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辺境王女の「勇者召喚」活用術 ~王女様、それは勇者様の無駄遣いでは?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第3幕 王女様、気弱な勇者様を救い出す

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3-3.勇者様の職場体験(本物)


「――ゴブリン退治!?」

「そうよ」


 ガタゴト――硬い地面に車輪が当たる音が馬車の中まで聞こえてくる。

 トンネルを使い屋敷の外へ出た3人は、予め隠していた馬車へと乗ってアムダを経由。そこから目的地へ続く森にある道へと入って行った。

 アイラの予備のドレスに着替えさせられた藤花は、その可愛らしい瞳をパチクリとさせた。


「実は最近、この町と山奥の村の間でゴブリンの姿を見たって報告が何回かあったの――この町は大きいし、自警団も冒険者ギルドもあるから大丈夫だけど……」

「あの、あの。ゴブリンって、あの身体が小さくてズル賢くて手先が器用で、だけど人や家畜を襲って略奪したりするあのゴブリンですか……?」

「やっぱり日本人は物知りね。その通りよ」

「やっぱりその……攫われた女の人は……ゴブリンの赤ちゃんを作らされたりするんですか?」


 とんでもない事を口走る藤花。

 その質問に、思わずアイラも目を見開くほど驚く。

 

「……やっぱり知らないゴブリンだわ。同じ種族でメスが居るのに、なんでわざわざ他種族と繁殖をするのよ。もしかして日本にいるゴブリンはそうなの?」

「い、いいえ! ゴブリンなんかいません!」

「……? その割にゴブリンには詳しいみたいだけど」

「あの、その、ゴニョゴニョ……」

「……いい、藤花。ゴブリンはかつて魔王が使役していた使い魔の、成れの果てだと言われているわ」


 子供のように無邪気で、それでいて誰よりも邪悪。

 個としては大した強さもないと思われがちだが、人間と同じように武器を使うし、中には魔法を使う個体も存在する。

 さらに群れを成して行動する。どこかに巣となる拠点を作り、旅人や集落を狙い略奪行為を行う。

 奴らは雑食で、特に動物の肉を好んで食べるのだが――より頭の良いゴブリンがリーダーに居ると、イノシシやオオカミ、馬などを飼い、乗り物代わりとして使う。


「今回、猟師の皆さんに村の周囲を捜索して貰いました。明らかに自然の行動では説明がつかないオオカミの足跡が、いくつかあったと――」

「もしかして、今から行く村を襲う為に……」

「しかし奴らも分別なく襲ったりはしません。殺すべき人間を見極め、自身らが好む食料になる人間――そして、釣りのエサになる人間を攫います」

「釣り?」

「見た目が高貴で裕福そうな人間というのは、ゴブリンから見ても一目瞭然のようです。なのでそういった人間が居れば優先して攫い、人里の近くに吊るしたりするそうです」


 その高貴な人間を助けようと近寄って来た人達を罠に掛け殺すか、あるいは連れ去り食料とするか――。


「邪悪と言って差し支えありません。そのような悪鬼、私の領地で見逃しておく理由は無いですわ」


 ここまでの話を聞いて、藤花は驚いたように声を上げた。

 

「もしかして王女様。自ら囮を?」


 それにアイラは静かに頷く。

 

「そのように話はつけてあります。しかし戦闘にはなるでしょうし、アナタはこの馬車の中で見学してなさい。この馬車は特別製なので、内側から鍵さえ掛けてしまえば誰からも手出しは出来ません」


 軽く馬車の壁を触りつつ、説明をする。

 王族御用達の特別製の車体は、ゴブリン程度の剣や魔法では傷1つ付かないのだ。

 

「えっと……王女様は、怖くないんですか? ゴブリンなんて恐ろしいモンスターに攫われるのに……」


 にっこりと微笑み、藤花の手を握るアイラ。

 

「実は私も、幼い頃はよく誘拐されたり、暗殺者に命を狙われたりもしました――でも私には、命を守ってくれるお守りなんてありません」

「……」

「いつだって信じられるのは、自分の力です。トウカも、もっと自分を信じなさい。アナタならきっと素晴らしいマンガが描けるわ」


 御者台と車内を繋ぐ小さな窓が開かれ、リーシャが顔を見せる。

 

「アイラ様。そろそろ到着しますので、御仕度を」

「分かったわ」


 ◇


 村は山間の中で、少し小高い台地になった部分に作られている。

 周囲を木の枝を払っただけの丸太の柵で多い、正門と裏門からのみ村へ出入りできる。

 簡易的だが掘りもあり、ただの獣相手ならこれで充分だろうが――。


「これはこれはアイラ第2王女様……このような小汚い村であい、すいません……」


 アイラ一行が村へと着くと、出迎えの準備をしていた村長が申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「そのように卑下しないで下さい。この私が治める領地に住む者は、誰もが家族のように思っています」

「ありがとうございます……」


 再び深々と頭を下げる村長。

 アイラは村の中を見渡す。

 林業や、猟で獣やモンスターを採りそれをアムダへと卸し生計を立てている村だ。

 そこかしこに木材の加工場があり、地面には木くずや粉が舞っている。

 本来なら職人さん達が忙しなく働いているはずなのだが、今は入り口を封鎖して厳戒態勢となっている。

 

「お呼びしていた猟師や冒険者の方々は?」

「集会所の中です。こちらへどうぞ」


 村長に案内され、奥へと案内される。

 その間も、藤花は周囲の男性にビビりながらも着いて来てくれた。

 

「従者の方々ですね。お足元、気をつけて下さい」

「ひゃ、ひゃい……」

「アイラ様。わたしは周囲の偵察に行って参ります」

「ええ。よろしく」


 この村の中で1番大きい木造の平屋。他の建物と同様、年季を感じさせる色合いをしている。

 林業が盛んとあって、建物自体はかなり立派で頑丈そうだ。

 この辺りで伐採される木材は最高の家を造るのに必要不可欠だと、屋敷の選任大工であるエド親方も言っていた。

 

 ここは緊急時の集合場所になっているが、普段は倉庫として使われている。

 今は倉庫の中身を出して、簡単な草で編まれたゴザが敷かれている。

 部屋の中には多様な男女が、各々の装備を身に付け、あるいは武器を持ち待機していた。

 各人若者、老人など違いはあれど、皆屈強であった。

 その威圧感にスライムのように全身をプルプルと震わせている藤花は心配だったが、まずアイラは自分の仕事へ集中する。

 

「アイラ第2王女様がご到着されました」

「皆さん。この度は、村の為に集まって頂きありがとうございます」


 皆がアイラの方を見る。

 そういった視線に臆す事なく、一切の躊躇もなく全身に受け止める。

 続けて、簡単な作戦内容を伝える。


「――以上が配置となります。そして事前にお伝えした通り、ゴブリンとの戦闘になったら頃合を見て、用意して頂いた馬車に乗って、私は奴らに見つかるように逃げます」


 この馬車の荷台には、酒の入ったタルや果物や肉などの食べ物入った木箱が積んである。


「そして捕まり攫われたら、一旦退いて下さい。今回の襲撃で多数の人間が駐在していると分かれば、その場で退却するはずです」

「やっぱり危ないですよ……」

「釣りのエサとなる私を、奴らは無暗に傷物にはしないはずです」


 この村の周囲の山や谷、森の中を記した羊皮紙の地図を広げる。

 そこにはダンジョンか。天然の洞窟、遺跡――怪しい場所は事前にバツ印を付けているが、このどこを拠点としているか。

 あるいは全く別の場所に築いているのか。

 

「奴らの根城が分かり次第、リーシャがここへ戻って来ます。奴らは戦利品で宴を開くはずですので、その隙を見て襲撃して下さい」


 目的のモノを奪い、勝利を疑わない奴らはそういった行動を取る。

 ゴブリンによる被害は過去を見ても何度かあるが、10年以上あるその記録で行動がブレた事はほぼ無い。


「もし私が帰って来ない事になっても、皆さんが責任を取る事にならないよう取り計らってますので、ご安心下さい――もちろん。そのつもりはありませんが」


 皆を安心させるように堂々と、笑顔のアイラに――皆は静かに頷いた。


 ◇


 集会所を出て、その裏手へ回る2人。

 小走りでアイラの隣まで走って来た藤花は、少し興奮したように胸元で両手を握る。


「王女様って凄いんですね……でも、本当に王女様に何かあっても、村の人達は大丈夫なんです?」


 不安そうにアイラの顔を覗き込むが、そのアイラは事もなくこう言った。

 

「まぁもし本当に私がゴブリンに食われでもしたら――まず関係者は全員、国王様に斬首されるでしょうね」

「え”」


 藤花の表情が凍る。

 

「いくら私の遺言書があったとしても、王族が殺されたとあってはメンツが立たないわ。そうなったら、まぁしょうがないわね」

「えぇ……」

「それに。これ屋敷の使用人達には全員ヒミツなの」

「なんでです!?」

「王女自ら囮になるとか全員に反対されるわよ。大丈夫よ。元より失敗するつもりは無いし、絶対生きて帰るわよ」


 村の敷地の端っこで、外装は干し草などを被せてカモフラージュした馬車の中へもう1度戻る。

 そこで待機させてあったソロを広げる。


『あ? なんだ?』

「一応アナタの加護(スキル)を確認しておかないと……えーっと、どうやって見るんだっけ」

『待て嬢ちゃん。なんか、外が騒がしくないか?』


 そのソロの声に、アイラは即座に馬車の壁に聞き耳を立てた。


 カンカンカンッ――。


「警報の鐘! ゴブリンの奴ら、今夜中に来るとは思ったけどもう来たのね」

 

 山の向こうに夕日が沈み、木々や山に隠れている為すでにかなりの暗闇が生まれている。

 ゴブリンは夜目も効くので、完全な闇になってから襲撃すると踏んでいたが――アテが外れた。


「もしくは私が来たのを見て、すぐに行動に移したか……トウカ!」

「ひゃい!」

「さっきも言ったけど、ここに居れば安全だから。ソロ」

『はいはいっと』

 

 ソロの目の前に、魔法陣を起動する。

 

「それでも帰りたくなったら、念じてくれれば私とアナタで交信できるから、隙を見て送還の陣を出すわ。あと、こっちで見ながら見学してなさい」


 仮にこのタイミングで送還できなくとも、呪文さえ覚えておけば遠隔で送還も可能――と、ソロは言っていた。


 そして魔法陣は視界の複写。

 この魔法陣には、私の視界が映るようになっている。

 これも私が近くに居る限りは起動したままになる。


 馬車の扉が強めに3回ノックされる。リーシャからの合図だ。

 すぐに扉を開け、アイラはソロを片手に外へと出る。


「アイラ様、ご報告が遅れて申し訳ございません。奴らが来たようです」

「分かったわ。すぐに行く」


 アイラは振り返り、藤花の両手に鍵をしっかりと握らせる。

 その小さな手からは、緊張がアイラへと伝わってくる。


「王女様! あの、気を付けて下さい」

「えぇ」


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