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辺境王女の「勇者召喚」活用術 ~王女様、それは勇者様の無駄遣いでは?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第5幕 王女様は婚約破棄したい・前

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5-5.勇者アサヒの過去話


 少し時は遡り。

 グリに乗ってここへ来る途中――もう行程の半分以上は飛んで来たので、一旦人里から離れていそうな森の湖へと降り立つよう命じる。

 ここで一旦、グリや乗っている自分達の休憩を挟む。

 

「グラビアアイドル?」

「そそ」


 湖の畔で赤い敷物を広げ、屋敷から持ってきたお弁当のパンを食べながら朝陽の話を聞く。


「高校じゃ黒髪におさげ、スカートの丈は膝が隠れるくらい、化粧は一切禁止。靴下なんか黒白限定でワンポイントすら禁止とかありえなくない? 学校の規定とかじゃなくて、親にそういう恰好にしろって命令されんの」


 彼女の話によると――。

 

 朝陽の家庭は、父親による厳しい規律の下で動いていた。

 テレビは教養のある番組しか許さない。アニメやバラエティー、ドラマすら不可。

 部屋の本棚には文豪の小説や、数十万もする図鑑などがズラっと並んでいる。

 もちろん門限があり、1分でも過ぎれば晩飯を抜かれる。


「それで大学に上京するって時にも、毎日必ずメールしろだのなんだのうるさくって……」

「はぁー」


 ちなみに既に魔導書によってアクセス(知識の同期)を使用済みだ。


「でもようやく自由じゃん? 大学デビューで色々ハリきって、そりゃもう色々やったよ。まず美容室行くでしょ、ネイルもやって貰って、眉も抜きまくってさ。もう原型が一切無いくらい改造してやったのよ」


 その頃の写真を、高校生と大学生の時を交互にスマホで見せて貰ったアイラだったが――。


「へ、変身魔術でも使った?」

「あははっ。魔術かー。でも、アタシも鏡の中の自分を見た時は驚いたよ」


 まるでシンデレラの魔法みたいだ――と。


「それから大学生活も楽しくってさー。ミスコンは惜しくも準優勝だったけど、その縁で芸能事務所からスカウトなんか貰ってさー」


 元々プロポーションの良かった彼女はグラビアアイドルとして一躍人気へ。

 他にも動画配信、タレント活動、CM起用など5年ほど順風満帆な芸能生活を送った。

 幸いにも名前は芸名で、見た目は昔の朝陽のと似ても似つかない。さらに親はそういった番組は一切見ない。親には東京で就職したとだけ連絡していた。

 だからしばらくは、バレずに済んだ――。


「実はアタシ、今年で31歳なんだけど……20代後半から少しずつだけど、グラビアの売り上げも下がって来てさ……もちろん30超えても活動してる人は居るんだけど……」

「不安だった?」

「うん。若いだけが取り柄の自分じゃこの先、何も残らないって思ってさ……」


 グラビアアイドルとしての自分は引退。

 そこから演劇の専門学校へ行き、空いた時間は大学時代の友達の手伝いという事でメイドのコンセプトカフェで生計を立てていたという。


「さっきの情報でも入って来たけど……そんな変な喫茶店が日本にはあるのねー」

「むかーし流行った『ご主人様お帰りなさい、萌え萌えキュン♪』みたいな路線じゃなくて、欧州風本格派メイドカフェだけど。昔嫌いだった地味路線にまた戻って来てるのウケるよね」

「でも今は……」

「うん……母親からいきなりメールで、父さんがガンを申告されて……もう余命半年だって言われたって来て」


 急いで地元へ戻って見れば――。


「父さんはピンピンしてるし、なんか親戚一同集まってるし……」


 なんでも親戚の叔父さんが東京へ同窓会旅行に行った時に――いかがわしい店で働く朝陽を見たという。

 実際には働いているところではなく、そういった店のパネルを見たらしい。


「よくあるのよねー。勝手にグラビアアイドルの写真加工して使うとかさ。しかもご丁寧に、芸名じゃなくてアタシの本名とたまたま一緒だったっていう」


 これに関しては冤罪なのだが、不審に思った父親が探偵を雇い――大学からの一連の流れを、洗いざらい全て調べられた。


「もう大激怒よね。親戚からもお前は一族の恥だと言われたし、母親は泣き崩れるし……騙されて帰らされたアタシの方が泣きたかったよ」


 そこからしばらくは家からも出して貰えず――スマホを取り上げられ、服や恰好も元に戻され……無理矢理、親戚の経営する会社で働くことになった。


 長い間、魔女の魔法によって助けられていた彼女だったが――夢の覚める時が来てしまったのだ。

 

「この間ついに『お前は独り身だからフラフラするんだ。こちらで相応しい人を選んだから、その人とお見合いをしなさい。子供を授かるなら早い方がいい』って言われて――寒気がしたわ。

 もう逃げてやろうと荷物詰めてたところだったのよ、呼ばれたのは」

「……」

「だからさ! アイラちゃんの話を聞いて、これは天命だと思ったのよ」

「天命?」

「……全力で婚約破棄を手伝ってあげるわ。もう親に勝手にあれこれ決められるのはまっぴらよ!」

「う、うん……」


 ぎゅっと両手を握られるのだがアイラの表情は、あいまいなままだった。


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