3-5.佐々木、活躍する
その間にも、襲い掛かって来るゴブリンを木刀で蹴散らす佐々木。
ついに光る壁に覆われた藤花の下へと辿り着いた。
「君も、アイラの奴に呼ばれた勇者か!?」
「えっ、そのあの……」
「うおッ!? 矢はダメだろ!」
階段に陣取った矢を構えたゴブリンが数匹。
間一髪で光る壁に隠れるも、さらに追撃が飛んで来る。
「ひゃあ!?」
「このままじゃ近づけないな……いや……そうだ」
佐々木はアイラの言葉を思い出す。
「この光ってる壁、全然攻撃通さないんだよな!」
「た、多分……」
「だったら――こうだ!」
佐々木自身も壁に阻まれ、彼女には手を出せない。
なので、こうして光る壁ごと抱え、持ち上げた。
「ふんッ」
「えー!?」
「おりゃあああ!!」
そのまま佐々木は、弓を構えるゴブリン目掛けて走り出した。
矢はどんどん飛んで来るが、1つとして彼には届かなかった。
「ゴブ!?」
「おりゃああッ!」
そのまま圧し潰すように、勢い良く前へと突き出す。
当然の話になるが――藤花の眼前では、どんどんゴブリン達が死んでいくのだ。
光る壁の中で、世にも恐ろしい光景を目の当たりにした藤花は絶叫した。
「い、いやぁああああッ!?」
◇
「くっ、くえぇええ」
「コロセ!」
首元に飛びついたは良いが、上に乗っているゴブリンの指示で上下左右へと振り回されるアイラ。
「すぅ――」
全身でしがみつきながらも、まずは息を整える。
魔力による肉体解放状態を保つのは平時でも300秒がやっとで、動きながらではさらに短くなる。
呼吸は、全ての基本だ。
己の精神の安定と、魔力の循環。
だからこそ呼吸を浅く吐き――深く吸う。
「ふッ」
左手で体毛を掴みながら、右手で拳を握り――。
「ごめんなさいね」
一言だけ謝り、腕を振り被り――全力で、その肉体へストレートパンチをお見舞いする。
「ぐっ、えぇ……」
グリフォンは一瞬意識を飛ばし――その巨体をグラつかせた。
加減していなければ今頃、辺り一面に肉片のシャワーをまき散らしていただろう。
「ナンダ!?」
「ゴブッ!?」
さらにそのままグリフォンの身体を掴みながら上へと駆け上がり、上に乗っていたゴブリンへ、
「はぁぁああッ!」
遠慮のない強化した蹴りを頭へ1撃。
「グベラッ!?」
「はッ!」
さらにもう1撃、今度は2匹目のゴブリンの腹へと入れる。
「オゴボッ」
言葉にもならない悲鳴を上げ、ゴブリンらは壁へと叩きつけられ、とてもじゃないが気の弱い人間には見せられない状態となった。
すぐさまアイラはグリフォンの首輪目掛け、拳を繰り出す。
ガキンッ――。
不十分な体勢のせいで力が入り難い。
ヒビこそ入ったが、粉砕まではいかなかった。
「あと、1発――!」
だがそこで――体毛を掴んでいた手が緩んでしまう。
もう活動限界まで来てしまっていたのだ。
アイラの肉体は無意識に、解放を閉じてしまったようだ。
「しまっ」
「アイラッ!」
それに気付いた佐々木が走るが、間に合わない。
しかし地面と頭が衝突する前に――佐々木の隣を駆け抜ける影があった。
「――遅かったわね」
「これでも、全速力で走って来たのですが」
特に息も切らさず、いつものクールなテンションなリーシャである。
彼女は寸前でアイラを抱き留め、その勢いのまま地面を滑り――止まる。
「ササキ! あの首輪、狙って!」
アイラの1発が余程効いたのか、グリフォンの動きは精彩に欠けていた。
「ぐ、ぐぇ……」
「ピッチャーは、やった事ねーんだけどなッ!」
佐々木は足元に落ちていた手ごろな石を拾い、足を振り被り――全力で投げた。
身体強化が乗った石は、高校生の投げたモノとは思えない速度で、まるで矢のように鋭く飛んでいき、
ガシャン――パキンッ。
「よっしゃ」
見事、グリフォンの首輪を打ち砕いたのだった。
首輪はバラバラに砕け、破片が辺りに飛び散る。
「くぇえ……」
グリフォンの眼に正気の色が戻る。
途端に、グリフォンは落ち着きを取り戻し、地面へと降り立つ。
「いい子ね」
リーシャに起こされたアイラは、グリフォンの頭を撫でる。
「くるるる――」
まるで猫のように喉奥で声を鳴らしている。
しかしその間にも、倒しきれていなかったゴブリン達が集結してくる。
「ゴブッ!」
「ゴブブッ!」
残党のゴブリン達も立ち上がり、武器を構えるこちらへと襲い掛かってくるのだが――。
「王女様を助けろ!」
「ゴブリンは殺せ!」
「1匹残らず、根絶やしにしろ!!」
地上からこの部屋へ通じる階段を、大勢の冒険者達が降りてきた。
既に光の壁は解除されており――藤花は壁に寄りかかって気絶している。
「きゅう……」
ゴブリンの残党たちはすぐに駆逐され――長い夜は、終わりを告げるのであった。




