37話 もらったって事は悪い物ではないですよね
ナガルとダイアは全力で暗い森の中を駆けていた
「速い!速すぎるって!もう!猟犬ちゃん!」
「クソッ!訓練の時はこんなんじゃなかったはずだぞ!」
「噛み付く!噛みついちゃうよ!」
「本当に真っ直ぐ行く奴があるかってんだ!」
ナガルとダイアの向かう方向で銃声が響き始めた
ダイアは舌打ちをしながら、ナガルと頷き合う
「白狼隊!齧りつけ!猟犬の影すら追わすな!」
「灰狼隊!さっきのグラタンは猟犬の手作りだ!」
「お代は!お礼は!忘れるな!」
「我々は恩知らずではない!猟犬の残りを食い漁れ!」
ガァウ!っと声が森に響くとナガルとダイアを数人が追い越していく
やがて、森に響いていた銃声に悲鳴が混じっていった
女性は暗い森を歩きながら考えていた
お兄様が聖女様からお告げをもらってきたので
私は言われた通りに暗い森に入り、1番大きな木を目指す
何度も思い返しながら、疑問が出ないように気をつける
月明かりに照らされながら、腰まである水色の髪を白い厚手のポンチョの上で揺らして
不安定な足元をメイドが持ったランタンで照らしてもらいながら歩く
1人での外出は禁じられていた為、騎士2人と
お付きの‥‥小さい時から見てくれている母親のようなメイドと共に歩いている
「なんでアルマ様がこんな時間にこんな所へ」
「そんな事を言わないで
お兄様は私の事を思って言ってくれたのよ」
「そうは言っても、こんな寒くて暗い森に‥‥」
「しょうがないと、何度も言ったじゃない」
「聖女様からお願いされたから、頼むから行ってくれの一点張り‥‥
こんな事までやらせるだなんて」
怒るメイドにアルマは苦笑いしながら、歩いて行く
なんとも言えない雰囲気の中を歩きながら、少し経った頃に騎士の2人が周りを警戒し始めた
「何かありまし‥‥なんの音ですか?」
アルマが騎士に問いかけると、遠くの方で獣の声でも木々の音でもない
小さく乾いた音が響き渡っていた
「銃声です」
「銃声?こんな時間に‥‥」
「早く済ませましょう」
騎士の2人は拳銃と腰の剣を抜いて、アルマとメイドを前後に挟むような形で歩いて行く
「よう!お急ぎかい?お嬢さん」
アルマ達は後ろから声をかけられて振り返る
男性が1人、拳銃を片手にニヤついて立っていた
騎士2人はアルマとメイドを男から庇うように立つ
男はニヤついたまま、手を振ると横から男が3人出てくる
「ここは抑えますので、行ってください」
「でも‥‥」
「お早く」
「アルマ様!行きましょう!」
騎士に言われて、メイドがアルマの手を引いて走り出す
アルマはメイドに引っ張られながら、騎士の方を振り返るが、足元が不安定な為に、すぐに前を向いて走り出す
足元が不安定で走っている時にメイドがランタンを落としてしまったので、暗い森の中をアルマとメイドは息を切らして走る
どこに向かっているのかもわからないまま走っていた
銃声と悲鳴が聞こえてくる
「アルマ様!早く!」
「はぁ!はぁ!待って‥‥」
「急いでください!」
「はぁ!もうダメ!‥‥あっ!待って!」
メイドに引っ張られていない方の手がネックレスに引っかかり、千切れてしまい落とす
落としたネックレスを見る為に振り返ると
さっきニヤついていた男が必死の形相で、ナイフを片手に走ってきていた
アルマは木の根につまずいて座り込んでしまう
メイドはアルマの前に立って、手を広げて立つ
「アルマ様!お逃げください!」
「いや!いやよ!」
アルマはメイドに縋りついて迫ってくる男を見ると絶句した
ライは走りながら、腕を交差するようにして右手で左腰、左手で右腰についている拳銃をホルターから抜く
夕方に試し撃ちして、感触は掴めているので、構えて走り続ける
動かなかった侵入者達に近づくにつれて、ライに気付いたのか
侵入者達が動き始めたので、ジグザグに動きながら、最初に銃を撃ったのはライだった
3つ‥‥コッチを見てなかった
ライはその理由がすぐにわかる
斜め後ろあたりから
まるで巨大な獣が牙を剥き出しにして全速力で駆けてくるような
味方と分かっていたとしても思わず振り返ってしまそうなくらいの存在感と殺気を感じる
そんな獣が雄叫びをあげて真っ直ぐに侵入者に喰ってかかった
まるで獣から逃れる為に、侵入者に獣をなすりつけたみたいにしてライは駆け抜ける
途中にライは変則的に走り方を変えたり、方向を変えたりもしたが、目標まで真っ直ぐに駆けていた
見えてきたのは騎士2人が、おそらくは侵入者4人を相手に押し切られる所だった
そのまま、ライは突っ込んで行く
3つ‥‥いや、2つ、1つは足と腹に当たった
侵入者の2人は倒れ込むが、1人は木の影に、もう1人はよろけるも負傷しながら走り出した
ライは走ってきた勢いをそのままに、木の影に隠れた1人を追いかけるように飛び込む
銃声が響き、男がよろめき、ライから隠れるように転げながら木の影に隠れて、撃ってくる
「ボーゲン公爵家の猟犬!状況!」
「いや‥‥」
「待ってくれ!なんだ!」
ライは撃って応戦しながら、倒れている騎士をもう1人の騎士と2人で引きずる
その際に落ちていた拳銃を蹴りながら、木の影に移動する
ライは、思った返事が来ない事をイラつくも
騎士達が腕や足から血を流しているのを見て、もう1度聞きなおす
「どうなってるんです?ここは許可がないと入れない事になってるんですが!」
「お前はボーゲン公爵家の手のものか?」
「コチラが聞きたい!どうなってる!」
「侵入者を撃退中にアナタ達が森に入ってきました‥‥どうして欲しいですか」
「‥‥叶うのなら、助けて欲しい」
「ここは抑えるから、走って行ったヤツを頼む」
ライは、それだけ聞くと逃げた男性の方向へ遠回りしながら駆けていく
残された騎士はお互いに頷き合い、ライが飛び出す瞬間から、拾った銃で侵入者の足止めをしながら仕留める機会を伺った
男は足の痛みに耐えて走っていた
腹に1発もらったが、鎖帷子を着込んでおいたので、痛さはあるが致命傷にはなっていない
護衛の騎士を4人で仕留めてから、ゆっくりとターゲットを追って仕留める
仲間達が色々とやられているかもしれないが
目的さえ達してしまえば、片割れが王族を率いて森に突入する
その後もなんとかしてくれる算段だった
なのに、アレはなんなんだ
気配を隠しながら突撃してくるにしても
撃たれるまで気付きやしなかった
1番先に俺を狙って撃ってきやがるし
鈍っていたのか、咄嗟に丸まって横に飛んだが、足と腹にくらっちまった
銃も落としちまうし、仲間も2人やられた
仲間を見捨てて、ターゲットを追うしかないと思い、すぐに走り出した
どこまで逃げたか知らないが、所詮は素人
追うのは簡単だが、足をやられたのはマズった
ターゲットを追うのも仕留めるのも時間がかかる
だが、それほど遠くに行っていないはずだ
ほらみろ!追いついた!
銃はないが、ナイフがまだある!
うずくまったな!そこにいろよ!
メイドが邪魔だが、一気に仕留めて終わりだ!
オラッ‥‥‥‥
侵入者の男性は斜め後ろからきた、首への衝撃で永遠に意識を失った
アルマはメイドの腰に後ろから掴まりながら
襲いかかってきた男性を見ていた
男性は後ろから何かにぶつかられて、アルマとメイドにぶつからず、ギリギリ横を転がっていった
男性が倒れている向こうに転がっていった黒い塊が立ち上がる
その人物は背中を向けていたので、マントのような物がアルマには見えたが、それよりもそこに刺繍されている物に目がいき、息が止まる
「3つ首の‥‥地獄の‥‥」
メイドが呟くとアルマは我に返ってるが、目は離せないままネックレスを手で探す
手がネックレスにぶつかって、持ち上げようとすると重かったので、ゆっくりと見ると銀の拳銃が絡まっていた
暗い森の中で倒れている男の首からナイフを引き抜いている人物が見える
震えているメイドが、その人物とアルマの間に立ってくれたので、アルマは咄嗟に拳銃をポンチョの中に入れて隠して持つ
拳銃を握ったのは、初めてだが、もし相手が危険な人物ならと思い震えながら、ネックレスが絡まっている拳銃をポンチョの中で持って立ち上がる
「ボーゲン公爵家の猟犬です
ここは危険なので、立ち去ってください」
ナイフを振って腰の後ろに納めた人物が警告してくる
暗い森なので、よく見えないが、メイドの服を着て、背も低くく、声も幼いとアルマは思った
「ボーゲン公爵家の使用人ですか?」
「そうなります」
「ここらへんで1番大きい木はどれになりますか?」
「‥‥立ち去ってもらえるとありがたいんですが」
アルマの前に立つメイドが質問すると、少しイラだった様な返答が返ってくる
しばらく、アルマ達が黙っているとボーゲン公爵家のメイドがため息をついてから
「おそらく、あっちにあると思いますので」
スッとアルマ達に背を向けて、ゆっくりと歩き出した
アルマ達はホッと一息ついてから、倒れている男を避けてボーゲン公爵家のメイドについていく
ボーゲン公爵家のメイドは、暗い森の中をアルマ達を振り返らずにゆっくりと進んでいく
たまに段差とか木の根がある所は、足で地面を蹴って、音を鳴らして知らせてくれる
アルマはある一定の距離を取られている為に、よく見えないボーゲン公爵家のメイドの背中を見ていた
小さい背中のマントに3つ首の犬
最初見た時は恐ろしく見えたが、よくよく見てみると、可愛らしくアレンジされている
目が潤んでいるとか、舌を出して喜んでいるとか、拗ねているとかの顔に見えてきた
アルマはいつの間にか、目を凝らして、3つ首の間違い探しをしながら歩いていた
「おそらくコレだと思います」
ボーゲン公爵家のメイドは木々が、少なくなった所に立つ大きな木を見上げてから、アルマ達を振り返った
アルマとメイドは目的の木よりも、木が少なくなって差し込んだ月の光に照らされているライを見て驚いていた
「‥‥えっと、子供?」
「公爵家の猟犬ですよね?」
アルマとメイドが声をかけると、ライは不思議そうにしながら答える
「そうなりますが
探しているのは、この木なんですよね
もういいんですか?」
「あ‥‥ああ、そうでした」
アルマは、ぼうっとライを見ていたが、我に返って、木の根元まで行く
木を見上げてアルマが動かなくなったので、ライは何をしているのか疑問に思ったが、そういう儀式もあるのかと思って待つことにした
しばらく、いやライは結構待つと森の向こうから気配を感じた
先頭の5人はやり合いたくない
けど、これは違うかな
ライはそう思いながらも拳銃を抜こうとして1個しかない事に気づいた
後で探しに行かないといけないと思いながら、今ある拳銃を右手で握りながら、近づいてくる気配の方向を見ていると、騎士が10人程、駆け足で来ていた
「アルマ様!よくぞ!よくぞ御無事で!」
「なんと!マカも無事か!良かった!」
ライは頭を下げて、動かずにいると騎士の1人に声をかけられる
「オマエは?」
「オマエは?ではありません!
アルマ様も私も、このボーゲン公爵家の猟犬に助けてもらったのですよ!」
「そう怒るな、マカよ!
すまんかった!いや、ありがとう、猟犬よ!」
「いえ、それよりもこの森から早く出て行かれた方がよろしいかと
あちらも終わりましたが、危険が完全に去った訳ではないと思いますので」
ライが忠告すると、頷いた騎士達はアルマを取り囲んで、来た道を引き返そうとする
アルマがライの前で立ち止まったので、ライは拳銃を腰のホルターに納めようとする動作を周りにわかるように見せながら行う
「その拳銃はアナタの物なんですか?」
ライが頷くと、アルマはポンチョの中で握っていた拳銃をゆっくりとライの目の前に差し出す
ライは両手を広げて受け取ると拳銃に何か絡まっている事に気付いた
「それは大事な物なんです
今日のお告げが本当なら、それを渡さなければならなかったんですけど‥‥
受け取ってくれますか?
ボーゲン公爵家の猟犬さん」
「いいんですか?もらっても?」
「はい!お礼も兼ねてもらってください」
「では、いただきます」
そんなやり取りを周りの騎士達は戸惑いながら
えっ?今の拳銃って?あのネックレスは?っと見ていたが
アルマがライの答えを聞いて歩き出した為、アルマを護衛しながら騎士達は歩き出す
ライは、受け取った拳銃を腰のホルターに納めて、ネックレスは取り敢えずボタン付きのポケットに入れて歩き出した
ライです
さて、どうなると思いますか
そう、この先の事です
簡単に予想がつくと思う人は手を挙げてください
そして、教えてください
解決の仕方を募集します
あと、逃げ方も
いや、切実にお願いします




