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辺境王女の「勇者召喚」活用術 ~王女様、それは勇者様の無駄遣いでは?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第4.5幕 王女様を知って欲しい

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王女様は布教したい


 勇者英雄譚。

 著者:エルメゲスト=ゴーレン。


 約1000年前、世界を滅ぼさんとする魔族の王が居た。

 それは“魔王”と名乗り、100万を超える軍勢を率いて全ての国へ宣戦布告を行った。

 次々と魔王軍の手により焼き尽くされていく国、街、村――。

 

 そんな状況を憂いた、ある国の騎士が居た。

 騎士は大魔導師を始めとする4人の仲間を集め、たった4人で魔王へと戦いを挑むのであった。


 これはそんな彼の活躍を綴った、正史を忠実に再現した書である――。


 

 ◆

 

 昼ご飯を食べ終え、今日やるべき事は全て終わらせたアイラ。

 暇なので佐々木と藤花を喚び出していた。

 

 そしてアイラの自室、その奥にある部屋。


「わぁ――」

 

 基本的に衣裳部屋として使われているのだが、一部のクローゼットの中身は――。


「凄い! これが異世界の小説ですか!」

「マンガみたいにはいかないけど、絵物語も少しあるわ」


 子供みたいにはしゃぐ藤花を見て、それをニコニコしながら見守るアイラ。


『てかどんだけ集めてるんだよ。こんな所に閉まってないで、ちゃんと虫干しもやるんだぞ』

「分かってるわよ。ちょっとずつやってるわ」


 虫干しとは、風通しの良い日陰で本を並べる事だ。

 カビなどを防ぐ事を目的とする。


「これ……あとこれも、もしかして勇者さんの本ですか?」

「その通り! 古今東西、色んな勇者にまつわる英雄譚がここにはあるわ」


 先月執筆されたばかりの本から、アイラが生まれる遥か前に書かれた本もある。

 勇者の物語は1000年経った今でも人気があり、この国では一大ジャンルとなっている。

 

「これなんか凄いわよ。“勇者が実は魔王の息子だった”なんてトンデモ話なせいで即発禁になったレアものなのよ」

「このピンクの装丁なのは……」

「それは“勇者の仲間が全員女だった”っていう内容で――」

『オレ様は男だぞ』


 アイラの視界に入る位置で浮いてアピールするソロ。

 ピクッ――と、アイラの眉が少し動く。

 

「勇者様によって築城したと言われる城跡が3つあるんだけど、仲間全員に1つずつ送ったら、誰が正妻かを争う内乱が勃発したって感じの戦記モノよ」

『アレは普通に防衛拠点だぞ』


 ピクッ――。

 

「後はこれなんか面白いかも。“勇者様、伝説の剣ではなく物干し竿で魔王を打倒した?”ってやつなんだけど……」

『まぁアイツのあっちの剣は、物干し竿よりは幾分かマシだった――』

「そんな裏話、聞きたくない!」


 さすがにアイラはキレた。

 藤花も隣でうんうんと頷いている。


「……暇なら、ササキのとこでも行って来たら?」

『そういえばアイツは何やってんだよ』


 藤花が気に入った本を読み始めたので、衣裳部屋の窓を開けて裏庭を覗く。

 そこには木刀を持ったジャージ姿の佐々木と、箒を持ったリーシャが相対していた。


「はッ、やッ!」


 佐々木が木刀を振り回すも、リーシャに軽く避けられる。

 そこまで歳も離れていないのだが――まるで子供と大人だ。

 

「剣筋が見え見えです。アイラ様をボコって手籠めにしたいなら、もっと疾くないとダメです」

「そんな事おもってねーけど!?」

「スキだらけです」

「ぐわっ!?」


 リーシャの持っていた箒で足をすくわれ、尻もちをつく佐々木。

 その拍子にアイラと目線が合う。


「……思ってねーよ?」

「知ってるわよ」


 その様子を笑顔で見守るのであった。



「アイラ様って、なんでこんなに勇者さんの本いっぱい集めてるんです?」


 読んでいた本がひと段落したのか、藤花は本を戻しながらアイラへと質問をする。

 

「……まーありきたりだけど。友情と努力を持って、希望と奇跡で勝利へと導く――そんなお話が好きなのよ。現実はもちろん、そう上手くいかないって分かってるけど」

「王族に領主って、やっぱり大変なんです?」

「最初はもう凄い大変だったんだから。毎日のように領民からの陳情を処理するのもそうだけど、土木工事や治水工事、モンスター討伐の依頼出すのも領主の仕事かって驚いたわ――そんな時に、勇者様の物語を読むと……」

 

 アイラは、棚から1冊の本を取り出した。

 この本棚の中で1番ボロボロの、表紙の文字が擦り切れてしまった本。

 確か『勇者英雄譚』という古い小説だ。


「また明日も頑張ろうって。諦めずに明日を生きていこうって――物語に励まされているみたいで……嬉しかったの」


 元々古い本だったのが、もう何回も同じようなページを捲っていたせいか、同じ個所ばかり擦り減ってしまっている。


「そっか……」

『なんだぁ? そんなに勇者について知りたいなら、オレ様が真実を教えてやろうじゃねーか。まずな、アイツは酒飲ませた女を宿に呼ぶのが――』

「そういうの聞きたくないって言ってるでしょうが!」


 グーパンチでソロを撃墜したのだが、やはりダメージなどは与えられずそのまま窓の外へと飛んで行った。


「あ”ーもう……昔は大魔導師ソロにも敬意とか持ってたんだけどなぁ」

「日本でも、長年破天荒な性格だったって思われてた殿様が、近年の研究で凄い慎重派だったってなった事もあったっけ……」

「というより、()()が本当にソロ本人なのか未だに疑ってるわ」

「ソロさんの文献とか残ってないんですか?」

「お城の重要文化財になってるソロ直筆の日記とか読めればあるいは……もしくはメルドキね」

「メルドキ?」


 藤花が可愛らしく首を傾げる。

 

「この間、ギルベルト侯爵様来たでしょ? 彼の領地にある街なのよ。勇者やソロに関わる重要な遺跡があって、今は観光地になってるの」

「そこを調べたらもしかしたら……」

「でも王都の近所で、ここからは遠いのよ。あと、王女である私がいきなり行けば騒ぎになるのは間違いないし……」


 そんな話をしていたら、窓の外から声が上がる。

 思わずアイラは再び裏庭を見下ろした。


「痛ッ!? ちょっとくらい手加減してくれよ!」

「このぐらいでなんですか。アイラ様が領主になったばかりの頃、細かいミスばかりをあげつらう町長の髪の毛をムシった時。彼は悲鳴の1つも上げませんでしたよ」


 ふと視線を感じたのか、リーシャは頭上を――アイラの方を見た。

 彼女の表情は、ずっとクールなままである。


「……してませんよ?」

「………………」

 

 今度町長に会ったら、リーシャに土下座させようと誓うアイラであった。


 

 ◆

 


 あとがき。

 

 誰もが知る勇者様の本を執筆できたことは光栄である。

 かのお方。その心は少年のように無垢であった。

 歴戦の勇者であれど、純粋な心は王族へと繋がる。

 史上これ以上の本は無いと断言したい。誰か書ける者

 を連れて来てくれれば、ぜひ勇者様の事を語り合いたい。

 正しい勇者のお姿は、我々の心にある。

 せめて、この本が後世へ残る事を祈る。


 

 著者、エルメゲスト=ゴーレン。

 王歴520年。自宅のある町が謎の大火事に見舞われ、その生涯を閉じる――。


 

 

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