4-3.これで本番も問題なしですわ
「「ごちそうさまでした」」
「えーっと、でした」
少し味付けを直し、残りのスープも全部平らげた3人。
「まぁでも、初めてにしては上出来じゃないかな――まぁ、なんというか。素朴な味だったけど」
「ダシとか無くても、野菜とお肉から良い味出てましたよね……家庭料理ですけど」
2人の言う通り。
少し焦げた部分ある事と、鍋1つを黒焦げにしてしまった以外は大して悪い部分も無い。
日常的に食べるなら、何も問題ないくらいだが――。
「兄様には出せないわね」
「高校生と中学生で、宮廷料理に通用するようなもん作れって無茶過ぎだろ」
「つ、次は料理ヨーチューバーの人が作ってた、|佛跳牆《ふぉーてぃおっちゃん?》なんてどうですか? 凄い高級な料理らしいですよ!」
「なんだそれ……あー。でもちょっと腹が物足りないな」
「えぇ……。ボクもうお腹いっぱいです」
「おっヤカンっぽいのあるな。水入れてっと」
鉄製のケトルに水瓶から汲んだ水を入れた佐々木は、まだ熱の残ったカマドへと置いた。
「非常用のリュックに……あったあった」
佐々木は取り出した容器は、少し大きめのグラスと同じくらい。
その白い外装には、何かの文字と絵が描かれている。
さらに薄い皮のような部分を半分だけ剥がした後に、沸かされた湯を注ぎ込んでいく。
「3分って言うけど、俺は2分派だな」
キッチリ2分経過してから、皮を完全に剥ぐ。
そこへ透明な袋から取り出した2本ある棒を、器用な持ち方をして構え――白い容器の中へ突っ込む。
大きな湯気と共に木の棒に絡まって出てきたのは――波のような流線の形状をした、細い麺が出てきた。
「ふー、ふー……ズルズルズルッ」
食事中に音を立てるなど、それも食べながらなんて言語道断だ。
これは貴族や王族の間でも共通の認識だろう。
故に、そのあり得ない行いをする佐々木にアイラは――、
「じゅる――ハッ」
釘付けだった。
思わず口の端からヨダレが出るなどと……世間モードでは無いとは言え、はしたない。
しかし謎の麺を音を立てて食べる度に、その匂いが風下であるアイラの下へと届くのだ。
「……まだ持って来てるけど、食べるか?」
その視線に気づいた佐々木は――リュックを指差した。
「食べる!」
即答だった。
我慢の限界であったのだ。
致し方が無かった。
佐々木と同じ手順で容器にお湯を入れ、大人しく3分待つ。
その間も、隣で麺をすすって食べる音が聞こえるのだが――今のアイラは、まるで戦いを前にした戦士だった。
いかなる状況にもまるで静かな森のように動揺せず、山のように動かず。
だが、好機を逃さない――。
「はっ」
行動は迅速に。その動き、まさに火の如し。
容器の皮を一気に剥がしたアイラは、フォークを容器の中へと突っ込んだ。
その瞬間――大量の湯気が飛び出して来る。
「くっ」
それには決して屈せず、一気に麺を持ち上げ口へと入れようとするが――。
「アツっ!?」
沸騰したばかりのお湯を入れたのだ。
熱いのは当たり前だ――ここは落ち着き、口から息を吹きかけ風を送る。
「ふー、ふー」
程よく冷めたところで、少し邪魔になる髪を持ち上げながら、再び口へと運んだ。
「っ、ん?」
音を立てずに口へ入れて行こうと思ったのだが、麺が思った以上に長かった。
それだけは、王族のメンツとしてそれだけはしたくない。
「アイラ……麺を食べる時は、啜るのがラーメンのマナーだぜ」
「まぁ、確かに啜らないと美味しくない、と思います……」
勇者2人の言葉に――アイラは大人しく従った。
マナーなら、仕方が無い。
「ずるっ、ずるるるっ!」
盛大に麺を啜る音が、厨房へと響き渡る。
ああ――ここに使用人達が居なくてよかったと、アイラは心の奥で思ったのだった。
「――美味しいッ!」
「だろー?」
「この……牛や豚のような豊かな旨味が溶け込んだ“フォン”に、さらに海の香りがふわりと重なって――なんて奥深いスープでしょう!
そこに、この細長い麺がしっかりと絡み合って……んんっ、美味しいですわ!」
さらにフォークで茶色く四角い塊などの具材を食べる。
「この小さなお肉。見た目は控えめなのに、噛むとしっかり味が染みていて……この、小さな赤白の身のようなもの! ぷりっと弾けるような歯ごたえですわ!」
カップラーメンを味わい尽くしたアイラは、最早マナーのへったくれも無く――容器に口を付け、スープを一滴残らず飲み干すのであった。
「……ごちそうさまでした」
最後はきっちり、両手を合わせてお辞儀まで完璧にこなすのであった。
「ササキ。これが、異世界の味なのね」
「あ、ああ……凄い食いっぷりだったな」
「ちょ、ちょっと怖かった……」
口元をハンカチで拭き、フォークを丁寧に置き――アイラはそのキラキラとした瞳を輝かせ、佐々木へと詰め寄った。
「ササキ!」
「分かった、分かったからそんな寄るなっ。カップラーメンはまだまだあるから、好きなだけ食べてくれ」
「そうじゃないわよ。兄様に出す料理、コレで行くわ」
「えっ」
「これですか!?」
「ふっふっふっ……覚悟しなさい、グレン兄様ッ」
不敵な笑みを浮かべ笑う姿は、まるで悪役のようであった――と、後に佐々木は語った。




