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1話 そんなはずないですよね

世界には想像もしないような事がある


こんな事を思うのはこの世界を知らないからだろうか

自分が知っている事が全てで

初めて見る事は新鮮に感じるが異常にも感じる


毎日生きるのに必死だった

何にも知らずに色々な事をしたし、させられた

なんでそんな事をしているのかわからない

けど、すれば食べれる、よく寝られる

良いのか悪いのかわかっていなかった

それがどんなことになるのかも知らなかった


ある人に連れて行かれた先で色んな事を教えられた

コレをしろアレをしろ

出来なければ暴力、食事抜き、睡眠無し

おそらく3年くらい同じ年代の子達と勉強と戦闘訓練と実地訓練、マナーや作法を学ぶ

段々と人がいなくなって、また増える

その理由がわかる時が来た


ある屋敷に住んで働けと言われた

新しい名前から性別までの全てを与えられて

働きながら、報告するように言われる

いや、命令されたので、いわいるスパイをしろとの事だった


知らない国の見たことのない豪邸だったのだが

勉強はこの時の為だったとわかる

この屋敷で、いや、この国で扱われる言語や礼儀は今まで教え込まれたものだった




「ライがここに来てどのぐらい経ったっけ?」

「ちょうど10ヶ月になります、カルナ様」


屋敷の1階にあるガラス張りの温室でテーブルの椅子に座る制服姿で腰まであるストレートの銀髪を頬あたりでいじっているカルナは、ロングスカートのメイド服を着て紅茶の準備をしている青い髪をポニーテールにしているライに聞く

カルナの隣に座っている顔がそっくりな2人で制服姿の女性がライとは別のメイドにケーキを用意してもらいながらクスクスと笑う


「カルナったら、こまめに聞くのね」

「毎回聞いているのよ、それ」

「そうだっけ?でもライの事を歳も近いから呼べって、エリザとマリアも毎回言ってるじゃない」

「そうだっけ?」

「そうでしたっけ?」


エリザとマリアは同じ顔でクスクスと笑う

身長は同じで、青い瞳、髪は金髪で背中の真ん中までで緩いウェーブがかかっている

違いと言えば、エリザの方が胸が服の上からわかるくらい大きい事だけだ


「双子だからって真似っ子みたいな聞き方しないでよ」

「私達も小さい時から一緒にいたから姉妹みたいなものじゃないの、アナタも」

「姉は嫌だけど、手のかかる妹ならギリギリで許せるかしらね」

「は?姉がアナタ達ならグレてるわよ」

「そうなったら、後のセバスが教育してくれるわよ」

「その前にセバスが泣くんじゃないかしら」


カルナの背後に立っている執事姿の年配の男性セバスは肩を少し震わせて笑顔で会話を聞いていた

3人が会話している間にライは紅茶の準備を整えたので、礼をして下がろうとするとセバスの視線を感じた為にライが動きを止める


「今日もライちゃんに淹れてほしいのよね」

「駄目かしら?」

「前みたいに押し問答して少し冷める前に淹れてやんなさい」

「はい、かしこまりました」

「えぇ〜、そこは」

「はい、お姉ちゃんでしょ」

「言うなら、私が1番だからね」


ライはカルナ達に笑顔で答えるとポットとカップを温めているのを確認してから熱湯に茶葉を入れる

あまり緊張したような素振りもなく手順通りにサッと済ませて時間が経つのを待ち、セバスが時計を確認しているとライが紅茶をカップに注ぐ為にスッと動き出す


「セバスが何も言わないのはスゴイ事よね」

「ライちゃんがどのぐらいなのかを何回も聞くのがわかるわ」

「あげないわよ」

「えぇ、なんで?」

「独り占めは駄目よ、カルナお姉ちゃん」

「やかましいデスワ」


双子がライを褒めてから、いつものようにおねだりしようとするのをカルナに止められたので抗議する

会話を邪魔しないように、手際良く音を立てないように紅茶を3人の前に用意してライは礼をする


「どうかしら?セバス」

「私としては問題はありません」

「お父様やお母様も許してくださっているから問題なさそうね」

「えっ!じゃあ」

「来年から?」


カルナがセバスに確認しているのを聞いてエリザとマリアは喜び始める

ライは目を伏せて会話を聞きながら、次の仕事を考えていた

お風呂の準備をしないといけない

エリザ様とマリア様は泊まるんだろうかと思っていると会話が止まっており、視線を感じたのでカルナ達を見るとカルナと双子とメイド2人とセバスがライを見ていた

ライはどうしたらいいかわからず笑顔を浮かべる


「ライ」

「はい、カルナ様」

「来年度から高等部に来なさい」

「えっ!はい?」

「はい!決定!」

「後輩ができましたね」

「やり方が強引すぎません」


呆気にとられるライをほったらかしてカルナ達は決定したからと言って、紅茶やケーキを味わっていく

ライはからかわれたのかと思って、セバスやメイド2人を見ると笑顔で頷いているので、本当にわからなくなる

わからない事は忘れて、次の仕事に移ろうと扉の方に少し下がって礼をして扉の方に振り返るとカルナ、エリザ、マリアに言われる


「問題ないと思うけど3ヶ月後に入試あるから」

「来年の2月半ばだったっけ」

「もうすぐ12月だから、あと2ヶ月半かしらね」


ライはピタッと止まってカルナ達の方に向きなおると笑顔のカルナ、エリザ、マリアと目が合う


「楽しみよね!ライ!」

「学校でもライちゃんの紅茶が飲めるのね」

「大丈夫よライちゃん以外にも執事やメイドはいるからね」

「‥‥‥ハイ」


セバスにも笑顔で見られて頷くしかなかった



ライは1日の仕事が終わりシャワーを浴びて自室に帰ってきた

住み込みで働いている為に本邸から歩いて5分ほどの所にある寮で暮らしている

部屋はベットと机が備え付けであるが、それだけでいっぱいになる狭い部屋

ライは寝れるだけで満足だった

キッチンとお風呂は共有で掃除等は持ち回りでやるとかは決められているが、住み込みで働いているのがライしかいない

夜勤の人が休憩に寝に来るくらいで、後の使用人は送迎の馬車で最寄りの街からの通いだ

こんな扱いを受けれるのもカルナ・ボーゲン様がパラケイア大国の公爵令嬢だからである


ボーゲン公爵はパラケイア大国の軍事、内政、外交を担っている三大公爵の1つで軍事を任されている

ボーゲン公爵は3人の嫁と7人の子供がいて、カルナ様は三男四女の下から2番目の娘となる

それぞれが優秀であり、長男と次男、三男は家の伝統で一兵卒から軍隊に入り、先の帝国戦や戦後復興、災害救助等で手柄を立てて出世していっている

特別扱いを嫌って、常に前線に立ち、人望も厚く、性格も3人とも良いらしい

カルナ様と妹君以外は結婚しており、相手も自分が選んだ人で素晴らしい人らしいです


カルナ様は今16才で、5つ上の婚約者がいたみたいなんですが、浮気が酷くて2人の女性とデキ婚されたみたいで、半年程前に報告された時、婚約者はカルナ様と長男様にボッコボコにされて屋敷を後にしていました

どうやら、長男様の部下だったらしいです


なんでこんな話をするのかと言うと

ご紹介が遅れました

ここにはスパイというか、工作員として派遣されましたライと申します

依頼者は知りません

組織に命令されて、使用人募集に応募して採用されました

入る時はかなりザルで、15人くらいいましたが、入って3ヶ月の時に行われた本試験で1人になりました

3ヶ月間に及ぶ激務の後に近くにある山で戦闘試験がありました

6発のペイント弾が入った銃とナイフを持たされて3日間で2人にペイント弾を当てろというものでした


相手はこの屋敷に勤める先輩方

1日目で2人に当てて合格しましたが、なぜか続いて行われた延長戦で

執事長であるセバス様と

メイド長でセバス様の奥様であるサマンサ様は気配すら分からず

2人の娘、クロッサさんとフリーさんに取り押さえられて終了となりました

色々と抑えて試験を合格しましたが、延長戦では無理でした

あんな殺気を振り撒いて来られたら必死で抵抗するに決まってます

ハメられた気もしないではないですが


そんなこんなで新人は1人となってしまい、雑用その他をこなしていたんですが

婚約破棄後の数日後に花壇の雑草を抜いていたんですが、その時、頭に落ちてきた花が乗っかって、その瞬間を屋敷の窓から見たカルナ様が大笑い

一日中、頭に花を乗っけながら仕事をさせられてカルナ様のお気に入りになりました


雑用を行いながら、カルナ様が学校から帰ってから行うお茶会の準備

最近ではケーキを作らされたり、お茶を淹れさせられたりと仕事の優先順位が変わってきている

先輩方に助けてもらって、なんとかやっているので、お返しではないですが

これから夜勤の人にケーキを焼いて紅茶を淹れます


なんて事を考えてベットに部屋着で座り込んで、ゆっくりと仰向けに倒れ込む

ゆっくりと息を吐いて天井を見上げる

1番に考えなければならない事を放棄している

そう思いながら、ゆっくりと息を吸って息を吐く


半年程前から組織からの連絡が来なくなっていた

ここに潜入してから1ヶ月に1回は街に行って、買い物等をしながら連絡を送ったり受け取ったりしていたのだが、いきなり来なくなった

緊急の合図もない

なので、撤退もできずに過ごしていると2週間前に街に行くといつものルートで珍しく短文で命令が来た


飲ませろ 10日以内


粉が同封されていた

ターゲットもわからない

わからない事も無いが、間違いだったら

それにコレを飲ませるのかと考えたらためらう

何故、ためらうのだろうか

粉の量を見るからにおそらくは即効性

確実に疑われ、運が良ければ拷問、悪ければ‥‥

いや、ためらっているのは自分の事が理由ではないような気がする

じゃなきゃ、期日を超えて悩まない


そんな事を期日を超えてからずっと考えている

ボッーっとしているとオーブンの温めが終わる時間になったと思い、起き上がる

少し伸びをして2週間前に買った紅茶は、あとどれくらいで無くなるかなぁとか

ケーキの材料は先輩方が出してくれるので、美味しく作らないとなぁとか思いながらキッチンに向かう


あぁ、それと組織が申請書類を作って応募してくれたんですが

メイド募集しかしていなかったらしいので

メイドの姿をしています

ですが、私は男なんですよね

だからこそ信じられないんです

ここがそんなザルなはずがない

バレてるよね絶対

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