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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

思い出をありがとう。

作者: 町田
掲載日:2025/11/18

日常に彩が溢れ出た。あの日を境に良いことも悪いことも全部含めて楽しかった。今はただありがとう、とそう伝えたかった。

 「速報です。今日午後5時頃、環境省から熊の駆除命令が発表されました。全国各地で熊の被害が発生している中、政府は、熊の駆除命令を発表しました。」いつものようにつけっぱなしにしていたテレビで見た内容が後の人生に大きくかかわるとはこの頃考えもしていなかった。

 全国では熊による被害が多く発生していた。ちょっと前にスマホで見た記事には、熊に襲われて死んだ人は1000人にも上ると書かれてあった。そんな中での熊の駆除命令だった。しょうがないといえばしょうがないことだろうと他人事のように考えていた。なんせこの男は犬や猫を飼ったことがなく、ましてやカラスやスズメのような小さな鳥にでさえ怖がってしまう人間だから当然熊のような人を傷つける動物を好きになる訳などなど無かった。

 駆除命令が発表されて三日ほどが経った頃、いつものように車で山を降り、往復二時間くらいかかる、家から一番近いスーパーに買い出しに行ってる途中だった。いつものように車に内蔵されている小型のテレビは途切れ途切れしか映らなかった。目線を少しテレビのほうに向け時間を確認した。午後3時58分だった。少し電波がよくなりだした時だ。テレビから、「速報です。政府から熊の駆除命令が発表されてから三日ほどが経った今、政府関係者によると全国でおよそ500頭もの熊が駆除されたという情報が入りました」いつも耳にするアナウンサーの声だった。私はそれを耳にしながらいつも通り車を運転し、スーパーで三日分の食料をまとめ買いし、来た道と同じ道を通り、家に帰った。家の近くでは3日前からバーンと銃を発砲する音が鳴り響いていた。

 暑い夏が過ぎ去り、冷たい空気が流れてきだした10月の中旬。銃を発砲する音も前に比べて減り、外で子供が遊んだり、比較的普通の生活に戻ってきた頃だった。庭に植えていたさつまいもがおいしくなる時期でここ最近はそのことでずっとそわそわしていた。熊が出たら危ないとのことで庭に植えてある旬の野菜たちはここ数か月食べれていなく、その影響もあり、尚更さつまいもが楽しみだった。数日後、熊がほぼ駆除されたと報道された。そんな報道があった次の日、ほとんどの熊は駆除されて、駆除されてない熊もそろそろ冬眠する頃だろう勘違いして、散歩へと出かけた。半年ぶりだった。見慣れた景色だったはずの視界はとても新鮮に見えた。大小ある木々たち、立派に生えた竹、近くに人は住んでいなく、一番近い家でも十キロは離れている。散歩してから三十分ほどが経った頃、生い茂っている草の中に黒色の何かが見えた。なんだろうと思い、駆け寄ってみた。突然、草がガサと揺れる。風は草も揺れないぐらいの微風だった。当然立ち止まってしまった。五メートルくらいの距離だった。突然、強い風がブワッと吹いた。草が右に倒れ、それは姿を現した。体長は自分と同じ165センチぐらいの大きな熊だった。足元が今までに無いほど震えた。しかし、その熊は動こうとしない。その時気が付いた。恐怖で気付かなかったが、血が溢れ出ていた。それを知った上でも、その場から足を動かすことはできなかった。殺されるかもしれない。そう頭の中で考えていた。数秒、怖くなり、目を熊から離し、空を見た。すると、視界の左下から黒いものが入ってきた。熊は血だらけになりながらも目の前に立っていた。165センチだった身長がいきなり2メートル近くになった。視界は黒と赤の2色だけで他の色は認識できなかった。恐怖で思わず目をつぶっていた。すると、いきなり草がしゃげる音が聞こえた。恐る恐る目を開けた。なんと熊は地面に横たわっていたのだった。頭の中は真っ白でなにも考えられていなかった。「冷静になれ、冷静になれ」と自分に言い聞かせる。少し冷静になれた気がした。熊は一切動く気配がない。状況がいろいろと整理できて来だしたそんな時ある考えが浮かんだ。このまま殺して食うか、警察に通報するするかの二択だった。ただ、熊肉を食ってみたいという思いと警察に通報したら面倒くさいことになりそうだということで警察に通報するのは少し気が引けた。十秒ほどその場で考えて答えを出した、殺して食うと。しかし、いざ殺そうと思っても手持ちには、スマホしかなかった。1、2か月前までは熊に遭ったときにと、ナイフを常にポケットに入れていた。仕方ないと思い、一度家に帰ることにした。走って離れた。恐怖がまた段々と込み上げてきたのだ。熊から五百メートルほど離れただろうか、疲れたので一回後ろを見て、いないことを確認して歩くことにした。が、家まであと十分ぐらいのところで不意にその場に立ち止まってしまった。この後に起こることを想像した。家に帰り包丁を手にし熊のいる場所に戻り殺す。足が前に進まなくなる。当然のことだろう。人ではないにしろ熊を殺すのに躊躇ってしまっているのだ。「冷静になれ」また、自分に言い聞かす。ゆっくりとだが足が動いた。十分で帰られた道を倍の二十分を要し、ようやく家に着くことが出来た。とりあえず包丁を手に取る。ただ、手に取った瞬間、また足が止まる。かろうじて頭の中は働いていて2つの意見が対立していた。勇気を振り絞り熊をこの手で殺めるか。それとも見て見ぬふりをするか。正直どっちでもよかった。ただそんな二つの意見はこの後に起きる出来事により儚く散ってしまう。少し時間が経ち改めて考え直すと答えは案外簡単に出てきた。「熊肉を食うんだ」という意味の分からない理由の答えが出てきたのだ。熊の方へと戻ろうと思い足を玄関まで動かした。閉めていた玄関の鍵を開け、左足を一歩外へと踏み出す。すかさず、顔を上げ右足を前へと動かし、その右足が地面へ着こうとするすんでのところで右足が宙で止まってしまう。二十五メートルぐらいだろうか、前方に黒いものが見えた。頭がまた真っ白になり、右足は宙に浮いたままだ。その間も、熊は近づいてきていた。相変わらず大量の血をドバドバと流しながら。瞬時に悟った。殺すのは無理だ、と。浮いていた右足を頑張って後ろに運び戻し家の中へと入れ、左足も同じく家の中に入れることができた。体全体が玄関に入り、真っ先に鍵のところへ手を動かし急いで閉めた。「冷静になれ、冷静になれ」とまたも自分に言い聞かせている時に、「グルルル、グルルル」と熊が威嚇してくる声が玄関越しに聞こえ、思わずびっくりし冷静になんて、とてもなれる状況ではなかった。後ろを向き家の床に足を踏み入れようとしたとき、今日夕飯に食べようと思って今朝スーパーに行き買っておいたお惣菜が入ったレジ袋を床に置いているのに気が付いた。そのお惣菜たちを手に取り、家に入ってすぐ右側にあるテラスに向かった。窓を開け、無心で左の方に向けて買ったお惣菜たちを投げ続ける。単純な考えだった。熊が食べ物に気を取られてくれるんじゃないかという。必死に投げていたから気が付かなかったが、熊はあと数十メートルのところまでゆっくりと迫って来ていた。投げるものがなくなり、急いでドアを閉める。閉める途中に、熊と目が合う。瀕死の状態の熊がゆっくりとこっちに向かって来る。窓から後ろに三歩ほど後ずさりし、距離をとった。十秒ほどが経った頃、熊との距離は窓越しにおよそ三メートルほどとなった。胸のドキドキが止まらない。熊は立ち止まる。グルルルと歯をむき出しにし、威嚇してくる。二十秒ほど見つめ合う時間が出来た。その後、安心したのか熊は目を右にそらし、体も右に向いけ、一歩一歩ゆっくりと足を動かし、そのまま自分が投げたお惣菜の元へと足を動かしていった。恐る恐る窓の近くに足を動かし、窓越しに熊の様子を、見に行く。自分でもびっくりで、思わず笑みがこぼれてしまう。自分の、単純に思えた作戦が功を奏したのだ。熊はその後も必死に食べ続けていた。その光景を最後まで自分も何故か見続けてしまっていた。食べ終わった熊は、ゆっくりと歩を進め、自分の単純に思えた作戦が功を奏したのである。食べ終えた熊は、ゆっくりと歩をすすめ、そのまま真っ直ぐ、逃げて行った。

 一安心し、五分ほどその場で横になっていた。横になりながら、独り言を言っていた。「よかったー」と心の底から。安心しきったところで次の問題が頭の中に浮かんできた。それは、警察に通報するか、それとも、見て見ぬふりをするかだ。ただ、そんなことを考えているうちに外はもう真っ暗で一気に安心した影響もあるのだろう、いつの間にか眠ってしまっていた。

 午前6時頃、窓から気持ちの良い光が入って来て、目が開いた。起きてすぐ、昨日は何時ごろに寝たのだろうと、ふと疑問に思ったその瞬間、昨日起きた出来事が頭の中へと鮮明に流れてきた。すると、手を当てなくても分かるくらい急激に心臓が激しく揺れ動いた。夢などではなく現実で起きたことだと一瞬で理解した。立ち上がり、現場へと急いで向かう。当然熊はいない。ただ、心配で玄関に行き、鍵を開け恐る恐る外に出て辺りを見渡した。血眼になりながら探す。が、熊はいなかった。よかったーと心の声が出そうだった。一安心した所で、昨夜から何も食べていなかったことを思い出した。昨日炊きっぱなしにしていたご飯とインスタントの味噌汁にした。いつもはそれだけじゃ物足りないが今日の朝飯はそれで十分だった。その後は昼までボーっとしていた。あれから半日ほどが立ったが、あまり頭の中は働いていなかった。お昼ご飯はカップラーメンにした。午後からは、ボーっとせずに何かしようと思いとりあえず家の中を掃除することにした。外に出るのはさすがに怖かったので今日は家の中でゆっくり過ごそうと思った。そうこうしているうちに午後4時頃になった。昨日の今頃は大変だったなと思っていると、もしかしたらまたいるかもしれないと急に心配になりテラスへ足を運んだ。一歩、また一歩と窓へ近づくごとにドキドキが増していった。顔には笑みがこぼれていた。なぜなら、いるからだ、また同じ場所に、昨日食べ物を投げた場所に、しかももう一匹増えて。小さな子供の熊を連れて。そんなことはあるのかと思った。ただ、実際に起きたのだ。十五秒ほど熊の方を見つめていた。急に怖くなりだし目を離そうとした瞬間大きな熊と目が合った。何が起きているのか整理は出来た。が、受け入れようとしても受け入れられない。なんでなんだよと心の中で叫ぶ。だが、不思議と、熊が一匹増えても、昨日よりは、冷静でいれた。次第に子供の熊もこっちを向く。二頭の熊はこっちを見るだけで、その場から一歩も動こうとしない。一度、目をそらしたくなったので目をそらした。数秒経ってからもう一度熊の方を見た。威嚇のようなことはおそらくされていないと思い、なぜまたここへ来たのかと疑問に思い考えた。昨日、自分が食べ物を投げた場所だということしか頭の中に浮かんでいなかった。足が冷蔵庫の方に向かう。冷蔵庫の中にあった、バナナを一房丸ごと取り、玄関の方へ足を運び、鍵を開け熊のいる方に向かってバナナを投げた。バナナを投げてから十秒ほどが経った。熊は動かない。予想していた通りにならなかったため、急に不安になった。と思った矢先のことだった。まず大きいほうの熊が、ゆっくりとバナナの方へと歩を進めた。続いて小さい熊も付いていくようにしてバナナの方へと歩を進めた。昨日のように餌をくれるのではないかと思い、今日もやってきたと予想していた。予想に反していてほしかったが、見事的中した。熊がバナナを一生懸命食べている姿を見つめていた。警察に通報しよう、殺そうなんて思いは、なぜか微塵もなかった。明日も来たらどうしよう、これはやってはいけないことなのではないか、といろいろ十分ほど考えていたところで外を見ると二頭の熊はもういなかった。その日の夜は、熊が明日も来ることにどう対処しようか、これからどうしようかと悩んでいたら、眠れず、太陽が元気に出て来ようとしていた。ただ、温かい太陽の光を直に浴び目を閉じていると、いつのまにか眠りについていた。

 起きたのは午後3時頃だった。大きな音がして起きたのだ。カンカンカンカンという音が一定の速度で玄関の方から鳴り響いていたのだ。寝起きなので頭はあまり回っていなかった。玄関の前まで来たところで、人間ではないことが分かった。半透明のドアのシルエットが人間ではなかったのだ。人ではないと分かった瞬間、胸の鼓動が急激に早くなる。二頭の熊だ、と見た瞬間に分かった。思わず両足が震える。とりあえず後ろに下がった。その間もカンカンと一定の速度で音が鳴っている。どうしようか、と必死に考えた。とりあえず冷蔵庫の方へ足を運び、今度は常温保存して、置いていたまだ袋を開けていない食パンを手に取りテラスの窓の方へ足を運んだ。鍵を開け玄関の方に向かって投げた。投げた瞬間、熊は食パンの方へ走って駆け来て、それにびっくりし、急いで窓を閉め鍵をかけた。窓越しに熊が食パンを頬張っている姿が見える。食べ終えるまでそれをじっくりと見ていた。食べ終えた瞬間大きな熊と目が合った。熊はこっちに向かってに近づいてきた。思わず、後ずさりしてしまう。血が大量に出ていた。コンコンと鼻で窓を叩いてきた。すると、熊は満面の笑みをこちらに向けてきた。つられるようにして自分も笑みを浮かべていて、強く抱きしめたくなるような気持になった。その後、小さい熊も加わり、コンコンと一定の速度で窓を叩いてきた。急いで足をキッチンへと運び、2枚のお皿を食器棚から取り出し、昨日炊いていたお米をお皿に盛り玄関の前に足を運ぶ。ドアを開け両手に持っていたお皿を下に置き、静かにドアを閉めた。数秒後、半透明のドアには二頭の熊が元気よく食べている様子がシルエットだけで分かった。それから一分ほどが経ち、食べ終わった熊はテラスの方へと移動した。自分もそっちへ足を運んだ。自分が窓越しに熊の前に立った瞬間、二頭の熊が同時に窓に鼻を近づけ、ありがとうと言わんばかりにコンと一回音を鳴らた後お辞儀をし、昨日と同じ方向へ、ゆっくりと歩いて行った。その後、自分は、その後ろ姿が見えなくなるまでじっと見つめていた。その後は、今までに起きたことを順々に頭の中に浮かべていた。すると、自然と自分の顔は今までに無いほど笑顔に充ちているような気がした。

 セットしていた時計のアラームが鳴った。午前5時30分だ。寝起きとは思えないほど良い気分だった。今日は朝からスーパーに出かけようしていた。開店する9時までに支度を済ませようと目標にしていたが、意外と早く終わり、8時10分頃には家を出て、車に乗れた。鳥のさえずりや子供たちの元気な声が聞こえてきた。途端にこんな情報が入った。「政府は、全国各地にいた熊を残り数十頭にまで駆除することができたと発表しました」そんなニュースがつけていたテレビから耳に入った。途端にアクセルを踏む右足に力が入らなくなった。家を出てからおよそ三十分ほどが経った頃だった。まだ遅くはない、と思い引き返そうか迷った。ただ、頭の中に昨日の熊の笑顔が浮かんだ。決意を決めたかのように力強くアクセルを踏み、スーパーへ向かって車を走らせた。スーパーの駐車場に着いても手と足が止まるこはなく、お店の中に入り、メモしていた紙に書いていた通りの物を買い、お会計を済ませた。新鮮そうな鮭の切り身を五つほど買い、腐ったらいけないので、足早に車へ戻り、急いで家まで車を走らせた。とてもワクワクしていた。午前10時15分頃家に着いた。鮭を早く冷蔵庫に入れようと思い、運転席のドアを開け車から出た時、真正面にある木の裏から、二頭の熊が出てきた。思わず両足がその場から動かなくなる。二頭の熊は一目散にこちらの方へと向かって来た。両手に持っていた、二つの買い物袋は地面に落ちていた。二頭の熊が目の前にいる。が、熊は目の前で立ち止まったまま動こうとしない。熊が目の前に来て三十秒ほどが経った。大人の熊が両前足を一歩前に動かした。右の前足をレジ袋に当てた。思わず自分の視線がレジ袋にいった。次の瞬間自分は手を袋の中に突っ込み、鮭の入ったトレーを二つ手に取り、外袋を剥がし、熊の目の前へ運んだ。最初に小さいほうの熊の目の前に鮭を置いた。置いた瞬間、顔を鮭の近くへと動かし、口に運んだ。すごい食べっぷりで思わず見入っていた。すると大きな熊が、前足を使い、胡坐をかいていた自分の足に向かって、ポンポンと合図をしてきた。その瞬間もう一頭の熊に鮭を上げていないことに気が付き、急いで外袋を開け、目の前に運んだ。十秒ほどで食べ終わり、こちらの方を向いて「もっとないの?」と言わんばかりの顔をしてきた。急いでまた袋の中に手を突っ込み残り二つの鮭を手に取った。一回目と同じ手順で熊の目の前に運んだ。自分の顔は自然と笑顔に満ち溢れていた。二頭の熊は一瞬のうちに食べ終えた。最後の一つは自分用にと思っていたがそんなもうどうでもよくなり、残りの一つを半分にちぎり、熊は最後の一つも美味しそうに食べていた。食べ終えた二頭の熊はこっちを向き、ありがとうと言わんばかりに、またお辞儀をしてきた。反射的に自分も一礼をしていた。その後二頭の熊は、またいつもと同じ方向へゆっくりと歩を進めていった。その瞬間を、自分は目に焼き付けようと思い、姿が見えなくなった後も、数分ほど、その一点を見つめていた。

 次の日もそのまた次の日も熊はやって来た。その度に食べ物をあげた。可愛くて仕方がなかった。二頭の熊はどんどん自分に懐いていった。次第に二頭の熊は家の近くにある大きな木の下を家にしていた。最近は、熊の好物である木の実を山の中に一緒に取りに行くのが日課になっていた。最初に、瀕死の熊と出会った時から、1か月ちょっとが経とうとしていた頃だ。熊の食べる木の実がなくなってきた十二月の初め頃、突如として事件は起きた。いつものように山の中で木の実を取り終え、帰ろうとしたとき、二頭共の熊が急に下へと降りて行った。こんなことは初めてだった。ただ、人が歩くことは出来ないくらいの角度の傾斜を二頭の熊は降りて行ったため、諦め、自分は先に家へ戻ることにした。すぐに戻ってくるだろうと思ったがそれは甘い考えだった。突然下から、「キャー」と幼い、人の声がした。体の動きが止まる。すぐに嫌な考えが頭の中へ浮かんできた。安全な道を探しながら急いで下へと降りて行った。五分ほど降りたぐらいで、大人の熊を見つけた。途端に、体が崩れ落ちた。なぜか口の周りだけ赤く光っていたからだ。走ってこっちに向かって駆け寄ってくる。怖くて、思わず目を瞑ってしまった。フッという荒い鼻息で目の前にいることが分かり、何かの勘違いかもしれないという一縷の望みにかけて目をゆっくりと開けた。苦笑いしてしまった。なぜなら、熊はにっこりと笑っていたからだ。そんな時、またもキャーと悲鳴が聞こえた。今度は若そうな女の人の声だった。その数秒後に、今度は、誰か助けてください、と助けを呼ぶドスの利いた声が山の中に響いた。そこであることに気がついた。子供の熊がいないのだ。辺りを必死に見渡すがいない。子供の熊は好奇心が旺盛であると前に熊の好物を調べたりした時に書いてあった。その瞬間、下へ行ったのだろうと悟った。どうすればいいのだろうと考えた。下へ降りるのか。家に戻るかの二択だった。答えはすぐに出た。大きな熊を連れて家へ急いで足を運んだ。逃げる、それが自分の選んだ選択肢だった。上へと登っている最中も頭の中には色んな事が浮かんできた。ただ足は止めない。二十分ほどが経った頃、ようやく家に着いた。家の中に入り車の鍵を取り、車に乗る。熊を、後部座席に乗せ、車を急いで走らせた。とりあえず、この山から離れようという思いで、下に向かって車を急いで走らせた。行先はまだ決めてない。とりあえずここから離れたかった。二時間ほど車を走らせ、知らない山奥の古びた自動販売機の前に車を止めてみた。車通りは一時間に数台通るくらいで多くない。一旦外へ出て、体を伸ばした。車の中へ戻り、後部座席にいる熊をただ無心に見つめてみた。どうすればいいの分からなくなっていた。だだ、とりあえず、また車を走せてみることにした。また二時間ほど。熊は能天気にぐっすりと眠っていた。家へ帰ろうか迷った。人を殺していると決定するにはまだ早いのではないかと思ったからだ。だが怖かった。足が震えてアクセルを踏めなかった。辺りは日が暮れて、夜になろうとしていた。一旦ここがどこなのかナビで調べてみた。家からはおよそ100キロほど離れた場所だった。今日は車の中で一夜を過ごそうと思い、お腹はすいていなかったのでそのまま横になり眠りにつこうとした。が、当然眠りにはつけなかった。長い長い夜が明け、重い体を起した。最悪の気分だった。熊も自分に起こされるような形で起きてきた。必死に考え、一縷の望みに賭けてみることにし、一旦家へ帰ることにした。重い足をアクセルの上へ運んだ。一度、深く深呼吸をし、車を走らせた。家までは5時間ほどで着くとナビが教えてくれた。ドキドキが止まることは無かった。ただ、固く決意をし、車を出したので、足が止まることはなかった。家のある山の前まで来た。そんなことは構わず右足はアクセルを踏み続けていた。遠回りの道をゆっくりと車を走らせたので、家までは二時間近くかかった。必死に子供の熊がいないかを探した。だが、思いが届くことはなく、車は虚しくも、家に着いてしまった。家の周りも隅々まで探してみた。が、見つかることはなかった。後部座席にいた熊を外に出そうと思い車の方へと戻った。その時、「速報です。今日午前11時30分頃、××県×××町の×××山で熊に殺されたと思われる三人の死体が見つかりました。家族揃って、キャンプに行っていたと思われ、警察によりますと、二頭の親子の熊の仕業だということで捜査を現在も進めているということです」車の中からいつもの女性アナウンサーの声が聞こえてきた。遠回りの道を選んだのでパトカーや警察官を見ることはおそらくなかったのだろう。車の中に戻りまた車を走らせようと思ったが多分もう遅いだろうと思い、とりあえず家の中に熊を入れようとした。玄関の鍵を開けようとしたとき、ウーーーとパトカーのサイレン大きく鳴った。鍵を開ける手が止まり、サイレンが鳴っている方へと顔を動かした。もう、パトカーの姿がはっきりとわかるくらい近くに来ていた。止まっていた手を動かし、とりあえず家の中へ入り、鍵を閉めた。靴を履いたまま家の中に入り、どうすればいいのかわからず十秒ほど家の中をぐるぐるしていた。これからどうしようと必死に考える。その間、パトカーのサイレンがどんどん増えていき、その音がこ知らに向かって近づいて来ているのが分かった。すると玄関から、「○○さんドアを開けてください」と叫び声が聞こえてきた。玄関の方へ足を運び「少し時間をください」と叫び返した。即座に「自分がやっていることを理解してるんですかー」と返答が来た。そんなこと分かっていると言い返してやりたかった。が、そんなことは言っても意味がないと思い、熊のいる方に戻った。一分ほど沈黙が続いた時、警察がいうことを聞いてくれたのかと思ったがそんなことはなく、その後も警察は一方的に叫び続けていた。人生最大の考えごとだった。とても難しい問題で、何か良い考えはないだろうかと必死に考えた。答えは突然頭の中に浮かび上がった。後悔しない訳がないが、それが最善の選択だと信じ、決意を固めた。一呼吸した後キッチンに足を運び、包丁を手にし、また一呼吸して、熊の方に戻った。熊の目の前に立ち、また一呼吸し、後ろに回していた手を熊の額に向かって動かした。自分の想定では突き刺した包丁が貫通すると思っていた。が、想定外の結果になったので、もう一度試してみた。が、同じ結果だった。二発目を突き終えた次の瞬間、熊の右前足が顔に飛んできた。思わず、アーッと大きな声で叫んでしまった。外から一人の警察官が「どうした」と聞き返してきた。その後も熊は攻撃をやめない。一秒に一回爪を使い引っ掻いてきた。もう死ぬんだなと思いながら、選択した結果が少し想定外の結果になって、後悔も少しあり、後味も少し悪いが、もういいやと思い考えるのをやめ、笑顔で熊の顔を見つめることにした。その後、複数の警官が玄関を破り家の中へ侵入し、熊に向けて、発砲を繰り返した。もう元に戻ることは出来ない、それを痛く感じた。その後、一頭の大きな熊と、一人の人間は互いに抱き合うよにして、その命に終止符を打っていった。

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