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自尊心を取り戻した先に 2

「……え、あれってまさか……」

「……クズの、能無し聖女……?」

「……そんな、処刑したはずでは……」

「……本当にアイツなのか? なんだか雰囲気が……」


 会場にいたほとんどが訝しげに、そして聖職者や壇上にいる教皇らは腰を抜かさんばかりにアワアワと驚き狼狽えている。それもそのはずで、僅かでも神聖力を持つ者であればその異変にはすぐ気付く。そこにいるのは、これまで虐げてきた影の薄い陰鬱な少女ではなく、底知れぬ膨大な神聖力を持った、只ならぬ超越者である事は間違いなかった。


「ええい忌々しいッ! 貴様らッ、よくも聖女を殺したなッ! 如何なる理由があろうともそれは絶対許されぬッ! 禁忌を犯すことの罪の重さを知っての事かッ!」

「「……ヒィッ! そ、それはっ……」」

「特に壇上にいるその四人ッ! お前らの所業には(はらわた)が煮えくり返っているッ! いいか、よく聞けッ! 貴様らが刑に処したのは唯一神が育てた子……、神の愛し子だったのだッ! この者こそ類稀なる力を持つ真の聖女だったのだぞッ!!」

「「「「……そっ、そんなっ……!!」」」」

「この極悪非道の罪人どもめがッ! よってこの国は聖女殺しの大罪国として烙印を押される事となったッ! もはやこの業からは逃れられぬッ! その罪を未来永劫償うがいいッ!!」


 瞬間、業火が旋風を伴い吹き荒れた。フェンの怒りが具現化したようなその炎は、まるで猛獣のように荒れ狂いながら目に見えるあらゆるものを無慈悲に呑み込んでゆく……。

 逃げ惑う人々……、その火の勢いは凄まじく、竜巻のように渦を巻く炎は建物の石や鉄骨を、まるで脆い紙のように焼き尽くす。そしてそれまで視界に入っていた城さえも、その怒りの前では無力であり、壮麗な姿は瞬く間に消え去った。

 一切の加護を失ったように、一斉に枯れ出す木々や草花。空は鉛色の雲に覆われ日差しはなくなり、川の水も干上がり、今やただの乾いた土と化している。そして、とどめとばかりにありとあらゆる所には、” 聖女殺しの大罪国 ” と消えない刻印が残された。

 全てが終わり、ようやく二人はその場を離れる。共にまたマノワの森へと飛び立った。


 その帰り道は空を散策するかのような、とてもゆっくりしたものになっていた。フェンにしては考えられないくらいにスピードを落とし、その飛行速度は普通の鳥と変わらない。そして何かチラチラと気にするような素振りをしているのは、アリアベルが茫然としたまま何も喋らずにいたからだった。


「……やりすぎだと思うか? しかし、あれは元々、我々のすべき仕事でもあったのだぞ?」

「…………え?」

「あの国は悪に偏り過ぎていた。あの国の軍事侵攻のせいで近隣諸国が永らく無駄に血を流し、蛮行は自国の民さえも傷付けてきた。国力を削ぐ事が強いては大陸に住まう全ての者の安息に繋がる道でもあったのだ」

「……そう」

「言っておくが、善良な民は傷付けてはおらんぞ? その者達の為に今後は他の国が介入し、統治した方が良いのだ」


 そこでアリアベルは、フェンが何か思い違いをしており、自分が先ほどの事を気に病んでいるのでそういう話をしているのだと気が付く。思わず「ああ!」と声を上げたアリアベルは、即座にそれが誤解である事をフェンに伝えた。


「違うのよ……、私は別にその事を気にしていた訳じゃなくて……」

「では、どうしたのだ?」

「……いろんな事がありすぎて、それでボーっとしてたのもあるけど……、でも、一番は……、忘れていたものを思い出したような、何かが戻ってきたような感覚で、それでしみじみしちゃってて……」

「……ふむ」

「……さっき、みんなが私を見ていたけれど、それがいつもと全然違ったわ。なんだかこう……、そこにいるって、ちゃんと認識されていて……、軽くないっていうか……、人としてちゃんと見られていたなぁって……。人権っていうのかしら? 私にもあったのね……」

「あたりまえだ!」

「……ふふっ……」


 アリアベルは遠くを見つめる。視界には遮るものは何もなく、より今の自分が自由なのだと、縛るものは何もないのだと感じ入る。そして忘れていたものを思い出した事で、どこか夢心地だった気分から、だんだん現実に重みがかかったような感覚になり、自分がここにいる事、今を生きているという実感が沸々と湧き上がってくる。

 何より、それを強く後押ししているのがフェンだった。今、フェンが共にいてくれる事がありがたい。運命を変えてくれた友が支えとなってくれる事、そして圧倒的なパワーを持つ彼が味方である事が心強いし頼もしい。もう孤独ではないのだという安心感がアリアベルの心を満たしている……。

 すると、その安心感が引き金となったのか、胸の奥に固く押し込めていた感情が、ポツリポツリと溢れてきた。


「……フェン、私ね……、本当はすごく、傷付いていたんだわ……」

「うむ?」

「……今、分かったの。ごめんなさい、なんだか気持ちが溢れてきて……」

「構わん。全部吐き出してみろ」

「……私、人が苦手だわ。怖いの。もう大丈夫だって分かってるけど、やっぱりまだ怖い。……特に、騎士が苦手……というより嫌いだわ」

「その調子だ、もっと言ってみろ」

「王族も貴族も……、もう権力者には近付きたくない。教会なんて大嫌い。神殿とか見たくもないわ……」


 そのように自分の意思を示していくと、視界が更にクリアになってくる。さっきまでは思い浮かばなかった、今後自分が何をしたいかの問いについても思いがぼんやり浮かんできた。


「……やってみたい事……、さっきは分からなかったけど……、これから好きに生きていいなら、まずはポーション作りかしら?」

「うむ、それから?」

「……それから……、旅にも出てみたいし、いろんな物を作ってみたいわ、家具とか武器とか。……あっ、武器を作ったら魔物を倒してみるのもいいわね! 魔物ハンターになれるかしら?」

「ハハッ! なんでも好きにやってみろ!」


 二人は楽しそうに会話を交わし、そして笑い合っている。希望を語るアリアベルの目は輝き、心には明日への期待が満ちている。溢れる高揚感と共に彼女の声には熱意がこもり、そんなアリアベルをフェンは微笑ましく見守っていた。


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