裏切って浮気した男の末路は
「ロッテは男に夢を見過ぎなのよ」
「……わかってるわよ」
今日は大金が入ったので、親友のペルシャとヤケ酒だ。
何にヤケになってるのかって?
夫のデールに裏切られたことだよ。
「ほらほら、飲んで飲んで」
「今日は飲むぞー」
「あっはっは、その意気だよ。クシュンとしてるのはロッテに似合わないって」
ペルシャはそう言うけど。
あたしはあんまり切り替えの早い方じゃないの。
デールのこと愛してたし。
能天気なペルシャが羨ましい。
考えてみりゃペルシャともおかしな縁だな。
魔法学校の同級生だったんだ。
魔法学校って、女生徒は少ないものなんだよ。
初めはお互い意識し合って、バチバチのライバルだった。
でも逆に、女なんてって言われることも多いの。
次第に共闘するようになって、何だいいやつじゃんとわかって。
成績? よかったよ。
二人で首席で卒業したから、首二つの意味で『双頭の魔女』だねなんて言われたりもした。
「でもデールもひどいわよねえ」
「そう! ひどい! でもペルシャ以外わかってくれないの」
「私はわかるわ。飲め飲めー」
デールの方がプロポーズしてきたんだよ。
俺と結婚してくれって。
熱っぽい目で見てきて。
ほだされちゃうじゃん?
それなのにあたしが魔女と知ったら怖いって。
腰が引けてんの。
夫婦ゲンカで魔法撃ったり呪ったりするんだろうって。
魔女を何だと思ってるんだ。
そんなことしないよ。
あんまりうるさいから、あたしの魔力をペルシャに封印してもらったんだ。
これなら安心でしょって。
その代わりデールも絶対浮気しないでねって約束したの。
「悪いのはデールなの」
「そうそう、ロッテの言う通り。どう考えてもデールが悪い」
デールったらあたしを裏切って浮気したの。
だから呪術が発動、天井が崩れてデールは圧死した。
浮気相手の方が奇跡的に無傷なのは呪術のすごいところ。
「でもロッテもひどいところあるわよ」
「どこかしら? 浮気したら死ぬ呪いをペルシャに依頼したところ?」
浮気したら死ぬ呪術をかけたのは、あたしじゃなくてペルシャよ。
だから約束違反ではないと思うけど。
デールだって浮気なんかしないよって断言したし。
それにあたしが浮気したらもちろんあたしも死ぬんだし。
平等じゃない?
「違うわよ。ロッテはデールが浮気する方に賭けてたでしょう?」
「保険よ、保険」
あたしは魔力を失ったから、魔法や呪術の分野で稼ぐことはできなくなった。
自分で言うのはなんだけど結構腕利きで有名な魔女だったので、収入面では痛かった。
それでもデールと仲良くやっていけるなら幸せだと思っていたの。
じゃあ浮気された場合は?
あたしはどうすればいい?
封印された魔力は、大金を払えば取り返せる契約にしていた。
あたしの立場を理解したブックメーカーが、デールが浮気するかしないかの賭けを受けてくれたの。
顧客も皆、浮気しないに賭けてくれて。
あたしの一人勝ちで大金を得て、魔力を取り返すことができた。
「結局ペルシャが大儲け」
「私に大金を払えば魔力の封印が解けるって契約にしたの、ロッテじゃない」
「だってペルシャなら信頼できるもの」
「ロッテだって結構なお金が手元に残ったでしょ? 魔力は元通り、当面の生活には困らない。よかったじゃない」
ブックメーカーと賭け客は、全員魔女であるあたしのお客さんだった人達で。
あたしかデールが死ぬまでの期間だったから、賭け客が勝ってお金を受けとれる見込みなんかほとんどなかったのに、賭けを受けてくれたの。
あたしやペルシャに助けられたからって言ってる人達だけど、皆本当にいい人。
あたしの幸せを祈ってくれてたんだ。
結局デールとはうまくいかなかったけどね。
もっともブックメーカーと賭け客には借りがあるとあたしは思ってる。
今後もブックメーカーと賭け客から仕事を振られる場合は、魔力を取り戻したあたしが格安で受けるよ。
「……よかった、のかしらね」
「あら、後悔しているの?」
「後悔はしていないわ」
騙すようなウソを吐く男は信用できないもの。
デールは罰を受けるのが当然だ。
魔女というより商売に携わる者なのでだろうけど、あたしもペルシャも信用を何より大事にしているから。
信用があったから、皆が助けてくれたんだろうなあ。
涙が出てくる。
「泣いちゃいなさい泣いちゃいなさい。目の汚れなんか洗い流して、奇麗なものだけ見ていればいいのよ」
「ありがとう。ペルシャって頼りになるわ」
「今頃気付いた?」
「ところでどこかにいい男はいないかしら?」
「星の数ほど男はいるのよ」
「あれ、お姉さん達イカすね」
振り向くとちょっとデールに似た軽薄そうな男がニヤニヤしていた。
安酒場だとこういうことがあるなあ。
でもたくさん飲む時は安酒場に限るわよね。
少々騒いでいてもスルーしてくれるし。
「あたしを愛してくれるの? 裏切ったら絶対に許さないわよ」
「ちょ待っ! いきなりセリフが重っ!」
「まあまあいい男じゃないの。交ざりなさいな」
「いいのかい?」
「この子を慰めてやってよ。男に裏切られて傷心なの」
「そうなのか。俺の胸で眠りなよ、子猫ちゃん」
「ありがとうにゃあ」
あはは。
もう大丈夫だわ。
あたしは立ち直れる。
まだまだ楽しい人生はこれからだって思える。
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