21話 ホメてくれるって事はないですよね
ハクゾーの所でナイフを作ってもらう事になってから、数日で色々と決まっていった
ソウジとクロッサの結婚
イナゾーとフリーの結婚
イッカクとリーナの結婚は同じ日に身内で慎ましく行われる事が決定
とりあえず、ハクゾーが工房から出てこない事には出来ないので、とりあえずは待ちになってしまっている
ライはこんな時に申し訳ないと謝ると
「いいよいいよ、ライちゃんがいないとそもそも決まってなかったんだし」
「お義父さんがやる気になったのを見れたし、いいよ」
クロッサとフリーは軽い感じで流していた
あと、決まった事は
カルナ、エリザ、マリアが王都に向かう日が決定した
2月の初めに王都から結構な人数で迎えが来て、護衛されながら向かうとの事だったので、色々と準備が進んでいる
そんな忙しい中、ライは街に来ていた
午後のお茶会で和菓子が食べたいと言われたので、急遽買いに来ていた
1人で来ていたので、売店に寄ってみると
いつもの店主が新聞を読みながら座っていた
客もいないからなのか、店主はいきなり折り畳まれた紙をライに差し出してきた
えっ!とライは思って奪うように受けとって、すぐにポケットにしまう
「最近は雑ですね、前の暗号といい」
小声で言うも相変わらず店主は何も答えない
ライはムッとなるが、ここに長居するのも良くないと思い、店主に金を渡して立ち去る
歩きながら、ポケットに入れた紙を覗くと
王都にて待つ 王都でのやり取りは直接
ライは歩きながら、ポケットの中で紙を破って少しずつ捨て色々と考えていた
組織はなんで知る事ができたんだろう
ライが王都に行く時期は、この数日で決まったのにどうやって知ったのだろう
それにしても待つ?やり取りは直接?
王都に組織があって、王都の屋敷とかに仲間がいるんだろうか?
かなりの期間ではあるが、組織との関係が薄かったので、考える事がなかったが、もしかすると情報網はライだけでは無いのかもしれない
この街や屋敷にもスパイが居て監視されているんだろうか
その割に見られている感じや嫌な感じもしない
雪が降っているからだろうか?
あの売店の店主?いつも喋ってこないから、わからないけど、監視されてる感じはしない
そのかわりに早く離れてくれって感じはスゴくする
ライはスパイと連絡役はこんな感じかなって思っているので、そこに関しては深く考えていない
今からでも戻って問いただすか?
いや、今度でいいかと空を見上げて白い息を吐き出し、顔の下半分を首に巻いたマフラーに埋めながら、カフェまでの道を歩いていく
カフェの前でコートの雪を落として、店に入り、コートとマフラーを脱ぐ
カウンターで注文をすると奥からソウジが出て来て、被っていた帽子を取って深々と頭を下げて挨拶される
「ライさん、ようこそいらっしゃいました
先日は、誠に失礼な事をしてしまった
恩を受けていたとは知らずに本当に申し訳ない」
「いえ、そんな、頭を上げてください
この前も申し上げました通り、貰えるようになったので」
「しかし、あのような大事な事、初めてだったとは知らずに」
「いや、本当にいいですって」
ハクゾーに工房を追い出されて、茶葉の店の方でクロッサから色々と聞いたソウジは平謝りして、腹をどうのこうの、義兄弟にどうのこうのと宥めるのが大変だった
イナゾーは落ち込んで、小さくなって謝ってくるし、クロッサとフリーは笑い転げてるしで本当に大変だった
「今日は和菓子を?」
「はい、セバス様とサマンサ様も食べてますから」
「予約無しで来られたという事は」
「察してもらえるとありがたいです」
「ありがとうございます」
「そういえば、和菓子ってここでしか買えないんですか?」
「いえ、本店は王都にあって‥‥義兄弟がやっておりますので、連絡しておきます」
「ありがとうございます」
何かを察したソウジが声を小さくして、ライに言うと店の外に視線を一瞬だけ向ける
ライは笑顔で頷いてから、カウンターで包まれていく和菓子を覗き込む
「新作ですか?」
「そうなります
あまり大した事ではないと思いますが
道中お気をつけて」
「はい、失礼します」
和菓子が入った紙袋を受け取るとソウジに見送られてハクゾーの店を目指して歩いていく
結構近くなので、小走りで店に向かい、そのまま店に入る
「失礼します」
「いらっしゃい、これはライさん
この前は」
「いえ、本当にもういいです
さっき、ソウジさんにも言われましたから」
「そうか‥‥わかった」
「ハクゾー様はまだ篭ってます?」
「親父は飯以外は工房にいる
なんか職人泣かせで腕が鳴るとも言ってたけどな」
「それは、なんかすいません」
「いや、楽しんでやってるようだから
いいんじゃないだろうか、今日の用はこの事か?」
「いや、茶葉を貰いに来ました」
ライがポケットから銀色の板を出すと、イナゾーは小さい紙袋に茶葉を詰めていく
ライは詰め終わった紙袋をカウンターから出した大きな紙袋に入れていく
「親父が終わったら、すぐに連絡する」
「はい、お願いします」
「帰りは大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
紙袋を2つ持って入り口にいくとイナゾーがドアを開けてくれる
礼を言って店から出て、イナゾーに見送られて屋敷までの道を早歩きで進んでいく
急ぎだったので時間もあるけど、後ろから一定の距離をあけて同じ速度でついてくる人がいる
カフェの少し前から、ずっとついてくる
最初から今まで分かりやすすぎたので、ほっておいたが、この先は屋敷まで続く真っ直ぐな道があるだけで、山に行くか、屋敷に行くかしかなくなってくる
勘違いではなさそうだなぁっと思って、ライは不意に止まって振り返る
ついて来ていた人はピタッと止まって、動揺して周りを見るが、ライがジッと見ていると溜息をついてライに近づいて来た
「さすが公爵家の使用人ね
いつから、わかってたのかしら」
ライは答えずに笑顔で立っている
「黙っているのは色々と無礼だと思わないのかしら
アナタはカルナ・ボーゲン公爵令嬢の使用人でしょ?」
ライは笑顔で立っていた
「屋敷に案内しなさい!
アナタのような無礼な使用人は初めてです!
名乗るぐらいしたらどうなの?」
ライは屋敷の方に向きを変えて走り出す
「ちょ!待ちなさい!
なんで!何も言わずに走り出すのよ!
私が誰だかわかっているの!」
ライは止まらずに走って、胸ポケットから小さい笛を出して吹くと微かに音が鳴る
笛を胸ポケットにしまって、屋敷の門に着くと前からフリーが走ってくる
「状況」
「カルナ様を知ると言う女性
貴族のように話すが、姿が市民より悪い」
「背後、場所」
「いないと思います、道を真っ直ぐ来ます」
「私と2人、出迎え、猟犬ちゃんと4人は脇で警戒、残り2人は荷物持って屋敷に連絡」
ライは荷物とコート、マフラーを預けて銃を受け取る
フリーが言い終わるとその場にはフリーと2人を残していなくなる
フリーは雪が降る道の向こう側を目を凝らしてみると雪に足を取られながら歩いてくる人が見える
赤髪は後ろでくくって、コートを着てヨロヨロと歩いてくるが、見るからに汚れている
旅に慣れていない奴が長旅をして来たように見える
フリーは女性が目の前まで来るのを待って、笑顔で言い放つ
「御用のない方は立ち去って頂けますか」
「ここにカルナがいるはずよ」
「申し訳ありませんが来客の予定はございません」
「さっきの青髪のメイドもアナタも失礼な奴ね!私を知らないっての!」
「申し訳ありませんが、存じ上げません」
「カルナが知ってるわ!ここに呼びなさい!」
「申し訳ありませんが、これ以上ここにいられるなら、名も知らない方が雪に埋もれるかもしれません」
「‥‥‥サキ‥‥サキ・マドワよ」
「‥‥マドワ侯爵家の御令嬢様ですか
それこそ何用でしょうか?」
「‥‥‥」
サキ・マドワと名乗った女性が黙ってしまったので、フリーも黙るが、ライがいる方向をゆっくりと向いて
めんどくさいの釣ってくんなぁ!どうすんのよ!コレを!
と、ライに顔やサインで伝えると、そのまま屋敷の方に向いて頭を下げる
屋敷の方からはサマンサが歩いて来ていた
サマンサはフリーから話を聞くと
「カルナお嬢様よりある程度判断を任されておりますサマンサと言います
屋敷の方に案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「え‥‥ええ」
サマンサはフリーを先行させてサキを連れて行かせる
サマンサは笑顔で勢いよくグリンとライの方を向いて手招きする
ライはトボトボと歩いてサマンサの近くに行く
「まったくめんどくさい者を連れて来たわね」
「フリーさんにも言われました
そんなにですか」
「年末のパーティーでの黒幕とされている家の御令嬢であるのと‥‥‥」
「と?」
「カルナお嬢様が王都サイトのガイア学園から出るキッカケになった1人よ」
ライは空を見上げると、雲の切れ間から光がさしていた
なんかいい事起きないかなって適当に願うと
引き当てるものなんでしょうか
よりによってこんなものまで
おかしいですよね
小さな願いだから
慎ましく願ったから叶わなかったんでしょうか
それにしても、街を歩いていて棒かバチにでも当たったんでしょうか
知らなかったんです!
スパイなのに知らない事が多い気がします
後から実は知ってる事なんだ!って言ってみたいですね
言われる事は無いですよね
実はもうスパイって事は知ってるんだとか
いや、バレたいって言っている訳ではないんですよ
楽になりたいと思う事は偶に‥‥
いえ、なんか弱ってるんでしょうか
ちょうど雲の切れ間から光が屋敷の方へ出ていましたので、命乞いをしておきます
知らないって事で許してください!
本当に知らないです!
隠してないのにバレるも何もありませんって!
今だけでいいんです
誰か連れて行ってください
いや!屋敷じゃなくって!そっちは行きたくありません!どっか違う所です!
そうでした
ライです
忘れてました




