16話 救われてないって事はないですよね
パーティーは大盛況だった
カマク・アーケロンとその妻ミカエルが遅れてきた理由を注目が集まる中で話す
内容は
姫達を騎士が悪漢から救出する物語
食事をしている者は手を止めて
ダンスをしていた者は足を止めて
楽団が奏でるテンポの速い曲は止まり
ゆっくりと物語を飾る曲へと変化する
物語がクライマックスとなり、姫達が悪漢の手により荒々しく汚されそうになった時
忠実なる臣下が放った1匹の猟犬が姫達の危機を救い、駆けつけた騎士を助け、悪漢共を食い散らかす
その時の様子をミカエルが笑顔で楽しそうに語り出すと、興奮で顔を赤くしたスノウ・ボーゲンが使用人と繋いだ手を可愛らしく上下させながら、ミカエルと共に語る
スノウと手を繋いだメイドは恐縮しており
物語の中心となって語られる時も
ある方向に頭を下げて動きを止めたり
ある方向を向いて視線を止めたり
小刻みに震えていたかと思うと、諦めたかの様に顔色を変化させてスノウと繋いだ手をされるがままにブンブンとされていた
「というわけなの!
私のライが助けてくれたのよ
主人を思う忠実でカッコいい猟犬!」
物語の締めくくりにスノウが言った言葉の後に扇の閉められる音があたりに響いた
カマク、ミカエル、スノウに注目していた人達がそちらを見るとカルナ、エリザ、マリアが立っていた
「誰がアナタのですか?スノウ」
「ライがスノウのです!カルナ姉様」
「人の物を取るなんて誰に教わったのかしら」
「妹が姉の真似をするなんてよくある事
それにライより良いのはいるじゃない」
「なら、アナタがそれにしなさい
姉の言う事が聞けないのかしら」
「嫌よ!ライが良いの!
妹の言う事も聞けないのかしら」
「この」
「何よ」
「まったく、仲が良いのは喜ばしいが
そこまでにしろ」
カマクがやれやれと言った感じで仲裁に入ると、周りからも微笑ましい光景を見た様な空気が流れ出す、ある一部を除いて
その後しばらくして、パーティーはアーケロン会長の挨拶で締めくくられて、お開きとなった
ここよりは尋問という心の拷問があります
唐突ではありますが、心の準備をお願い致します
表現等はかなり微笑ましくなっておりますが
私の様な‥‥‥
どうしようもなかったのに
何も言い返せないのに
言われるだけっておかしくない
失礼しました
最近、自我が芽生えてきました
使用人には必要の‥‥いえ、スパイには必要のないものとして教えられております
でもさ、でもね、どうしたらいいの
なんでスパイってバレた時の心構えと覚悟以上を決めなきゃいけないんですか
バレたいとは思いませんが、バレた方が楽なんですかねぇ?ねぇ!
唐突に失礼しました
そして、失礼します
カルナの為に用意された寝室は広く、部屋も暖かくされていた
ライは5人分の紅茶の用意をしながら、たまに周りに視線を泳がす
ライの他にメイドが5人いたのだが、音も無く、ゆっくりと減っていき、今はライだけとなっている
少し大きめのテーブルが用意されて、その上には軽食とケーキ等のお菓子が用意されていた
テーブルを囲む様にして、椅子に座る女性達は部屋着に厚手のローブを羽織り、膝掛けをしている
ライは寝室に入る前に暖かく濡れたタオルで顔や髪を拭き、少し大きめではあるが服も借りて着替えていた
ライは5人の女性に紅茶を用意して
「では、御用の際は‥」
「ライ、アナタは誰の物になるのかしら?」
「カル」
「言わせるのは卑怯だと思わない」
「あら?言ってもらえる自信がないのかしら」
「言わせないと安心できないよりはマ・シ!
ボーゲン公爵家に仕えているんだから、私にも仕えているわよね、ライ」
「はい、スノ」
「アナタも言わせて安心してるわね」
姉妹が言い合いを始めたのを横目にもう一方の姉妹は紅茶を楽しむ
「あら、美味しいわね」
「でしょ、ミカエル姉様」
「ですね、ミカエル姉様」
「久しぶりに聞く気がするわね
微妙にズラした可愛い双子の音色」
「そんなに久しぶりかしら?最後に会ったのは」
「確か、王都を出る時でしたわね」
「来年には戻ってくるのでしょう
次はあんまりやりすぎては駄目よ」
「はい、姉様」
「はぁい、姉様」
「あら?お姉ちゃんでも良いわよ」
静かに作業していたライの方から小さくカチッと陶器が当たる音がする
いきなりエリザとマリアが満面の笑みとなったので、ミカエルは微笑みながら首を傾げる
「うふふ、私達はもう卒業したのよ」
「うふふ、次に入学した子がいるのよ」
「流れ的にライちゃんかしらね」
「あら、当ててしまうのは面白くないわ」
「姉様はいつもこうですもの」
「でも、呼ばれている所を聞いてないわよ」
「エ・リ・ザ?」
「マ・リ・ア?」
「‥‥エリザお姉ちゃん、マリアお姉ちゃん」
「あら、面白いわ!ミ・カ・エ・ル?」
「いや、そ」
「ミ・カ・エ・ル?」
「ミカエルお姉ちゃん‥‥」
「はい、よくできました!拗ねてるのがまた良いわ
私も欲しくなってきちゃうわね」
ミカエル、エリザ、マリアの目に怪しい光が灯り出してライを見る
ライは怖気が止まらなくなってきた
カルナとスノウは言い合いをやめる
なんか横から狡猾な鳥に好物を取られた様な気分になってきた
「アナタも良い度胸ね!」
「ミカエル姉様までなんですか!カマク兄様というものがありながら!」
「あらまぁ、遊んで欲しいのかしら?
良いわよ、たまには可愛い妹達とジャレるのも悪くないわね」
「ライは来たい方に来ると良いわよ」
「最後に選ぶ方はわかっているわよね」
ライは祈るしかできなかった
どの道を選んでも崖
道ですらないなら選べないのに選べと言ってくる
なら、1番強い所を選べば良くないだろうか
いや、良くないな‥‥本当に良くない
ライは祈った
助けて欲しい、何もあげれないけど
誰か強い人がいたらお願いします
ノックが鳴りライは少し横に避けて頭を下げる
「何かしら」
「失礼します
アーケロン会長よりライを貸して欲しいとの事でございます」
「明日では駄目なの?」
「申し訳ありません、今という事です」
扉は開かずにそのままやり取りが行われる
こんなやり方はどうなんだろうと思うが、扉の向こうから聞こえる声は男性だから、女性の寝室を開けれないのかとライは思って‥‥思って顔が青くなる
その様子を見たミカエルは微笑む
「行ってらっしゃい、ライちゃん
お爺様は待つのが嫌いなせっかちな人なのよ
仕事以外はね」
「はい、失礼します」
ライは一礼すると扉の手前でまた一礼して部屋を出ていく
助かった、色々と本当に助かったと思い、祈った先に感謝を述べながら扉を出る
そこには、あの拠点で見た執事が立っていた
あの時のまとわりつく様な気配は無い
今は黒い髪を後ろに流し、優しく柔和な感じの笑みを浮かべている
背筋をピンと伸ばしているが自然体
おそらくは気付いたら間合にいそうな感じがする男性がゆっくりと歩き出す
ライは男性の後ろから速度を合わせて廊下を歩いていく
「あの時は失礼致しました
何者かわからず、威嚇していまい不快な思いをさせたのではないかと」
「敬語などおやめください
あの時は仕方のない事です
ライと申します
申し訳ありません、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「これは失念しておりました
最近は名乗ることなどありませんでしたから
レプン・クルーズと申します
スコーパー・アーケロン社長に雇われております」
ゆっくりと歩くレプンにライは違和感を覚え、なんとなく歩き方を見る
何かリズムがバラバラで、今にも方向を変えて襲ってくる様にも見えたが
今はそんな気配はなさそうなのでレプンの顔を後ろから見て歩いていく
「それにしても助かりました
3階にいたならず者を先に処理してもらって、若様が怪我などしていたら、我々も冷静ではいられなかったでしょう」
「冷静でなかったなら、この場に私はいなかったでしょう
そう考えると、自分の為にやった事なのでお気になさらないでください」
「これは一本取られました
若者と話すと、なんとも良い刺激になりますね」
レプンは片手を口元に持っていき、少し笑う
ライはそんな柔和な空気がありがたかった
さっきの祈りを聞いて、あの凍りつく様な場所から助け出してくれた人
今も話していて、とても安らぐ感じがする
少し前にいた空間が酷かったから、そう感じるだけだとしても、今は感謝している
あの時は、目も合わせられず申し訳ありませんとか思っているとレプンが大きな扉の前で立ち止まる
扉の向こうから怒鳴り声が聞こえる
なんて言っているのかは聞き取りづらいが、怒っているのはわかる
レプンはこれを聞き取って返事まで返していたと思うとレプンに対して、使用人としてスゴイとさえ思う様になっていた
レプンが扉をノックをすると、向こう側から入れ!と怒鳴る様な声が聞こえる
レプンが扉を開けて中に入ったので、続けて部屋に入ると床にセバスとイザナが座り込んでおり、2人の前にルドラが息を切らして杖を振りかざしてセバスを殴る所だった
ニブイ音が響き渡り、セバスが倒れ込む
「ライをお連れしました」
「ライと申します」
部屋に入って挨拶をすると部屋の奥にはダル、ユキとウルが椅子に座ってライの方を見ている
部屋の隅にはサマンサがいた
「よく来たな
孫が世話になったと聞いている」
「ああ、そうだ!
俺の所は孫とその婿、それと可愛い孫達2人まで世話になったって聞いてるぜ」
ライはどう理解していいのか
どう答えていいかわからず
頭を下げて動かなくなる
「固まってしまったのかしら
面白い子ね、昨日見た時もそうだったけど」
「カルナちゃんの事をお姉ちゃんって言ってた子よね」
「そうそう!あの子達が大笑いするんだもの
嬉しくって覚えちゃったわ」
「確かに久しぶりに良い笑顔だったわね
それにしても、こんな子が孫娘達を助けてくれたなんて想像がつかなかったのよ
レプン、本当にこの子で間違いないの?」
「ええ、間違いありません」
あはは!ライです
なんでしょうか
雲上の人々というのはこの事でしょうか
何が終わって
何が始まるんですか
もう嫌です
できるなら普通にスパイだけしていた
幸せな日々に戻してください
そういえば皆さん
お忘れでしょうか
私はメイドの格好をしていますが
男なんです
夜の婦女子の寝室にいた事が
バレたらどうなると思います
教えてもらえませんか
なんですか?責任って?
本当にお茶会をしていただけです
信じられないってなんですか
本当なんです
信じてください
考えてもみてください
あの方達を相手に
一体、何をしていた
いえ、何ができるっていうんですか




