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はじめのポーション

   ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎


 一面に広がる草花。風が赤や青の鮮やかな色彩をちらつかせ、その瞬間、ふいに過去の人物たちの記憶がよぎる。意識が飲み込まれそうになった所で声がかかり、アリアベルはハッと現実に引き戻された。


「アリアベルさま? どうかされました?」

「……あ、ううん、なんでもないの。……ええと……、それよりこれは……」


 気づけば目の前にはたくさんの薬草が詰め込まれたカゴが置かれていた。よく見てみるとそれは、太古の昔に存在し、今では見ることさえ叶わなくなった幻の薬草ばかりである。

 

「まあ! ダイヤフォースとゴールドレイン、パールボウスとホワイトヤグル、オレンジテイルとナナエクボまで! すごいわ!」


 薬草を手に取り、アリアベルは興奮気味にそれらを眺める。その様子に植物の下位精霊スプラートたちは嬉しそうに微笑んだ。


 あの日、再び地下の異次元空間へと戻ったアリアベルは、まずはしっかり体を休めた。落ち着いた途端、どっと疲れが出たようで、そのまま数日間は深い眠りに落ちたようだ。起床後は元の感覚を取り戻すべく、力のコントロール調整の訓練をし、少し手間取ったが、今ではかなり本来の自分を取り戻せている気がしている。

 そして今は、アリアベルがやってみたいと言っていた事の一つである、ポーション作りに取りかかろうとしているのだ。


「でも、どうしてわざわざ治精水を?」

「神術の代替品なら薬草を使わない神癒水のほうが〜」

「アリアベル様なら治精水を上回る神癒水を簡単に作れるではありませんか〜?」


 スプラート達は不思議そうな顔をする。その反応はもっともで、アリアベルは薬草を使うという面倒な事をしなくとも、水さえあれば、そこに特別な神力を注ぎ込む事で驚異的な効力を発揮する“神癒水”を作る事が出来たのだ。


「だって、それではつまらないもの。神癒水のように全てに万能じゃなくて、治精水は薬草ごとに効力が違うものが出来るのが面白いわ。……それと知ってる? 今はもう治精水とは言わないのよ? ポーションって言うの」

「ポーション?」

「ポーション!」

「ポーション! ポーション!」


 話している間にも手を動かし、アリアベルはさっそくポーションを作り始めた。だいぶ大昔のレシピなので忘れているかと思いきや、植物に触れてみると自然とその工程や手順が思い出せる。擦ったり揉んだり刻んだり、混ぜたり焼いたり煮出したり、仕上げにほんの少し、気をつけながら本当に少し、気休め程度の神聖力を注ぎ込めば……、


「「「ポーション出来た〜!!」」」


 あっという間に数種類の特製ポーションが完成した。幻の薬草で作られたポーションはどれもこれもキラキラとした輝きを放っている。しかしそれを見たアリアベルは「うーん」と、どこか納得がいかない顔をした。工程を忘れずに作れた事は良かったが、何だかとても物足りない。この時、アリアベルは改めてある考えに思い至った。


「なんでなんで〜?」

「これじゃダメなの〜?」

「仕上がりは完璧ですよ〜?」

「……あ、うん。これはこれですごくいい出来なんだけどね。私はやっぱり、ポータルの外にある薬草を扱いたいなって……」

「ええ〜!?」

「お外のは瘴気で汚れてるよ〜?」

「作っても効かないかもしれませんよ〜?」

「そこをね、いろいろ試行錯誤しながらやるのが面白いのよ。私、今までいろんな時代に生まれて、その時々の植物に触れてきて薬草学に興味を持ったの。だって、同じ植物なのに時代ごとに性質が違うし、地域によっても色や大きさ、成分まで異なるのよ? 聖女より薬師になりたいと思って動いてみた時代もあったのだけど……」


 そこでアリアベルは口を閉ざす。過去世、誰より薬草について知識があったアリアベルは何度かポーションを作った事があったのだが、それが国で一番とされる聖女の治癒能力を上回ってしまい、侮辱罪で処刑された人生が二度あった。それからあえて興味を持たないようにしていたので、ポーション作りに対する思い入れは強かった。


「「「アリアベル様〜?」」」

「……あ、ごめん、何でもないの。……えっと、だからね、これからは外の薬草を使っていろいろ試してみたいのよ。効果が足りなければ他のものを足したり、何かで代用したり、その国ごとの植物の特徴を生かして自分オリジナルのポーションを作ってみたいの」

「そっかぁ〜」

「それはそれで面白いかも〜」 

「もう外へは自由に行けるようになりましたしね〜」


 スプラートの言う通り、あの日以降、ポータルも自由に開くようになっていた。アリアベル以外、神獣や精霊は一体しか通さないという状況は変わらないが、何度かマノワの森へも散歩に出かけた。けれど、そこは瘴気が強すぎて薬草が見つからなかった事が残念だったが……。

 外に出てからの移動手段も、自身が行った事のある国なら、アリアベルが自由に簡易ポータルを開く事が可能なので、薬草採取なら短時間で楽に出来るし、なんならやり事リストにあった旅に出るという希望も、すぐに叶えられる状態だ。


「ちょっと待って、アリアベル」

「おお! いよいよ旅に出るのか?」 


 次の行動を察したのか、風の上位精霊であるジンと、フェンが側に寄ってきた。


「ええ。でも、旅とはいっても気楽なものよ? ポータルを使って移動するつもりだし、ここへも時々戻ってくるつもりだしね」

「なるほど。確かにそれなら気楽だね」

「旅は移動が面倒だからな。ふむ、それならば……」


 するとフェンは突然その姿を変容させた。大きかった体は一瞬のうちに小さくなり、可愛らしい小鳥の姿になっている。


「……まあ、フェン、その姿を見るのも久しぶりだわ。相変わらずかわいいのね」

「あたりまえだ」

「……え? でもそれって……」

「――ちょっと待って! フェン、まさか一緒に行くつもりか!? ずるいぞ、僕が一緒に行こうと思ってたのにさ!」


 ジンの言葉で、アリアベルが言いかけた「一緒に行くつもりなの?」という疑問の答えが明かされた。その様子からどうやら二人とも、旅に同行しようとしていたらしい。


「何を言ってる! 我が一番適任だろう!」

「ズルいって! なんでいつもキミばかり……」

「外の波動に慣れているのが我しかいないからだろう! 皆はおそらく二日が限度という所……。お前はこのあいだ少しマノワを散歩しただけで気分が悪くなったではないか!」 

「……うっ……」


 フェンの言葉に何も返せなかったジンは肩を落としてシュンとする。どうやら話の決着がついたらしく、フェンがアリアベルの肩にちょんと留まった。


「……ええっと……、フェン? 一緒に来てくれるの? 本当に?」

「ああ、アリアベルだけでは不安だからな。嫌だったか?」

「そんな事ないわ! 嬉しい! 良かった、私も少し不安に思っていたから……、フェンがいるなら心強いわ!」


 それから、軽くみんなに挨拶を済ませ、二人はさっそく出立する。どの国に行こうか悩んだが、まずは手頃な薬草が揃うマラド王国へとポータルを開いた。


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