4-6.終わり良ければ全てヨシ、ですわ
昼食会はその後、これといった異変が起こる事もなく終わった。
「ではアイラよ。息災でな」
「えぇ……そうだお兄様。ウチの料理人、実は風邪をひいて家で寝込んでますの」
「お、おぉ。そうなのか」
「是非とも――お見舞いに行ってあげてください」
普通なら王族が、料理人の為に足を運ぶなどあり得ないが――、
「おぉ殿下。そうえいな、その料理人の為に王都より薬を持ってこられたと言っておられたではないか」
「え”っ」
「まぁそれは素晴らしい。お兄様のご配慮に、アイラも感謝の気持ち胸がいっぱいですわ」
「ではアイラ様。わたしがグレンデル殿下をメニッシュの家までご案内します」
「よろしくお願いしますわ。リーシャ」
困惑するグレンデルの背中を見送りながら、ギルベルトはアイラへと向き直る。
「今日は本当に素晴らしい昼食でした」
「ギルベルト様も、お兄様に無理矢理誘われてさぞ大変でしたでしょう」
「いえ――元々は貴女様に用事があったのですが……少し、日を改めます」
「そうですか」
「では、また」
ギルベルトも見送り――その後、アイラは少し早い魔力トレーニングや公務を終えるのであった。
◇
そして夜。アイラの自室にて。
「それじゃあ昼食会の成功を祝って、乾杯ッ!」
「「乾杯!」」
ささやかではあるが、部屋でパーティーが行われた。
ソロが帰ってきたので、一旦佐々木は向こうへと戻り――言われた通りの時間が経過してから呼ぶと、色々な菓子とジュースを持ってきた。
床にはポテチやスティック状のスナック菓子などが並べられ、アイラと佐々木はコーラ。藤花はオレンジジュースの入ったグラスを持っている。
『いやぁ。オレ様が居ない間、こんなおもしれー事になってたんだな』
「何が面白い事よ。おかげで色々大変だったんだから」
『そういえば嬢ちゃん。よくワイン分かったな』
「凄かったです! プロのソムリエみたいに、バシッと当てて」
「王族ってやっぱすげーんだな」
ちなみに視界共有の呪文で、厨房に居る2人とも顛末を見届けたのだ。
「まぁ、ねぇ……」
実はというと。
あのワイン。両方とも同じモノだったのだ。
そして銘柄はグレンデルの元領地。年数は――。
「誕生日祝いのつもりかしら。それとも、料理のお礼かな」
『ん?』
「なんでもないわよ。それよりソロ。アンタ、どこ行ってたのよ!」
「そうだ。グリと旅行して来るって、どこに行ってたんだ」
『ちょっと南の方へな。そしたらよ、山の麓に集落があってな』
「うん」
『なんでも温泉が湧いてるとかで、湯治客も多くてな』
「うんうん」
『グリと一緒に、女風呂でよろしくやってた訳だ』
「はぁ?」
空気が凍った――。
だがソロはそんな事には全く気付かず、ベラベラと言葉を続けた。
『いやホントは3日ぐらいで帰るつもりだったんだがよー。グリが若いねーちゃんに人気でよ。オレ様も久々に目の保養を――おっとそうだ。ササキ、お前に土産があるぞ』
ソロはいつの間に隠したのか、アイラのベッドの下から色とりどりの布地――どう見ても女性用下着を取り出した。
『せっかくだから少し拝借して……』
無言でアイラが左手でソロを掴み、右手を上げる。
「第1回。このクソ野郎をどう処刑するかを決めたいと思います。パチパチパチ」
「はいっ」
「はいトウカ、早かった。」
「ナメクジとかゲジゲジした虫集めて、瓶の中に一緒に閉じ込めておくのはどうでしょう」
「採用したいけど、後で私が触りたくないわね」
『えっ、なんだ?』
「おっ。じゃあ、このロープで結んでよ。アイラがスンゴイ勢いで回すってのはどうだ。ソロにも視覚はあるみてーだし、効果あるんじゃねぇか?」
「それならお手軽でいいわね。採用で」
『おいちょっと待て! ササキ! おめーも男なら分かるだろ!』
どうやら効果はあるようだ。目に見えて、ソロが慌てる。
その言葉に、佐々木は握った拳から親指を突き出し、首を斬るようなジェスチャーをする。
「……羨ましすぎるから、死刑で」
『ちょっ、まっ!?』
そのままバルコニーより外へ出て、魔力解放状態を最大にしたアイラによって――たっぷり300秒ぶん回されるソロであった。
『し、死ぬッ。まわされて死んじゃうッ!』
アイラと勇者2人にしか届かない悲鳴が――屋敷中にこだまするのであった。




