6-3.王女様、事件を聞きつける
翌朝。
騒動を聞きつけたアイラがリーシャを連れだって、オーラン本宅へやってくると――1番広いホールに屋敷中のメイドが集められていた。
「これは、なんの騒ぎですか?」
「おおアイラ様、申し訳ございません……実は昨夜、この屋敷に賊が侵入したのです」
「まぁ」
アイラは驚いたように口に手を当てる。
「先日も街で騒ぎがあったばかりだというのに――怖いですわ」
騒ぎの張本人が、しれっと言っている。
「えぇ。ですがご安心ください。この事件については、既に犯人に目星は付いています」
よくよく見ると――1人だけ、床に座らされ、手を後ろで縛られているメイドが居た。
それは、侍女長のエリカだ。
「オーラン様。どうか申し開きの場を下さい。私は、決してそのような事は致しません!」
「どうしてエリカさんが犯人だと?」
「……アイラ様には説明しておく必要がありますね。こちらへ……」
オーランは何人かの警備兵を連れ立ち、屋敷の奥――自身の私室へとアイラ達を案内した。
「当時、この部屋には鍵が掛かっていませんでした。確かに閉めたはずなのに……」
ドアを開け、中へと入ると――向かって左側のドアが開けっぱなしになっており、入り口からして赤黒い血で汚れ、1本のナイフが落ちている。
そして部屋の片隅には、厚めの布で被されたモノが目に入る。
「お見苦しいものを見せてすいません。昨晩、雑用で僕の部屋に訪れていた上級メイドのマレーナが偶然、書斎に賊が侵入していたのを発見します」
書斎の前まで来る。
部屋を少し覗き込むと、本棚には古びた政治や内政に関する本。
奥にある傷のあるアンティークな机には、羊皮紙や羽根のついたペン、漏れた赤や黒のインクなどが散乱しており、それは床にまで及んでいた。
棚などは雑に開けた形跡がある。
2枚ある窓の片方は、内側より破られている。
「そこで彼女は、賊にナイフで刺され絶命……なんで、なんで彼女が……」
零れ出る涙を抑えるように、指先が赤くなるほど力を入れてハンカチを顔に当てるオーラン。
声は掠れ、肩を震わせ――本気で彼が悲しんでいるのが分かる。
「……犯人は、屋敷の外へと逃げたのですね」
「えぇ……しかし、すぐに警備兵に厳戒態勢を取らせましたが、屋敷の塀を越えた者は居らぬと……であるならば」
「あの夜、この本宅に居た人間の誰かが犯人――までは分かりましたが、何故エリカさんが犯人なのですか?」
「それは、簡単な事です」
オーランは自身の懐より少し黒く汚れた紫のタイを、半分だけ持って取り出した。
「このタイは、書斎に落ちていたモノです。そしてこの部屋の鍵を持っているのは僕と警護兵長。メイドはマレーナとエリカだけです」
しかしすぐに懐に戻してしまった。
「昨晩、警護兵長の方は……」
「敷地内の夜回りをしていましたが、必ず2人1組で行います。あの晩も。もちろん相方は1度も彼から目を離していません」
「そうなると――」
「昨晩、緊急で全メイドを招集しましたが、その時にエリカの胸元に紫のタイはありませんでした……悲しいですが、犯人は彼女です」
「そんな……」
「犯行には、台所にあった果物ナイフが使われたようです。台所の最後の施錠もエリカがやっていました……」
果物ナイフは確かにそこに落ちているのだが――。
「街の兵士に事情を話して来ます。昼前には迎えの馬車がやってくると思いますので、また別荘にお戻りください。ここは現場保持の為、一旦閉めますので」
「分かりました――」
アイラとリーシャが部屋を出ると、オーランはドアを閉めしっかりと鍵を締める。
そして自身の上着のポケットへ入れた瞬間、アイラが蹲るようにしゃがむ。
「どうしましたか!?」
「いえ。やはり匂いがキツくて――」
「それはいけない。すぐに空いている部屋へご案内します――君、すぐに回復魔導師を……」
「大丈夫ですわ。部屋でゆっくり休めば……」
「ではせめて、僕が連れて行きます」
姫様だっこで抱えられ、アイラはオーランに抱き着くように体重を預け――その隙に、姿を消した朝陽が上着から鍵を抜き取った。




