26話 なくしていってるって事はないですよね
明日の朝に公爵家の屋敷に行く
それまでは自由にしていると良いとレプンに言われた為、工房2番街に行きたいと言うと簡易的な王都の地図に行き方を書いてもらった
レプンが手を出しなさいと言ったので、両手を広げて出すと小さな銃を乗せられた
「お駄賃ではなくて申し訳ありません
これはいわいる護身用というヤツです
2発しか打てませんし、威力が弱いので近距離で打たないといけません」
「はい、ありがとうございます」
「お駄賃の方は、まぁ、その格好で行くなら心配はないと思いますが」
「‥‥そうなんですか」
ライは商会の入り口にあった姿見で改めて自分の格好を見る
ロングスカートの冬用で黒いメイド服にロングブーツ
メイド服の上から白いモコモコのケープを着て黒いマフラーを巻いている
この2つはスノウから着ていくようにと押し付けられた
そのスノウは公爵家の屋敷で用事があるので、帰っていった
腰の後ろにはワキザシを横向きに付けてる
メイド服の背中側、両肩と両肘に縫い付けられてた1枚の上質な生地が膝裏まであった
生地はライの動きを阻害しないようにゆったり目に縫い付けられ、ケープから出ている生地の端の方にはヨミとミカエルが施した刺繍があった
この生地のおかげで歩いている時はワキザシが見えづらくなっているが、膨らみは隠せていなかった
「行ってまいります」
「はい、日が落ちる前には帰ってくるようにとミカエルお嬢様いえ、お姉ちゃんからの言伝です」
「はい!わかりました!レプン様!!」
声を出すライにレプンは笑いながら見送った
ライは天気の良い昼前の王都を
地図に従って歩いているとメインの大通りではないが、かなり大きな道に出る
以前いた街と違って、通りも大きいし、出店も出ていた
昼時なのか、売店や出店で何かを買う人が多いので、ライもそちらに目がいってしまう
キョロキョロと見ながら歩いているとお腹が空いてきた
良い匂いもする為に、ある店の前で立ち止まってしまう
その店はウィンナーやハム、タマゴをパンで挟んでくれる店でライはこれなら歩きながら食べれるかなと思ったが、ふと自分の格好を思い出す
その瞬間に店主と目が合ったので、愛想笑いをしてから歩き出そうとすると
「おい、メイドさんよ
ウチの品が気になるなら、持っていってくれよ」
「気にはなりますが、今持ち合わせがないですから」
「とりあえず、今あるウチの店で良いのをやるよ」
「いや、もらうわけには」
「これとこれだな、持ってきな!」
ライの話を聞かない店主が大きい紙袋を投げるように渡す
「おや、それだけじゃ足らないんじゃない?
コレも持っていきなさい」
「このジュースが、ここらじゃ1番美味いのさ」
「まだ持てるだろ?コイツも持ってきな」
「いや、本当にもう持てませんって」
積み上げられながら、紙袋を足されていったので、ライは断って逃げ出す
なんだ、なんなんだと混乱するが、ライの後ろから、アーケロン商会によろしくな!と声が聞こえてきたので、そういう事かと納得する
納得したら、持っている物をどうしたら良いのか悩む
美味しそうな匂いだし食べるのも良いけど、コレはアーケロン商会に渡された物だ
今から戻って渡すのも考えたが、そうなると工房に行くのが遅くなる
地図で教えられた道は商会から工房まで直線的ではなく遠回りになるような道で教えられた
なので一旦、商会に行って工房まで直線で向かえば近いかもしれない
そう思って、工房の方角を向いて歩いていると教えられない理由がなんとなくわかった
ライは大通りから脇の小道に入って進んでいく
なんというか急に暗く、寒くなったように感じるが、気にせずに進むと3人の子供が重なって毛布に包まっていた
遠目から気になったので、近づいていくと子供達はライをジッと見ていた
「なんだ、アンタは」
「生きてるのかなと思って」
「馬鹿にしてんのか!」
そこまで言うと盛大に腹の音が聞こえる
子供達の誰かだったが、ライと喋ってない2人はライが持っている物に目が釘付けだった
ライは苦笑しながら、紙袋を差し出すと毛布から出てきた2人は紙袋からウィンナーとハム、タマゴが挟まったデカいパンを取り出すと勢いよく両側からかじり出す
ライは勢いにビックリするが、他の紙袋を開けてジュースを取り出すと2人に差し出す
もう1人の子供もヨダレを飲み込んで見ていたが、ライが笑顔で色々挟んだデカいパンを差し出すと奪い取って食べ始める
しばらくは無言で飲み食いをしていて、次の串焼きを出すと受け取って喋り出す
「まえまで、きょうかいの、おねえさんが、ごはん、を、くれたんだ」
「だけど、来てくれ、なくて、くれなくなって、ひもじくて」
「みんな、どっか、いったの」
「そうですか」
3人は痩せていたが、ライはなんとなくわかった
背丈は変わらないか
ちょっとだけライが高いくらいだったので
立たせずに話を聞く
別にいいんだけど、串焼きを食いながら途切れ途切れ喋らなくてもいいじゃないかなと思いながら聞いているが、何もできないので早く去りたいとも思っていた
「じゃあ、そろそろ行きます
残りは全部食べていいですから」
「うん、またね
お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!ありがとう!」
「バイバイ!お姉ちゃん!」
ライは、うずくまりそうになるのを
我慢して元来た道を歩いていった
少し急ぎながら地図通りに進むとハクゾーの工房に似た建物が密集して建っている所にたどり着いた
たくさんの煙突からは煙が出ていて、鉄を叩く音が響いている
熱気のせいだろうか
ここらへんは、暖かく感じる様な気がする
地図ではここら一帯を丸で囲まれている為
とりあえずライは歩いている半袖の男性に聞いてみる事にした
「申し訳ありませんが、ハクゾー様という人を知りませんか?」
男性はなんの反応も示さずに歩いていった
無視されたんだろうと思って、今度は目についた1番大きな建物のドアをノックしてみる
返事がなかったけど、ドアを開けると熱気と鉄を叩く音が凄くなる
ライは気合いを入れて中に入って行って、作業している人に声をあげて聞いてみる
「突然すいません!
ハクゾー様を知っている方はいませんか!」
作業していた1人が手を止め、ライの方を見てから、デカい手袋を外し、周りに声をかけて歩いてくる
半袖から出ている腕は筋肉質で背が高い男性はつけていたゴーグルを外してライに声をかけてる
「聞こえにくいだろ!外に出ねぇか!」
「はい!」
ライと男性は建物から出て、ドアを閉めると音がマシになる
「突然失礼し」
「ああ、いいや、そういうのは
なんかもらってねぇか?」
「こちらになります」
「‥‥まぁ、立ち話もなんだ
ついて来いよ」
ライがハクゾーからの手紙を渡すと封筒に書かれている文字を見ながら、ライに声をかけて歩き出す
男性は危険な感じはしないし、ライに対して無警戒に背中を見せて歩き出したので、ライはついて行く事にした
男性は封筒を開けて、手紙を読みながら歩いている
時折、頭をかいたり、ため息をついたりしながら、歩いていく
ライに何も声をかけずに建物の中に入っていったので、追いかけて建物に入ると黒髪の女性と話していた
「帰ったぞ!親父からの依頼だ」
「えっ!お義父さんが帰ってきたの?」
「いや、手紙だけ」
「なにそれ?‥‥てか、その子は?」
「ああ、依頼を持ってきたメイドだ」
「アンタはまた適当に!」
ライは目の前で言い合いを始めようとしている男女に向かって頭を下げて、挨拶をしようとするが、女性が止める
「ああ、ごめんねー
私はシフって言って、ハンゾーの妻だよ
コイツは名乗りもしなかっただろ」
「ライと申します」
「ハンゾーだ」
「遅いっての!まったく!
お義父さんは元気してた?」
「はい、元気にしておられました」
「俺に依頼を振ってくるぐらいには元気だな」
ハンゾーが手紙をシフに渡すと
シフはヨッと声を出して椅子に座る
お腹を気にしていたので、ライはシフのお腹を見ると少し大きくなっている気がする
「へぇ、お義父さんがアンタにね
それで、コレは誰が使うんだい?」
「私が使います」
「は?ライちゃんが?」
「はい、今はハクゾー様が打ってくれた」
「お義父さんが!?」
「親父が打ったのか!?」
「‥‥ええ、それを使ってますが
普段使いの方ができなかったみたいで」
「見せて」
「見せてくれ」
ライは2人が近寄ってきたので、少し後退る
ワキザシの鞘が括りつけてある腰のベルトを外して、それごとハクゾーに渡す
鞘から抜いて刀身を見る2人は真剣そのもので、ゆっくりと角度を変えて無言で見ている
じっくりとワキザシを見てから、鞘に納めて2人とも深い息を吐く
「お義父さんはなんて言ってた?」
「楽しく打てた、最高の出来だとおっしゃってました」
「だってさ、どうすんだい」
「ライと言ったな
ちょっと付き合ってくれ」
「ちょっと付き合ってくれないかい、ライちゃん」
ハンゾーはワキザシを持って出て行く
シフがライを促して、ハンゾーの後をついて行くと元来た道を戻って行く事になる
ハンゾーとシフは工房のドアを開けて入って行ったので、ライもついて行く
工房の中では、ハンゾーとシフが職人達に声をかけてワキザシを渡している
段々と鉄を打つ音が止まり、やがて工房からは鉄を打つ音が聞こえなくなった
はい!ライお姉ちゃんです!
呼ばれた時は、なんかもう、胸が痛くて、キュンキュンして、大事な何かを‥‥‥
失っていません!
失っていませんが、失った気がします
言われた瞬間
前のめりに倒れそうでした
メイドの格好がダメなんでしょう
そうに決まっています
いえ、スパイとして素性を悟らせないのはいい事です
そうなんです
だから‥‥いいんです、もう
ハンゾー様とシフ様には失礼ですが
名前だけを名乗りました
公爵家の名前を
カルナ様の名前を軽々しく名乗るのはやめておこうと思っての事です
他意はありません
しかし、職人の皆さんはワキザシを
ずっと眺めてどうしたもんかって話し合っています
シフ様と他の女性が男性達の肩を叩いて笑っています
いわいる、姉御肌的な方なんでしょう
早く帰りたいんですが、どうしたもんでしょう
別に他意はありません
ただ、アーケロン商会によろしくと言われて渡された物の代わりを買わなきゃならないと思いまして、間に合いますかね
お金も足りますかね
特に他意はありませんよ
冬ですから、日が落ちるのは早いですよね
遅れたりしたら、怒られるかな
やだなぁ、早く帰らないと
だから、ワキザシを早く返してください
それ、お気に入りなんですからね
なんで、知らない人まで触ってるんですか!
キズとか絶対につけないでください!
だから!他意はないんですって!




