5-3.いきなり第4の勇者様
次の日の朝。
昨日の事を思い出し、アイラは腕組みをしながら憤っていた。
「2人共、付き合い悪すぎない!?」
『いや、俺普通に学校あるし。夏休みはまだ少し先だしなぁ』
『マンガを仕上げたいし……ごめんなさい。あっでも明後日なら少しくらいなら……多分?』
「普通に断られたんですけど」
「勇者様にも生活がありますからね」
『――それなら手っ取り早い話があるぜ』
「……ちなみにどんな」
『向こうへ帰さないか、あるいは命令の強度を上げるかだ。嬢ちゃんが強く命令すれば、召喚された者は決して逆らう事が――』
「それはダメ」
アイラは、ピシャリと言った。
『――ならまぁ、取る手はこれしかないな』
「そうね」
いつものようにアイラは杖を構え、宙に浮いたソロへと魔力を送る。
「魔導書ソロ、6ページ! 20日くらい連続住み込みで潜入工作に協力してくれる勇者様!」
『……聞いた事もねぇ召喚条件だな』
「サモン!」
ソロを中心として、宙に魔法陣が多重に描かれる。
光の輪は高速で回転し、やがて閃光となりアイラ達を覆い尽くす。
「なに、ここ?」
光が収まる頃には、1人の女性が立っていた。
両手にはこれから旅行でも行くのかと思うくらいの大荷物を持っている。
腰まで届く艶やかな赤の混じった黒い髪。
くびれている腰に、大きな胸元と――アイラは少々羨ましいまなざしを送ってしまう。
身長はリーシャと並ぶほど高く、足もスラっとしている。
簡素な白いTシャツにジーパン。上着として黒い革製のジャケットを着ているくらいなのだが、それだけでも美女だと分かる。
「ようこそ勇者様。私はアイラ。アイラ=ヨーベルト=サモンよ!」
「うん、うん?」
かくかくしかじか――勇者召喚の事、公爵家からの婚約を破棄したい事など色んな説明を行った。
◇
「はぁ……それにしてもファンタジーの婚約って、大体破棄されるよね」
「それで、アナタは? どこの誰なのかしら」
「アタシ? アタシは……そうね。言っても分かんないだろうし……」
「ん?」
「”山乃本 朝陽”よ。朝陽でいいわ……今は、事務員してるわ」
「今は?」
少し引っかかる物言いだ。
「別に……20日と言わず、ずっとこっちでも良いわよ。もう帰りたくないし」
自分よりも年上であろう彼女が、少しスネたように体育座りをする。
「でも、アサヒのお家の人は心配するんじゃないの?」
「無理矢理呼んだクセに、変な事を気にするのねぇ」
どこを見ている訳でもなく、あるいは日本の情景が彼女には見えているのか。
「うちの親? 自分らの娘より、世間体のが大切な連中よ……そりゃ大変な騒ぎでしょうね」
「……」
「そんな辛気臭い話より、もっと楽しい話をしましょうよ」
「そうね。とにかく、今からギルベルト侯爵の屋敷に向かうわ。本来なら1週間くらい掛かる道のりなんだけど――」
アイラはバルコニーに出ると、手鏡を取り出す。
登りつつある太陽の光を反射させ、ある山の方へと向けると――。
「くぇー」
「グリ!」
窓を全開にして、部屋の中へグリフォンを招き入れる。
このグリフォンは先日の一件より、アイラに懐いてしまった。
屋敷の使用人達にはもちろん秘密なので、普段は屋敷から見える山のどこかで放し飼いの状態だ。
もちろん人間を襲ったり、農作物を勝手に食べたりしないよう言い含めてある。
「何この子! 可愛い!」
「グリフォンのグリよ。まだこの子、幼体みたいなのよねー」
「もう十分大きく見えるけど」
アイラの自室が広い故に入れたが、それでも人間3人が余裕で乗れる程度には大きいのだ。
そのつぶらな瞳には、もうアイラが出会った頃の獰猛さは無かった。
「この子に乗れば、もっと短縮できるはずよ。お願いできる?」
「くぇええー」




