28話 懐くのが早いって事はないですよね
外が暗い時間にライは目を覚ます
座った状態で枕を抱き、布団に包まれた状態からモソモソと動いて布団から抜け出す
冬なので寒いが、部屋は言うほどは寒くない
どこからかわからないが
温められているんだろうなと思いながら
暗い部屋の中で洗面やトイレを済ますとクローゼットから目を瞑って取ったメイド服を着る
なんか背中あたりに犬が見えたが、見えない事にした
布団を整えて、ベッドの上にケープやマフラーを置いて、その上にワキザシを置き、ライはベットに座る
なんでこんな明け方前の時間に起きたかと言うと、ライは逃走ルートを確保しようと思ったからだ
組織から切り離された
そう判断するには早すぎるかもしれないが
あんなことがあった後だ
追って来なかったし、ここがバレていないとは思うけど
売店の人達は、すぐにアーケロン商会の人とわかっていたから、調べようと思えばすぐにわかってしまう筈だ
そうなってから、あんなやり取りをされると、ここが荒らされる
昨日のことが色々と‥‥
昨日だけの事じゃなく、色々とバレてしまう
そうなってくると相手にしなければならないのが、組織だけではなくなってくる
かなりの距離だが、ここから西の方角に行けば帝国に行ける
帝国とは時折小競り合いがあるが
昔も今も人の交流はあるので、帝国に潜り込もうと思う
できれば朝に公爵家に行くまでになんとか‥‥
逃げ出すのは今が1番いいのだけど、無理だろうなとライは思う
夜からの見回りが何人かいるし、外にも衛兵がいるので窓から出るのも、見つからずにというのは困難だし、おそらくこれを振り切るのはさらに困難だと思う
レプンが今屋敷にいないのはわかる
今日はルートを探って、なんとか安全に自然に屋敷を出て、人に紛れる
追われたら、土地勘が無いライには勝ち目が無い
せめて、人に紛れて西に向かう事を悟られずになんとか逃げ切る
やるしかない
ライは部屋から出ると、すぐにランタンを持っている執事とメイドに出会う
ライはすぐに頭を下げて、笑顔で挨拶を交わしながら通り過ぎるが、後ろから声をかけられる
「ライ様はどちらへ?」
「あまり詮索してはダメよ」
「ああ、そうでしたね」
「申し訳ありません
私達は失礼します」
「いえ、そんな」
こんな感じで商会の正面入り口まで来てしまった
ライは少し喜んでしまった
こんな簡単に来れるだったら、悩まずにすぐに出れば良かった
あの扉から出て、自由になったら、早く西に向かおうと思って
2階に繋がる階段に向かって頭を下げる
「俺の縄張りでも、この距離が限界か
本当にお前は大したヤツだな」
「おはようございます、カマク様」
2階から足音を鳴らし、腰につけている剣に手を添えてカマクが降りてくる
「教えてなかったはずだが
やはり優秀な猟犬というのは勘も良くないとな
どうだ?俺の部下になんねぇか?」
「からかうのはおやめください」
「別にからかってねぇよ、ただよ‥‥」
「からかった事にしといた方がイイわよ
私も欲しいのに我慢してるんだから」
「おはようございます、ミカエル様」
1階の明かりがつくと、ミカエルが手をヒラヒラさせながら、メイドを伴って2階から降りてくる
カマクは階段の下でミカエルを待って、手を繋いでから、ライの方へ歩いてくる
外は少し明るくなってくる時間
冬だから明るくなるのが遅いとはいえ
早朝の時間になんで支度までして起きている
そして、執事やメイドもなんでここに集まってきている
ライはわからないけども、笑顔でいるとカマクに肩をポンポンと叩かれて扉の方を向くように促される
「これから来るヤツらに嘘は通じねぇからな
もし、そうだってわかったらすぐにコレだ」
「脅さないの
それにしても何かしらね」
「わからねぇな
ただ、話をしたいってだけでこの時間に来ねぇだろうよ」
「そうね、面白い話だったら歓迎だけど
相手が相手だし、それも期待できなさそうね」
カマクがライの方を見ながら
舌を出しておどけて、首の横で手を振り、ミカエルと笑い合う
扉の向こう、商会の正面に馬車が何台か止まる音が聞こえたので、カマクとミカエルは真剣な顔付きになって、扉の方を向く
ライは扉の両横に並び始めた執事とメイドの列に並んで待機しようとするとミカエルに手招きされて後ろに控えるように言われる
メイドが2人いたので、そのさらに後ろに隠れるようにして立つ
少し待つと扉がゆっくりと開かれて、数人の騎士を伴った1人の女性が静かに入ってくる
「これは、よくいらっしゃってくださいました」
「このような時間にも関わらず、訪問を許していただき、ありがとうございます」
「スコーパー社長はもう少しで来られます
それまでは、このカマク・アーケロン
妻のミカエルが対応させていただきます」
「シアン・パレットと言います」
「聖女候補筆頭様が来られるとは
さあ、こちらへどうぞ
要件は奥でお聞きしましょう」
ライはカマクが真面目に話しているのを初めて聞いた気がすると思いながら、顔をあげてシアンを見る
腰まであるフワフワとした白髪、騎士の鎧を胸や腕の部分的に着ている
背はライより頭1つぐらい高く、スタイルも良く立ち姿が絵になっている
カマクが先を歩いてシアンを案内していく
シアンはカマクについて行きながら
「サキ‥‥サキ・マドワがこちらにいると聞いています
会うことは可能でしょうか?」
「後で伺ってみましょう」
「ありがとうございます」
ライはそんな会話を頭を下げながら聞いて
カマク、ミカエル、シアン、騎士5名が応接室の方に歩いていくのを見送った
なんとなくだが、悪い予感がする
早く自由にならないといけない気がするが
扉の方を見るとまだ執事とメイドが並んでいる
そこからは
スコーパー、ヨミ社長夫婦
ルドラ、ウル会長夫婦が
おそらくは馬車の入れ替わりの時間なんだろう
少し間を空けて入ってくる
後ろに下がって周りと混ざっていたはずなのに
ヨミとウルに見つけられて歩きながら笑われる
そんなに変かなと思いながら、次の馬車を少しの間周りに合わせて待っていると
次に入ってきたダル、ユキ公爵夫婦に見つかった時には盛大に笑われた
2人は笑いながら、応接室の方に歩いていった扉が閉まって、使用人達はそれぞれの仕事をする為に色々な方向に散っていく
ライは
どこに行けば‥‥いや、そもそも何をやればいいのかわからない為に立ち尽くしていると周りに誰もいなくなった
ゆっくりと扉を見る
外はもう明るくなっている
入ってきた人達を思い返すと悪い予感が
ゆっくりと確実に確信に変わっていった
とりあえず‥‥とりあえず外に出て‥‥深呼吸して‥‥それから‥そうだ
人に紛れて‥‥西に向かって‥‥
ライは扉の方へ歩き出して、扉を開ける
自由への第1歩、帝国への第1歩を踏み出す
「皆さんがお待ちですよ、猟犬」
2歩目は踏み出せなかった
おそらく、踏み出せば数人に捕獲される
後ろにいるレプンと数人から逃げる事は不可能だろうと思って、ライは笑顔で振り返る
「はい!」
レプンも笑顔で答えて歩き出す
ライは数人の執事とメイドに囲まれて応接室に連行されていった
応接間に入るとシアンとサキが抱き合っていた
サキは泣きじゃくっており、シアンはサキを慰めながら、ソファーに隣同士で座る
しばらくはサキの泣き声とシアンが慰める言葉が響く時間となる
応接間にいる全員が暖かな目で見守っている中、ライはゆっくりと壁の方に横移動して、目立たないようにしていた
「さてと、色々とすまないが
明日から始まる裁判もあるので、時間も限られている」
「教会側から急遽集まれる人と場所を用意して欲しいとの事なので、あくまでも中立の立場からアーケロン商会で場所を設けましたが、よろしかったでしょうか、シアン様」
「はい、ありがとうございます
それに敬語もよしてください
学生上がりの聖女候補‥‥予備のような者ですから」
「そうか、ではそうさせてもらうが
裁判前に何用だ?」
ダル、カマクはシアンと話しているが、ダルの言葉遣いが変わると緊張が走る
シアンはサキを離すと、立ち上がってダルに頭を下げる
「妄想や空想であなた達を貶めていた
明日の裁判で明らかになるが、その前にどうしても謝罪しておきたかった
これは父上、母上からの謝罪でもありますので、どうか受け取って頂きたい」
「‥‥そっち側からの謝罪とは
教会側から裁判関係となると」
「人身売買の関係です」
「今回の裁判での大きな争点だな
そっち側からの証言者等で俺ら、もしくは関係者でやっていた
そういう事で今も書類関係やら、証拠を集めているんだがな」
「昨日、人身売買の拠点と重要人物達が捕縛されました
‥‥その捕縛された中に教会の者がいました」
「その者も、その上も結構な大物か」
「はい、各地に早馬を走らせて、確認中でもありますが
捕縛した者が喋った内容と出てきた証拠関係があまりにも私達が言っていた内容と違っていました
裁判前ではありますが、謝罪をと」
シアンとダルの会話を聞いてユキ、ルドラ、カマクは少し首を傾げる
ダルは気づいているが、どういったモノかと考えている様子だった
カマクが目配せするが、ダルは片手をあげてカマクを止める
「明日に言われて恥をかきたくないって所か
しかし、俺らがそこまで知ってなかったら
どうするつもりだった?」
「いや、小娘だからといって侮らないでもらいたい
昨日、発見した拠点に私もいた
捕縛した教会関係者の顔も私が知る者だったし
何より、助けた子ども達が証言したのだ」
「子供がなんて言ったんだ?」
「アーケロン商会のワンちゃんが助けてくれたって、先に嗅ぎつけたのはそちら‥‥えっ」
シアンとサキ以外が呆気に取られた顔になり、シアンは、えっとなる
全員が顔を、視線を壁に背中を張り付けて、目を瞑りながら、ブツブツと言っている青髪の小柄なメイドに向ける
「ライちゃん!半回転!」
咄嗟にライはクルンと壁の方へ向くと全員が笑い出す
ライ、サキは困惑顔で、シアンは、アレがワンちゃんと呟いていた
違います、違います
私に声はかけられません
かけてこないでください
えっ!はい!回りました!
壁に向かってなんですか?笑い?
シアン・パレット様
わかりません、誰でしょうか?
教会の人なんでしょうが、鎧を着ています
聖女候補筆頭とおっしゃっていますが
確か‥‥聖女様っていましたよね
カルナ様と同じ年くらいの人だったような
明日から裁判ですか
内容は知りません
それに周りの人達も何も言っていないので
関係がないものだと思っています
それに学びました
そんなものにかまけて
本業であるメイドがおろそかになっては
ボーゲン公爵家の名折れです
外に出た時に恥ずかしくないように違う!
あっぶな!スパイですよ!
流れるように言ってしまう所でした
えっ?アーケロン商会のメイド?
違いますよ
暖かい布団と美味しいご飯をもらったぐら‥‥
浮気って、なんですか?
お駄賃もくれるっていうから、ちょっとだけいいなと思いましたけど
でも、ボーゲン公爵家のメイドなんです!違うって言ってんの!
ああ、もう、なに言ってるんでしょう




