4話 壊されて良いって事はないですよね
寒い時期なので前回買った大きめなダッフルコートをメイド服の上に羽織って足早に本当の目的地とは違う方向に歩く
向かう先は少し行列のできているフルーツジュース屋さん
そこでジュースを買って満足そうにダッフルコートを買った店とかのウィンドウショッピングをしながら、売店に辿り着く
大通りにあるよくある売店で新聞を頼むと有名な会社の新聞を渡される
「いつもの若い子は?」
尋ねても店主は無言で次の客を見ている
答えが返ってこないので、売店から離れて、ライは新聞を歩きながら広げて読み始める
お目当ての記事を見つけたフリをしながら、小さく新聞を折りたたみながら、間に挟まれている小さく折られた紙を抜き取ってポケットにしまう
あの店主は半年前から見なくなっていた
いつも新聞の中に暗号があって、ライの顔を見るとお決まりの新聞をくれるのだが、半年程前から若い子に変わっていた
その時から組織から司令がなくなったので、捕まったのかと心配していたが、今日会えたって事は組織とまだ繋がりがあるって事だ
よかったと思った
ブラブラと歩き、ジュースを飲みながら新聞を読む
ジュースがなくなったので、紙の容器を捨てるついでに新聞も捨てる
紅茶の茶葉屋さんでの約束までは時間があるので周辺をブラブラと歩く
何をしようかと悩んでるフリをしながら、ポケットの中にある紙を覗くと
指令あるまで現状維持
読んでからポケットの中でクシャッと握って、手の中で細かく千切っていく
ブラブラと歩きながら、細かくなった紙を少しずつ捨てていく
売店の店主には
学校に行かされそうなんでどうしたらいいかとか、粉を飲ませるのは困難、現状維持は難しい、連絡方法もバレている可能性大、変更希望と書いた紙を渡してあるので組織からの返事待ちだが‥‥
ライはなんで!と叫びたかった
何度も同じような事を連絡しているのに、現状維持なんて無理なのに
初めてで長期潜入なんてボロが出てるに決まっているのに
最近の指令にはなんの情報を求めているかも書かれていない
どうすれば良いのか
そんな時に連絡が途絶えて、間が空いてから
いきなり粉を飲ませろとか現状維持とか
本当にわかんなくなってきたが、最終的な指令は現状維持なのだ
こちらから動く事も出来ない
内心ホッとしている自分がいるのは、今回が現状維持なので前回の指令での暗殺まがいな事をやらなくて良かったと思っての事だ
他は何にもないと思う‥‥のになぁ
キョロキョロと辺りを見て、少し迷ったフリをしながら紅茶の茶葉屋さんに辿り着く
少し離れた所に立って、両手に息を吹きかけてからポケットに手をしまう
なんで見つけちゃうかなぁと思う
いや違うか、見つかっちゃうかなぁかな
通りを挟んで向こうにいるカップル
そこから少し離れて井戸端会議をしているおばさん3人
犬の散歩をしながら目の前を通っていく男性
服装が何回か変わっているけど、気配というか雰囲気も変えないと警戒してる方としてはわかってしまう
コッチを見ている回数が他と段違いで多い
おそらくは護衛の類でコチラを確認しているんだろう
まぁ、それはいいとして
さっきブラブラしている時に見つけたアレ
ここから直線距離300メートルくらいにある建物の屋上で洗濯物干してるあの人
シャツ3枚を干したり取り込んだりしてるのは不自然
タンクトップで筋肉質で膝丈のズボン、格好も不自然すぎ
偶に変な動きしだす
なんで見に行ったかというと気配がわからなかったからだ
あんなに変なのに殺気も無ければ、気配も読みにくい
おそらく本気で敵対したら1番厄介
カップルのはるか向こうにいるやる気満々のヤツも厄介だけど
正確な位置は遠くてわからない
殺気はコッチに向いてると思うんだけど、建物が射線を邪魔していて
今立っている所くらいしか空いてないんだよね
ライはさっき後ろの建物を見たがボロいレンガの壁だ
まぁいっか
ライは考えるのをやめて、寒いなぁと思いながら、さっきのタンクトップ男性を思いだして身震いして縮こまる
今度はマフラーとか買いたいなぁ
でもこのコートで3ヶ月分くらい無くなったからなぁ
紅茶を買う金が無くなるとか思っていると
前の通りの奥から異様な馬車がやってくる
6頭の馬に引かせた黒くて窓が無いゴツい馬車が2台並んでライの方へと進んでくる
ライはハクゾーの店前まで行きコートを脱ぎ、畳んで片手で持つ
1台目が通り過ぎて止まり、2台目の人が乗り降りする扉がついた所がライの前で止まる
1台目からゾロゾロと10人降りてきて、足台を2台目の扉の所に置いて両脇を背の高い男が固める
扉が女性によって開けられると馬車の中からエリザが少しかがみながら女性の手を取って出てくる
次にマリアが同じように少しかがみながら出てくる
2人は制服の上に白いチェスターコートを着て、並んでライに向かって歩いてくる
2人の両脇を背の高い男性、後ろにも背の高い男性がいる為に背の低いライからは、なんか圧を放っている壁が迫ってくるみたいに見える
「お待ちしておりました
エリザ様、マリア様」
「なんか新鮮ですね」
「外でライちゃんを見るのもいいね」
「寒いですから中に入りましょう」
「そうね」
「早く入ろう」
ライは頭を下げて2人を迎えて、すぐに店内に入るように勧める
ライが扉を開けて2人に先に入ってもらう
護衛の方が入るだろうと待っていると誰も入らなかった
誰も目を合わせないのが不思議だけど、入らないならとライは2人に続いて店内に入る
店内は暖かく、紅茶の匂いがして気持ちよくなる
色々な引き出しが壁の至る所にある
何段にも層になっており1番上はライでは絶対に届かない高さだ
店のカウンター内では厚手のエプロンをつけた年配の男性が茶葉を小さい紙袋に入れている
「ハクゾーさん」
「こんにちは」
「おお、聞いとるぞ
すまんな、茶葉が無くなる前にいつも届けていたはずなのにな」
「いえ、今回はコチラの子に私達の好みを教えてもらおうと思いまして」
「それで茶葉を頼んでいたんですよ」
「それは早とちりをしちまったな
んで、ちっこいの!お前さんは?」
ハクゾーとエリザ、マリアのやり取りを聞いていたライはハクゾーに聞かれたので、頭を下げて話す
「申し遅れました
カルナ・ボーゲン様に仕えています
使用人のライと申します」
「ああ、そういうのはいい
戸惑うかもしれんが、普通に話してくれ
あまり敬われると気持ち悪くなってくる」
「今回はお許しください
エリザ様とマリア様がいらっしゃるので」
「んで、ライに茶葉を渡せばいいのか?」
ハクゾーは少し困ったようにしながらも
茶葉が入った紙袋を持ってヒラヒラさせる
ライは畳んでいたコートのポケットから
手のひらぐらいの大きさで円形をした銀色の金属を取り出して、ハクゾーに見せる
「なるほどな
セバスの旦那からお使いも頼まれてんのか
じゃあ、しょうがねぇな」
「ありがとうございます」
ハクゾーはライから金属を受け取るとカウンターに置いてから、また茶葉を紙袋に詰める作業を再開する
「私達は色々な茶葉を混ぜて使うの」
「色々と批判もあるけど美味しいのよ」
「そういう飲み方もあるんですね」
ハクゾーが茶葉を準備している間に店内を見渡しながら雑談をする
ライがそんな時に店内の隅の方、壁の引き出しから溢れている茶葉を見つける
他はキチンと引き出しが閉まっているのに、なんか無理矢理詰め込んでますみたいな事になっていた
「あら、気になる?」
「なんか他と違うので目につきまして」
「キチンとしてるハクゾーさんにしては珍しいわね」
名前を呼ばれたので、ハクゾーが3人の視線を追って、少し苦笑する
「アレは‥‥名前はなんていうか難しいヤツで、東洋の茶葉らしいんだが、苦味と渋みがあってな」
「そんなに苦いんですか?」
「砂糖とか入れない茶というものらしい
淹れ方も紅茶とは違うらしいんだ
1回飲んでみたが‥‥勧める事はあんまりしないな」
「そんなになんですか」
「興味あるなら包んでやるよ
金は取らねぇ、売れ残りそうだしな」
「ありがとうございます
あと、淹れ方も教えてもらえれば」
「ホントに持って帰んのか?
言っといてなんだが、マジで苦いぞ」
「少し興味があるだけですから」
「まぁ、腐らすよりいいか」
ハクゾーはカウンターでの作業を止めて、茶葉を掴む専用のトングと少し大きめの紙袋を持って引き出しから溢れている茶葉の方へと向かう
「ホントに苦いと思うよ」
「どうすんの?カルナに飲ます?」
「聞かなかった事にします」
「でも、あれだけ言うんですもの
1回だけ飲んでみたいわね」
「そうね、ライが工夫してくれるから
飲んでみようかしらね」
「勉強させていただきます」
「かたいわね」
「かたいのよね」
ライは少しずつクダけてくるエリザとマリアにヒヤヒヤしていた
お気付きの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
なんで付いてきたのが護衛ばかりで執事やメイドがいないかで、もうわかった方もいらっしゃると思います
私はすごく不思議に思いましたけど
わぁ〜‥‥本当にホントなんだとも思いました
カルナ様に関しても、なぜすぐに私が側に仕えれる様になったのか
なんでこの場に側付きの執事やメイドがいないかって、わかります?
確かにもっと酷い方もいらっしゃると聞きますが、この御三方も有名なんです
従者クラッシャーズとして
私の存在はオモチャか生け贄みたいなものです
しかし、避けられるとわかっていて、バクっと食べられる訳にはいけません
組織の者として現状維持を貫いておかなければいけません
決して踏み込んではいけないし
踏み込ませてはいけないのです
なので、ジリジリと距離を詰めてこないでください
立場上、強く言うことができませんので
よろしくお願いします




