて何かと思えば……真犯人を探せって。アタシは名探偵じゃないわよ」
一部始終を全て見ていたアイラは、すぐに私に連絡をしてきた。
要件は1つ――犯人を見つけ出し、ギルベルト侯爵へ貸しを作ると。
(そこ3階でしょ? エリカさんの老体で魔力解放なんて無理だろうし、魔術は呪文無しじゃ起動できないし……ソロに現場の下へ見に行かせたけど、一切魔力の痕跡を感知できなかったそうよ)
ちなみに今も、私の頭の中には彼女からのメッセージが届いている。
「で、アタシはどうすればいいの?」
(まずは、そこのナイフを拾ってみて)
「うげぇ――血で汚れて……ない?」
まさか指紋鑑定なんかこの世界にないはず――と思いつつも、ハンカチで包むようにナイフを拾い上げる。
もう完全に乾いてしまった赤黒い血だまりの上に落ちていたナイフは――少々血で汚れてはいるものの、比較的新しい状態だった。
(やっぱり……あと、そのナイフを彼女の刺された傷跡に合わせてみて)
「えぇ!? もう1回刺すの?」
(アナタが居なくなった事、じきに気付かれるわ)
「はいはい……」
厚手の布をめくると――裸同然で、瞼は閉じたマレーナがそこに居た。
その胸元には、血で汚れた刺し跡がしっかりと残っている。
恐る恐るナイフを差し込もうとすると――。
「あれ。傷跡より、ナイフの方が小さいわね」
ナイフで根元まで差し込んでもまだ余裕があるほど大きい穴である。
(これで決まりね。少なくとも、このナイフは犯行に使われたモノじゃない)
「じゃあ犯人は……」
(まだ情報が足りないわ。エリカさんにお話を聞きましょう)
◇
オーランの自室を出たアタシは鍵を締めた後、それとなくその辺に鍵を投げ捨てる。
これでうっかり落としたモノと勘違いしてくれる、はず。
「お話できる事は、何もありません!」
その後、窓の一切無い空き部屋に閉じ込められていたエリカさんに、ドア越しで話を聞く承諾を警備兵の人から貰ったのだが――。
「このギルベルト侯爵家に仕えて40年……オーラン坊ちゃまに疑われ、皆の前で犯人だと言われ……いっそ、このまま首を吊ってしまいたいくらいです!」
そういった事を防ぐ意味でも、中にもう1人警護兵がいる。
どっちみち彼女は両手を縛られ、ついでに足も縛られて寝転がっているはずだ。
「悔しくないんですか!? アタシ、貴女が犯人だとは思ってません!」
「アサヒさん……」
「エリカさんが例えみんなに意地悪したくて厳しくしてたとしても、嫌がらせのように小指の欠片ほどの埃を取って『アサヒさん、掃除がなってませんわよ』とか言われても、ちっとも気にしてません!」
「アサヒさん?」
「……あっなんか思い出したら腹立ってきたわね……ちょっと待ってください。少し殺意抑えますんで」
「……ふふっ。このエリカ、そこまでストレートに言われたのは初めて……いや、貴女で2人目よ」
「ちなみに1人目は?」
「……ギルベルト様よ。その昔、互いに愛していた事もあったわ……」
「……他の警備兵の方も聞いてるんですけど、大丈夫です?」
「はっ、俺は何も聞いてません!」
「わたしもです!」
なにやら耳を塞いでくれた。
「昔のギルベルト様も使用人に手を出すような、とてもヤンチャなお方でした」
「ヤンチャで済むかな……」
「自室の合鍵を渡して貰い、2人だけの秘密――亡くなられた奥様とのご結婚の時に、その鍵は返却しましたが……」
「はぁ……ありがとうございます。で、1つ質問があるんですけど……エリカさんの紫のタイ、アタシと会った時点で無かったですよね。どうしてなんですか?」
「そんなの。言える訳ないじゃない……」
「やっぱり、何か事情が――」
「うっかり、おトイレに落としただなんて!」
「はい?」
「模範となるべき侍女長がそんなうっかりミスで、証たるタイを失くしたなんて……皆の前で、言えるはずもありません……」
「そんなことで……」
とはいえ本人には重要な事なのだ。
アタシは茶化したりせずに、核心へと迫る。
「すいません、もう1つ。オーラン様には、なんて言って疑われましたか?」
「えぇ。オーラン様の部屋の鍵を持っていてアリバイが無いのは、このエリカだけだと……」
たったそれだけでエリカは犯人にされたのだ。
オーランは確実な物的証拠を持っているのにも関わらず――それを皆の前で出さなかった。
それは何故か――。
「なるほど――じっちゃんの名に掛けて、謎は全てまるっとお見通しよ!」
(なに、その呪文みたいなの)
「1回言って見たかったのよ」




