5話 上乗せが無いって事はないですよね
ハクゾーはカウンターに2つの紙袋を置いて説明する
「コッチのは砕いて飲む方だ
コッチは紅茶と同じで湯にくぐらして飲む
やり方はさっき教えた方法でやってみてくれ
俺もほとんどやったことねぇから
偉そうな事は言えないし、聞かれてもわかんねぇんだ」
「ありがとうございます
なんとかやってみます」
「あと、これも入れておくから
セバスの旦那に返しておいてくれ」
「これは何かをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「これはまぁ、注文書みたいなもんだ
色々と種類があって、それに対応した物を渡すって事になってる」
「ありがとうございます
勉強になります」
「今度来る時は、もうちっとクダけてくれると嬉しいんだかな」
「頑張ってみます」
「ハハッ!だな」
大きな紙袋にハクゾーが小分けにされた紙袋とかをまとめて入れてくれる
ライは持っていたコートを着るとハクゾーがカウンターから出てきてライに紙袋を持してくれる
ライの体にしては大きい紙袋の為に、少し顔にかかって、前が見づらくなる
「なんか可愛いわね」
「頑張ってる感じかしらね」
「落としたら駄目よ、ライちゃん」
「一緒にお家に帰ろっか?」
「いえ、屋敷に戻りますので
ありがとうございます」
「引っかかってくれてもいいんじゃないの?」
「ちょっとだけ休んで行くだけだからね」
エリザはむくれているフリをして、マリアはライに近づいて言うが、ライは笑顔で返すだけなので、2人はあれまって感じで扉の方に歩いていく
ライは慌てて扉の方に行こうとするとハクゾーがサッと進み出て扉を開ける
「また来てくれ」
「ありがとうございます」
エリザとマリアはハクゾーに笑顔で応えて店から出ていき、すぐに背の高い男達が横に並ぶ
ライはハクゾーにお礼を言ってから外に出ると寒さより先に怖気が来た
ヤル気だ
撃たれる前に来る感覚だけど違う
コチラに向かって撃つ気ではあるけど
狙っているものが違う
エリザとマリアは馬車に向かって歩いている
両脇を背の高い男性が固めている
正面も後ろも建物があって狙えないのに
何故かエリザとマリアを撃つ気でいる
射線が空いているのは、ボロいレンガの建物しかと思って見ると光が少し反射している部分があった
さっきは角度が違ったから見えなかった
エリザを見るとちょうど足台に登る所だった
馬車から出てくる時はかがんでいたけど、登る時はかがまない事もあるから横にいる男性達から少し頭が出るのか
周りは気づいていないというか、いつもの様にやっているから狙えないだろうと安心しているのか
どうする間に合うか、間に合わない
どうやって止める
メイドがどう言えば?
「エリザお姉ちゃん!!」
エリザが足台から足を外して勢いよく振り返ると同時に馬車の扉に銃弾が当たる音がする
護衛の男達は一瞬固まって撃たれた方向を見ると大きな紙袋が男達の顔の高さに浮いていた
エリザとマリアはちっちゃなメイドの突進を受けて馬車の中に押し込まれた時に銃弾の音を聞くと同時に馬車の扉を外から閉められた
「失礼しました
緊急の事でしたので申し訳ありません」
真っ暗な馬車の中でライは抱きつく様な形になっていたエリザとマリアから離れて、扉の取っ手に手をかけると
さっきの怖気よりもっと酷い物が全身を駆け巡った
近くにいる2つ
周りがわからなくなるくらい危険な気配で包まれた
扉の取っ手をガチャ‥ガチャガチャガチャっとするが開かない
「なぁんて言ったのかなぁ?」
エリザの甘くて恐ろしい声が響く
後ろから抱きつかれて体を持っていかれそうなのを取っ手を掴んだ手に力を入れて耐えるが
指を持たれて少しずつ剥がされてしまい、尻もちをつく様な形で倒れ込むと後ろから首に腕を回されて抱きしめられる
「私は呼んでくれないんだ」
ライのお腹に手を置いて少し押す様な体勢をしているマリアのトゲがある冷たい声が響いた
どちらも聞いた事ない声色
感じた事がない気配、いつもは柔和な気配なのに‥‥逃げないと‥‥いや、何処に?
それよりも機嫌を損ねては駄目だ
馬車がゴトンと動き出す
速度が出ているのか、ガタガタと揺れる
「いえ、ですから
緊急の‥‥」
「なんて呼んだの?」
「なんで呼んでくれないの?」
ライは暗闇に慣れたのか、少しだけ目の前のマリアと顔の横にあるエリザの顔を見るが、目を伏せてしまう
この場所は巣なんだと理解してしまう
おそらくは目的地に着いて、あの扉が開くまでの時間を把握しているのだろう
そこまでに望みの物をむしり取って
その上、余った時間でもて遊ぶ気だろう
似た様なヤツとやり合った事があるからわかる
「エリザ様とマリア様
とにかく落ち着いてくださッ‥‥」
「エ・リ・ザ?」
「マ・リ・ア?」
お腹の上にある手に力が込められた
小出しに出してなんとか時間をかけないといけない
こういう時に要求している物を素直に出すと上乗せが来る
「エリザお姉様」
「へぇ〜」
「私は?」
「マリアお姉様」
「へぇ〜」
「焦らすのは得策じゃないと思うけど」
「わかってやってるでしょ」
ガタガタと音が鳴る
早く早く着いて欲しい
お腹にある手の力が強くなる
「あの、本当に申し訳ありません
ですが、あの状況では仕方がなかったんです」
「あんなのはよくある日常」
「それよりも非日常な事があったから」
「あの」
「エ・リ・ザ?」
「マ・リ・ア?」
やり直しらしい
2人の目が紅く光っている気がした
というか、光っている
暗闇で?光も無いはずなのに?なんでわかってしまうんだろうか
少し震えが来る
次間違えれば嫌な事が起こりそうな気がする
「エリザお姉ちゃん」
「やりぃ!」
「マリアお姉ちゃん」
「よしっ!」
後ろから首を絞められて
前からは頭をグシグシと撫でられる
危険な気配が薄れていくので、ライは助かったと思う
「ライちゃんはさ」
「ウチで働くよね」
「ご容赦ください!」
「家に着くまであと少しあると思うんだ」
「それまでに言ってくれると助かるなぁ」
「もう駄目ですから!ご容赦ください!」
「エ・リ・ザ?」
「マ・リ・ア?」
「エリザお姉ちゃん!マリアお姉ちゃん!」
「ふふふっ、あと少しかな?」
「ふふふっ、もうちょいクダけて欲しいな」
「黙秘します」
「エ・リ・ザ?」
「マ・リ・ア?」
「黙秘します!」
そんなやり取りを続けていたら馬車が止まる
エリザとマリアは舌打ちをして
ライから離れると椅子に座り直して扉の方を見る
ライは椅子に座らずにエリザとマリアの足元に座ると扉が開いたので、目を細める
「エリザ様、マリア様
コチラへどうぞ」
「ええ、じゃあねライちゃん」
「またね、ライちゃん」
エリザとマリアが馬車を降りると護衛に囲まれて屋敷の方に歩いていく
ライが馬車を降りると何人かにお礼を言われた
紙袋に銃弾が当たって助かったとも言われたが偶然ですと言ってから、自分の屋敷への帰り道を聞く
送りましょうかと言われたが、なんとなく歩きたい気分だったし、こんな事の後だから、そちらも大変でしょうと言って断った
いや、断ったのはコッチだから良いですけど
今度からは、道聞いた時とか送るとかの話の時に言ってくれたら助かります
こんなに遠いなら送ってもらえれば良かったです
今日の事ですか?
紅茶は後日送られてくるそうです
ダッフルコートとメイド服が少し汚れましたが、コートの方はすぐに綺麗になりましたし、メイド服は代わりがありますので大丈夫です
ああ、あの件に関しては口止めは無理そうなので、カルナ様にはすぐに伝わるでしょうね
仕事が増えない様にしてもらいます
昼と夜のお茶会の準備の為にセバス様とサマンサ様には色々と優遇してもらっています
何か言える立場では無いですし、貰っている立場なのは重々承知ですが
なんですが!正直言って足りません
本当に上乗せを要求したいです




